Vol.1 海外在住で住民票を残すリスク|所得税・相続税の注意

海外在住家族の税務シリーズ Vol.1

海外在住なのに日本の住民票を残したままにしていませんか?所得税・相続税リスクを税理士が解説

「海外に住んでいるけど、日本の住民票はそのまま」――実はその状態、数百万円〜数千万円の追徴課税リスクを抱えているかもしれません。ある海外在住のご夫婦の事例をもとに、税務の知識がない方でもわかるよう、やさしく解説します。

01住民票があると「居住者」扱いになる?――税法の判定のしくみ

📌 このセクションでわかること:住民票と税法上の「居住者」の関係、そして居住者と判定されると何が起きるかを解説します。

日本の税法では、人を大きく2つに分けて考えます。ここは少しむずかしく感じるかもしれませんが、一つずつ見ていきましょう。

区分 どんな人? 税金のかかり方
居住者 税法上「日本に住んでいる」とみなされる人 世界中の全所得に日本で課税
非居住者 税法上「日本に住んでいない」とみなされる人 日本国内の所得(国内源泉所得。所得税法161条1項各号)だけに課税

つまり、「居住者」と判定されると、海外で得た給料や投資収益にも日本の税金がかかる可能性があるということです。

税法上の居住者判定フロー:住民票の有無ではなく生活の本拠(住所)で判定されるが、住民票が残っていると住所ありと推定される(所得税法2条・同施行令14条)
図:税法上の居住者判定フロー——住民票が残ると「住所あり」と推定される(所得税法2条・同施行令14条)

❓ よくある誤解

❌ 「海外に住んでいるから、日本の税金は関係ない」
⭕ 正しくは:住民票が残っていると、税務署から「日本に住所がある」と推定され、居住者として課税されるリスクがあります。

ここで注意したいのは、「住民票がある=居住者」ではないという点です。税法上の判定は、実際の生活の拠点(「住所」か「居所」)がどこにあるかで決まります。

ただし、住民票が残っていると、税務署が「日本に住所があるのでは?」と判断する材料になります。なぜなら、住民票は「この人はここに住んでいます」という公的な記録だからです。なお、所得税法施行令14条は国内に住所を有する者の推定規定、同15条は住所を有しない者の推定規定です(区分そのものは所得税法2条1項3号〜5号No.2010 納税義務者となる個人(国税庁))。住民票は施行令に推定根拠として明示されているわけではありませんが、税務実務上「日本に生活の本拠がある」ことを示す有力な証拠として扱われます。

具体例:このケース

Aさん(夫)は、「帰国時に便利だから」と日本の住民票を残していました。しかし、そのせいで海外での給与収入(年約600万円)にも日本の所得税がかかるリスクが生じていたのです。

02居住者になると、世界中の収入に日本の税金がかかる?

📌 このセクションでわかること:居住者と判定された場合に、実際にどこまで課税されるのかを解説します。

居住者と判定されると、「全世界所得課税」(グローバル課税)というルールが適用されます(所得税法7条1項1号)。これは、日本国内だけでなく、海外で得た収入もすべて日本で税金がかかるという意味です。

なぜこのルールがあるのでしょうか?それは、「日本に住んでいる人は、日本の公的サービス(医療・教育・インフラなど)を利用できるのだから、その負担も全所得に応じてしてください」という考え方に基づいています。

具体例:年収600万円のAさんの場合

Aさんは海外の会社から年収約600万円を得ています。もし日本の「居住者」と判定されると、この600万円も日本の課税対象に入ります。海外でも税金を払っているので、二重に税金がかかるおそれがあるわけです。なお日本の所得税は収入額に税率を掛けて計算するものではありません。給与所得控除と所得控除を差し引いた「課税所得」に、5〜45%の超過累進税率を適用します(所得税法89条)。さらに、申告していなかった場合には無申告加算税(調査を受けた後の期限後申告なら15%、50万円を超える部分は20%、令和6年1月1日以後に申告期限が到来するものは300万円を超える部分が30%国税通則法66条)や延滞税が加算され、数年分まとめて指摘されるとペナルティは非常に重くなります。早い段階で自主的に申告するほど加算の率は下がります。

税額はこの順番で決まります

① 海外での給与収入(例:年間600万円)

↓ 給与所得控除を差し引く(No.1410 給与所得控除

↓ 基礎控除・扶養控除などの所得控除を差し引く

② 残った「課税所得」に5〜45%の超過累進税率をかける(所得税法89条No.2260 所得税の税率)+復興特別所得税2.1%

③ 現地でも所得税を納めていれば、外国税額控除で調整(所得税法95条No.1240 居住者に係る外国税額控除)——ただし日本で確定申告をして初めて使える控除です

無申告だった場合の加算(No.2024 確定申告を忘れたとき):

・調査の事前通知に自主的に期限後申告:5%

・事前通知の・決定を予知する前:10%/50万円超の部分15%/300万円超25%

・調査を受けた後:15%/50万円超の部分20%/300万円超30%

・延滞税:令和8年中の期間は納期限の翌日から2か月まで年2.8%、それ以降は年9.1%(No.9205 延滞税について

※税額は所得控除の状況・租税条約の適用・現地の税額によって大きく変わるため、ここでは概算額を示していません。ご自身のケースの数字が必要な場合は個別に試算します。

❓ よくある誤解

❌ 「海外で税金を払っているから、日本では払わなくていい」
⭕ 正しくは:居住者と判定されると、原則として日本でも申告・納税が必要です。ただし、「租税条約」(後述)によって二重課税を防ぐ仕組みがあります。

03相続税の「10年ルール」って何?――海外に住んでいても相続税がかかる?

📌 このセクションでわかること:海外に住んでいても日本の相続税がかかるケースと、その判定基準である「10年ルール」を解説します。

所得税だけでなく、相続税(亡くなった方の財産を受け取るときにかかる税金)にも大きな影響があります。

日本の相続税には「10年ルール」相続税法1条の3第1項2号)というものがあります。財産をもらう人が相続のときに日本国内に住所を持っていなくても、次のどちらかに当てはまれば世界中の財産に日本の相続税がかかります

10年ルールは2つの側から判定します

① 財産をもらう人の側:その人が日本国籍を持ち、相続開始前10年以内のどこかで日本国内に住所を有していたことがある(同号イ(1))
② 亡くなった方の側:①に当てはまらない人(10年以上日本を離れている日本国籍の方や、日本国籍のない方)でも、亡くなった方が「外国人被相続人」「非居住被相続人」のいずれにも当たらなければ対象になる(同号イ(2)・ロ。定義は同条3項2号・3号)

逆にいうと、日本国籍を持たない方は、ご自身が10年以内に日本に住んでいたというだけでは全世界課税になりません。亡くなった方の側の判定次第です(No.4138 相続人が外国に居住しているとき(国税庁))。

なぜこのルールがあるのでしょうか?それは、「相続税を避けるためだけに海外に移住する」という節税行為を防ぐために設けられました。

具体例:ご夫婦の場合

Aさんの妻Bさんは日本国籍で、3年前に海外へ渡航しました。万が一Aさんに何かあった場合、Bさんが「過去10年以内に日本に住所があった」ため、Aさんの海外の財産(例:海外の不動産や銀行預金)にも日本の相続税がかかる可能性があります。

❓ よくある誤解

❌ 「海外にある財産は現地の相続税だけがかかる」
⭕ 正しくは:10年ルールに該当すると、海外の財産にも日本の相続税がかかります。日本の相続税率は最高55%と非常に高く(No.4155 相続税の税率(国税庁))、影響は大きいです。

04租税条約で二重課税は防げる?――「税金の二重取り」を防ぐしくみ

📌 このセクションでわかること:日本と海外の両方で税金がかかる「二重課税」を防ぐための国際的な取り決めについて解説します。

租税条約(国と国の間で「税金の二重取りをしないようにしよう」という取り決め)を使えば、二重課税を緩和できる可能性があります。

日本は多くの国・地域と租税条約を結んでいます。財務省の公表によると、2026年9月1日現在で租税条約が78本・81か国地域、情報交換協定や税務行政執行共助条約を含めた租税条約等では91条約等・157か国地域に適用されています(租税条約に関する資料(財務省))。ただし、租税条約の適用は自動的に行われるわけではありません。自分で申告手続きを行う必要があります。

❓ よくある誤解

❌ 「租税条約があれば自動的に税金が調整される」
⭕ 正しくは:租税条約の恩恵を受けるには、自分で申告手続きが必要です。何もしないと二重に取られたままになります。

05マイナンバーはどうなる?――海外在住者の取り扱い

📌 このセクションでわかること:住民票とマイナンバーの関係、そして海外在住時の注意点を解説します。

マイナンバー(国が一人ひとりに割り当てた12桁の番号で、税金や社保の手続きに使うもの)は、住民票と密接に紐づいています。

住民票を残したままだとマイナンバーも有効なままです。これは、日本の金融機関が「この人は日本在住」と判断する材料にもなります。

逆に、住民票を抹消(国外転出)する場合はどうでしょうか。2024年5月27日からは「国外転出者によるマイナンバーカードの継続利用」制度により、日本国籍の方は転出届の際に継続利用の手続きをすれば、カードを返納せずに国外でも保有・利用し続けられます(手続きをしないと転出予定日に失効します。マイナンバーカードを国外で利用する(マイナンバーカード総合サイト))。番号自体は廃止されず、帰国時に再利用できます。

06まとめ:住民票を残すとどんなリスクがある?

リスク 内容
所得税 世界中の収入に日本の税金がかかる可能性
相続税 10年ルールにより、海外の財産にも日本の相続税がかかる
租税条約 二重課税を防ぐ手段があるが、自分で申告が必要
マイナンバー 住民票があると有効のまま→「日本在住」の材料になる

📝 この記事のポイント3つ

1. 住民票が残っていると、税務署から「日本の居住者」とみなされ、世界中の収入に日本の税金がかかるリスクがある
2. 相続税の「10年ルール」により、海外の財産にも日本の相続税(最高55%)がかかる可能性がある
3. 租税条約で二重課税を防ぐ手段はあるが、自分での申告が必要――専門家への相談がおすすめ

次の記事では、「では住民票を抹消すれば解決するのか?」という疑問にお答えします。実は、抹消すればいいという単純な話ではありません。詳しくはVol.2で解説します。

あわせて読みたい:住民票を抹消した場合のリスクについては「住民票を抹消すれば日本の税金から逃れられる?」で詳しく解説しています。また、外国人駐在員の帰任時の手続き全般は「外国人駐在員の帰任・退職税務完全ガイド」をご覧ください。

07よくある質問

Q. 住民票があれば必ず居住者になりますか?

必ずしもそうではありません。税法上の判定は実際の生活拠点で決まります。ただし、住民票が「日本に住所がある」という強い推定材料になるため、居住者と扱われるリスクが高まります。

Q. 相続税の10年ルールはいつからカウントされますか?

日本国内に「住所」を有しなくなった日からカウントが始まります。住民票を残したままだと、このカウントが始まらないおそれがあります。

Q. 租税条約はどうすれば使えますか?

租税条約は自動的には適用されず、多くの場合「租税条約に関する届出書」の提出など所定の手続きが必要です。届出の経路や時期は所得の種類によって異なり、給与や報酬の源泉徴収の減免を受ける場合は原則として支払者を経由して税務署へ提出します。適用の可否や内容は条約ごとに異なるため、専門家に相談されることをおすすめします。

Q. 住民票を残したまま海外で働いていると、二重課税になりますか?

はい、日本で居住者と判定されると全世界所得に日本でも課税されるため、海外での課税と合わせて二重課税になるリスクがあります。租税条約や外国税額控除で調整できる場合もありますが、手続きが複雑なため専門家への相談をおすすめします。

Q. 住民票の抹消手続きはどこでできますか?

出国前に市区町村役場で「転出届」を提出します。海外転出の場合は転出先を「○○国」と記入します。出国後でも届出は可能ですが、届出が遅れると国民健康保険料や住民税の課税が続く場合があります。

Q. 無申告だった場合のペナルティはどのくらいですか?

いつ申告したかで変わります。調査の事前通知を受ける前に自主的に期限後申告をすれば5%、事前通知の後で決定を予知する前なら10%(50万円超の部分15%、300万円超25%)、調査を受けた後なら15%(50万円超の部分20%、300万円超30%)です(国税通則法66条。300万円超の区分は令和6年1月1日以後に申告期限が到来するもの)。これに延滞税が加わり、令和8年中の期間は納期限の翌日から2か月まで年2.8%、それ以降は年9.1%です(法律上の上限は年7.3%・14.6%で、現在は特例により低い率が適用されています)。

Q. 海外在住でも日本の相続税がかかるケースとは?

財産をもらう方が日本国籍を持ち、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがある場合は、海外財産にも日本の相続税がかかります(相続税法1条の3第1項2号イ(1))。これに当てはまらない方でも、亡くなった方が「外国人被相続人」「非居住被相続人」のいずれにも当たらなければ対象になります(同号イ(2)・ロ)。日本国籍のない方は、ご自身が10年以内に日本に住んでいたというだけでは全世界課税になりません。住民票の有無も住所の判定材料となるため注意が必要です。

Q. 海外在住のまま日本企業の仕事をリモートで続ける場合、住民票はどうすればよいですか?

1年以上の予定で海外に生活の本拠を移すのであれば、出国時に市区町村へ転出届を提出するのが原則です。住民票が残っていると、実態は海外在住でも住民税の課税や「日本に住所がある」という推定が続くおそれがあります。なお、住民票を抜いても日本の税金がすべてなくなるわけではなく、日本企業からの給与でも国内勤務に対応する部分などの国内源泉所得には課税が残ります。

主な根拠資料

本記事の条文・割合は2026年9月7日にe-Gov法令検索と国税庁・財務省の公表資料で確認しました。加算税・延滞税の割合は年によって変わります。

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山口 淳也

この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。