Vol.4 不動産購入を子に支援する方法|贈与・貸付・共有名義

海外在住家族の税務シリーズ Vol.4

不動産購入を子に支援する方法|贈与・貸付・共有名義

前の記事(Vol.3)では贈与税の基本を解説しました。この記事では、「実際にどうやって子に支援するのがベストか?」を、具体的な方法ごとに比較します。

01方法①:親から子に「貸す」――低利貸付のメリットと落とし穴

📌 このセクションでわかること:贈与ではなく「貸付」という形で支援する方法のメリットと注意点。

「贈与ではなく、貸付(お金を貸すこと)にすれば贈与税はかからない」という考え方があります。確かに、貸付であれば贈与税はかかりません。

不動産購入を支援する3つの方法の比較:低利貸付(贈与税なし・基準年利率・返済義務あり・契約書と返済記録必須)、共有名義(出資比率どおりなら贈与税なし・登記に反映・将来の売却相続が複雑化)、段階的贈与(年110万円以下は非課税・数年がかり)
図:不動産購入を支援する3つの方法——低利貸付・共有名義・段階的贈与の比較

「真の貸借」と認められるための要件

① 金銭消費貸借契約書を作成(利率・返済期間を明記)
② 実際に毎月返済を行う(銀行振込の記録を残す)
③ 利率は最低でも国税庁の基準年利率以上とする(令和6年実績:短期0.1〜0.5%、中期0.1〜0.5%、長期7年超は1.0〜1.5%台(月ごとに改定))
④ 返済能力があることを示す

具体的な計算例:3,000万円の低利貸付

条件:親が子に3,000万円を年1.0%(長期基準年利率目安)で貸付、返済期間20年

年間利息:3,000万円 × 1.0% = 30万円

毎月返済額:約14万円(元利均等)

もし無利息で貸付した場合のリスク:

・基準年利率との差額 = 年30万円がみなし贈与の対象

・年110万円の基礎控除内に収まるため、この場合は贈与税は発生しない

・ただし、税務署に「実質的に返済の意思がない」と判断されると全額が贈与認定されるリスクあり

段階的贈与との組み合わせ例:

・1年目:贈与110万円 + 貸付1,890万円 = 2,000万円

・2年目以降:毎年110万円を贈与し、貸付の返済に充当

※金銭消費貸借契約書の作成と毎月の振込記録が必須です。

注意

契約書があっても実際に返済していない場合、みなし贈与(法律上は贈与ではないが、実質的に贈与と同じなので贈与税がかかること)と認定されるリスクがあります。

02方法②:親から子に「安く売る」――低廉譲渡の落とし穴

📌 このセクションでわかること:親が持っている不動産を子に安く売る「低廉譲渡」のリスクを解説します。

低廉譲渡(時価よりも大幅に安い価格で売ること)をすると、相続税法第7条により、時価と売却価格の差額に贈与税がかかります。

具体例:5,000万円のマンションを2,000万円で売る場合

時価5,000万円のマンションを2,000万円で子に売ると、差額の3,000万円がみなし贈与として贈与税の対象になります。この場合の贈与税は約1,036万円(直系尊属からの贈与に係る特例税率適用時)になる可能性があります。

03方法③:共有名義+段階的贈与――じっくり移転する方法

📌 このセクションでわかること:親子で共有名義にし、毎年少しずつ持分を贈与する方法を解説します。

最初に親子で共有名義(1つの不動産を親と子が一緒に所有すること)で購入し、その後毎年110万円分ずつ親の持分を子に贈与していく方法です。

具体例:5,000万円のマンションを親子50:50で購入

親の持分2,500万円分を毎年110万円ずつ子に贈与すると、約23年で全持分を非課税で移転できます。ただし定期贈与とみなされない工夫が必要です。

⚠ プラン実行前の重要な注意点

① 生前贈与加算(7年ルール):令和5年度税制改正(令和6年1月1日施行)により、贈与者が死亡した場合、死亡前7年以内の贈与は相続税の課税価格に加算されます(相続税法第19条)。下記例の「約23年計画」であっても、贈与者が死亡する前7年以内に行った贈与分は相続税の対象になります。プランは早期に開始するほどリスクが低いです。
② 毎年の登記費用:持分移転登記のたびに、登録免許税(固定資産税評価額×贈与持分割合×2%)および司法書士報酬が発生します。計画全体で数十万円単位のコストになることもあり、事前に見積もりを取ってください。
③ 「約23年」計算の前提:上記の試算は購入価格(2,500万円)を基準にしていますが、購入時の実際の贈与税評価額は『相続税評価額(路線価・固定資産税評価額)』で計算するため、実際の必要年数は少なくなる場合があります。詳細は税理士にご相談ください。

04海外不動産の評価はどうする?――精通者意見価格とTTB換算

📌 このセクションでわかること:海外の不動産を贈与するときの評価方法を解説します。

海外不動産には日本の「路線価」がありません。そのため、精通者意見価格(現地の不動産鑑定士などの専門家が出す評価額)を使います。

また、外貨を円に換算する際はTTB(電信買相場)(銀行が外貨を買うときのレートで、納税者に有利なレート)を使用します。

05まとめ:各方法の比較

方法 メリット リスク・注意点
低利貸付 贈与税がかからない 「真の貸借」の証明が必要
低廉譲渡 子の負担が軽い 差額にみなし贈与税
共有名義+段階的贈与 非課税で少しずつ移転 定期贈与のリスク、長期間
複数人からの贈与(例:父110万円+母110万円=計220万円) 各贈与者から個別に記録を残せる 受贈者の基礎控除は合計年110万円のみ(贈与者が何人いても非課税枠は増えない)

📝 この記事のポイント3つ

1. 貸付は贈与税回避に有効だが、「真の貸借」の要件を満たす必要がある
2. 低廉譲渡は差額に「みなし贈与」がかかる――時価の80%水準を下回ると要注意(法令上の明確な数値基準なし、個別判断)
3. 共有名義+段階的贈与は長期計画が必要だが、非課税で移転できるメリットが大きい

次の記事では、「贈与した財産、子の結婚後に離婚したらどうなる?」という問題を取り上げます。詳しくはVol.5へ。

あわせて読みたい:贈与税の基本的な仕組みは「不動産購入資金援助の贈与税」を、贈与した財産の離婚リスク対策は「婚前契約と特有財産」をご覧ください。

06よくある質問

Q. 親子間の貸付に利息は必要ですか?

はい。無利息だと「利息分が贈与」とみなされるリスクがあります。国税庁の基準年利率以上を設定しましょう。

Q. 低廉譲渡の「低廉」の基準は?

法令上の明確な数値基準はなく、個別事案に応じた判断となります。判例では相続税評価額(おおむね時価の80%水準)を下回る価額が目安とされており、それを大きく下回るほど認定リスクが高まります(相続税法第7条)。

Q. 親子間の貸付で「みなし贈与」にならないためのポイントは?

①金銭消費貸借契約書を作成する、②適正な利率(令和6年:期間に応じた基準年利率)を設定する、③毎月の返済記録を銀行振込で残す、の3点が重要です。口約束や通帳上の記録がない場合、税務署から贈与と認定されるリスクがあります。

Q. 共有名義のデメリットは何ですか?

将来の売却時に共有者全員の同意が必要になること、相続時に共有持分がさらに細分化されること、固定資産税の負担割合でトラブルになりやすいこと、などのデメリットがあります。長期的な出口戦略を考慮して選択してください。

Q. 段階的贈与(暦年贈与)を続けるときの注意点は?

毎年同額を同時期に贈与し続けると「定期贈与」(最初から総額を贈与する意図があった)と認定されるリスクがあります。贈与の時期や金額に変化をつけ、毎年贈与契約書を作成し、受贈者が自由に使える口座に振り込むことが大切です。

Q. 不動産を時価より安く売ると贈与税がかかりますか?

はい、時価と売買価格の差額が「みなし贈与」(相続税法第7条)として贈与税の対象になる可能性があります。東京地裁平成19年8月23日判決でも、親族間の低額譲渡がみなし贈与と認定された事例があります。時価の目安として路線価や公示価格を参考にしてください。

3つの支援方法を比較したところで、次のVol.5では「贈与した財産が離婚で失われるリスク」と、それを防ぐ婚前契約・特有財産の仕組みを解説します。せっかくの贈与を守るために知っておくべき最後のピースです。

山口 淳也

この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。