外国株式報酬を売却したときの確定申告|取得費・為替・損益通算の壁

株式報酬シリーズ ②

外国株式報酬を売却したときの確定申告

外国の親会社から受け取った株式を売却すると、交付時の給与課税に続いて2段目の課税が生じます。その計算は、取得費が交付時にすでに円で確定していること、外国の口座には特定口座がないこと、為替を取引日の仲値で当てること、そして損が出ても給与所得とは相殺できないこと——この4点を押さえれば組み立てられます。

01売却で起きること──2段階課税の2段目

株式報酬は交付時と売却時の2回課税されます。売却で課税されるのは、交付後の値動きの部分だけです。

外国の親会社から受け取った株式を売却すると、譲渡所得が生じます。ただし課税されるのは売却代金の全額ではありません。交付を受けた時点で、その日の時価がすでに給与所得として課税されているからです。

売却時に課税されるのは、交付後の値動きの部分です。ここでいう値動きは株価だけではありません。取得費は交付日に円で固定されるのに対し、売却価額は売却時の為替で円換算されるため、株価が動かなくても、円安が進んだ分だけ譲渡益が出ます(逆に円高なら譲渡益は圧縮されます)。外貨建ての株式報酬では、株価と為替の 2 つが同時に効きます。税率は申告分離課税で 20.315%(所得税 15.315%・住民税 5%)。給与所得として総合課税された 1 段目とは、税率も計算の枠組みも別になります。

株式報酬の2段階課税と売却時の譲渡所得の位置づけ
図1:株式報酬は2回課税される ── 売却はその2段目

交付時の課税については外国親会社の株式報酬と確定申告|RSU・AGAの識別と源泉徴収されない場合の実務で扱っています。本記事はその続きとして、売却したあとの話に絞ります。

02取得費は「給与課税された金額」

交付日に円換算して給与所得に算入した金額が、そのまま円建ての取得費になります。

譲渡所得の計算はこうなります。

譲渡所得 = 売却価額 − 取得費 − 譲渡費用

この取得費が、交付時に給与所得として課税された金額です。二重課税にならないよう、すでに課税された部分が取得価額として差し引かれます(国税庁タックスアンサー No.1464)。

実務上ありがたいのは、この金額がすでに円で確定していることです。交付日の終値 × 株数 × その日の TTM で計算し、給与所得に算入した円建ての金額。売却時にこれを外貨に戻して換算し直す必要はありません。

取得費が交付日の給与課税額から決まる仕組み
図2:取得費はどこから来るか ── 交付日の計算がそのまま使える

交付時に申告していなければ、取得費も失う

裏返すと、交付時に給与所得として申告していなければ、その金額は取得費になりません。

外国親会社からの交付は日本で源泉徴収されないため、申告漏れが起きやすい類型です。放置したまま売却すると、交付時の申告漏れに加えて、売却時に本来引けたはずの取得費まで説明がつかなくなります。誤りが 2 年分に連鎖するということです。

国税庁タックスアンサー No.1464「譲渡した株式等の取得費」は、払込みや購入以外の方法で取得した株式等について、その取得の時におけるその株式等の取得のために通常要する価額を取得費とすると定めています(所得税法施行令 109 条 1 項 3 号)。無償で交付される株式報酬の取得費が「交付日の時価=給与所得に算入した金額」になるのは、この規定によります。税制非適格ストック・オプションで「権利行使の日における価額」が取得価額とされるのと同じ考え方です。

03交付が複数年にわたるとき──取得費は平均になる

同一銘柄を2回以上取得している場合、取得費は総平均法に準ずる方法で計算します。

株式報酬は毎年付与されることが多く、その場合、同じ銘柄を何回かに分けて取得することになります。このとき売却時の取得費は、特定の交付分の金額ではなく、それまでの全交付分を通じた平均で計算します。

所得税法施行令 118 条の「総平均法に準ずる方法」です。国税庁タックスアンサー No.1466 が算式を示しています。

1 単位当たりの金額 =(A + B)÷(C + D)
A = 最初に購入した時(その後既に譲渡している場合には、直前の譲渡の時)の購入価額の総額
B = その後から今回の譲渡の時までの購入価額の総額
C・D = それぞれに係る株式等の総数

複数年にわたる交付がある場合の総平均法による取得費計算例
図3:交付が複数年にわたるとき ── 取得費は全交付分の平均になる

上の図の株数・株価・為替は、いずれも説明のための仮の数値です。

注意すべきは、算式の起点が「直前の譲渡の時」にリセットされることです。売却するたびに、残った取得費と残株数が次の計算の出発点になります。一覧表ではなく、残高を更新し続ける台帳が必要になるのはこのためです。

そして 2028 年の申告に、2026 年と 2027 年の交付日の株価と為替が必要になります。記録が残っていなければ、数年前まで遡って株価と為替を再構築することになります。

04外国の証券口座に「特定口座」はない

年間取引報告書は出ず、源泉徴収もされません。計算と申告は自分で行います。

日本の証券会社に特定口座(源泉徴収あり)を持っていれば、譲渡損益の計算も納税も証券会社が代行し、年間取引報告書が届きます。多くの方が確定申告せずに済んでいるのはこの仕組みのおかげです。

株式報酬の受け皿となる外国の証券口座は、この特定口座ではありません。特定口座は国内の金融商品取引業者等に開設されるものだからです。したがって次のようになります。

  • 年間取引報告書が出ない──取引明細から自分で集計する
  • 源泉徴収されない──税額は確定申告で精算する
  • 明細は外国語・外貨建て──日本の様式に組み替える

作成するのは「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」です。約定ごとに、日付・株数・売却価額・手数料・為替を拾って積み上げます。

売却が複数回に分かれると、その回数だけ明細を追うことになります。役員や上級社員は決算発表前後の売買禁止期間を避けて売却するため、分割して売ることになりやすい点も見込んでおいてください。

05為替は取引日の TTM が原則

譲渡所得には「継続適用を条件に収入は TTB」という選択肢がありません。

外貨建ての取引を円換算する基準は、所得税基本通達 57の3-2 が定めています。原則はその取引を計上すべき日(取引日)における電信売買相場の仲値(TTM)です。

同通達にはただし書きがあり、継続適用を条件として収入は電信買相場(TTB)、経費は電信売相場(TTS)によることができるとされています。ただしこの選択肢は不動産所得・事業所得・山林所得・雑所得の金額の計算についてのもので、譲渡所得には及びません

譲渡所得における為替換算の当て方
図4:為替はどこに効くか ── 譲渡所得は原則 TTM 一本

国税庁の質疑応答事例も、譲渡価額・取得価額・譲渡費用のいずれも取引日の TTM により円換算するとしています。この事例が扱っているのは不動産の譲渡ですが、換算の根拠は外貨建取引一般に及ぶ所得税基本通達 57の3-2 ですので、株式の譲渡でも同じ考え方になります。

ただちに円転している場合の例外

同じ質疑応答事例は例外にも触れています。譲渡代金として受領した外貨をその受領の都度ただちに売却して円を受け入れている場合は、TTB で換算した金額を譲渡価額とすることができます。本邦通貨で外貨を購入し、ただちに費用の支払に充てた場合の TTS も同様です。

売却と同時に円転する設定にしている場合は、この扱いが使える余地があります。逆に外貨のまま保有するのであれば、原則どおり TTM です。

為替相場は、原則としてその方の主たる取引金融機関のものによります。合理的なものを継続して使用している場合はそれも認められますが、年によって情報源を変えると整合が取れなくなるため、最初に決めて使い続けてください。

06損が出ても給与所得とは相殺できない

上場株式等の譲渡損失は申告分離課税の枠内でしか使えません。ここに制度上の非対称があります。

交付後に株価が下がり、売却で損失が出ることがあります。このときその損失を、株式報酬そのものに課された給与所得と相殺することはできません。

給与所得は総合課税、上場株式等の譲渡損失は申告分離課税。別の箱だからです。

譲渡損失の損益通算の可否
図5:損が出たとき ── 給与所得とは相殺できない

通算できるのは、その年の上場株式等の譲渡益と、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得等です。控除しきれない損失は翌年以後 3 年間繰り越せます(国税庁タックスアンサー No.1474)。

ただし繰越控除には手続要件があります。上場株式等の譲渡がなかった年も、損失を翌年へ繰り越すための申告が必要です。繰越損失がある限り、連続して申告書を提出し続けなければなりません。

この非対称は、株式報酬を受け取る側にとって実質的な意味を持ちます。税額は交付日の株価で確定し、その後の下落は救済されません。だからこそ「いつ、いくら分を売れるのか」を、交付の時点で把握しておく必要があります。

売却時期をまたぐと年分が変わる

年末をまたいで売るかどうかで、譲渡所得の年分が変わります。同じ年に売れば譲渡益と譲渡損を通算できますが、年をまたげば別々の年分になり、損失は繰越控除の手続きに乗せることになります。

海外不動産の売却損と給与所得の通算については海外不動産の売却損は給与と損益通算できるか?でも扱っています。所得区分が違えば通算できないという構造は共通です。

07よくあるご質問

売却しなければ課税されませんか。

売却による譲渡所得は生じませんが、交付の時点ですでに給与所得として課税されています。株式報酬の課税は交付時と売却時の2段構えで、1段目は売却するかどうかに関係なく発生しています。

円に換えていなければ課税されませんか。

課税されます。株式等の譲渡による所得の収入すべき時期は、原則として引渡し(受渡し)があった日です(納税者の選択により、約定した日によることもできます)。円換算はその日の為替相場によります。売却代金を外貨のまま保有していても、課税の時期は変わりません。とくに年末をまたぐ売却では、どちらの日を採るかで年分が変わることがあるため、選択した基準は継続して使ってください。なお、その後に円転した場合、外貨としての値動きによる為替差損益が別途生じることがあります。

損が出たので給与所得から差し引けますか。

差し引けません。上場株式等の譲渡損失は申告分離課税の枠内でしか使えず、総合課税される給与所得とは通算できません。翌年以後3年間の繰越控除はありますが、上場株式等の譲渡がなかった年も含めて連続して確定申告書を提出する必要があります。

会社や証券会社が源泉徴収してくれますか。

外国の証券会社を通じた売却では、日本の源泉徴収は行われません。その口座は日本の特定口座ではないため、年間取引報告書も交付されません。譲渡損益はご自身で計算し、確定申告で精算することになります。

主な根拠資料

本記事は 2026 年 7 月時点の法令等に基づいています。個別の取扱いは取引の内容により異なります。

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山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。