海外からの送金で税金がかかる?非永住者と非居住者で全く違う「送金と課税」の仕組み

海外送金と税金の実務|非永住者・非居住者

海外からの送金で税金がかかる?非永住者と非居住者で全く違う「送金と課税」の仕組み

「海外のお金を日本に送ると税金がかかるらしい」——この漠然とした不安の答えは、あなたが税法上どの立場に当たるかで正反対になります。日本に住む外国籍社員(非永住者)と、海外に住む人(非居住者・日本人を含む)に分けて、送金と課税の仕組み・実務リスク・対策を整理します。

最終更新日:2026年7月14日

結論から申し上げると、「海外からの送金に税金がかかるか」という問いには、ひとつの答えはありません。日本に住んでいるのか、海外に住んでいるのかで、適用される制度そのものが変わるからです。ここを混同したまま「送金は課税される/されない」と判断してしまうと、思わぬ申告漏れや、逆に不要な心配につながります。

まずは、ご自身(あるいは対象となる社員・ご家族)がどちらに当たるかを確認してください。次の分岐カードが、この記事全体の地図になります。

📋 表形式でも確認する(立場・区分・論点の一覧)
あなたの立場税務上の区分送金と課税の考え方主に注意する論点
A.日本に住んでいる外国籍の方(来日おおむね5年以内の駐在員・高度人材など)非永住者
(居住者の一種)
送金によって課税される所得の範囲が広がる制度がある(第1部)国外源泉所得の送金分・みなし送金・計算の仕組み
B.海外に住んでいる方(日本人を含む・帰任した元社員・海外在住のご家族など)非居住者送金そのものは課税されないが、別の実務リスクが3つある(第2部)居住者認定・国外送金等調書・贈与認定

Aの方は第1部から、Bの方は第2部から読み進めていただいて構いません。ただし、駐在の前後で立場が入れ替わる方も多いため、両方に目を通しておくと安心です。

📌 この記事で押さえる3つの数字
非永住者の判定ライン
5
日本国籍がなく、過去10年以内の国内居住の合計が5年以下なら非永住者——送金課税の対象に
国外送金等調書のライン
100万円超
1回100万円超の海外送金は「国外送金等調書」で税務署へ自動報告
贈与税の基礎控除(年間)
110万円
家族口座への送金は年110万円を超えると贈与税の論点に

01立場で全く違う:居住者・非永住者・非居住者の3区分

日本の所得税では、個人を「居住者」「非永住者」「非居住者」の3つに区分し、それぞれ課税される所得の範囲(課税範囲)が異なります。まずこの区分を押さえることが出発点です。

居住者とは、日本国内に「住所」がある人、または現在まで引き続いて1年以上「居所」がある人をいいます(所得税法2条1項3号)。ここでいう住所とは、生活の本拠——つまり暮らしの中心がどこにあるか、という意味で、住民票の有無だけで決まるわけではありません。

非永住者は、その居住者のうち、日本国籍がなく、かつ過去10年以内に日本国内に住所・居所があった期間の合計が5年以下である人を指します(所得税法2条1項4号)。来日から数年の外国籍の駐在員・エンジニアなどの多くが、この非永住者に当たります。いわば「日本に住んではいるが、まだ日本に根を下ろしきっていない外国籍の人」という位置づけです。

非居住者は、居住者以外の人、すなわち生活の本拠が日本にない人です(所得税法2条1項5号)。海外へ帰任した元社員や、海外在住の日本人がこれに当たります。

日本の所得税における居住者・非永住者・非居住者の3区分と、それぞれの課税範囲(国内源泉所得・国外源泉所得)の違いを示した図。非永住者は国外源泉所得のうち国内払いと送金分のみが課税対象になることを図解している
図:3つの区分と課税範囲——非永住者だけが「送金分」という特別な扱いを受ける

ポイントは、この3区分によって「海外のお金」への課税の考え方が大きく変わることです。次の第1部では非永住者(日本在住の外国籍の方)を、第2部では非居住者(海外在住の方)を取り上げます。なお、外国籍社員の税務全体の見取り図は企業が見落とす4つの税務リスクで整理しています。

02【第1部】非永住者の課税範囲——国外源泉所得は「送金分」だけ課税

第1部|A. 日本に住んでいる外国籍の方(非永住者)
📖 この部で分かること
  • 海外の所得は「送金した分だけ」課税対象になる仕組み(02)
  • クレジットカード・ATM利用も「送金」に含まれうる(03)
  • 課税されるのは「送金額」と「その年の国外源泉所得」の少ない方まで(04)
  • 口座の分離とタイミング設計——実務の対策3ステップ(05)

非永住者の課税範囲は、次の2つで構成されます(所得税法7条1項2号)。専門的な条文ですが、噛み砕くと難しくありません。

  • ①国外源泉所得「以外」の所得(≒国内で生じた所得)の全部——日本での給与や日本国内の不動産収入などは、居住者と同じくすべて課税されます。
  • ②国外源泉所得のうち、日本国内で支払われたもの+国外から日本へ送金されたもの——ここが非永住者だけの特別な扱いです。海外で生じた所得(本国の家賃収入・配当など)は、原則そのままでは課税されませんが、日本へ送金するとその送金額の範囲で課税対象に取り込まれます

言い換えると、非永住者にとって「送金」は、海外の所得を日本の課税ネットに引き込むスイッチのような役割を持ちます。居住者(永住者相当)は世界中の所得がすべて課税対象、非居住者は国内源泉所得のみ——その中間にあるのが非永住者だと理解すると分かりやすいでしょう。課税範囲を所得の種類ごとに整理すると次のとおりです。

所得の種類居住者(永住者)非永住者非居住者
国外源泉所得以外の所得(非国外源泉所得。日本での給与・国内不動産収入など)全額課税全額課税国内源泉分のみ課税
国外源泉所得のうち国内で支払われたもの全額課税課税課税されない
国外源泉所得のうち日本へ送金されたもの全額課税送金額の範囲で課税課税されない
国外源泉所得のうち送金しなかったもの全額課税課税されない課税されない

※ 非永住者の課税範囲を定める所得税法7条1項2号が全額課税とするのは「国外源泉所得(同法95条1項)以外の所得」=非国外源泉所得であり、同法161条1項の「国内源泉所得」とは範囲が一致しません(非居住者の列は161条1項の国内源泉所得を指します)。

この表の非永住者の列を見ると、海外の所得は「日本に持ち込まなければ(送金しなければ)当年は課税されない」一方で、「送金すればその分が課税対象になる」という構造がはっきりします。判定の基礎となる5年ルールの数え方や税額試算は非永住者の課税範囲と送金課税で詳しく解説しています。

ただし、この整理は海外の所得を国外の口座で受け取っていることが前提です。国外にある不動産等の貸付けによる賃貸料や、国外の営業所等と国外の顧客との商取引の対価を、日本国内の預金口座に直接振り込んで受け取っている場合は、所得税法7条1項2号の「国内において支払われ……たもの」に含まれ、送金の有無にかかわらず課税対象になります(所得税基本通達7-4(1)(2))。利子・配当・賃料の受取口座をどこに置いているかが、最初の分岐点です。

03「送金」の範囲は想像より広い——クレジットカード・ATMも対象に

非永住者の課税で最も見落とされやすいのが、ここでいう「送金」が銀行振込だけを指すわけではないという点です。所得税基本通達7-6は、国内への通貨の持込みや小切手・為替手形・信用状その他の支払手段による通常の送金のほか、(1)貴金属・公社債券・株券その他の物を国内に携行し又は送付する行為、(2)国内において借入れをし又は立替払を受け、国外にある自己の預金等によりその債務を弁済することとするなどの行為を送金に含めています。ただし(1)(2)はいずれも「通常の送金に代えて行われたと認められるもの」に限られ、(2)は借入れ・立替払いを「国内において」受けたことが要件です。「国外の資産で国内の決済をすれば何でも送金になる」という広い読み方は、通達の文言を超えます。

通達が明文で挙げているのは、上の通貨の持込み・通常の送金、株券等の携行や送付、そして国内での借入れ・立替払いを国外の資産で弁済する形です。これに対し、実務では次のような行為について、通達7-6(2)への当てはめが問題になります。知らないうちに論点を抱えているケースが少なくありません。

非永住者の課税でいう「送金」に該当しうる4つの行為を示した図。銀行送金だけでなく、海外口座を引落し先とするクレジットカードの国内利用、日本のATMでの海外口座からの引き出し、海外口座に紐づくデビットカードの利用も、みなし送金として扱われうることを示している
図:銀行送金だけではない——「みなし送金」として扱われうる主な行為

※「みなし送金」は法令上の正式名称ではありません。所得税の取扱いでは、通常の送金のほか「送金に準ずる行為」(所得税基本通達7-6)も送金として扱われるため、本記事では便宜上これらを「みなし送金」と呼びます。

  • 海外口座を引落し先とするクレジットカードの日本国内での利用——①カード発行体・加盟店契約・請求主体の所在からみて「国内において」立替払を受けたといえるか、②「通常の送金に代えて」行われたと認められるか、の2段階で当てはめることになります。通達7-6はこの形を名指ししておらず、正面から扱った質疑応答事例・公表裁決も、当方が確認した範囲では見当たりません。
  • 日本のATMで海外口座から現金を引き出す行為——債務の発生と弁済を伴わないため、7-6(2)の「借入れ」「立替払」の文言には直ちに当たりません。他方、通達の柱書は「国内への通貨の持込み」を送金に含めており、現金化の実態との関係が論点になります。
  • 海外口座に紐づくデビットカードの国内利用——即時決済で立替えの過程がないため、クレジットカード以上に7-6(2)の文言から遠くなります。当てはめを示した公表事例は確認できていません。
  • 海外の資産を担保・原資とした国内での借入れやその返済——国内で借入れをして国外にある自己の預金等で弁済する形は、通達7-6(2)が明文で挙げている類型です。

いずれも「日本の銀行口座への振込」ではないため送金という意識が持ちにくく、そのまま申告から漏れやすい部分です。もっとも、これらが常に課税対象になるわけではなく、その年に国外で支払われた国外源泉所得があることが前提になります(次章で詳述)。まずは「送金=銀行振込だけではない」という感覚を持ったうえで、通達の文言に当てはまるかを個別に確認することが、リスク回避の第一歩です。

04いくら課税される?——「送金額」と「その年の国外源泉所得」の少ない方

では、送金があると具体的にいくら課税されるのでしょうか。ここでよくある誤解が「送金した金額まるごとに課税される」というものですが、そうではありません。条文が定める順序は次のとおりです。まず送金の受領額から、国外払いの非国外源泉所得の合計額を先に控除します。その残額と、国外払いの国外源泉所得の合計額とを比べ、いずれか少ない金額について送金があったものとみなされます(所得税法施行令17条4項1号ただし書所得税基本通達7-3(4))。比べる相手は「その年の国外源泉所得」全体ではなく、そのうち国外で支払われたものに限られます。また、国外払いの国外源泉所得の合計額が赤字の年は、送金があったものとみなされる金額はありません(同7-3(3))。

この「先に控除する」段階は、国外払いの給与がある駐在員では結論そのものを変えます。たとえば、送金150万円・国外払いの非国外源泉所得200万円・国外払いの国外源泉所得100万円の年は、150万円から200万円を先に控除するため残額はゼロとなり、送金があったものとみなされる金額は生じません。

非永住者の送金課税の計算の仕組みを示した図。その年の送金額と、その年の国外源泉所得を比較し、少ない方の金額までが課税対象に取り込まれることを、2つの具体例(国外配当100万円・送金300万円のケースと、国外源泉所得ゼロの年に送金したケース)で図解している
図:課税対象は、送金額から国外払いの非国外源泉所得を控除した残額と、国外払いの国外源泉所得の少ない方まで

具体例①:その年に国外で配当100万円を受け取り、日本へ300万円を送金した場合(国外払いの非国外源泉所得がない前提)
先に控除する国外払いの非国外源泉所得がないため、比べるのは「送金300万円」と「国外払いの国外源泉所得100万円」。少ない方は100万円ですから、課税対象に取り込まれるのは100万円までです。300万円送ったからといって300万円が課税されるわけではありません。差額の200万円は、比べる相手である国外払いの国外源泉所得を超える部分で、この年に送金があったものとみなされる金額には入りません。

具体例②:その年は海外で所得がまったく発生しなかった年に、300万円を送金した場合
比べる相手である国外払いの国外源泉所得がゼロですから、送金があっても課税は生じません。送金の原資が過去の貯金かどうかは要件ではなく、その年に国外払いの国外源泉所得があるかどうかで決まる点にご注意ください。

CASE
「送金していないつもり」が課税された、Aさんのケース
💬 実務でよくある事例|個人が特定されない一般化した設定です
🇬🇧 英国籍・Aさん来日3年目非永住者母国に賃貸住宅(家賃収入あり)
😌 本人の認識

来日3年目・英国籍のAさん(非永住者)。母国イギリスに賃貸用の住宅があり、毎年家賃収入が発生しています。日本での生活費は、イギリスの銀行が発行したクレジットカードで支払っており、「日本の口座には振り込んでいない=送金していない」「使っているのは自分の資産だけ」という認識でした。

⚡ 税務上の整理

カード利用が通達7-6(2)の「国内において……立替払を受け」に当たるかを正面から扱った一次情報は、当方が国税庁の質疑応答事例・文書回答事例および国税不服審判所の公表裁決を確認した範囲では見当たりませんでした(税務大学校論叢第105号は、この通達により国外口座引落しのカードの国内利用も送金の範囲に含めてよいと考えられると述べていますが、執筆者の個人的見解です)。もっとも、生活費の恒常的な決済手段として使う形は「通常の送金に代えて行われた」の説明が付きやすく、保守的には送金と同視して設計するのが安全です。その場合、家賃収入があった年は、その年の国外払いの国外源泉所得(家賃収入)の範囲で課税対象に取り込まれることになります。本人にとっては「銀行送金もしていないのに、なぜ課税されうるのか」という想定外の論点です。

🔑 分かれ目

送金の“手段”よりも、その年に国外払いの国外源泉所得があるかどうかが効いてくる型です。カードの利用実態を把握しないまま「送金していない」と整理してしまう点に、この型のリスクがあります。

⚠️ 「自分の貯金を送っただけ」でも課税されうる、という誤解ポイント

「送ったのは働いて貯めた昔の預金(元本)だから課税されないはず」と考える方が多いのですが、これは要注意です。施行令は送金の原資を要件にしていません。送金は、元本か所得かを問わず、まず国外払いの非国外源泉所得に充てられたものとみなされ、なお残余があるときに、その範囲で国外払いの国外源泉所得に充てられたものとみなされます(所得税法施行令17条4項1号ただし書)。国税不服審判所も、この規定は「国外からの送金の原資の実態如何にかかわらず」計算する簡便な規定であり、「所得の発生時期や種類は問わず、非永住者の自己の資金に起因するものについて国外から送金を受領した場合には」適用されると述べています(平成20年8月4日裁決)。つまり「元本のつもりの送金」でも、同じ年に海外で配当や家賃収入(国外払い)があれば、上の順序で計算した範囲が課税対象に取り込まれます。送金の名目ではなく、その年に国外払いの国外源泉所得があるかどうかが分かれ目です。

なお、国内居住の合計が過去10年で5年を超えた時点で非永住者から外れ、課税範囲は全世界所得(世界中のすべての所得)に切り替わります。この節目の前後で、送金の意味合いが大きく変わる点にも注意が必要です。

05非永住者ができる送金の対策——口座の分離とタイミング設計

非永住者の送金課税は、仕組みを知っていれば過度に恐れる必要はありません。ポイントは「どの資金を」「いつ」動かすかを設計することです。実務でよく採られる対策を3つのステップで整理します。

1

来日前の資産と来日後の所得で口座を分ける

来日前から持っていた預金を入れておく口座と、来日後に海外で生じる給与・配当・家賃などを受け取る口座を分けておきます。ただし、口座を分けても「原資が古い預金だから課税されない」とはなりません所得税法施行令17条4項1号は「国外から送金を受領した場合には、その金額の範囲内で」と定めるだけで送金の原資を要件にしておらず、その年に国外払いの国外源泉所得があれば、前章の順序で計算した範囲が課税枠に入ります(平成20年8月4日裁決)。口座分離が効くのは、①非永住者であった期間の外で日本へ入れた資金であること(同令17条4項6号は、非永住者であった期間内に国外から送金があった金額について計算する旨を定めています)、②自分の資金か他者からの贈与かの区別、といった事実の立証の場面です。

2

送金のタイミングを、国外源泉所得の少ない年に寄せる

まとまった資金を日本へ移す必要がある場合、海外で受け取る(国外払いの)配当・売却益などが発生していない年に送金すれば、課税対象に取り込まれる国外源泉所得を抑えられます。逆に、海外で大きな所得が出た年の送金は課税範囲が広がりやすいため、時期の分散を検討します。

3

カード・ATM利用も「送金」に含めて記録する

前章のとおり、海外口座に紐づくクレジットカードやATM引き出しも送金に準じて扱われうるため、これらの利用額も含めて年間の実質的な送金額を把握しておきます。人事・グローバルモビリティのご担当者は、赴任者への案内資料にこの点を一言加えておくと、後年の申告トラブルを防げます。

これらは「節税テクニック」ではなく、制度どおりに正しく整理するための備えです。判断に迷う場合は、送金の前に課税範囲を確認しておくと安全です。

なお、送金への課税とは別に、在留が長くなり非永住者でなくなった方は、その年12月31日時点で国外財産の合計額が5,000万円を超える場合、翌年6月30日までに「国外財産調書」の提出義務が生じます(非永住者の間は対象外です)。

06【第2部】非居住者の送金——制度上は非課税、しかし実務リスクが3つ

第2部|B. 海外に住んでいる方(非居住者・日本人を含む)
📖 この部で分かること
  • 送金そのものには課税されない理由(06)
  • それでも残る3つの実務リスク——居住者認定・国外送金等調書・贈与認定(06)
  • 記録の整備と名目の明確化——非居住者の対策3ステップ(07)

ここからは海外に住んでいる方(非居住者)の話です。日本人・外国籍を問いません。まず前提として、非居住者には、非永住者のような「送金による課税」の制度は適用されません。非居住者が課税されるのは日本国内で生じた所得(国内源泉所得)だけで、海外で生じた所得や、海外から日本の家族・自分の口座へ送るお金そのものに、日本の所得税が直接かかることはありません。

「では海外在住なら送金は完全に無関係か」というと、そうとも言い切れません。送金という行為が、制度上の課税とは別のかたちで税務リスクの入口になることがあります。実務でよく問題になるのは次の3つです。

非居住者の送金に関する3つの実務リスクを示した図。リスク1は日本口座への定期送金が居住者認定の状況証拠になること、リスク2は100万円超の送金が国外送金等調書として税務署へ自動報告されること、リスク3は家族名義口座への送金が贈与税の論点になることを図解している
図:非居住者の送金にひそむ3つの実務リスク

リスク①:居住者と認定される状況証拠になる

そもそも「非居住者だ」という前提が崩れると、話は根本から変わります。日本の居住者・非居住者は住民票ではなく生活の本拠が実際にどこにあるかで判定され、滞在日数・家族の居所・資産・職業などを総合して判断されます。ここで、日本の口座へ定期的に送金し、その資金を日本での生活費や住居費に使っているという事実は、「生活の本拠はやはり日本にあるのでは」という認定を後押しする材料になりえます。もし居住者と認定されれば、非居住者のつもりでいた期間の全世界所得が課税対象となり、影響は非常に大きくなります。

リスク②:国外送金等調書で税務署に把握される

金融機関は、1回100万円を超える海外送金・海外からの受金について、「国外送金等調書」を税務署へ提出する義務があります(国外送金等調書法)。つまり100万円を超える送金は、こちらが申告するかどうかにかかわらず、税務署へ自動的に情報が渡っています。これ自体が課税を意味するわけではありませんが、申告すべき国内源泉所得があるのに無申告の人に対して、税務署から「お尋ね」文書が届く入口になりやすい点に注意が必要です。「海外だから見えないだろう」は通用しません。

リスク③:家族名義の口座への送金が贈与とみなされる

海外から日本にいる家族名義の口座へ送金するケースでは、贈与税の論点が生じます。個人からの贈与は年間110万円までは基礎控除で非課税ですが、これを超える送金は贈与と認定され、受け取った側に贈与税がかかることがあります。生活費や教育費として必要な都度渡すお金は原則非課税ですが、まとまった金額を一度に家族口座へ送ると、名目があいまいなまま贈与とみなされるリスクが高まります。

07非居住者ができる対策——記録の整備と名目の明確化

非居住者の対策は、「課税を避けるテクニック」ではなく、あとで説明を求められたときに事実を示せるように整えておくことが中心です。

1

資金の出所と使途を記録しておく

いつ・いくら・何のために送金したかを記録し、原資が自分の給与や貯蓄であること、使途が生活費・住宅ローン返済などであることを示せるようにしておきます。国外送金等調書と照らして「お尋ね」が来た場合も、記録があれば落ち着いて対応できます。

2

家族への送金は名目を明確にする

家族口座への送金は、生活費・教育費など贈与に当たらない趣旨を明確にし、必要な都度・必要な額を送る形にします。まとまった資金移動が必要な場合は、贈与税の基礎控除(年110万円)や特例の適用可否を事前に確認します。

3

居住性に不安がある場合は事前に診断する

日本と海外を頻繁に行き来している、日本に家族や住居を残しているといった場合は、そもそも非居住者と言い切れるかを事前に確認しておくのが安全です。帰任・出国のタイミングの手続きは出国・帰任時の税務手続きもあわせてご覧ください。

08【早見表】非永住者 vs 非居住者——送金と課税の違い

ここまでの内容を、非永住者と非居住者で対比して整理します。同じ「海外からの送金」でも、注意すべき点がまったく異なることが分かります。

観点非永住者(日本在住の外国籍の方)非居住者(海外在住の方)
根拠となる制度送金課税(所得税法7条1項2号)送金課税の制度は適用なし(国内源泉所得のみ課税)
送金自体への課税その年の国外源泉所得の範囲で課税されうる送金そのものへの課税はなし
リスクの性質申告漏れ(送金分の計上漏れ・みなし送金の見落とし)居住者認定・国外送金等調書・贈与認定という間接的リスク
閾値・目安その年の国外源泉所得の有無/在留5年の節目1回100万円超の送金は調書提出/贈与は年110万円超
主な対策口座の分離・送金タイミングの設計・カード利用の記録資金の出所と使途の記録・家族送金の名目明確化・居住性の事前確認

共通して言えるのは、「海外だから日本の税務署には分からない」という前提はもはや成り立たないということです。国外送金等調書や各国間の情報交換により、海外の資金の動きは把握されうる時代になっています。だからこそ、恐れて動けなくなるのではなく、仕組みを理解して正しく整理しておくことが大切です。

09よくある質問

来日した外国籍社員です。日本の口座に、母国の親から生活援助を送ってもらうのも課税されますか?+
親からの生活援助(贈与)そのものは、非永住者の「送金課税」とは別の論点です。送金課税で問題になるのは、あくまでご自身の国外源泉所得(海外の給与・配当・家賃など)の送金分です。一方、親からの資金援助は贈与税の対象になりうるため、金額や頻度によっては別途の確認が必要です。ご自身の所得の送金か、他者からの贈与かを分けて考えてください。
海外口座のクレジットカードを日本で使うと、本当に「送金」になるのですか?+
所得税基本通達7-6(2)が送金に含めているのは、「国内において借入れをし又は立替払を受け、国外にある自己の預金等によりその債務を弁済することとするなどの行為」で、かつ「通常の送金に代えて行われたと認められるもの」です。海外発行カードの国内利用については、①「国内において」立替払を受けたといえるか、②「通常の送金に代えて」に当たるか、の2段階で当てはめることになります。この形を正面から扱った質疑応答事例・公表裁決は当方が確認した範囲では見当たりません。ただし、税務大学校論叢第105号(令和4年6月)は、所得税基本通達7-6について「同通達によると、国外口座を引き落とし口座に指定しているクレジットカードを国内で使用することや海外で物品を購入して国内に輸送することも送金の範囲に含めてよいと考えられる」と述べたうえで、「法令上具体的な判断基準が示されていないままでは法的安定性を欠く」とも指摘しています(同論叢は執筆者の個人的見解であり、国税庁等の公式見解を示すものではありません)。生活費の恒常的な決済手段として使う形は②の説明が付きやすいため、保守的には送金と同視して利用額を把握し、その年の国外払いの国外源泉所得の有無とあわせて確認するのが安全です。
海外に住んでいます。日本の自分名義の口座へ送金しただけでも税務署から連絡が来ますか?+
1回100万円を超える送金は金融機関から国外送金等調書が提出されるため、税務署に情報自体は渡ります。ただし、自分名義の口座への送金そのものは課税対象ではありません。連絡(お尋ね)が来やすいのは、申告すべき国内源泉所得があるのに無申告のケースなどです。心配な場合は、資金の出所と使途を記録しておけば落ち着いて対応できます。
駐在で来日し、数年後に帰任予定です。立場が変わる前後で気をつけることは?+
来日中は非永住者として送金課税の対象になりえますが、帰任して非居住者になると送金課税の枠組みからは外れます。ただし出国の年は準確定申告や住民税・源泉徴収の切替など別の手続きが生じます。立場が切り替わるタイミングは論点が集中するため、事前に整理しておくことをおすすめします。

10まとめ

「海外からの送金に税金がかかるか」という問いの答えは、立場によって正反対です。日本に住む非永住者は、海外の所得を日本へ送金するとその年の国外源泉所得の範囲で課税対象に取り込まれ、しかもクレジットカードやATM利用まで「送金」に含まれうる点が落とし穴です。一方、海外に住む非居住者は送金自体に課税はないものの、居住者認定・国外送金等調書・贈与認定という3つの実務リスクが控えています。

いずれも、知らずに該当しているケースが多い一方で、仕組みを理解して口座や記録を整えておけば、過度に恐れる必要はありません。ご自身やご家族、あるいは自社の外国籍社員がどの立場に当たるかを一度整理し、送金の前に課税範囲を確認しておくことが、最も確実なリスク回避になります。

主な根拠資料

上記の根拠資料は2026年9月時点で原文を確認したものです。海外発行クレジットカード等の国内利用が所得税基本通達7-6(2)に当たるかについては、当方が確認した範囲では、これを正面から扱った質疑応答事例・文書回答事例・公表裁決は見当たりません。

※本記事は2026年7月時点の法令・通達等に基づく一般的な解説であり、個別の課税関係は具体的な事実により異なります。実際のご判断にあたっては、税理士等の専門家に個別にご確認ください。

SPOT CONSULTATION / スポット相談(有料)

顧問契約の前に、この論点だけ確かめたい——という場合は、単発の有料相談をご利用いただけます。Zoom・対面・メールから選べ、BIG4出身の有資格者が直接お答えします。料金とお申し込み方法はページに記載しています。

スポット相談を見る
日本語 / English / 中文
山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。