外国親会社の株式報酬と確定申告|RSU・AGAの識別と源泉徴収されない場合の実務
外国親会社の株式報酬と確定申告
日本で働く外国籍社員が海外の親会社から株式報酬を受け取ると、日本の給与からは税金が引かれず、年末調整でも精算されません。本人が自分で確定申告するほかない構造になっています。しかも「RSU」だと思っていたものが、実は別の類型であることも珍しくありません。日本の課税関係を分けるのは名称ではなく、株式が条件成就の前に交付されるか、後に交付されるかです。プランの識別から、いつ・いくら課税されるか、納税資金をどう作るかまでを整理します。
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外国籍従業員の確定申告 代行サービスを見る ▶01判定の軸は名称ではなく「株が先か、後か」
RSU は法律用語ではありません。日本の課税関係を決めるのは、株式が条件成就の前に来るか後に来るかです。
海外の親会社から株式報酬を受け取っている方の相談で、最初に確認するのは「そのプランは本当に RSU か」です。人事部門でも本人でも、海外本社から届いた英文の付与通知を見て「RSU だろう」と判断してしまうことが少なくありません。
ここが出発点になるのは、RSU という言葉に法的な根拠がないからです。どの国にも「RSU 法」は存在しません。「一定期間後に無償で株式を交付する」という契約設計に付いた呼び名にすぎず、会社がプラン規程で自由に設計できます。
分ける軸は「株式の交付時期」
日本の課税関係を決める軸は、名称ではありません。株式が交付されるのが、条件が成就する前か後かです。
- 事前交付型:最初に譲渡制限を付した株式を交付し、条件を満たしたら制限を解除する。時間条件だけならリストリクテッド・ストック(RS)、業績条件を付けたものがパフォーマンス・シェア(PS)
- 事後交付型:条件が成就してから株式を交付する。それまで持っているのは「ユニット」と呼ばれる権利だけ。時間条件なら RSU、業績条件なら PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)
「Performance Share」と名乗っていても、中身はユニット型のことが多い
ここが実務上いちばんの落とし穴です。「パフォーマンス・シェア」は日本の分類では事前交付型を指す言葉ですが、欧米のプランでこの名前が付いていても、中身は事後交付型(PSU)であることが多いのです。
理由は税務ではなく労働法にあります。国税庁の税務大学校が公表している研究論文は、事前交付型には「条件を満たさなかった役員等が株式の返還に応じない場合の労働法上の規制や訴訟リスク」があるため、欧米ではユニット型が採用される傾向にあると指摘しています。株を先に渡してしまうと、取り返すのが難しいということです。
つまり "Performance Share Plan" という名称と、日本の分類上の位置づけが逆になり得ます。
名称で処理を決めてはいけないのは、このためです。
フランスの AGA は事後交付型
フランスの AGA(Attribution Gratuite d'Actions=無償株式付与)は、フランス商法 L.225-197-1 以下に定めのある法定制度です。
同条は「株式の帰属は取得期間の満了時に確定する」と定めています。取得期間は最低 1 年、取得期間と保有期間の合計は最低 2 年です。
取得期間中、受益者は株主ではありません。株式が自分のものになるのは取得確定(acquisition définitive)の時点です。したがって AGA は日本の分類でいう事後交付型で、業績条件が付いていれば PSU の位置に入ります。
プラン文書で確認すべきは次の 3 点です。①株式が実際に自分の名義になるのはいつか(ユニットのままか、株式が交付されるのか)②交付後に売却が禁止される期間があるか ③交付の前後で、どんな条件を満たさないと没収されるのか。この 3 点が分かれば、名称が何であっても日本の課税関係は組み立てられます。
本記事では、上場会社の株式が無償または有利な価額で交付されるタイプの報酬を広く「株式報酬」と呼びます。未上場株式や、経営陣が自己資金を投じる共同投資スキームは、所得区分そのものの判断が別途必要になるため本記事では扱いません。
02なぜ日本で課税されるのか──外国法人が交付しても同じ
勤務の対価として受け取る経済的利益なので給与所得です。交付したのが外国法人でも扱いは変わりません。
株式報酬が給与所得になるのは、それが勤務の対価だからです。会社は「一定期間在籍し、条件を満たした」ことに対して株式を渡しています。実質は現物支給の賞与です。
所得税基本通達 23〜35共-5の2 は、譲渡制限付株式の制限が解除された場合の所得区分について、交付法人との間の雇用契約またはこれに類する関係に基因して交付されたと認められる場合は給与所得とすると定めています。同通達には次の注書きが置かれています。
なお、この通達が直接の対象としているのは事前交付型(特定譲渡制限付株式)で、RSU・PSU はこれに当たりません(後述の §03)。ただし RSU・PSU も勤務の対価である以上、所得税法 28 条の給与所得に当たるという結論は変わりません。交付法人が外国法人であっても同様に扱うという考え方は、事前交付型・事後交付型・ストックオプション(通達 23〜35共-6 は「発行法人(外国法人を含む。)」と明記)を通じて共通しています。
この取扱いは、交付法人が外国法人である場合においても同様であることに留意する。
「海外の親会社からもらったものだから日本は関係ない」という発想が通らないのは、この一文があるからです。ストックオプション型についても、通達 23〜35共-6 が「発行法人(外国法人を含む。)」と明記しています。
非永住者かどうかで結論は変わらない場合が多い
外国籍の方の場合、課税範囲が居住者区分によって変わります。非永住者(日本国籍を有さず、過去 10 年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が 5 年以下の居住者)であれば、国外源泉所得は国内払いまたは国内送金された部分だけが課税対象になります。
ただし権利確定までの期間を日本国内で勤務していたのであれば、その株式報酬は国内源泉所得です。国内源泉所得は非永住者でも全額が課税対象なので、居住者区分による差は生じません。日本勤務中に確定した株式報酬について「非永住者だから課税されない」という整理は成り立ちません。
居住者区分の数え方は非永住者の課税範囲と送金課税|5年ルールの数え方と税額試算で詳しく扱っています。
退職に伴って制限が解除された場合は退職所得
ひとつ有利な例外があります。通達 23〜35共-5の2(1)ただし書きは、譲渡制限がその者の退職に基因して解除されたと認められる場合は退職所得とすると定めています。退職所得は退職所得控除があり、二分の一課税で、他の所得と分離して課税されます。給与所得として総合課税されるのとは税負担がまったく異なります。
帰任や退職のタイミングで制限が外れる設計になっているプランでは、この振り分けが実額に大きく効きます。
03いつ課税されるのか──株式が供与された日
特則が置かれているのは 2 つの場面だけです。RSU・PSU はどちらにも当たらず、原則に戻ります。
課税日が変われば適用される株価が変わり、申告する年分も変わります。ところが日本の税制は、株式報酬の課税時期について限られた場面にしか特則を置いていません。
特則は 2 つだけ
- ストック・オプション(新株予約権)──所得税法施行令 84 条 3 項。権利を行使した日の株式の価額から払込金額を控除した額が収入になります
- 事前交付型の RS・PS(特定譲渡制限付株式)──同条 1 項。譲渡についての制限が解除された日の価額が収入になります。同条 2 項は、その前提として「譲渡制限+期間の定め」と「その株式を無償で取得することとなる事由(没収条項)」の両方を要求しています
RSU・PSU はどちらにも当たらない
ユニット型には権利行使価格(払込金額)がありません。会社法上の新株予約権に当たらないため、84 条 3 項は適用されません。
また、ユニット型は条件が成就した後に株式が交付されるため、交付の時点で「無償で取得することとなる事由」が設けられていないのが通常です。したがって 84 条 2 項の要件を満たさず、84 条 1 項にも乗りません。
結果として、RSU・PSU の課税時期を定めた特則は存在せず、所得税法 36 条の原則に戻ります。同条 2 項は、経済的利益の価額を「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」と定めています。
「供与された日」で動いていることは、制度の作りからも読み取れる
外国親会社から株式報酬を受け取る場合については、日本に専用の報告制度が用意されています(次章で扱います)。その調書の様式は、「権利付与年月日」と「供与等の年月日」を別の欄として設け、金額は「供与等を受けた株式の価額」で記載させ、提出期限を「供与等があった日の属する年の翌年 3 月 31 日」としています。
制度全体が、株式が実際に供与された日に、その日の価額で経済的利益が生じるという前提で組まれているということです。
供与の後に売却が禁じられる期間(保有義務期間)があっても、課税の時期は動きません。譲渡制限は換価の制約であって、経済的利益の供与そのものは完了しているためです。同じ「売れない」でも、事前交付型で没収事由とセットになっている場合とは扱いが分かれます。
いくらで評価するのか
特定譲渡制限付株式について、通達 23〜35共-5の4 は、上場株式であればその日に公表された最終の価格によるとしています。その日に最終価格がなければ、その日前で最も近い日の最終価格です。2 以上の金融商品取引所に価格があるときは、最も高い金融商品取引所の価格を採ります。事後交付型についても、同様の考え方によることになります。
外貨建てであれば、その日の TTM で円換算します。ユーロ建て・ドル建ての株式報酬では、株価と為替の両方が課税額を動かします。
04源泉徴収されない──だから本人が確定申告する
外国の親会社が交付する株式報酬には日本の源泉徴収義務が及ばず、年末調整でも精算できません。
日本で給与を受け取るとき、通常は会社が所得税を天引きしてから支払います。ところが株式報酬ではこれが働かないことがあります。
所得税法 183 条 1 項は、源泉徴収義務を負う者を「居住者に対し国内において給与等の支払をする者」と定めています。株式を交付しているのが国外の親会社であれば、日本の源泉徴収義務は及びません。
結果として、税金が 1 円も引かれないまま株式だけが証券口座に入ってくるという状態になります。年末調整は国内払いの給与を対象とする手続きなので、ここでも精算されません。
確定申告が必要になる根拠
国税庁タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」は、確定申告が必要な人の一つとして「源泉徴収義務のない者から給与等の支払を受けている人」を挙げています。外国親会社が国外で交付する株式報酬は、これに当たります。
ここで注意したいのが、いわゆる「20 万円ルール」との関係です。給与所得者の申告不要制度(所得税法 121 条 1 項 2 号イ)は、給与等の全部が源泉徴収の対象となる場合に限って使えるものです。源泉徴収されない国外払いの給与がある人は、そもそもこの制度の対象になりません(所得税基本通達 121-5)。
国税庁の質疑応答事例「源泉徴収の対象とされない給与収入がある場合の確定申告」は、外国の親会社から支払を受けた給与等が 20 万円以下であるという設例に対して「確定申告を要します」と回答し、その金額の多寡にかかわらず申告が必要であるとしています。つまり、株式報酬が 20 万円以下であっても申告義務は消えません。
「20 万円以下なら申告不要」という理解でこの論点を素通りしてしまう例があります。しかし申告不要制度は給与の全部が源泉徴収されている人のための仕組みで、源泉徴収されない国外払いの給与がある時点で適用対象から外れます。金額の大小ではなく、源泉徴収されているかどうかで判定が変わる点に注意が必要です。
源泉徴収はされないが、会社には報告義務がある
源泉徴収されないことと、税務署が把握していないことは別です。所得税法 228 条の 3 の 2 は、外国親会社等が国内の役員等に経済的利益を供与した場合、その役員等が勤務する内国法人に対し「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」の提出義務を課しています。
対象となる「権利」は所得税法施行令 354 条の 3 第 2 項に列挙されています。外国親会社株式等を無償または有利な価額で取得することができる権利(1 号)、株式の価額や配当に相当する金銭等の供与を受けることができる権利(2 号)、そして業績その他の指標の数値が一定の期間内にあらかじめ定めた基準に達した場合に株式等の交付を受けることができる権利(3 号)——つまり PSU 型の報酬——が、条文上はっきり挙げられています。
ここでいう「外国親会社等」は、その内国法人の議決権株式の50%以上を直接または間接に保有する外国法人を指します。提出期限は供与等があった日の属する年の翌年 3 月 31 日です。ただし、すでに日本を離れて非居住者になっている方について、供与等を受けた経済的利益の全部または一部が国内源泉所得(所得税法 161 条 1 項)に当たる場合の調書は、翌年 4 月 30 日が期限です。帰任・退職の年に権利が確定したケースでは、こちらに当たることがあります。
会社から何も案内がないことは、会社に義務がないことを意味しません。外国親会社からの株式報酬について、勤務先の日本法人はこの調書を提出する立場にあります。なお国税庁は、令和 8 年 8 月に法定調書の様式が変わり、それ以降は現在の様式を使用できないと案内しています。
日本法人にコストが付け替えられている場合は話が変わる
親会社が負担した株式報酬のコストを日本法人に請求(チャージバック)している場合、日本法人が経済的利益の支払者と評価され、源泉徴収義務が生じる余地があります。会社側から見れば、これを見落とすと不納付加算税と延滞税が日を追って積み上がります。
会社側の実務はRSU・株式報酬の課税と源泉徴収|按分計算・法定調書・チャージバック判定で扱っています。本人としても、自分のプランに付替えがあるかどうかは会社に確認しておく価値があります。
05課税されるのに売れない──納税資金という最大の実務論点
課税イベントで現金は 1 円も入りません。売却して納税資金を作れるとは限らない点が最大の落とし穴です。
ここが、税率や申告書の書き方よりも先に確認すべき論点です。
数字で見る
仮に 500 株、課税日の株価 95 ユーロ、その日の TTM が 1 ユーロ 175 円だったとします(金額はいずれも説明のための仮の数値です)。
- 給与所得への上乗せ額:500 株 × 95 ユーロ × 175 円 = 8,312,500 円
- すでに高額の給与がある場合の税率:所得税 45% + 復興特別所得税(所得税額の 2.1%)+ 住民税 10% = 55.945%
- 税額:約 465 万円
- この時点の現金収入:0 円
納税は 2 回に分かれ、しかも遅れて到来します。所得税は翌年 3 月 15 日、住民税は翌年 6 月以降に別便の通知で始まります。課税イベントから住民税の完納まで、1 年半以上にわたって支払いが続くことになります。
売れない 3 つの事情
納税資金は通常、受け取った株式の一部を売却して作ります。米国系のプランでは権利確定と同時に一部を自動売却して源泉税に充てる仕組み(sell to cover)が組まれていることがありますが、日本では源泉徴収義務がないためにこの仕組みが働かないことがあります。
そのうえで、売却自体ができない事情が重なることがあります。
- 保有義務期間:交付後も一定期間は売却が禁じられる契約条項。フランスの AGA はこれが制度として組み込まれ得る典型です
- 売買禁止期間:役員・上級社員は決算発表前後などのウィンドウ制約を受けます
- 株価の下落:税額は課税日の株価で確定します。その後どれだけ下落しても税額は減りません
売却損は給与所得と相殺できない
3 つ目に関連して、制度上の非対称があります。値下がりして売却損が出ても、その損失を株式報酬の給与所得と通算することはできません。上場株式等の譲渡損失は申告分離課税の枠内でしか使えず、総合課税される給与所得とは別の箱だからです。
つまり、高値で課税され、その後の下落は救済されません。だからこそ「いつ、いくら分を売れるのか」を課税イベントの前に把握しておく必要があります。
06どの国が課税するのか──按分と外国税額控除の罠
源泉地は「その報酬が報いた勤務がどこで行われたか」で決まります。条約上相手国が課せない税は日本で控除できません。
株式報酬の源泉地は、付与から権利確定までの期間にどこで勤務していたかで決まります。日本と海外をまたいで勤務していた期間があれば、勤務日数などで按分します。
権利確定までの全期間を日本国内で勤務していたのであれば、その株式報酬は 100% が日本を源泉とする所得です。多くの租税条約は給与所得について「勤務が行われた国が課税できる」という配分をしているため、この場合は相手国に課税権が生じないのが原則です。
誤って源泉徴収されると、日本では取り返せない
問題は、株式報酬の発行国側が、非居住者に対する源泉徴収を機械的に行う仕組みを持っている場合です。居住地や勤務地の立証が届いていないと、本来課税権がないのに源泉徴収されてしまうことがあります。
ここで効いてくるのが外国税額控除の範囲です。国税庁タックスアンサー No.1240 は、控除対象となる外国所得税から除かれるものとして、租税条約の規定によりその相手国等において課することができることとされる額を超える部分に相当する金額または免除することとされる額に相当する金額を挙げています。
つまり条約上、相手国に課税権がない税を源泉徴収されても、日本の外国税額控除では拾えません。相手国の税務当局に還付請求をするしかなく、これは年単位の作業になります。
予防策は、課税イベントや売却の前に、居住地と勤務地をプラン事務局・発行会社側に書面で通知しておくことに尽きます。国によっては源泉徴収の引き金が権利確定時ではなく売却時に置かれていることもあるため、いつ何を届け出るべきかはプランの準拠法ごとに確認が必要です。
07申告以外の義務と、その後に起きること
株式を保有し続けること自体が別の提出義務を生みます。売却時・配当受領時にも課税関係が続きます。
国外財産調書
居住者(非永住者を除きます)で、その年の 12 月 31 日において価額の合計額が 5,000 万円を超える国外財産を有する方は、国外財産調書をその年の翌年 6 月 30 日までに提出しなければなりません(国税庁タックスアンサー No.7456)。
海外の証券口座で受け取った株式は国外財産です。株式報酬を数年分積み上げた結果、気づかないうちに閾値を超えていることがあります。
財産債務調書
所得税の確定申告書を提出する方で、退職所得を除く各種所得金額の合計が 2,000 万円を超え、かつ 12 月 31 日において財産の価額の合計が 3 億円以上、または国外転出特例対象財産の価額が 1 億円以上である場合は、財産債務調書の提出が必要です。令和 5 年分以降は、所得基準にかかわらず財産の価額の合計が 10 億円以上の居住者も対象になりました(同 No.7457)。提出期限は同じく翌年 6 月 30 日です。
これらの調書には、提出した場合に過少申告加算税等が軽減され、提出がない場合には加重されるという効果が定められています。単なる情報提供の書類ではありません。
売却したとき
株式を売却すると譲渡所得が生じます。取得費は、給与所得として課税された金額(課税日の時価)です。二重課税にならないよう、すでに課税された部分が取得価額になります。税率は申告分離課税で 20.315%(所得税 15.315%・住民税 5%)です。
海外の証券会社の口座は日本の特定口座ではないため、譲渡損益の計算と申告は自分で行う必要があります。取得時と売却時の為替の扱いも整理が必要です。
配当を受け取ったとき
株式を保有し続ければ配当が生じます。外国で源泉徴収された税額は外国税額控除の対象になり得ますが、ここでも条約の限度税率を超える部分は控除できません。多くの国では、居住者証明書などを提出して条約上の軽減税率の適用を受ける手続きが用意されています。
日本を離れるとき
権利未確定の株式報酬を持ったまま日本を出国する場合は、また別の論点が発生します。出国後に権利確定する分の課税関係と、国外転出時課税(いわゆる出国税)の判定です。こちらはRSU・ストックオプションを持ったまま海外移住──出国税と株式報酬の税務で扱っています。
08よくある質問(FAQ)
会社から何も言われていません。申告しなくてよいということでは?
会社が何も言ってこないこと自体が、外国親会社からの交付で日本の源泉徴収義務が及んでいないことの表れである場合があります。年末調整でも精算されないため、本人が確定申告するほかありません。海外の口座情報は共通報告基準(CRS)に基づき各国の税務当局間で自動的に交換される仕組みがあるため、後年に照会を受けることがあります。
株式をまだ 1 株も売っていません。それでも課税されますか。
課税されます。日本の課税は売却ではなく、株式が供与(交付)された時点で生じ、その日の時価が給与所得になります。現金が入っていなくても納税義務は発生します。なお、株式を先に交付して譲渡制限と没収事由の両方を付ける事前交付型の場合は、譲渡制限が解除された日が基準になります。
課税日より株価が下がりました。税額は下がりますか。
下がりません。給与所得の金額は課税日の時価で確定します。その後に売却して損失が出ても、上場株式等の譲渡損失は申告分離課税の枠内でしか使えず、給与所得と通算することはできません。
「RSU」と説明されています。ほかに確認すべき書類はありますか。
プラン規程(plan rules)、付与通知(grant letter)、権利確定通知(vesting notice)の 3 点をご用意ください。確認するのは、株式が実際に交付される時期、交付後に売却が禁止される期間の有無、交付後も株式が没収されうる条項があるかどうか、そして株数が業績条件で変動する仕組みかどうかです。これらが分かれば、名称にかかわらず日本の課税時期と金額を確定できます。
主な根拠資料
- 所得税基本通達 23〜35共-5の2、5の3、5の4、6(国税庁)
- No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人(国税庁)
- No.1240 居住者に係る外国税額控除(国税庁)
- No.7456 国外財産調書の提出義務(国税庁)
- No.7457 財産債務調書の提出義務(国税庁)
- F1-43 外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書(国税庁)
- 税務大学校論叢第92号「株式を利用したインセンティブ報酬の収入計上時期に関する一考察」(国税庁) ※同論叢は執筆者の個人的見解であり、国税庁等の公式見解を示すものではありません
- Code de commerce, article L.225-197-1(Légifrance)
本記事は 2026 年 7 月時点の法令等に基づいています。個別の取扱いはプラン文書の内容により異なります。
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公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表
日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。

