中国人富裕層は実際のところどこにいるのか?
金融機関の営業担当者や不動産会社の方から、弊所はこの質問をよく受けます。正直なところ、答えは「思っているほど単純ではない」です。港区のタワーマンションに住んでいる人ばかりではないし、そもそも「富裕層」の定義自体が日本人の感覚とはかなりズレている。
この記事では、弊所がここ数年で対応してきた中国籍クライアントの傾向をもとに、巷の「中国人富裕層」イメージと実態のギャップを率直に書きます。
東南アジアで代々商売をしてきた華僑と、2010年代以降に中国本土から直接出てきた新華僑は、行動パターンが根本的に異なります。
華僑は現地に根を張る。国籍も取るし、現地の商慣習に溶け込む。一方、新華僑は「中国に片足を残したまま海外に出る」タイプが多い。法人は中国に残し、家族だけ日本に住まわせて、本人は月の半分を中国、半分を日本で過ごす——弊所のクライアントにもこのパターンの方が複数います。
税務上の問題は、まさにここで発生します。「居住者なのか非居住者なのか」の判定が曖昧になるケースが多く、本人も正確に把握していないことがある。
弊所の実例
「年の半分以上は中国にいるから自分は非居住者だ」と思っていたクライアントが、日本に住民登録があり、家族が住み、法人を経営していたために日本の居住者と判定されたケース。183日という数字だけで安心するのは危険です。
「中国人富裕層」とひとくくりにされがちですが、資産規模によって日本との関わり方はまるで違います。弊所の肌感覚も交えて整理します。
TIER 1
資産10億円超(ビリオネア層)
意外かもしれませんが、この層は日本にはあまり来ません。行き先はシンガポール、ドバイ、ロンドン。日本の相続税の最高税率55%は世界トップクラスの高さで、相続税ゼロのシンガポール、所得税ゼロのドバイと比べれば、日本を選ぶ理由がない。
ただし例外が一つあります。子どもの教育です。日本の治安や教育環境を評価して、配偶者と子どもだけを日本に住まわせるケースがある。本人は非居住者のまま。
つまり「住む国」と「資産を置く国」と「子どもを育てる国」を別々に選んでいる。この発想自体が、日本人の富裕層にはあまり見られない特徴です。
TIER 2 — 弊所に最も多い相談層
資産1〜10億円(ミリオネア層)
弊所に最も多く相談に来るのがこの層です。日本で法人を設立し、経営管理ビザで在留する。不動産を法人名義で買い、子どもを私立校やインターナショナルスクールに通わせる。
ここ2〜3年で面白い変化が起きています。「東京一極集中」が崩れ始めた。京都で町家をリノベして宿泊施設に、大阪でインバウンド向け商業不動産、福岡でアジア向け事業拠点——「東京以外の日本」に目を向け始めた層が確実にいます。
法人名義での取得が圧倒的に多いため、不動産登記だけでは中国人オーナーの実数は見えません。隠蔽ではなく、中国の商慣習がそのまま持ち込まれた結果です。
TIER 3 — 制度変更の影響を最も受ける
資産5,000万〜1億円(アッパーミドル層)
「留学→卒業→起業→経営管理ビザ」のルートが典型的。語学力も適応力も高く、最も日本に定着しやすい層です。しかし資金面の余裕は限られており、2025年のビザ運用見直しの影響をダイレクトに受けています。
あまり語られない話として、この層で最も揉めやすいのは「資本金の出所」です。中国の外貨管理規制により正規ルートでの大型送金は容易ではなく、友人名義の分割送金や第三国経由の送金は、後の税務調査で苦しい立場に追い込まれるリスクがあります。
「日本の税務署に中国の口座は見えないだろう」——弊所の初回面談で、この前提でお越しになる方がいまだにいます。
結論:見えています
日本はCRS(共通報告基準)で100以上の国・地域と金融口座情報を自動交換しており、中国も対象です。中国の銀行口座に1億円あれば、その情報は何もしなくても日本の税務当局に届きます。
しかも個人口座だけでなく法人口座も対象。実質的なオーナーが日本の居住者なら情報は届きます。「法人名義だから大丈夫」と思っていた方が税務署から照会を受けて驚いた——弊所でも実際にあった話です。
さらに、5,000万円超の国外財産がある居住者は「国外財産調書」の提出義務があります。
-5%
国外財産調書を
適正に提出した場合
加算税が軽減
+5%
国外財産調書を
提出しなかった場合
加算税が加重
弊所では初回面談で必ずこの話をします。受け入れがたい情報であることは分かっていますが、後から数千万円の追徴を受けるよりは、最初に正しく申告しておいたほうが、長期的にはクライアントの利益にかなうと考えています。
来日5年以内の外国人には「非永住者」という特別なステータスがあります。海外の所得は日本に送金した分だけ課税される——つまり、送金しなければ課税されません。
「5年の壁」——来日年数による課税範囲の違い
来日5年以内
送金した分だけ課税
中国に置いたままなら非課税
→
来日5年超
全世界所得が課税対象
送金の有無は関係なし
たとえば中国にある不動産の賃料収入が年間500万円あっても、中国の口座に貯めておけば日本では非課税。ところが来日5年を超えた瞬間、送金の有無に関係なく全世界の所得が日本で課税されるようになります。
見落としがちなポイント
「送金」の範囲は想像以上に広い。銀行振込だけでなく、中国で得た収入を原資にクレジットカードで日本国内の買い物をした場合も、送金と認定される可能性があります。
5年超で負担が急増する構造。中国で毎年発生していた不動産所得や配当が、5年目まではノーコストだったのに、6年目からいきなり日本でも課税対象に。日中の税率差分は純粋な追加負担になるため、5年目を迎える前のシミュレーションが不可欠です。
最後に、同業の士業や金融機関の方向けに。弊所が現場で感じていることを率直に書きます。
この分野は法改正の頻度も高く、去年の常識が今年は通じないことが普通にあります。そのアップデートのコストまで織り込んだ上で、参入を判断されることをお勧めします。


