海外でリモートワークする日本人が直面する税務論点まとめ

国際税務 | 海外リモートワーカー向け

海外でリモートワークする日本人が直面する税務論点まとめ

居住者判定・源泉地課税・二重課税防止・国別リスクなど、海外リモートワーカーが知るべき税務論点を網羅的に解説。

外国人の確定申告 完全ガイドで、外国籍社員の確定申告の全体像(必要書類・やり方・居住者判定・期限)をまとめています。あわせてご覧ください。

01居住者か非居住者か:税法上の身分判定

身分判定判定基準日本での課税範囲
非居住者住所なし+1年未満の在留日本国内源泉所得のみ
居住者住所あり or 1年以上の居所全世界所得課税
一時帰国(数ヶ月)住所が海外 → 非居住者日本国内源泉所得のみ
定期帰国(年4-5回)住所判定が微妙状況次第・税務署判定
税法上の居住者・非居住者の判定フロー:生活の本拠(住所)を滞在日数・家族の居住地・住居や資産の所在・職業と帰国予定から総合判定。居住者は全世界所得課税、非居住者は国内源泉所得のみ課税。住民票の場所だけでは決まらない
図:居住者判定は「実態」の総合判定——住民票だけでは決まらない
⚠ 「住所」の認定:住民票だけでなく、生活の本拠・職業・親族の所在・資産の所在地を総合判定。実態を整える設計が節税の核心。
POINT 01
居住者判定がスタート
住所の有無・滞在期間・家族の所在・職業で総合判定。住民票だけで判断しない。
POINT 02
国内源泉所得は要注意
非居住者でも日本国内源泉所得には日本の課税。給与・報酬は20.42%源泉など、種類により10.21%〜20.42%。
POINT 03
二重課税の回避手段
租税条約の届出書外国税額控除で日本・海外の二重課税を圧縮。

まず初めに確認すべきは、自身が日本の税法上「居住者」に該当するのか「非居住者」に該当するのかという点です。この区分によって日本で課税される所得の範囲が大きく異なり、国際税務の出発点となります。

居住者
全世界所得が課税対象

日本国内に「住所」を有するか、または現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人。「住所」とは生活の本拠がどこにあるかで判断されます。海外勤務で得た収入であっても日本で納税義務が発生します。

非居住者
国内源泉所得のみ課税

日本に住所がなく、継続して1年以上の居所も持たない個人。日本で課税されるのは原則として日本国内で生じた所得(国内源泉所得)に限定されます。

実務上の判定ポイント
  • 単に海外にいるからといって自動的に非居住者になるわけではない
  • 滞在日数:年の半分以上日本に滞在しているか
  • 家族の居住地:配偶者や子供が日本に残っているか
  • 日本での住居・資産の管理状況、銀行口座や公共サービスの利用実績
  • 永住の意思がないか:海外に生活の拠点を移し帰国予定がない場合、海外滞在が1年未満でも非居住者と認められることがある
⚠ 注意
住民票を日本に残したまま海外で生活していても、実際の生活拠点が海外にあれば非居住者と判断されることがあります。逆に1年以上の海外赴任であっても、生活の本拠が日本にあると見なされれば居住者扱いとなるケースがあります。自身が居住者か非居住者かの判定には慎重な検討が必要です。

第2章

02日本と海外、どこに税金を納める?

居住者の場合

日本の居住者である限り、原則としてその人の全世界での所得が日本の課税対象です。したがって、たとえ海外でリモートワークをして得た収入であっても、日本の所得税法上は申告・納税が必要になります。海外で源泉徴収された所得税があれば、日本の確定申告で外国税額控除により二重課税を調整することが可能です。

非居住者の場合

一方、自身が日本非居住者に該当すれば、日本で課税されるのは国内源泉所得に限られます。ここでポイントとなるのが「何が国内源泉所得に当たるか」という点です。

ケース A ── 海外でリモート勤務して日本企業から給与・報酬を得るケース

原則として、役務提供地(労働をした場所)が国外であればその報酬は国外源泉所得となり、日本の所得税は課されません。例えば、日本の会社に雇用されつつシンガポールに在住し、シンガポールからリモートで業務提供している場合、その給与所得は日本法上は国外源泉に該当し日本の課税対象外です。

⚠ 例外:日本企業の役員として受け取る報酬は、たとえ海外勤務分であっても日本国内源泉所得とみなされます。日本の内国法人から支給される役員給与は勤務地に関わらず国内所得と定義されています。
ケース B ── 海外在住のフリーランス・個人事業主が日本の顧客から報酬を得るケース

非居住者個人が日本国内に事務所や事業拠点(恒久的施設: Permanent Establishment)を持たず、実際のサービス提供も海外から行っている限り、日本で課税が発生しないのが原則です。日本国内で事業活動を行っていない限り、そのフリーランス収入は日本の税法上課税できないという整理になります。

💡 この場合でも、報酬を支払う側(日本の企業)は支払い時に租税条約上の取扱いを確認する必要があります。条約で源泉税免除を受けるには非居住者側から「租税条約に関する届出書」を事前提出させる必要があることもあります。
非居住者の働き方別課税マップ:A従業員は役務提供地が国外なので給与は国外源泉となり日本の税金は原則なし。B内国法人の役員報酬は勤務地を問わず国内源泉扱いで20.42%源泉徴収。CフリーランスはPEなし・海外役務なら原則日本非課税で租税条約の届出により源泉免除。滞在国側の課税(183日ルール)は別途検討
図:同じ海外リモートでも「従業員・役員・フリーランス」で日本の課税が変わる
⚠ 一時帰国して日本で働く日数に注意
非居住者が一時帰国し、日本国内で勤務した日数に対応する給与は「国内源泉所得」となり、20.42%の源泉徴収の対象になります。日本法人から給与が支払われている場合、租税条約の短期滞在者免税(いわゆる183日ルール)は要件を満たさず使えないことが多い点にも注意が必要です。
⚠ 重要な注意点
一部非課税だからといって日本の申告・納税義務が完全になくなるわけではありません。日本国内に不動産収入や投資収益がある場合は引き続き課税対象となります。また、海外で長期滞在し現地の税法上も居住者とみなされると(多くの国で年間183日——タイは180日——以上の滞在が代表的な基準。日数未満でも住居や家族の所在から居住者と判定されることがあります)、今度は滞在国で全世界所得に課税される可能性が生じます。

第3章

03日本企業からの支払いと源泉徴収義務

日本の会社が海外にいる日本人に報酬や給与を支払う場合、源泉徴収義務が生じるかどうかは相手が居住者か非居住者かで異なります。

支払先の区分源泉徴収の要否備考
日本の居住者必要(通常の給与所得として天引き)海外駐在中も居住者扱いであれば原則どおり徴収
非居住者(国内源泉所得分)必要(国内での勤務・役務提供に対応する部分)海外勤務分は不要
非居住者(国外源泉所得分)不要海外での役務提供に対応する報酬
外国法人・海外支店等からの支払い原則不要外国法人が日本国内に支店を有する場合は例外あり
⚠ 源泉徴収漏れ・誤徴収のリスク
本来は非居住者で日本での勤務に該当しない給与にもかかわらず誤って20.42%を源泉徴収し続けてしまう事例や、逆に実質的には日本で働いて国内源泉所得を得ていたのに全く源泉徴収せず、後で税務調査で指摘された事例などがあります。企業側も従業員側も専門家の確認が重要です。
租税条約届出書の手続き
  • 日本と滞在国との租税条約で給与所得が居住地国のみで課税される定めがある場合、日本の支払者に所定の届出をすれば源泉徴収を免除または軽減できる
  • 届出を怠ると一旦日本で源泉徴収されてしまい、後から条約に基づく還付請求をする手間が発生する
  • 非居住者側からの「租税条約に関する届出書」の事前提出が必要なケースがある

第4章

04二重課税を防ぐ:租税条約の活用

海外と日本で双方に課税義務が生じうる場合、国際的な二重課税をいかに調整・回避するかが重要です。二重課税とは同一の所得について二か国以上で税金を課されることで、何も対策しないと手取り収入の相当部分が税で消えてしまう恐れがあります。これを防ぐ主な方法は以下の3つです。

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租税条約の適用

日本は77の租税条約を締結し、81か国・地域に適用しています(執行共助条約等を含むネットワーク全体では157か国・地域。2026年7月現在)。条約には居住者の判定ルールや各所得区分ごとの課税権の配分が定められています。適切な届出・申告手続きが肝要。

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外国税額控除の活用

海外で所得税を納めている場合、日本の確定申告でその税額分を控除できます。納税証明書と日本語訳などが必要です。

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非課税国・優遇制度

ドバイ(所得税ゼロ)、シンガポール(国外源泉の投資所得等が非課税)など。※ポルトガルの旧NHR制度は2024年に終了しています(後継のIFICIは対象限定)。各国の制度は毎年動くため、最新情報の確認を前提に移住先を選定してください。


第5章

05海外リモートワーカーに人気の移住先

自由なノマド生活の裏には、常に税務の判断が伴います。出国のタイミング、移住国の選定、租税条約の把握など、事前準備が鍵を握ります。

移住先税制の特徴主な対象層ステータス
🇦🇪 ドバイ所得税ゼロ。暗号資産・富裕層に特化した移住先として注目。暗号資産・富裕層・起業家所得税 0%
🇸🇬 シンガポール最高税率24%(S$100万超の部分)。国外源泉の投資所得等は非課税だが、現地滞在中のリモート勤務の報酬は現地源泉として課税。富裕層・法人設立希望者最高 24%
🇹🇭 タイ・バリタイは2024年から国外所得の持込み(送金)課税を強化(居住者=年180日以上滞在)。緩和案は2026年7月現在未成立。5年有効のDTVビザは開始済み。デジタルノマド全般要確認
🇵🇹 ポルトガル旧NHR制度は2024年に新規受付終了。後継のIFICI(通称NHR2.0)は対象職種・要件が大幅に限定。欧州志向の移住希望者IFICI(旧NHR終了)
🇪🇪 エストニアe-ResidencyでEU法人のオンライン設立が容易。※デジタルIDであり居住・税務居住とは別物(本人が日本居住のままなら日本で課税)。IT系起業家・フリーランスe-Residency

第6章

06まとめ

日本人が海外でリモートワークをする場合の税務は、居住者/非居住者の判定から始まり、所得区分ごとの源泉地判定、源泉徴収の要否、そして二重課税の調整や租税条約の適用といった複数の論点が絡み合う複雑なものです。正しい知識にもとづき対応すれば合法的に税負担を最適化できますが、誤った判断をすると予期せぬ追徴課税やペナルティに繋がりかねません。

海外リモート移住の税務タイムライン:出国前に居住区分の設計・国外転出時課税(株式等1億円以上)の確認・納税管理人の届出・租税条約の届出書。出国後は滞在日数の管理・現地の居住者判定・外国税額控除の納税証明保存・海外口座と送金の記録(CRS対応)
図:出国前の設計で結果の9割が決まる——出国前後のチェックリスト
⚠ 「出国前にしかできない」4つの手続き
① 株式・投資信託等を合計1億円以上お持ちの方は国外転出時課税(出国税)の試算(詳しくは「住民票抹消で税金回避?出国税・相続税リスク」) ② 住民税は1月1日基準——出国のタイミングで翌年度分(前年所得の約10%)の有無が変わる ③ 出国後も日本の申告が残る場合や納税猶予を受ける場合は納税管理人の届出 ④ 会社員は出国時の年末調整。いずれも出国後には巻き戻せません。
居住者 / 非居住者の判定 源泉地の判定 源泉徴収の要否 二重課税の調整 租税条約の適用
ACTION | 海外リモートで日本との関わりを最適化する3つ
  1. 居住者区分の設計住民票・住所・生活拠点・資産所在を整え、希望区分(居住者/非居住者)に整合させる。
  2. 租税条約の活用移住先国との租税条約で二重課税を回避。事前届出や証明書が必要なケース多数。
  3. 海外口座・送金記録の管理CRSで口座残高・利息等が自動共有され、2026年からは暗号資産もCARFで捕捉が始まる時代。海外口座と送金を年次でログ化。

海外リモート・海外移住の税務は、出国前のご相談が最も効きます

居住者区分の設計、出国税の試算、納税管理人や租税条約の届出まで、国際税務を専門とする税理士・行政書士がワンストップで支援します。無料相談のお問い合わせはこちら

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07よくある質問(FAQ)

Q. 海外在住のまま日本企業で働く場合、税金は日本と海外のどちらに納めますか?

税法上の「非居住者」に当たる場合、日本で課税されるのは国内源泉所得に限られます。海外で行うリモートワーク勤務の給与は、原則として勤務地のある居住国側で課税され、日本の国内源泉所得には当たりません。ただし、居住者か非居住者かは住民票ではなく生活の本拠の実態で判定されるほか、内国法人の役員として受け取る報酬のように国外勤務分でも日本で課税される例外があります。まずはご自身の居住区分の判定と雇用形態の確認が出発点になります。

Q. 海外にいながら日本の仕事を業務委託で受ける場合、日本で源泉徴収されますか?

非居住者が国外で行う役務提供の対価は、原則として日本の国内源泉所得に該当せず、日本での源泉徴収も原則不要とされています。一方で、著作権や工業所有権の使用料など、所得の種類によっては非居住者への支払いでも日本で源泉徴収の対象となるものがあります。雇用契約か業務委託か、対価の性質が何かによって取扱いが変わるため、契約内容の確認が重要です。

Q. 海外リモートワークの二重課税は、どうすれば防げますか?

日本と多くの国との間には租税条約があり、居住者の振分けルールや短期滞在者免税などによって二重課税を調整しています。同じ所得に日本と外国の双方で課税された場合には、居住国側での外国税額控除により一定の限度額まで税額を差し引ける場合があります。条約の内容は国ごとに異なり、適用には届出書の提出など所定の手続きが必要になることが多いため、滞在先の国との条約を個別に確認することをおすすめします。

Q. デジタルノマドとして複数の国を移動しながら働く場合、税金はどこに納めますか?

どの国の「居住者」に当たるかによって納税地が決まります。日本の税法では、国内に住所(生活の本拠)があるか、現在まで引き続き1年以上の居所があるかなどにより居住者かどうかを判定します。各国の判定基準と租税条約の適用関係によっては、想定外の国で居住者と判定されたり、どの国にも申告していない無申告の状態になったりするリスクがあります。移動の多い働き方ほど、滞在日数の記録を残し、事前に課税関係を整理しておくことが大切です。

山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。