中国から撤退する — 清算・持分譲渡・減資の出口実務【連載⑥】
中国から撤退する — 清算・持分譲渡・減資の出口実務
利益を戻せるようになったら(連載⑤)、最後は事業をどう畳むか/規模をどう縮めるかです。中国は「作るより畳むのが大変」と言われ、清算(注銷)は税務抹消がボトルネックになりがちです。本稿は出口の3つの選択肢——持分譲渡によるEXIT・清算(注銷)・減資——の手続と税務を整理します。人の整理(労務・経済補償金)は次回連載⑦で詳しく扱います。
01出口の選択肢 — 撤退・縮小の3つの道
「中国事業をどうするか」の出口は、ひとつではありません。大きく次の3つを、目的とコストで使い分けます。
- 持分譲渡(売却EXIT):事業ごと第三者・パートナーに売る。スピードは速いが、譲渡益に源泉税が課されます。
- 清算(注銷):会社を解散・抹消する。最も「きれい」に終わるが、税務抹消が長期化しやすい。
- 減資:会社は残したまま規模・資本を縮める。過大な登録資本の調整や、一部資金の回収に使います。
どれを選ぶかは、累積欠損の有無・移転価格の履歴・買い手の有無・残したい事業によります。いずれも連載④の監査・確定申告と、連載⑤の送金・外貨手続が前提になります。
02持分譲渡によるEXIT — 直接譲渡と間接譲渡(7号公告)
事業ごと売却して退出する場合は持分譲渡が出口になります。
- 直接譲渡:非居住者が中国子会社の持分を譲渡して得る所得には源泉企業所得税10%が課されます(課税は譲渡益=譲渡収入−取得原価、対価総額ではない)。源泉徴収義務者は対価の支払者で、義務発生日から7日以内に納付します。
- 条約での免税は期待しにくい点に注意。日中租税条約第13条はむしろ源泉地国(中国)課税を広く認める方向のため、子会社株式の譲渡益は持分割合にかかわらず中国課税が留保されるのが通説です。
- 間接譲渡(公告2015年第7号):日本親会社が香港等の中間持株会社(SPC)の株式を譲渡しても、「中国の課税財産」の間接譲渡で合理的な商業目的を欠くと判定されれば、直接譲渡と再認定され10%課税されます。価値の75%以上が中国財産由来などの4要件を同時に満たすと自動的に「商業目的なし」と判定されます。
関連者間の譲渡では独立企業間価格が求められ、簿価=対価のような平価譲渡は否認リスクが高い点に注意してください。公開市場での上場株売買や、一定の持分関係を満たすグループ内再編には安全港(セーフハーバー)があります。
03撤退・清算(注銷)の手続と税務
会社を畳む場合は清算・抹消(注銷)です。「先に税務、後に工商(登記)」が原則で、税務抹消が最大のボトルネックになります。
- 清算組は解散事由発生日から15日以内に設立。改正会社法第232条で取締役(董事)が清算義務人とされ、義務を怠って会社財産を不当に減少させた場合の賠償責任が強化されました。
- 債権者保護:成立日から10日以内に既知債権者へ通知、60日以内に公告。債権申報期間(通知後30日/公告後45日)が経過するまで分配できません。
- 税務は二段構え:経営終了日から60日以内に、経営終了日までの通常分の確定申告を行い、別途清算期間を独立した納税年度として清算所得に企業所得税25%を課します(財税〔2009〕60号)。残余財産の分配では、利益剰余の持株相当分が配当として10%源泉、投資コストを上回る部分が譲渡所得として10%課税されます。
債権債務がない(または清算済みの)企業は簡易注銷(公示20日)を使えば約1か月〜数か月で済みますが、外資ネガティブリスト該当・経営異常名録登載・係争中などは対象外。規制業種の日系製造子会社は一般注銷になる可能性が高く、税務抹消で6か月〜1年超に長期化しやすいのが実情です(所要期間は地域運用・事案により変動)。
04減資 — 出資の引揚げと赤字補填、その税務
会社を残したまま規模を縮める減資(登録資本の減少)も、重要な出口・調整手段です。2024年7月施行の改正会社法に基づきます。
- 通常減資(出資引揚げ型):株主会の特別決議(議決権の3分の2以上)を経て、決議日から10日以内に既知債権者へ個別通知、30日以内に公告。債権者は弁済または担保提供を請求できます(通知後30日/公告後45日)。
- 簡易減資(赤字補填型・会社法第225条):積立金で補填してもなお損失が残る場合に限り、債権者保護手続が免除され30日以内の公告のみで足ります。ただし株主への分配をしない・出資義務を免除しないことが条件で、減資後は積立金累計が登録資本の50%に達するまで配当できません。
- 法人株主は回収資産を3区分(2011年第34号。以下の免税・25%は中国居民企業株主の場合で、日本親会社など非居住者の法人株主は清算時と同様、②は配当として10%源泉・③は譲渡所得として10%課税):①当初出資相当=投資回収(非課税)/②留保利益・剰余積立金の按分=みなし配当(居民企業間は免税)/③残余=譲渡所得(企業所得税25%)。
- 個人株主は区分せず一括で財産譲渡所得20%(2011年第41号)。純資産が投資コストを超えない平価減資は原則非課税ですが、価格が不当に低いと税務機関の核定権が働きます。なお、日本親会社など非居住者の法人株主では、②みなし配当は免税にならず源泉10%、③譲渡所得も源泉企業所得税10%(25%ではない)となります。
- 赤字補填型の課税は全国統一規定がなく地域で取扱いが分かれるため、事前に主管税務機関への確認が必要です。
送金できる額に注意。減資で対外送金できるのは減少した外国投資者の実払込資本のみ。資本剰余金・剰余積立金・未分配利益は減資の送金額に含まれず、別途、利益分配等として納税(完税)を済ませたうえで処理します。なお過大な登録資本を抱える企業は、2027年6月30日の過渡期末までに減資・株式譲渡で実払込負担を調整する論点もあります。
05落とし穴と、進出時設計による予防
出口で表面化する落とし穴の多くは、進出時の設計で予防できます。
- 税務調査の遡及:通常の追徴は原則3年(未納10万元以上で5年。脱税・抗税・騙税と認定されると期間制限なし)ですが、移転価格を含む特別納税調整は最長10年遡及。撤退・清算は過去の移転価格が一気に精査される典型局面です。
- 送金が止まる:累積欠損が残ると配当・残余分配で回収できず、外貨送金には真実性審査があります。過去の納税・移転価格に綻びがある企業ほど審査が厳格化します。
- 債権者保護の不備:減資・清算で個別通知を怠ると、株主が補充賠償責任を問われ得ます(解釈論ベース)。手続を規定どおり行わないと過料(1万〜10万元)の対象にもなります。
- 人の整理コスト:撤退時の経済補償金は予告手当を含め「N+1〜N+3」程度の合意が多く、集団整理ではさらに高額化します(詳細は連載⑦)。
06まとめ — そして連載⑦(労務)へ
一文でいえば、中国の出口は「持分譲渡(譲渡益10%)・清算(税務抹消が関門)・減資(送金は実払込資本のみ)」の3択を、累積欠損・移転価格履歴・買い手の有無で選ぶ——ということです。いずれも債権者保護と税務手続の順序を外すと、送金停止や賠償責任につながります。
会社の畳み方・縮め方を押さえたら、避けて通れないのが人の整理です。次回・連載⑦は、労務・労働契約法——採用から解雇規制、そして撤退コストを左右する経済補償金(N/N+1/2N)までを扱います。
出口は「進出時」に設計しておくほど、楽に・安く畳めます。持株構成・移転価格ポリシー・登録資本の適正化・撤退条項は、撤退するときに考えることではなく、進出するときに織り込むことです。ESPERANZA CONSULTING GROUPは、会計・税務(会計士・税理士)とビザ実務(行政書士)を同じチームで扱えるため、入口から出口までを分断せずに設計できます。
本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の法務・税務助言ではありません。手続・税率・期限・所要期間は提出先当局の運用や地域、個別事情により異なる場合があります。実際の判断にあたっては専門家にご確認ください。


