外国人駐在員の帰任・退職税務ガイド【2026年版】

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外国人駐在員の帰任・退職税務ガイド【2026年版】

外国人駐在員の帰任・退職時の税務手続きを HR担当者向けに体系的に解説。準確定申告・住民税精算・社会保険・脱退一時金まで網羅。

01外国人駐在員の帰任・退職税務完全ガイド【2026年版】

POINT 01
準確定申告
出国日までの所得を確定申告。納税管理人選任 or 出国前申告のいずれかを社員と決定。
POINT 02
住民税の精算
1〜5月退職は一括徴収義務、6月以降は本人選択。出国時は納税管理人が必要。
POINT 03
社会保険
健保・厚年は退職月で資格喪失。脱退一時金は厚年加入6ヶ月以上+出国後2年以内に請求。

駐在員が帰任・退職する際の所得税・住民税・社会保険・退職金課税を網羅的に解説。HR担当者必読のガイドです。

02外国人駐在員の「帰任・退職」税務リスクと手続き完全マニュアル

帰国後の住民税督促・20.42%の源泉漏れ・納税管理人選任の 法的境界線とリスク対策を完全網羅

「帰国した元社員の住民税の督促状が会社に届いた」
「善意で納税管理人を引き受けたら、税務署から何度も電話がかかってきて業務に支障が出た」

外国人駐在員(Expat)の受け入れ時以上に、トラブルが頻発するのが「帰任・帰国時」です。日本を離れる社員にとって、複雑な日本の税制は理解不能であり、会社任せになりがちです。しかし、会社がどこまで面倒を見るべきか、その線引きを誤ると、企業側に金銭的・事務的なリスクが跳ね返ってきます。

本記事では、国際税務の専門家である税理士の視点から、「絶対に会社がやるべき義務」「外部の専門家へ委任すべき手続き」を明確に区分し解説します。

03帰国時、会社に課される3つの法的義務

義務 01
納税管理人の選任
出国前に税務署へ届出。所得税・住民税の納付義務を引き継ぐ国内代理人を選任する。
義務 02
住民税の一括徴収/特別徴収
退職月により取扱いが異なる。1〜5月退職は一括徴収、6〜12月は本人選択。
義務 03
退職金・賞与の源泉徴収
非居住者扱いになると20.42%源泉。退職所得は分離課税の選択肢あり。

まず、会社として避けて通れない法的義務を確認します。これらは社内で完結させる必要があります。

  1. 出国時年末調整の実施
    通常の年末調整とは異なり、1月1日から「出国日」までの給与等で計算します。社会保険料控除などは出国日までに支払った分のみが対象です。
  2. 住民税の一括徴収(1月~5月退職時は義務)
    1月~5月の帰国者は、5月分までの住民税残額を一括徴収することが法律上の義務です。6月以降の帰国者についても、後日のトラブル(督促)を防ぐため、本人了承のもと一括徴収を強く推奨します。
  3. 社会保険の資格喪失手続き
    帰国日の翌日(または退職日の翌日)に資格喪失届を提出します。同時に、厚生年金の加入期間が6ヶ月以上ある外国人社員には「脱退一時金」の制度を案内する義務(配慮義務)があります。

04「納税管理人」は誰がなるべき?人事担当者の悲劇

帰国後も日本で税務手続き(確定申告や納税)が必要な場合、「納税管理人」を選任して税務署へ届け出る必要があります。 よくある質問が「日本に残る同僚や、人事部の担当者が名前を貸してもいいですか」というものです。

🚫 人事担当者や友人が納税管理人になるリスク

  • 税務調査の窓口になる:もし申告漏れがあった場合、税務署からの連絡は全て納税管理人に行きます。平日昼間に何度も対応を迫られます。
  • 納税の立替リスク:本人が送金を忘れたり遅れたりした場合、納税管理人が一時的に立て替えざるを得ない状況になり、金銭トラブルに発展します。
  • 還付金の管理責任:還付金を受け取る場合、納税管理人の口座に入金されます。それを海外送金する手間と手数料、着金確認の責任が発生します。

こうしたリスクを回避するため、大企業では「納税管理人は会社関係者ではなく、外部の税理士法人を指定する」というルールを設けるケースが増えています。

05確定申告が必要な5つのケース(義務と権利)

ケース申告義務 or 還付の権利期限
給与以外の所得が20万円超義務:副業・投資・不動産収入など出国前 or 翌年3月15日(管理人経由)
退職所得を一時金で受領義務:退職所得申告書未提出時退職翌年3月15日
非居住者期間に国内不動産収入義務:20.42%源泉済でも申告で精算可翌年3月15日
住宅ローン控除を受けていた権利:未控除分の還付申告出国前申告で還付
医療費控除・寄附金控除等権利:年内の支出分を清算出国前 or 管理人経由
⚠ 出国前申告のメリット:還付金は納税管理人の口座か海外送金でしか受け取れない。出国前に申告して国内口座(閉鎖前)で受け取るのが最もシンプル。

年末調整で終わらず、確定申告が必要になるのは以下のケースです。特に「義務」のケースを放置すると、無申告加算税などのペナルティ対象となります。

区分 具体的なケース 重要度
申告義務あり
(しないと脱税)
給与収入が2,000万円を超える ★★★★★
不動産所得がある
(持ち家を賃貸に出して帰国する場合など)
★★★★★
ストックオプション(SO)の行使
(日本勤務期間分は課税対象)
★★★★☆
申告推奨
(すると得する)
脱退一時金の源泉税還付
(20.42%が戻ってくる)
★★★★★
医療費控除・寄付金控除
(高額な医療費がかかった年など)
★★★☆☆

06【重要】脱退一時金の「還付」で社員の手取りを増やす

ここが、外部の専門家へ依頼する大きなメリットといえます。 帰国した外国人は、支払った厚生年金の一部を「脱退一時金」として受け取れますが、支給時に20.42%の所得税が源泉徴収(天引き)されてしまいます。

💰 確定申告(還付申告)により源泉徴収税額の還付が可能

この天引きされた税金は、税務署に「退職所得の確定申告」を行うことで、その多くを還付金として取り戻すことができます。 しかし、この手続きは「日本国内に居住する納税管理人」を通さなければ行えません。本人が海外から直接行うことは不可能です。

【例:脱退一時金が100万円の場合】
手取り額:約79万円(約20万円が税金で引かれる)
⇒ 納税管理人を通じて申告すれば、この約20万円が還付されます

会社として「専門家に納税管理人を依頼すれば、還付金手続きもセットで行われる」と案内することは、社員に対する手厚い福利厚生となります。

07会社を守る!帰国後賞与・退職金の源泉徴収

支給時点・項目居住者期間に発生非居住者期間に発生
給与(出国前最終分)通常の源泉徴収(所得税表)
帰国後の賞与該当期間分は通常源泉20.42%源泉分離(日本での勤務期間按分)
退職一時金退職所得申告書あり:分離課税優遇
退職所得申告書なし:20% 源泉
20.42% × 国内勤務期間按分
ストックオプション・RSU給与所得として通常源泉付与時〜vesting までの国内勤務期間で按分課税
⚠ 国内勤務期間按分の落とし穴:給与・賞与・退職金の「日本で勤務した期間」と「海外で勤務した期間」の比率で按分する。記録が曖昧だと税務調査で否認リスク。

経理・税務部が最も警戒すべき事項です。 帰国日以降に支払われる金銭は「非居住者に対する支払い」となり、国内の源泉徴収ルールとは全く異なるルールが適用されます。

① 帰国後に支払う賞与(ボーナス)

対象期間に日本勤務期間(居住者期間)が含まれている場合、その全額(または按分額)に対して一律20.42%の源泉徴収が必要です。
※通常の「賞与の源泉徴収税額表」は使いません。年末調整もしません。

② 退職金

非居住者になってから退職金を受け取る場合も、原則20.42%の課税です。ただし、「退職所得の選択課税」という制度を使えば、居住者と同様の有利な計算(退職所得控除の適用)を行い、税額を抑える(還付を受ける)ことが可能です。これにも確定申告が必要です。

08【2025年税制改正】駐在員税務への影響

📰 2025年税制改正と高市政権下の駐在員税務
2025年10月の高市早苗内閣発足以降、外国人税務の「適正化」方針の下、駐在員の退職時の源泉徴収・出国時課税の運用が厳格化。国際的二重課税の調整や、退職所得申告書の不提出による20%課税の見直しが議論されています。出国前の準備不足は事業者側の源泉徴収義務違反に直結するため、人事・税務両面のチェックが従来以上に重要に。

2026年度(令和8年度)税制改正法案が2026年2月に閣議決定され、国会に提出されました。外国人駐在員の税務に関連する主な改正ポイントを解説します。

グローバル・ミニマム課税の見直し

2025年税制改正では、グローバル・ミニマム課税について米国等の税制との共存に係る国際合意に則った見直しが行われます。多国籍企業に所属する駐在員の税務プランニングにおいて、グループ全体の実効税率への影響を考慮する必要があります。原則として2026年4月1日以後の事業年度から適用されます。

外国関係会社に関する改正

ペーパー・カンパニー特例に係る資産割合要件について見直しが行われ、総資産の額がゼロの外国子会社でも、事業上の不可欠性及び租税回避リスクが低いと認められる場合は、ペーパー・カンパニーとして扱わないこととされます。また、累進税率国での租税負担割合の計算特例についても見直しが入り、2026年4月1日以後開始事業年度から適用されます。

在留手続き手数料の大幅改定

税制改正とは別に、2026年3月の改正入管法により在留手続き手数料が大幅に引き上げられます。在留資格変更・期間更新の上限は10万円、永住許可の上限は30万円に改定されます。駐在員のビザ手続き費用を会社負担としている場合、帰任・再赴任のコスト見直しが必要です。

実務ポイント

駐在員の帰任計画を立てる際は、上記の制度変更を考慮した税務・コストシミュレーションを実施することをお勧めします。特に2026年4月以降に帰任が予定されている駐在員については、改正後の税制が適用される可能性があるため、早めの専門家への相談が重要です。

09実務担当者のためのQ&A(銀行、引越し代など)

Q. 帰国する社員が保有する銀行口座はどうすればいいですか?

Q. 「出国税(国外転出時課税)」の対象かどうかの判定基準は?

対象資産(有価証券等)が1億円以上あるかどうかが基準ですが、ここには「未行使のストックオプション」や「RSU(譲渡制限付株式)」も含まれる場合があります。特に外資系企業の幹部クラスは対象になる可能性が高いため、必ず出国前に専門家による資産評価と判定を行う必要があります。

Q. 帰国後にストックオプションを行使した場合の税金は?

帰国後(非居住者期間)に行使した場合でも、権利付与から権利確定までの期間のうち「日本勤務期間」に対応する利益は、日本の国内源泉所得として課税されます。企業側には20.42%の源泉徴収義務が発生するケースが多く、計算が非常に複雑です。この計算および申告についても当法人にて代行可能です。

関連シリーズ:海外在住家族の税務

海外在住の家族が直面する税務問題を、具体的な事例で解説しています。

①住民票を残したままのリスク
②出国税・相続税リスク
③不動産購入資金の贈与税
④低利貸付・共有名義・段階的贈与
⑤婚前契約と特有財産

ACTION | 駐在員の帰任・退職対応で人事が押さえる3つ
  1. 出国予定の3ヶ月前に税務オンボーディング納税管理人選定/住民税徴収方法決定/確定申告必要性のチェック。早期着手で本人と会社のキャッシュフロー最適化。
  2. 退職金・賞与の源泉徴収を事前計算居住者期間と非居住者期間の按分根拠を勤務地ログで残す。退職所得申告書の提出を本人に促す。
  3. 脱退一時金の還付スキーム案内厚年加入6ヶ月以上の外国人は対象。納税管理人経由で20.42%還付を実現できる。
山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。