外国籍社員の出国・帰任時の税務手続き|退職金・住民税のHR対応【HR外国籍税務⑥】
外国籍社員の出国・帰任時の税務手続き|退職・転勤時にHRが対応すべきこと
退職日が決まってからでは遅い。準確定申告、納税管理人、住民税一括徴収……
出国前に完了すべき税務手続きを、HRの対応タイムラインで整理します。
読了目安:12分 | 対象:人事部・HR担当者 | 監修:Esperanza税理士事務所
HR外国籍税務シリーズ(全7回+別冊2本)
①確定申告 | ②給与・源泉 | ③RSU課税 | ④非永住者 | ⑤ビザ更新 | ⑥出国・帰任 | ⑦体制構築
別A:専門家に依頼すべき5つのサイン | 別B:簡易リスク診断
この記事を30秒で理解する
- 出国前に準確定申告・納税管理人届出・住民税一括徴収の3つを完了させる
- 退職金は居住者/非居住者で税率が大きく異なる(支給タイミングに注意)
- HR対応タイムライン:出国3か月前から逆算して計画的に進める
外国籍社員が退職・転勤で日本を離れるとき、通常の退職手続きに加えて税務上の固有の手続きが発生します。日本人社員の退職であれば「源泉徴収票を渡して終わり」で済むケースでも、外国籍社員の場合は「出国後に誰が納税するのか」「年の途中で居住者から非居住者に変わる場合の課税はどうなるのか」といった論点が加わります。
これらの手続きが漏れると、社員本人に追徴課税やビザ再取得時の不利益が生じるだけでなく、企業側にも源泉徴収義務違反や住民税の特別徴収未了といったリスクが発生します。特に住民税の一括徴収漏れは、退職後に企業に督促が届く原因として最も多いケースの一つです。
⚠ よくあるトラブル:退職後に出国した外国籍社員の住民税が特別徴収できず、企業に督促状が届く。本人はすでに帰国しており連絡が取れない——こうした事態を防ぐために、出国前のタイミングで対応を完了させることが不可欠です。
出国による居住者区分の変更と課税への影響
外国籍社員が日本を出国すると、所得税法上の居住者区分が「居住者」から「非居住者」に変わります。この変更は出国日を境に発生し、その年の所得の課税方法に直接影響します。
居住者と非居住者で何が変わるのか
| 項目 | 居住者(出国前) | 非居住者(出国後) |
|---|---|---|
| 課税範囲 | 全世界所得 | 国内源泉所得のみ |
| 所得税率 | 累進課税(5〜45%) | 原則20.42% |
| 所得控除 | 各種控除適用可 | 基礎控除等のみ |
| 年末調整 | 対象 | 対象外 |
| 住民税 | 翌年度課税 | 1月1日時点で不在なら非課税 |
重要なのは、出国日を境にその年の所得を「居住者期間分」と「非居住者期間分」に分けてそれぞれ異なるルールで課税される点です。出国前の給与は通常の累進課税、出国後に日本の会社から支払われる給与(残余の賞与等)は国内源泉所得として20.42%の源泉徴収が必要になります。
準確定申告——出国前に行う「年の途中の確定申告」
年の途中で出国する外国籍社員のうち、確定申告が必要なケースでは、出国日までに「準確定申告」を行う必要があります(所得税法第127条)。通常の確定申告は翌年2月16日〜3月15日ですが、準確定申告は出国の日までが期限です。
準確定申告が必要になるケース
- 給与以外の所得(RSU・ストックオプション・不動産所得等)がある場合
- 2か所以上から給与を受けている場合
- 給与収入が2,000万円を超える場合
- 医療費控除・寄附金控除等で還付を受けたい場合
- 年末調整が行われない場合(年の途中退職のため)
HRの実務ポイント:準確定申告は本人が出国前に自ら行うか、納税管理人を選任して委任する必要があります。HRが直接申告するわけではありませんが、「申告が必要であること」「期限は出国日まで」であることを社員に明確に伝え、必要に応じて税理士を紹介する役割がHRに求められます。
HRが準備すべき書類
準確定申告のために、HRは以下の書類を出国の2〜3週間前までに準備することが望まれます。
| 書類 | 内容 | 準備担当 |
|---|---|---|
| 給与所得の源泉徴収票 | 1月1日〜退職日までの分 | HR・経理 |
| 退職所得の源泉徴収票 | 退職金が支給される場合 | HR・経理 |
| 社会保険料控除証明書 | 健保・厚生年金の年間支払額 | HR・経理 |
| RSU・SO関連資料 | 付与日・権利確定日・時価等 | HR+本社報酬部門 |
納税管理人の届出——出国後の税務対応の「代理人」
出国する社員が日本国内での税務手続きを出国後に行えなくなるため、出国前に「納税管理人」を選任し、税務署に届出を提出する必要があります(所得税法第117条)。
納税管理人とは何か
納税管理人とは、本人に代わって日本国内で税務書類の受領・申告書の提出・還付金の受領等を行う者です。個人でも法人でも選任可能ですが、実務上は税理士を納税管理人に指定するのが最も確実です。
⚠ 注意:納税管理人の届出を行わずに出国した場合、税務署からの通知が届かず、延滞税や加算税が膨らむリスクがあります。また、将来日本に再入国する際にビザ審査で不利になる可能性もあります。HRは「出国前に必ず届出を出すこと」を退職チェックリストに組み込んでください。
届出の手順
- 「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を入手(国税庁HPからダウンロード可)
- 本人と納税管理人がそれぞれ署名・押印
- 出国前に、本人の納税地を管轄する税務署に提出
- 住民税の納税管理人届出も、市区町村に別途提出
住民税の一括徴収——出国前に未納分を精算する
住民税は前年の所得に対して翌年6月〜翌々年5月に特別徴収(給与天引き)されます。外国籍社員が年度の途中で退職・出国する場合、残りの住民税を最終給与から一括徴収する必要があります。
一括徴収の具体的ルール
| 退職時期 | 対応 |
|---|---|
| 1月1日〜4月30日退職 | 残りの住民税を必ず一括徴収(法律上の義務) |
| 5月1日〜12月31日退職 | 本人の申し出があれば一括徴収。出国する外国籍社員には一括徴収を強く推奨 |
| 6月1日より前(新年度開始前) | 前年度分の残額のみ対象。当年度分は6月以降に市区町村から通知 |
実務上の注意:出国が確定している外国籍社員は、5月以降の退職であっても一括徴収の対応を取るべきです。普通徴収に切り替えても、本人が出国済みで納付書を受け取れないため、未納となります。最終給与から差し引けない場合は、退職金からの控除も検討してください。
納税管理人の選任フロー
出国する外国籍社員には、出国前に「納税管理人」を選任する必要があります。
個人(日本在住の知人・親族)、または法人(税理士事務所)を選定。推奨:税理士事務所
「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を所轄税務署に提出。住民税は別途市区町村にも届出。提出期限:出国日まで(2週間前推奨)
年の途中で出国 → 出国日までの所得について準確定申告が必要。納税管理人が代理で行うことも可能。
退職所得申告書の有無で税率が大きく変わる
退職金支払時、「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無で源泉徴収税率に大きな差が出ます。
申告書あり → 適正税率
勤続年数に応じた退職所得控除が適用。例:勤続20年・退職金1,500万円 → 税額約37万円
申告書なし → 20.42%一律
退職所得控除が適用されず全額に20.42%。例:同条件 → 税額約306万円
差額:約269万円
HR担当者は退職手続き時に必ず提出を確認してください。
※ 本記事は2026年3月時点の税法に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務アドバイスではありません。具体的な対応については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。


