【第1回】外国人社員が退職・帰国するとき——手続きの全体像と実務まとめ
外国人社員が退職・帰国するとき
——手続きの全体像
外国人社員の退職・帰国が決まったとき、人事担当者が対応すべき手続きは多岐にわたります。住民税、社会保険、年金(脱退一時金)、給与計算、ビザの問題——どれも期限があり、対応を誤ると会社側にもリスクが及びます。本記事では全体像を俯瞰し、各手続きの要点とシリーズ内の関連記事を案内します。
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外国籍従業員の確定申告 代行サービスを見る ▶01退職・帰国時に発生する手続きの全体像
外国人社員が退職・帰国する際に企業側で対応が必要な手続きは、大きく分けて4つの領域にまたがります。
| 領域 | 主な手続き | 期限・注意点 |
|---|---|---|
| 住民税 | 給与天引き(特別徴収)の精算、未徴収分の一括徴収、納税管理人の届出 | 出国前に一括徴収が原則 |
| 社会保険 | 健康保険・厚生年金の資格喪失届(「この社員は保険の対象外になりました」という届出)、有効期限内の資格確認書の回収 | 退職日の翌日から5日以内に届出 |
| 年金(脱退一時金) | 本人への制度案内、転出届の案内、請求書類の説明 | 資格喪失日(その日に国内に住所があれば住所を有しなくなった日)から2年以内に請求。6ヶ月要件に注意 |
| 給与計算 | 最終給与の支払時期、日割り計算、退職時年末調整、源泉徴収票発行 | 出国前に最終給与を支払うのが原則(非居住者課税回避) |
02住民税——出国前の一括徴収と納税管理人
住民税は「後払い」の仕組みで、今年の所得に対する税金が翌年6月から課税されます。外国人社員が帰国してしまうと、翌年度の住民税を徴収する手段がなくなるリスクがあります。企業側としては、退職時に未徴収分の住民税を最終給与から一括徴収するのが原則です。
1月1日〜4月30日に退職する場合は、本人の申出がなくても残りの住民税を一括徴収します。ただし条文は「5月31日までに支払われるべき給与又は退職手当等で、残りの月割額の全額を超えるものがあるときに限り」としているので、最終給与が残額に届かなければ徴収できる額までになります(地方税法321条の5第2項ただし書)。5月退職は住民税の最終徴収月と重なるため残り1回分を最終給与から天引きします。6月1日〜12月31日に退職する場合は本人の申出があったときに一括徴収します(同項ただし書)。いずれの場合も、帰国する外国人社員には一括徴収を強く推奨してください。
また、帰国後に届く住民税の通知に対応するため、出国前に納税管理人(帰国後の税金関連の書類を受け取り、代わりに納付してくれる人)の届出を済ませるよう本人に案内しましょう。
→ シリーズ②「外国人社員が帰国・退職するとき、住民税はどうなる?」で具体的な手続きと計算例を解説しています。
03社会保険——資格喪失届と資格確認書の回収
退職に伴い、健康保険・厚生年金の資格喪失届(「この社員はもう加入者ではありません」と届け出る書類)を退職日の翌日から5日以内に提出します。これは日本人社員の退職と同じ手続きです。
外国人社員特有の注意点としては以下があります。
・資格確認書の回収:帰国してしまうと回収困難(回収するものが健康保険証から変わった点は第3回で解説)。退職日当日に必ず回収する
・退職日の設定:月末退職と月末前日退職で社会保険料が1ヶ月分変わる(シリーズ⑤で詳述)
→ シリーズ③「外国人社員が帰国・退職するとき、社会保険の手続きはどうする?」で届出様式や実務フローを解説しています。
04年金(脱退一時金)——6ヶ月要件と2つの落とし穴
帰国する外国人社員は、厚生年金の脱退一時金を請求できます(厚生年金保険法附則29条)。支給額は「平均標準報酬額 × 支給率」で決まり(同条3項)、支給率のもとになる月数は60か月(5年)が上限です(同条4項・政令)。報酬が高く5年近く加入していた駐在員では、百万円単位になることもあります。
この脱退一時金は所得税法上「退職手当等とみなす一時金」にあたり(所得税法31条1号)、非居住者が受け取ると加入期間の長短にかかわらず20.42%が源泉徴収されます(同161条1項12号ハ・212条1項・213条1項1号に復興特別所得税2.1%を加えた率)。納めすぎた分は退職所得の選択課税(同171条)を選び、還付を受けるための申告(同173条)をすれば戻ってきます。出国後は本人が手続きできないため、納税管理人の届出が事実上の前提です。
ただし、支給には厚生年金の被保険者期間が6ヶ月以上必要で、請求できるのは最後に国民年金の被保険者資格を喪失した日(その日に日本国内に住所があった場合は、その後初めて住所を有しなくなった日)から2年以内です(厚生年金保険法附則29条1項・同項3号)。国民年金期間との合算はできず、学生納付特例期間もカウントされません。退職日の設定が1日ずれるだけで受給可否が変わるケースがあります。
→ シリーズ④「脱退一時金——6ヶ月要件と2つの落とし穴」で要件・手続き・源泉徴収について詳しく解説しています。
05給与計算——翌月払い・非居住者課税・退職時年末調整
外国人社員の退職時の給与計算では、出国後に支払う給与は「非居住者」扱いになるという点が最大の注意事項です。税法上、日本に住所がない人は「非居住者」となり、国内勤務に対応する給与には一律20.42%の源泉徴収(税金の天引き)が適用されます(所得税法212条1項・213条1項1号の20%に復興特別所得税2.1%。No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率(国税庁))。通常の給与天引きよりも大幅に税額が増えます。
たとえば「当月締め・翌月払い」の企業で、3月末退職→4月支給となる場合、本人が3月中に出国していれば4月の支払い時点では非居住者です。月給25万円なら通常は数千円〜数万円の天引きが、非居住者だと約5.1万円になります。
対策は出国前に最終給与を前倒し支給することです。日本に住んでいる間に支払えば、通常の税率で処理できます。また、帰国する外国人社員は出国前に退職時年末調整(年末まで待たずに退職時点で税金の精算を行うこと)を実施し、源泉徴収票を退職の日以後1か月以内に発行してください(所得税法226条1項)。
▶ 令和8年分の年末調整で確認する点(居住者判定・租税条約・国外扶養)は、外国人社員の年末調整【令和8年版】にまとめています。
→ シリーズ⑤「退職時の給与計算——翌月払い・月末退職・源泉区分」で具体的な計算例と実務チェックリストを掲載しています。
人事ご担当者へ:退職・帰国する社員に確定申告が必要な場合
確定申告はご本人の手続きですが、ご紹介いただければ、税理士がご本人と直接契約し、英語でやり取りして申告まで進めます。会社の取引先登録・与信審査は必要ありません。
▶ 外国籍従業員の確定申告(法人のご担当者向け)
▶ 社員の方にそのまま渡せる英語の案内(Japan tax return filing)
06退職・帰国時のタイムライン
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 退職1ヶ月前 | 退職日の確定(月末vs月末前日、6ヶ月要件の確認) 住民税の一括徴収方針を決定 最終給与の支払時期を検討 |
| 退職2週間前 | 本人に転出届・納税管理人届出を案内 脱退一時金の請求手順を書面で案内 資格確認書の回収の段取り |
| 退職日〜出国日 | 最終給与の支払い(出国前に完了) 退職時年末調整の実施 有効期限内の資格確認書の回収 住民税の異動届出書を提出(翌月10日期限) |
| 退職後5日以内 | 社会保険の資格喪失届提出 |
| 退職後1ヶ月以内 | 源泉徴収票の発行・本人への交付 |
07HR担当者のやることリスト(退職・帰国チェックリスト)
外国人社員の退職・帰国時に対応が必要な手続きをまとめました。漏れなく対応するための確認用にお使いください。
| 時期 | 確認項目 |
|---|---|
| 退職1ヶ月前 | □ 退職日の確定(月末 vs 月末前日——社会保険料1ヶ月分の差に注意) □ 厚生年金の6ヶ月要件を満たすか確認(脱退一時金の受給可否に直結) □ 住民税の一括徴収 or 普通徴収切替の方針を決定 □ 最終給与の支払時期を検討(出国前支払いが原則) |
| 退職2週間前 | □ 本人に転出届(市区町村への住所異動届)を案内 □ 納税管理人の届出を案内(住民税は市区町村、所得税は税務署——届出先が異なる) □ 脱退一時金の請求書類・手順を書面で説明 □ 資格確認書の回収の日程を確認 |
| 退職日〜出国日 | □ 最終給与の支払い(出国前に完了——非居住者課税を回避) □ 退職時年末調整の実施 □ 有効期限内の資格確認書の回収(被扶養者分も含む) □ 住民税の特別徴収異動届出書を市区町村に提出(退職月の翌月10日期限——届出は早めに) |
| 退職後5日以内 | □ 健康保険・厚生年金の資格喪失届を年金事務所に提出 |
| 退職後10日以内 | □ 雇用保険の資格喪失届をハローワークに提出 □ 離職票の交付を希望するか本人に確認(希望しなければ離職証明書の添付を省略できる。ただし離職の日に59歳以上の方は省略不可=雇用保険法施行規則7条3項) |
| 退職後1ヶ月以内 | □ 源泉徴収票の発行・本人への交付 |
08よくある質問
退職後に帰国せず、転職する外国人社員の場合はどうなりますか?
帰国しない場合は「居住者」のままですので、非居住者の源泉徴収や脱退一時金の論点は発生しません。住民税は通常の特別徴収の異動届出で処理し、社会保険は転職先での手続きとなります。本シリーズは主に「退職+帰国」のケースを想定しています。
手続きが漏れた場合、会社にペナルティはありますか?
住民税は、1月1日〜4月30日退職者の一括徴収(地方税法321条の5第2項ただし書)や給与所得者異動届出書(同条3項、地方税法施行規則9条の24で翌月10日まで)を怠ると、会社に特別徴収義務が残る可能性があります。社会保険は、資格喪失届が遅れること自体に延滞金がつくわけではありません。保険料の納付が遅れた場合も、督促状に指定された期限までに完納すれば延滞金は徴収されず、その期限を過ぎてはじめて、納期限の翌日にさかのぼって延滞金がかかります(健康保険法181条1項・4項、厚生年金保険法87条1項・4項)。源泉徴収漏れは不納付加算税の対象になります(国税通則法67条)。いずれも「知らなかった」では済まされないため、退職・帰国時のチェックリストを整備しておくことを推奨します。
このシリーズの記事はどの順番で読めばいいですか?
まず本記事(①)で全体像を把握し、その後は自社で特に対応が必要な領域の記事を読んでください。時間がない方は、住民税(②)と給与計算(⑤)を優先することをおすすめします。出国日に直結する論点が多いためです。
退職・帰国シリーズ 全6回
完全ガイドはこちら:外国人社員の確定申告 完全ガイド【2026年版】
- 30日前:本人面談で全体スケジュール確認退職日・出国日・最終給与日・住民税精算方法・社会保険の選択を本人と整理し合意。
- 20日前:住民税の特別徴収終了 or 一括徴収を判断市町村へ「給与所得者異動届出書」を提出。一括徴収を選ぶか分割継続にするかを本人意向で決定。
- 10日前:社会保険資格喪失届の準備退職日翌日付の「健康保険・厚生年金資格喪失届」を年金事務所へ。有効期限内の資格確認書を本人から回収。
- 退職日:最終給与と源泉徴収票発行翌月払い分は非居住者源泉20.42%適用。源泉徴収票は本人へ手渡し(出国後は国際郵便)。
- 出国後:脱退一時金請求の支援本人が日本年金機構に請求書送付。請求書にはパスポートの写し・住所がないことの確認書類・口座の確認書類・基礎年金番号のわかる書類を添付します(日本年金機構)。会社は、基礎年金番号と加入期間を本人が確認できるよう手伝います。
▶ あわせて読みたい:入口側——採用時の在留資格手続きは外国人社員の就労ビザ・COE完全ガイドにまとめています。
主な根拠資料
- 住民税(一括徴収・異動届出)——地方税法 第321条の5第2項・第3項(e-Gov法令検索)/地方税法施行規則 第9条の24(翌月10日まで)(同)
- 社会保険(資格喪失届・延滞金)——健康保険法施行規則 第29条第1項(5日以内)(e-Gov法令検索)/厚生年金保険法施行規則 第22条第1項(同)/健康保険法 第181条(保険料の延滞金)(同)/厚生年金保険法 第87条(同)
- 脱退一時金——厚生年金保険法 附則第29条(6か月以上・2年以内・平均標準報酬額×支給率)(e-Gov法令検索)/所得税法 第31条第1号(退職手当等とみなす一時金)・第161条第1項第12号ハ・第212条第1項・第213条第1項第1号・第171条(選択課税)・第173条(還付の申告)(同)
- 非居住者への給与・源泉徴収票——所得税法 第212条第1項・第213条第1項第1号・第226条第1項(退職の日以後1月以内)(e-Gov法令検索)/No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率(国税庁)
- 雇用保険・入管への届出——雇用保険法施行規則 第7条第1項・第3項(離職票の希望確認、59歳以上は省略不可)(e-Gov法令検索)/入管法 第19条の16(14日以内)・第71条の5第3号(20万円以下の罰金)(同)
- 加算税——国税通則法 第67条(不納付加算税)(e-Gov法令検索)
本記事の条文・期限は2026年9月10日にe-Gov法令検索と国税庁の公表資料で確認しました。退職日を1日動かすだけで社会保険料・脱退一時金・住民税・源泉区分が同時に動きます。日付を決める前にご相談ください。
出国時の年末調整、準確定申告、納税管理人の選任、非居住者としての源泉徴収——退職・帰国の税務実務を、税理士がまとめてお引き受けします。ご本人とのやり取りは英語で直接行います。
外国籍社員の退職・帰国の税務を相談する ▶
公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表
日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。


