【第3回】外国人社員が帰国・退職するとき、社会保険の手続きはどうする?

退職・帰国シリーズ ③

外国人社員が帰国・退職するとき、
社会保険の手続きはどうする?

外国人社員の退職・帰国時の社会保険手続きは、基本的には日本人社員と同じです。ただし、資格確認書の回収タイミング、扶養家族の資格喪失、退職日の設定による保険料の違いなど、帰国を伴うケース特有の注意点があります。人事担当者が見落としやすいポイントを中心に解説します。

01退職時の社会保険手続き — 基本の流れ

POINT 01
健康保険の選択肢
任意継続(最大2年)・国民健康保険切替・帰国で資格喪失。本人の状況で選択。
POINT 02
厚生年金の取扱い
退職日の翌日に資格喪失。脱退一時金(次回記事参照)の請求準備。
POINT 03
雇用保険・労災
帰国により受給資格は原則喪失。離職票は本人保管。労災は退職日まで継続。

外国人社員が退職する際、企業が行う社会保険手続きは以下の通りです。

手続き届出先期限
健康保険・厚生年金
被保険者資格喪失届
管轄の年金事務所
(または健康保険組合)
退職日の翌日から5日以内
雇用保険
被保険者資格喪失届
管轄のハローワーク資格喪失日の翌日から10日以内
有効期限内の資格確認書の回収会社が回収し、年金事務所(または健保組合)へ返却資格喪失届と同時

期限の根拠は、健康保険・厚生年金が健康保険法施行規則29条1項と厚生年金保険法施行規則22条1項(事実があった日から5日以内)、雇用保険が雇用保険法施行規則7条1項(事実があった日の翌日から起算して10日以内)です。

これらは日本人社員の退職時と同じ手続きですが、帰国を伴う外国人社員の場合は回収・届出のタイミングがより重要になります。

02注意点① 資格確認書は退職日当日に回収する

まず、回収するものが変わりました。紙の健康保険証は2024年12月2日に新規発行が終わり、経過措置の有効期限も2025年12月1日までに切れています。協会けんぽの案内では、健康保険証・資格情報のお知らせ・有効期限が切れた資格確認書は返却不要で、返却が必要なのは有効期限内の「資格確認書」です(健康保険証等の返却について(協会けんぽ))。マイナ保険証だけを使っている社員からは、回収するものがありません。健康保険組合の場合は組合ごとの案内に従ってください。

そのうえで、帰国する外国人社員からは退職日当日に資格確認書を回収するのが鉄則です。

帰国後の回収は極めて困難

  • 帰国してしまうと郵送での返却は期待できない
  • 資格確認書が使えるのは退職日まで。翌日以降に誤って使われると、保険者負担分(総医療費の7〜9割)の返還請求手続きが必要になる
  • 海外への返還請求は実務上ほぼ不可能

被扶養者がいる場合は、被扶養者分の資格確認書もあわせて回収します。本国に家族がいて被扶養者になっているケースでは、資格確認書が本国にある場合もあります。この場合、協会けんぽの被保険者であれば「健康保険 資格確認書回収不能届」を資格喪失届に添付して提出します(日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき」)。健康保険組合の場合は組合の案内に従ってください。

マイナ保険証の社員には、回収ではなく「使わない」ことの案内が必要です。退職日の翌日以降は資格が無くなるため、帰国までの受診はマイナ保険証でもできません。退職日から出国日までに通院の予定があるなら、下の「帰国までの空白期間」の段取りを先に決めてください。

03注意点② 資格喪失日と退職日の関係

社会保険の資格喪失日は「退職日の翌日」です(健康保険法36条2号・厚生年金保険法14条2号)。社会保険料は「資格喪失日が属する月の前月分まで」かかります(被保険者期間は資格取得月から喪失月の前月まで=厚生年金保険法19条1項、保険料はその各月につき徴収=同81条2項)。このため、退職日を月末にするか月末前日にするかで、最終月の社会保険料の取り扱いが変わります。

月末退職と月末前日退職の違いを示す図。3月31日退職は資格喪失日が4月1日で被保険者期間は3月まで、3月分の保険料が会社・本人ともかかる。3月30日退職は資格喪失日が3月31日で被保険者期間は2月まで、3月分の保険料はかからない。3月30日退職にすると、最終月は国民健康保険・国民年金への切替が必要になり、脱退一時金の計算に使う被保険者期間が1か月短くなる。
図:退職日が1日違うと、3月が被保険者期間に入るか(3月分の保険料がかかるか)が変わる
退職日資格喪失日最終月の保険料
3月31日(月末)4月1日3月分あり(会社・本人とも負担)
3月30日(月末前日)3月31日3月分なし

月末前日退職にすると社会保険料が1ヶ月分削減されますが、本人側にはデメリットもあります。

月末前日退職のメリット・デメリット

メリット(会社・本人とも)

  • 社会保険料が1ヶ月分不要(月給25万円なら会社負担約3.7万円の削減)
    ※標準報酬月額26万円・40歳未満(介護保険料なし)・協会けんぽ東京支部で試算した目安です。健康保険料率は都道府県と年度で変わります。実額は協会けんぽ「都道府県毎の保険料額表」でご確認ください

デメリット(本人側)

  • 最終月は国民健康保険・国民年金への切り替えが必要
  • 帰国が近くても、日本に住所がある間は国民健康保険の被保険者となり、届出が必要(国民健康保険法5条・7条・9条1項)
  • 脱退一時金の被保険者期間が1ヶ月短くなる

退職日の設定は、社会保険料のコストだけでなく脱退一時金の要件(シリーズ④参照)にも影響します。総合的に判断してください。

04注意点③ 雇用保険と帰国の関係

雇用保険の資格喪失届はハローワークに提出しますが、帰国する外国人社員の場合、失業給付の受給は原則としてできません。雇用保険の「失業」は「労働の意思及び能力を有するにもかかわらず職業に就くことができない状態」と定義されており(雇用保険法4条3項)、日本国内での求職活動が前提になるためです。

ただし、離職票については本人の意向を確認してください。本人が交付を希望しないときは離職証明書の添付を省略できますが、離職の日に59歳以上の方は省略できません(雇用保険法施行規則7条3項)。次の理由から、交付を受けておくほうが本人のためになります。

  • 将来、再来日して就職する際に加入期間の通算に必要になる場合がある
  • 本国の社会保障制度で必要になる可能性がある
  • 本人の記録として保管しておくべき書類である

外国人雇用状況届出も忘れずに

外国人社員の退職時には、ハローワークへの「外国人雇用状況届出」も必要です(労働施策総合推進法28条1項)。期限は雇用保険に入っていたかどうかで変わります。雇用保険の被保険者なら資格喪失届と併せて離職日の翌日から10日以内、雇用保険未加入の外国人(週20時間未満のパートなど)は様式第3号で別途届け出ることになり、期限は離職した日の属する月の翌月末日までです(同法施行規則12条1項・2項)。届出を怠ると30万円以下の罰金の対象になります(同法40条1項2号)。

05注意点④ 被扶養者の資格喪失

外国人社員に被扶養者(健康保険で扶養に入っている配偶者・子ども等)がいる場合、被扶養者の資格喪失手続きも同時に行います。外国人社員特有のケースとして、以下に注意してください。

  • 本国在住の家族を被扶養者にしている場合がある(2020年4月から国内居住要件が入ったが、海外留学・海外赴任同行等の例外あり。健康保険法3条7項)
  • 被扶養配偶者(第3号被保険者 = 会社員の配偶者として国民年金に加入している人)がいる場合は、「第3号被保険者関係届」の喪失手続きも必要
  • 帰国する配偶者が日本で就労していた場合は、配偶者本人の社会保険喪失手続きも別途必要

06退職後の健康保険 — 帰国までの空白期間

退職日から帰国日までに期間がある場合、その間の健康保険をどうするかという問題があります。選択肢は以下の3つです。

退職日の翌日から出国までの健康保険の選択肢を示す図。任意継続は、退職日まで継続して2か月以上の加入が条件で、資格喪失日から20日以内に申し出る。加入できるのは最長2年で申出によりやめられ、保険料は全額本人負担、標準報酬月額には上限がある。国民健康保険は都道府県内に住所を有する人が対象で、健康保険の被保険者・被扶養者は除かれ、健康保険の資格を失った日から資格を得て、住所を有しなくなった日の翌日に資格を失う。窓口は住所地の市区町村。資格確認書・マイナ保険証とも、退職日の翌日以降は会社の健康保険では受診できない。
図:退職後の健康保険——任意継続の条件と国民健康保険の対象
選択肢概要帰国予定者への適否
任意継続退職後も最大2年間、退職前の健康保険に引き続き加入できる制度(健康保険法3条4項・38条1項1号)。会社負担分がなくなり全額が自己負担になる(同161条1項ただし書)申出は資格喪失日から20日以内(同37条1項)。退職日の前日まで継続して2月以上の被保険者期間も要ります。ただし保険料の基礎になる標準報酬月額には上限があり(同47条1項2号)、報酬の高い方は必ずしも2倍にはなりません。2022年1月からは本人の申出でいつでもやめられます(同38条1項7号)
国民健康保険市区町村の国保に加入帰国まで短期間ならこちらが一般的
国保の届出をしない「無保険」を選ぶことはできません。日本国内に住所がある間は、届出をしなくても健康保険の資格を失った日から国民健康保険の被保険者になります(国民健康保険法5条・6条1号・7条)。届出は世帯主の義務で、期限は14日以内です(同法9条1項・同法施行規則3条)退職日の翌日に出国する場合も、日本に住所がある間は国保の被保険者です(住所を有しなくなった日の翌日に資格喪失=同法8条1項)

企業の法的義務はありませんが、退職後の健康保険について本人に選択肢を案内しておくことで、トラブルを予防できます。

人事ご担当者へ:脱退一時金を受ける社員の源泉税(20.42%)の還付申告

還付申告はご本人の手続きですが、ご紹介いただければ、税理士がご本人と直接契約し、英語でやり取りして申告まで進めます。会社の取引先登録・与信審査は必要ありません。

▶ 外国籍従業員の確定申告(法人のご担当者向け)
▶ 社員の方にそのまま渡せる英語の案内(Japan tax return filing)

07実務チェックリスト

確認項目対応内容期限
資格確認書の回収有効期限内の資格確認書(本人分+被扶養者分)を退職日当日に回収退職日当日
資格喪失届(健保・厚年)年金事務所(または健保組合)に提出退職翌日から5日以内
資格喪失届(雇用保険)ハローワークに提出。離職票も発行資格喪失日の翌日から10日以内
外国人雇用状況届出雇用保険の被保険者なら喪失届で兼ねる。未加入者は様式第3号で別途届出被保険者:離職日の翌日から10日以内
未加入者:離職した月の翌月末日
被扶養者の喪失手続き被扶養者がいる場合は同時に手続き資格喪失届と同時
退職日の設定確認月末vs月末前日の保険料差、脱退一時金への影響を確認退職日確定前
退職後の健康保険の案内任意継続・国保の選択肢を本人に説明。任意継続の申出期限は資格喪失日から20日以内退職前

08よくある質問

退職日に保険証(資格確認書)を回収できなかった場合はどうすればいいですか?

まだ帰国前であれば、速やかに連絡して回収してください。すでに帰国してしまった場合は、協会けんぽの被保険者であれば「健康保険 資格確認書回収不能届」を添えて資格喪失届を提出します(日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき」)。健康保険組合の場合は組合の案内に従ってください。回収不能の理由を記載して届出することで手続き自体は進められます。

退職後に保険証(資格確認書)を使って病院にかかった場合はどうなりますか?

資格喪失後の受診は「不正使用」にあたり、健康保険が負担した医療費(総医療費の7〜9割)の返還を求められます(協会けんぽの案内)。帰国後に請求しても回収はほぼ不可能なため、退職日当日の資格確認書の回収が極めて重要です。

社会保障協定の締結国の社員は、手続きが変わりますか?

変わりますが、どこまで変わるかは相手国によります。社会保障協定(日本と相手国の間で保険料の二重負担を防ぐ取り決め)で本国の制度に加入したまま日本で勤務している社員(適用証明書を持つ社員)は、協定の対象になっている日本の制度には加入していないので、その分の資格喪失届は不要です。ただし協定でどの制度の加入が免除されるかは協定相手国ごとに違いますので、「協定国だから全部不要」とは判断できません。日本側で二重加入防止の対象になる制度は、一覧の「二重加入防止の対象となる日本の社会保障制度」欄で次の4つに分かれます。①年金だけの13か国(ドイツ・英国・韓国・カナダ・オーストラリア・スペイン・アイルランド・ブラジル・インド・フィリピン・スロバキア・中国・スウェーデン)、②年金+医療保険の8か国(アメリカ・ベルギー・フランス・オランダ・チェコ・スイス・ハンガリー・ルクセンブルク)、③年金+雇用保険で医療保険は対象外の2か国(フィンランド・イタリア)、④年金+医療保険+雇用保険のオーストリア。人事の手続きに直結するのは健康保険で、②の8か国以外——①の13か国と③のフィンランド・イタリア——から来ている方は日本の健康保険に加入しているため、健康保険の資格喪失届が必要です。オーストリアは表では医療も対象ですが、同じ一覧の注3が「オーストリアから日本に一時派遣される被用者は、オーストリアの疾病保険制度に加えて、日本の医療保険制度に加入することになります」と明記しているので、こちらも健康保険の届出が生じます。つまり健康保険の資格喪失届が要らないのは②の8か国だけです。一方、雇用保険が免除になるのは③④のフィンランド・イタリア・オーストリアの3か国だけです。一覧の注1も「具体的には各社会保障協定や各国の国内制度による」としているので、最終的にはご本人が日本の健康保険の被保険者になっているかどうかで届出の要否を判断してください。適用証明書を受け取ったら、対象制度をこの一覧で確認してから手続きを組んでください(協定を結んでいる国との協定発効時期および対象となる社会保障制度(日本年金機構))。

外国人従業員が退職して帰国する場合、会社がやることの一覧はありますか?

基本は3点です。①健康保険・厚生年金の被保険者資格喪失届を管轄の年金事務所(または健康保険組合)へ退職日の翌日から5日以内に提出、②雇用保険の被保険者資格喪失届を管轄のハローワークへ資格喪失日の翌日から10日以内に提出、③有効期限内の資格確認書を回収して資格喪失届と同時に返却(協会けんぽの場合)。帰国を伴う場合は、出国前に回収・案内を終える段取りが重要です。

外国人社員の退職時の社会保険手続きは、日本人と同じですか?

基本的には日本人社員と同じです。ただし、資格確認書の回収タイミング(帰国後は回収が困難になります)、被扶養者(扶養家族)の資格喪失、退職日の設定による保険料の違いなど、帰国を伴うケース特有の注意点があります。本文で見落としやすいポイントを整理しています。

資格喪失届の提出期限はいつまでですか?

健康保険・厚生年金の被保険者資格喪失届は退職日の翌日から5日以内、雇用保険の被保険者資格喪失届は資格喪失日の翌日から10日以内です。帰国を伴う退職では、資格確認書の回収(資格喪失届と同時に返却)が出国後は難しくなるため、退職日当日までに回収してください。

帰国日と退職日は、同じ日にしても問題ありませんか?

手続き上は可能ですが、資格確認書の回収や各種書類の受け渡しを出国前に済ませる必要があるため、余裕を持った設定をおすすめします。退職日の設定によって社会保険料の負担月数が変わる点は、本文の「資格喪失日と退職日の関係」で解説しています。

主な根拠資料

本記事の条文・期限は2026年9月10日にe-Gov法令検索、日本年金機構および厚生労働省の公表資料で確認しました。保険料率は都道府県と年度で変わります。退職日の設定は社会保険料・脱退一時金・税務が同時に動くので、日付を決める前にご相談ください。

🏢 社会保険の手続きの先にある「税務」も、まとめて

資格喪失の手続きが済んだあとにも、出国時の年末調整・準確定申告・納税管理人の選任が控えています。税務側は税理士がご本人と直接進めますので、人事のご負担は増えません。

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※企業様側の取引先登録・与信審査は不要(従業員様との直接契約方式に対応)
山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。