経営管理ビザと資本金の落とし穴|2025年改正から2026年追加改正まで

経営管理ビザシリーズ ③

経営管理ビザと資本金の落とし穴——2025年改正で何が変わったか

2025年10月16日、経営管理ビザの要件が大幅に厳格化されました(施行済み)。既存の在留資格保持者にも2028年10月までの経過措置が設けられていますが、「資本金500万円を入れたはずなのに問題がある」——そんな見せ金リスクを抱えた企業は少なくありません。本記事では、改正の全体像と資本金をめぐる実務上の落とし穴、そして今から打てる対策を解説します。

012025年10月改正——何が変わるのか

POINT 01
2025年改正のおさらい
資本金が500万円→3,000万円へ。事業計画・雇用要件も実質強化。
POINT 02
2026年追加改正案
学歴・職歴要件の追加検討。実務経験5年以上 or MBA等の要件議論あり。
POINT 03
既存ビザの更新
経過措置の範囲が論点。更新時に新基準を遡及適用されるリスクに注意。

経営管理ビザ(在留資格「経営・管理」=外国人が日本で会社経営を行うために必要なビザ)の取得要件が、2025年10月16日から大きく変わりました。

旧基準(〜2025年10月15日)新基準(2025年10月〜)
資本金 500万円以上
または常勤2名以上
3,000万円以上
かつ常勤1名以上
日本語能力 要件なし 日本語教育の参照枠B2相当以上(JLPT N2、BJT 400点以上等で証明)
(事業主または常勤職員のいずれかが充足すれば可。なお日本語要件における「常勤職員」には就労ビザ保有者も含まれ、雇用要件の常勤職員より対象が広い)
学歴・経験 要件なし 修士・博士・専門職学位、または経営・管理の実務経験3年以上
事業計画 任意 専門家評価付き事業計画書が必須

雇用要件の「常勤職員」は、日本人・永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者に限定され、就労ビザの外国人は含まれません。また「常勤」とは週30時間以上・年間217日以上の勤務をいいます。

最大の変更点は、資本金要件が500万円から3,000万円に引き上げられ、さらに「または」だった常勤雇用要件が「かつ」に変わったことです。新規取得のハードルは大幅に上がります。

02経過措置——2028年10月16日までの猶予

2025年10月16日
改正施行日。新規申請は新基準(資本金3,000万円・常勤1名以上)で審査。
2025年10月〜2028年10月15日
経過措置期間。既存ビザ保持者の更新は旧基準で審査可能。事業実態の継続性が条件。
2028年10月16日〜
経過措置終了。既存保持者にも新基準が全面適用。資本金増資or事業構造変更が必要に。
2026〜2027年
準備期間。資本金増資・DES・帳簿整理を計画的に実施。早期着手で2028年に間に合う設計。

改正施行日(2025年10月16日)時点で経営管理ビザを保持している方には、2028年10月16日までの経過措置が適用されます。

経過措置のポイント

・2028年10月16日までは旧基準(資本金500万円or常勤2名)をベースに個別判断
・ただし更新審査は年々厳しくなる傾向が予想される
・2025年7月以降の更新申請では「事業活動の内容説明文書」の提出が原則必須
・経過措置期間中に新基準への移行準備を進めることが強く推奨される

「あと3年ある」と思いがちですが、資本金の増額やDES(後述)には準備期間が必要です。早めの対応を推奨します。

03資本金の落とし穴——「見せ金」のリスク

⚠ 「見せ金」とみなされる典型パターン:① 増資した資金を直後に役員へ貸付・送金 ② 増資後すぐに事業外用途へ流出 ③ 増資原資が借入金で実体が不明 ④ 同一日に入金と出金が複数往復 ⑤ 資本金の使途を説明できない
判定項目許容される増資「見せ金」と疑われる増資
増資原資本人の貯蓄・事業利益から拠出借入金・他社送金・出処不明
払込後の用途事業設備投資・運転資金・人件費役員貸付・代表者個人送金
払込のタイミング事業計画に基づく時期申請直前の駆込み
払込後の保管会社口座で運転資金として保有引出後に行方不明・他口座へ転送
会計処理適正な仕訳・帳簿整備帳簿に矛盾・未収入金として残る

経営管理ビザの取得にあたり、設立時に資本金500万円を払い込んだものの、実態としてはすぐに引き出されているケースが少なくありません。

典型的な見せ金パターン

以下のような流れは、入管が「見せ金」と判断するリスクがあります。

見せ金の典型パターン

① 設立日に現金500万円を銀行口座に払い込む
② 同日または数日以内に資本金として計上
③ 同日または数日以内に大部分を引き出す
④ 帳簿上は「未収入金」(役員への貸付金等)として処理

払込と引き出しが同日・近接日に行われる場合、このパターンは特に疑われやすくなります。

会社法上は、払込が完了すれば設立手続き自体は有効です。しかし入管の審査では「事業の安定性・継続性」が問われるため、実質的に資金が事業に投下されていない状態は問題視されます。

04帳簿上の問題——未収入金が残り続けるリスク

見せ金による会社設立は払込みの仮装にあたり、会社法上は発起人の責任(会社法第52条の2)が問われる違法行為です。さらに経営管理ビザの審査においては、虚偽の資本金による申請として在留資格の取消し事由(入管法第22条の4)に該当するリスクがあります。過去にこのような形で設立してしまった場合は、速やかに専門家に相談し、是正措置を講じてください。

見せ金で設立された会社の貸借対照表には、資産の部に「未収入金」(または「役員貸付金」「短期貸付金」)が計上されたままになっていることがあります。

この状態が何年も続くと、以下の問題が生じます。

・入管の更新審査で「資本金の実在性」を疑われる
・金融機関からの融資審査でマイナス評価になる
・税務調査で「役員にお金を貸しているなら利息を取るべきでは?」と指摘され、追徴課税を受ける可能性がある

05対策①:未収入金と役員借入金の相殺

多くの場合、見せ金で設立した会社では、役員が個人資金を会社に貸し付けている(=役員借入金が負債に計上されている)ケースがあります。

この場合、未収入金と役員借入金を相殺することで、帳簿をクリーンにできます。

仕訳例:未収入金と役員借入金の相殺

(借方)役員借入金 5,000,000円 /(貸方)未収入金 5,000,000円

この仕訳により、貸借対照表から未収入金と役員借入金の両方が消え、帳簿がスリムになります。

06対策②:DES(デット・エクイティスワップ)で資本金を実質化

DES計画策定
役員借入金(貸付)の額と資本金不足額を確認。税理士・行政書士と相殺シナリオ作成。
株主総会・取締役会決議
第三者割当増資の決議。役員に対して新株発行で借入金を相殺する設計。
債権・債務の精算
役員借入金を新株発行で消滅。DES実行による資本金実質化。
登記変更・税務処理
資本金増加の登記+税務上の取扱い確認(債務免除益課税の論点)。
📌 DESの税務上の論点:債務免除益課税の対象になり得るが、「適格現物出資」として処理すれば課税繰延可能。事前に税理士と相続税法・法人税法の取扱いを精査することが必須。

2028年以降の新基準(資本金3,000万円)に向けて、資本金を増額する必要がある場合、DES(デット・エクイティスワップ)が会社法上の選択肢として考えられます。ただし、後述のとおり入管審査での評価には不確実な面があるため、必ず専門家に相談のうえ検討してください。

DESとは、簡単にいえば「社長が会社に貸しているお金を、資本金に変換する」手続きです。負債が減り、資本金が増えるので、帳簿上の財務体質が改善します。

DESの仕組み

・役員が会社に対して持つ貸付金(債権)を現物出資する形で増資
・新たな現金の払い込みが不要
・負債が減少し、資本金が増加するため、財務体質が改善
・弁済期到来済みの金銭債権で、出資価額が帳簿価額以下であれば検査役の調査は不要(会社法207条9項5号)。ただし税務・登記の手続きには専門家の関与が必要

たとえば、役員借入金が2,500万円ある場合にDESを実行すると、登記上は既存の資本金500万円と合わせて3,000万円の資本金を達成できます。

重要:DESと経営管理ビザの審査

会社法上、DESによる増資は有効であり、登記簿上の資本金は増加します。しかし、入管がDESによる資本金増額を「実質的な事業投資」として評価するかは現時点で明確な先例がありません。入管の審査では資本金の「出所」と「形成過程」が重視され、省令上の要件は「払込済資本の額」とされています。DESは新たな現金の払い込みを伴わないため、入管が額面どおりに評価しない可能性があります。DESのみに依存した新基準対応は避け、実際の事業活動による利益蓄積や現金増資と組み合わせて対応することを推奨します。具体的な対応方針は、入管実務に精通した行政書士・弁護士に相談してください。

DES実行時の注意点

・債務超過(負債が資産を上回っている状態)の場合、帳簿上の「借金が消えた利益」として法人税がかかる可能性がある
・登記手続き(増資の変更登記)が必要で、登録免許税がかかる
・税務・法務の両面から専門家の関与が不可欠
・入管への説明資料として、DES実行の経緯と事業計画を整理しておくことが望ましい

072025年7月以降の更新申請——「事業活動の内容説明文書」

経過措置期間中であっても、2025年7月以降に提出する更新申請では、「事業活動の内容説明文書」の提出が原則必須になります。

この文書では、事業の実態・売上・取引先・従業員の状況などを具体的に説明する必要があります。資本金の見せ金問題を抱えたまま更新申請に臨むと、書類の整合性が取れずに不許可リスクが高まります。

08今から準備すべきアクションプラン

時期やるべきこと
今すぐ 貸借対照表を確認し、未収入金・役員貸付金の有無を把握する
2025年内 未収入金と役員借入金の相殺処理を実施。帳簿をクリーンにする
2026年〜2027年 新基準への移行を見据え、事業利益の蓄積・現金増資を軸に準備。DESは補助的な手段として専門家と検討
2028年10月まで 新基準(資本金3,000万円+常勤1名+JLPT N2+専門家評価事業計画書)の充足を完了

09よくある質問

資本金を3,000万円にできない場合、経営管理ビザは維持できませんか?

経過措置終了後は新基準が適用されるため、原則として3,000万円の資本金が必要になります。ただし、制度の詳細な運用基準は今後のガイドラインや通達で明確化される可能性があります。早めに専門家と相談し、取り得る選択肢を整理しておくことが重要です。

DESを行うと税金がかかりますか?

会社が債務超過の場合、役員借入金の帳簿価額と時価の差額が「債務消滅益」として法人税の課税対象になる可能性があります。健全な財務状態であれば課税が生じないケースもありますが、必ず税理士に事前確認してください。

見せ金で設立した会社でも、後から正当な資本金にできますか?

まず前提として、見せ金による会社設立は会社法上の払込み仮装(会社法第52条の2)にあたる違法行為であり、経営管理ビザの取消し事由にも該当しうる重大な問題です。そのうえで、未収入金と役員借入金の相殺処理や追加の現金出資により帳簿上の是正を行うことは可能です。ただし、帳簿の是正だけで入管の審査をクリアできるとは限らず、事業の実態や資金の出所について改めて説明を求められる可能性があります。必ず行政書士・弁護士に相談のうえ対応してください。更新申請のタイミングで初めて指摘されると対応が間に合わない可能性があります。

ACTION | 2028年経過措置終了に備える6つの実務対策
  1. 2026年中に資本金状況の総点検現在の資本金額・帳簿整合性・未収入金の有無を税理士と確認。3,000万円要件への充足度を客観評価。
  2. 役員借入金がある場合はDES検討役員に対する借入金(貸付債務)を新株発行で相殺。資本金を実質化する手法。税務影響を事前精査。
  3. 「見せ金」リスクの徹底排除増資後の資金は事業運営に投下。役員貸付・即時送金は絶対NG。会計帳簿の整合性を確保。
  4. 事業活動説明文書の準備2025年7月以降の更新申請で必須化。収益性・継続性・実態を客観的に示す文書を税理士と作成。
  5. 常勤雇用1名以上の体制構築日本人または永住者の常勤雇用が必須に。採用計画と雇用維持コストを事業計画に組み込み。
  6. 専門家(税理士+行政書士)と早期連携2028年経過措置終了まで残り2〜3年。準備期間を考慮して2026年から専門家チームを組成。
山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です