中国進出 完全ガイド|設立から運営まで全手順

中国進出 | 完全ガイド

【中国進出 完全ガイド】
会社設立から運営・撤退までの進め方

中国進出でつまずくのは「能力」ではなく「順番」です。設立はできても許認可が下りず営業できない、利益を戻そうとしたら年度監査を通しておらず送金できない——入口の一手が、運営から出口(送金・撤退)まで一本の線でつながっているからです。各論に入る前に、全体像を一枚の地図として持っておく。それが最大のリスク管理になります。

この記事でわかること
進出の全体像 — 入口から出口まで、何をどの順で決めるか(①〜⑨の地図)
期間と費用の相場感 — 「いくら・どれくらい」に先に答える
2026年の必須アップデート — 古い情報のまま動くと設計から組み直しになる点
本記事は連載「中国進出ガイド」のハブ(全体像)です。 各論①〜⑨は順次公開予定。本記事だけでも、進出の全体像・期間と費用・2026年の要注意がつかめます。

01まず全体像|中国進出は「5ステップ」で進む

中国進出の全体像マップ
図1:中国進出の全体像(5ステップ+全段階で関わる論点)

中国に現地法人をつくって進出する流れは、大きく次の5ステップです。入口で決めた一手が運営・出口まで効いてくるので、まず全体像を持っておくと迷いません。

  • ステップ1 進出形態を決める(独資の有限公司か代表処か/株主は誰か)
  • ステップ2 会社を設立する(社名審査 → 営業許可 → 印鑑 → 口座 → 税務登記)
  • ステップ3 駐在員を送る(就労ビザ)
  • ステップ4 会社を運営する(会計・税務・年度監査)
  • ステップ5 利益を戻す/撤退する(出口)

これに加えて、労務・データ規制・商標は全段階で関わります。以下、ステップ順に「結局どうするか」まで具体的に見ていきます。

02ステップ1|進出形態を決める

最初の分岐が「どの器で出るか」。ここで後工程の自由度がほぼ決まります。判断は3点です。

  • 有限公司か代表処か:代表処は契約も請求書(発票=Fapiao)発行もできず、売上を立てられません。営業して稼ぐなら有限公司一択です。
  • 独資か合弁か:日本側100%出資の独資が基本。ただしネガティブリストに載る業種には、外資禁止(参入不可)・合弁の強制・出資比率の上限など、業種ごとに異なる制限がつきます。まず自社の業種がリストに該当しないかを確認します。
  • 株主は個人か日本法人か:日本法人を株主にすると責任が明確に分離でき、受取配当の95%が益金不算入(持株25%以上・6か月超)になって日本側の税負担が大きく軽くなります。

結論:多くのケースで「日本法人が100%出資する有限公司(独資)」が最適です。個人での直接投資が向くのは、ごく小規模で個人的に管理できる場合に限られます。

日本側の視点:株主を日本法人にするかは、中国側の登記だけの話ではありません。日本側の受取配当課税(外国子会社配当益金不算入)や、優遇税制を使う場合のタックスヘイブン税制(外国子会社合算税制)まで見て決める論点です。

▶ さらに詳しく:連載①|進出形態の決め方(有限公司 vs 代表処/株主は個人か日本法人か)

03ステップ2|会社を設立する

設立は次の順で進みます。社名審査 → 営業許可(営業執照)→ 印鑑の作成 → 銀行口座の開設 → 税務・社会保険・税関の登記。期間の目安は準備込みで2〜3か月(事前の許認可が要る業種はさらに長く)。

時間がかかるのは登記そのものより、その手前の準備です。とくに次の2つがボトルネックになりがちです。

  • 書類の認証:2023年11月7日以降、中国大使館の領事認証は不要になり、外務省のアポスティーユ1枚で足ります(私文書はまず公証 → アポスティーユ)。ただし中国語訳は別途必要です。
  • 登録住所:実体のあるオフィスでの登記が原則。バーチャル住所は地域・業種により使えないことがあり、税務・銀行の実態確認で問われます。

もう一つ重要なのが資本金。2024年7月施行の新会社法で、登録資本金は5年以内に全額を払い込む義務ができました。「大きく見せる」より「無理なく払える実額」で設計します。

日本側の視点:登録資本金は「大きく見せる」より実額で。日本側の出資簿価や、将来の撤退時に計上できる損失の額にも影響するためです。

04ステップ3|駐在員を送る(就労ビザ)

日本人が中国で働くには、就労許可 → 就労ビザ(Zビザ)→ 就労類居留許可の3段階を踏みます。期限が紛らわしく、就労許可カードは入国後15日以内、居留許可は30日以内に申請します(別の手続き・別の期限)。

コストに直結する優遇が2つあります。

  • 日中社会保障協定により、派遣駐在員の年金(養老保険)は最大5年間、中国での加入が免除されます(日本年金機構の適用証明書が必要。医療・労災等は対象外)。
  • 外国籍個人の住宅手当・子女教育費などの手当は、実費精算等を条件に個人所得税が非課税。これは2027年12月31日まで延長されています。

駐在の条件設計(給与の支払地・手当の種類)は「赴任前」に組むほど効果が出ます。

日本側の視点:出向者は中国側の社保免除だけでなく、日本側の居住者・非居住者の判定や、日本の社会保険の継続手続きもセットで設計します。

05ステップ4|会社を運営する(会計・税務)

設立がゴールではなく、ここからが運営フェーズです。押さえどころは3つ。

  • 月次の記帳と申告:現地は代理記帳に委託するのが一般的です。設立時に納税者区分を選びます——小規模納税者は増値税が軽い(徴収率は本来3%が2027年末まで1%に軽減、月売上10万元以下なら免除)ですが、年間の課税売上が500万元を超えると一般納税者が強制になり、仕入控除が使える代わりに事務も増えます。
  • 年度監査:法律上は一律強制ではありませんが、配当の本国送金・銀行や本社連結の要請で、実務上はほぼ必須です。実質的な固定費として最初から見込みます。
  • 移転価格:本社との取引価格は独立企業間価格が前提。価格の根拠を整えておきます。

運営コストの目安は、月次の記帳・税務顧問で月10〜20万円、年度の確定申告+監査で計100万円前後〜です。

日本側の視点:本社との取引価格は日中どちらでも移転価格の対象です。中国側だけで完結させず、日本側の文書化(ローカルファイル等)と整合させて、片側否認による二重課税を防ぎます。

06ステップ5|利益を戻す・撤退する(出口)

進出の目的は、稼いだ利益を日本へ戻すこと。ただし配当には順番と前提があります。

  • 過年度の欠損を埋める → 税引後利益の10%を法定準備金に積む → 残りを配当。配当には源泉税10%がかかります(中国国内法・日中租税条約とも原則10%。日中条約には持株割合による軽減枠がなく、日本向けは一律10%)。1回5万米ドルを超える送金は、事前に税務備案が必要です。
  • 送金時には年度監査済みの財務諸表を求められます——ここでもステップ4の年度監査が効いてきます。

撤退も最初に意識しておきます。中国の会社清算はおおむね1年前後かかり、過去数年分の税務調査がボトルネックになりがちで(準備や調査次第でさらに長期化)、「作るより畳むのが大変」と言われます。入口を設計する段階で出口(撤退のしやすさ)も想定しておくと、後で詰みません。

日本側の視点:配当の益金不算入(95%)を使うと、中国で課された源泉税10%は日本側で税額控除も損金算入もできず実コストになります。配当一本に頼らず回収手段の組み合わせで設計し、撤退時は日本側の貸倒・寄附金課税の論点も同時に検討します。

07費用と期間のまとめ

費用と期間のスナップショット
図2:費用と期間の目安

期間の目安

  • 登記後の実務:数週間/準備込みの全体:通常2〜3か月/事前の許認可が要る業種:6か月程度

費用の目安(一般的なレンジ)

  • 設立の専門家報酬:80〜150万円(市場相場の目安。+政府費用・翻訳費は別途)
  • 月次の記帳+税務顧問:月10〜20万円/年度の確定申告+年度監査:計100万円前後〜
  • 駐在員1名:ビザ+個人所得税+社会保険の合算で見積もる

費用は「設立費用」だけで比べると見誤ります。月次・年次の固定費が後から効いてくるからです。とくに年度監査は配当送金の前提になるため、最初から計算に入れておきます。

082026年の最新アップデート(3点)

ここ数年で進出の前提が更新されました。古い情報のまま進めると手戻りになります。

  • ① 増値税法・実施条例が2026年1月1日に施行(税率13/9/6%は維持しつつ、課税取引の定義・仕入税額控除・小規模納税者の基準などが法律レベルで整備)。中国の増値税が初めて「法律」になりました。
  • ② 書類認証がアポスティーユへ簡素化(2023/11/7〜)。中国大使館の領事認証は不要に。
  • ③ 登録資本金は「5年以内に払込」が義務(2024/7/1〜の新会社法。新設会社が対象、既存会社にも経過措置)。
  • ④ 小規模事業者向けの優遇は2027年末まで(増値税の徴収率1%・小型微利企業の軽減など、いずれも時限措置)。

09進める前のチェックと、よくあるつまずき

具体検討に入る前に、次の4点を自社の条件に当てはめてください。

  1. 会社形態:独資の有限公司で行けるか、ネガティブリストで合弁が必須の業種か。
  2. 納税者区分:小規模か一般か(売上500万元超で一般は強制)。
  3. 資本金:5年払込・信用力・ビザ要件と連動。後から軽くは変えられない。
  4. 登録住所:バーチャル住所は許認可・税務・ビザで実体性を問われうる。

つまずきやすいのは登録住所と実態の不一致(取締りが強化されています)と、個人株主のとき銀行が連帯保証を求めるケース。どちらも最初の設計で避けられます。

10全段階で関わる3つの論点

入口〜出口の流れと並行して、どの段階でも関わってくるのが次の3つです。早めに当たりを付けておくと安心です。

  • 労務:中国の労働法は使用者側の義務が重く、解雇には法定事由が要り、経済補償金(原則N、予告なしの無過失解雇はN+1、懲戒解雇は無し)も発生します。採用前に設計を。
  • データ規制(PIPL):日本本社へ顧客・人事データを送るなら、越境移転の手続き(安全評価・標準契約等)を前倒しで確認。
  • 商標:中国は先願主義。進出前の出願が原則で、後手に回ると冒認出願(先取り出願)で取り返しがつかなくなります。

11まとめ|出口まで見据えて入口を設計する

中国進出は、入口(形態・設立)→ 運営(会計・税務)→ 出口(送金・撤退)が一本の線でつながっています。各段の一手が後工程まで効くので、全体像を持ったうえで、出口まで見据えて入口を設計するのが、後悔しない進め方です。

ESPERANZA CONSULTING GROUP(以下ECG)では、日本側と中国側の税理士が同一チームとして、形態の選定から設立・運営、利益送金・撤退まで一貫して伴走します。まずは構想段階の壁打ちから、お気軽にご相談ください。各テーマは連載①〜⑨で順次詳しく解説します。


本記事は2026年6月時点の一般的な情報提供であり、個別の法務・税務・会計上の助言ではありません。記載の期間・費用は一般的な目安で、業種・規模・時期・地域により異なります。制度・税制は改正される場合があり、時限措置(2027/12/31までの優遇等)を含め、実際の適用にあたっては最新の公的情報および専門家の個別確認を行ってください。

山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。