【第1回】外国人社員が退職・帰国するとき——手続きの全体像と実務まとめ
退職・帰国シリーズ ①
外国人社員が退職・帰国するとき——手続きの全体像
外国人社員の退職・帰国が決まったとき、人事担当者が対応すべき手続きは多岐にわたります。住民税、社会保険、年金(脱退一時金)、給与計算、ビザの問題——どれも期限があり、対応を誤ると会社側にもリスクが及びます。本記事では全体像を俯瞰し、各手続きの要点とシリーズ内の関連記事を案内します。
退職・帰国シリーズ 全6回
① 全体像(この記事)
② 住民税はどうなる?
③ 社会保険の手続き
④ 脱退一時金——6ヶ月要件と2つの落とし穴
⑤ 退職時の給与計算——翌月払い・月末退職・源泉区分
⑥ 経営管理ビザと資本金の落とし穴
退職・帰国の手続き、何から手をつけるべきか整理したい方へ
退職・帰国時に発生する手続きの全体像
外国人社員が退職・帰国する際に企業側で対応が必要な手続きは、大きく分けて4つの領域にまたがります。
| 領域 | 主な手続き | 期限・注意点 |
|---|---|---|
| 住民税 | 給与天引き(特別徴収)の精算、未徴収分の一括徴収、納税管理人の届出 | 出国前に一括徴収が原則 |
| 社会保険 | 健康保険・厚生年金の資格喪失届(「この社員は保険の対象外になりました」という届出)、保険証回収 | 退職日の翌日から5日以内に届出 |
| 年金(脱退一時金) | 本人への制度案内、転出届の案内、請求書類の説明 | 出国後2年以内に請求。6ヶ月要件に注意 |
| 給与計算 | 最終給与の支払時期、日割り計算、退職時年末調整、源泉徴収票発行 | 出国前に最終給与を支払うのが原則(非居住者課税回避) |
住民税——出国前の一括徴収と納税管理人
住民税は「後払い」の仕組みで、今年の所得に対する税金が翌年6月から課税されます。外国人社員が帰国してしまうと、翌年度の住民税を徴収する手段がなくなるリスクがあります。企業側としては、退職時に未徴収分の住民税を最終給与から一括徴収するのが原則です。
1月〜4月末に退職する場合は残りの住民税を一括徴収する義務があります(地方税法第321条の5)。5月退職は住民税の最終徴収月と重なるため残り1回分を最終給与から天引きします。6月〜12月に退職する場合は本人の申出により一括徴収が可能です。いずれの場合も、帰国する外国人社員には一括徴収を強く推奨してください。
また、帰国後に届く住民税の通知に対応するため、出国前に納税管理人(帰国後の税金関連の書類を受け取り、代わりに納付してくれる人)の届出を済ませるよう本人に案内しましょう。
詳しくはこちら
→ シリーズ②「外国人社員が帰国・退職するとき、住民税はどうなる?」で具体的な手続きと計算例を解説しています。
社会保険——資格喪失届と保険証回収
退職に伴い、健康保険・厚生年金の資格喪失届(「この社員はもう加入者ではありません」と届け出る書類)を退職日の翌日から5日以内に提出します。これは日本人社員の退職と同じ手続きです。
外国人社員特有の注意点としては以下があります。
・保険証の回収:帰国してしまうと回収困難。退職日当日に必ず回収する
・退職日の設定:月末退職と月末前日退職で社会保険料が1ヶ月分変わる(シリーズ⑤で詳述)
詳しくはこちら
→ シリーズ③「外国人社員が帰国・退職するとき、社会保険の手続きはどうする?」で届出様式や実務フローを解説しています。
年金(脱退一時金)——6ヶ月要件と2つの落とし穴
帰国する外国人社員は、厚生年金の脱退一時金を請求できます。支給額は被保険者期間と報酬額に基づき、数万〜数十万円にのぼります。
ただし、支給には厚生年金の被保険者期間が6ヶ月以上必要です。国民年金期間との合算はできず、学生納付特例期間もカウントされません。退職日の設定が1日ずれるだけで受給可否が変わるケースがあります。
詳しくはこちら
→ シリーズ④「脱退一時金——6ヶ月要件と2つの落とし穴」で要件・手続き・源泉徴収について詳しく解説しています。
給与計算——翌月払い・非居住者課税・退職時年末調整
外国人社員の退職時の給与計算では、出国後に支払う給与は「非居住者」扱いになるという点が最大の注意事項です。税法上、日本に住所がない人は「非居住者」となり、給与に対して一律20.42%の源泉徴収(税金の天引き)が適用されます。通常の給与天引きよりも大幅に税額が増えます。
たとえば「当月締め・翌月払い」の企業で、3月末退職→4月支給となる場合、本人が3月中に出国していれば4月の支払い時点では非居住者です。月給25万円なら通常は数千円〜数万円の天引きが、非居住者だと約5.1万円になります。
対策は出国前に最終給与を前倒し支給することです。日本に住んでいる間に支払えば、通常の税率で処理できます。また、帰国する外国人社員は出国前に退職時年末調整(年末まで待たずに退職時点で税金の精算を行うこと)を実施し、源泉徴収票を1ヶ月以内に発行してください。
詳しくはこちら
→ シリーズ⑤「退職時の給与計算——翌月払い・月末退職・源泉区分」で具体的な計算例と実務チェックリストを掲載しています。
退職・帰国時のタイムライン
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 退職1ヶ月前 | 退職日の確定(月末vs月末前日、6ヶ月要件の確認) 住民税の一括徴収方針を決定 最終給与の支払時期を検討 |
| 退職2週間前 | 本人に転出届・納税管理人届出を案内 脱退一時金の請求手順を書面で案内 保険証回収の段取り |
| 退職日〜出国日 | 最終給与の支払い(出国前に完了) 退職時年末調整の実施 保険証の回収 住民税の異動届出書を提出(翌月10日期限) |
| 退職後5日以内 | 社会保険の資格喪失届提出 |
| 退職後1ヶ月以内 | 源泉徴収票の発行・本人への交付 |
HR担当者のやることリスト(退職・帰国チェックリスト)
外国人社員の退職・帰国時に対応が必要な手続きをまとめました。漏れなく対応するための確認用にお使いください。
| 時期 | 確認項目 |
|---|---|
| 退職1ヶ月前 | □ 退職日の確定(月末 vs 月末前日——社会保険料1ヶ月分の差に注意) □ 厚生年金の6ヶ月要件を満たすか確認(脱退一時金の受給可否に直結) □ 住民税の一括徴収 or 普通徴収切替の方針を決定 □ 最終給与の支払時期を検討(出国前支払いが原則) |
| 退職2週間前 | □ 本人に転出届(市区町村への住所異動届)を案内 □ 納税管理人の届出を案内(住民税は市区町村、所得税は税務署——届出先が異なる) □ 脱退一時金の請求書類・手順を書面で説明 □ 保険証回収の日程を確認 |
| 退職日〜出国日 | □ 最終給与の支払い(出国前に完了——非居住者課税を回避) □ 退職時年末調整の実施 □ 健康保険証の回収(被扶養者分も含む) □ 住民税の特別徴収異動届出書を市区町村に提出(退職月の翌月10日期限——届出は早めに) |
| 退職後5日以内 | □ 健康保険・厚生年金の資格喪失届を年金事務所に提出 |
| 退職後10日以内 | □ 雇用保険の資格喪失届をハローワークに提出 □ 離職票が必要かどうか本人に確認(帰国者は通常不要) |
| 退職後1ヶ月以内 | □ 源泉徴収票の発行・本人への交付 |
よくある質問
退職後に帰国せず、転職する外国人社員の場合はどうなりますか?
帰国しない場合は「居住者」のままですので、非居住者の源泉徴収や脱退一時金の論点は発生しません。住民税は通常の特別徴収の異動届出で処理し、社会保険は転職先での手続きとなります。本シリーズは主に「退職+帰国」のケースを想定しています。
手続きが漏れた場合、会社にペナルティはありますか?
住民税の届出漏れでは会社に納付義務が残る可能性があります。社会保険の届出遅延には延滞金が発生することがあります。源泉徴収漏れは不納付加算税の対象です。いずれも「知らなかった」では済まされないため、退職・帰国時のチェックリストを整備しておくことを推奨します。
このシリーズの記事はどの順番で読めばいいですか?
まず本記事(①)で全体像を把握し、その後は自社で特に対応が必要な領域の記事を読んでください。時間がない方は、住民税(②)と給与計算(⑤)を優先することをおすすめします。出国日に直結する論点が多いためです。

