Vol.5 子への贈与は結婚後も守られる?婚前契約と税務

海外在住家族の税務シリーズ Vol.5(最終回)

子への贈与を離婚から守る――婚前契約と特有財産の考え方

前の記事(Vol.4)では、不動産購入支援の具体的な方法を解説しました。シリーズ最終回のこの記事では、「子に贈与した財産、子が離婚したら半分持っていかれるの?」という、贈与を実行した後にやってくる不安にお答えします。結論を先に言えば、親からの贈与財産は原則守られます。ただし「証拠」と「タイミング」を押さえた場合に限ります

01離婚すると財産はどう分ける?――「共有財産」と「特有財産」の違い

📌 このセクションでわかること:離婚時の財産分与の基本ルールと、令和6年改正で何が変わったかを解説します。

離婚時には、財産分与民法768条。夫婦が婚姻中に協力して築いた財産の清算を中心に、離婚後の生活保障などの事情も考慮して財産を分ける制度)が行われます。婚姻中の財産の取得又は維持についての各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは相等しいものとされ(同条3項後段)、実務上は2分の1が出発点になります。

ここで大切なのは、すべての財産が分与の対象になるわけではないということです。財産は次の2つに分かれます。

離婚時の財産の分かれ方:共有財産は財産分与の対象(実務上2分の1が出発点)、親からの贈与は特有財産で対象外。ただし立証できないと共有と推定される(民法762条2項)ため、贈与契約書・申告書控え・専用口座の3点セットで証拠を残す
図:親からの贈与は「特有財産」──ただし証明できなければ共有と推定される
区分 意味 財産分与
共有財産 結婚後に夫婦が協力して築いた財産(名義を問わない) 対象(実務上2分の1が出発点)
特有財産 結婚前から持っていた財産、婚姻中に相続・贈与で得た財産 原則対象外

令和6年改正のポイント(2026年4月1日施行済み)

民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号。離婚後共同親権の導入で話題になった改正法と同じ法律です)により、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求できる期間が、離婚の時から2年以内から5年以内に延長されました(民法768条2項ただし書)。当事者間の協議による財産分与そのものには、この期間制限はありません。また、寄与の程度について「各当事者の寄与の程度は、その程度が異なることが明らかでないときは、相等しいものとする」(いわゆる2分の1ルール)が条文に明記されました(同条3項後段)。※5年が適用されるのは施行日(2026年4月1日)以後に離婚した場合で、それ以前の離婚は従来どおり2年です(同改正法附則4条)。離婚から時間が経ってから請求される可能性が広がったため、特有財産の証拠を長期間保存しておく重要性がこれまで以上に高まっています。

02親からの贈与は「特有財産」――ただし立証できなければ共有と推定される

📌 このセクションでわかること:親からの贈与財産が法律上どう扱われるか、そして「立証」がなぜ決定的に重要なのかを解説します。

民法762条1項は、婚姻前から持っていた財産婚姻中に自己の名で得た財産を、その人だけの財産(=特有財産)と定めています。親からの贈与や相続で取得した財産は、配偶者の協力とは無関係に取得するものなので「自己の名で得た財産」にあたる――というのが確立した解釈・実務です。つまり、親からの贈与は法律上、子の配偶者と分け合う対象ではありません

❓ よくある誤解

❌ 「親からもらったお金も、離婚したら半分にされる」
⭕ 正しくは:親からの贈与財産は「特有財産」(民法762条1項)であり、財産分与の対象外です。ただし――それを証明できることが条件です。

落とし穴は、同じ762条の2項にあります。「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する」――つまり、贈与されたお金だと証明できなければ、共有財産として扱われてしまうのです。

とくに預金は要注意です。親からもらった資金を生活費口座に入れて夫婦の収入と混ざってしまうと(実務では「混和」といいます)、どこまでが贈与分か特定できず、特有財産としての主張が難しくなります。また、贈与資金を夫婦共有名義の住宅の頭金に充てると、住宅全体が分与対象の財産に取り込まれます。頭金の出所(贈与資金であること)を通帳や贈与契約書で立証できれば、その拠出額を特有財産として清算に反映するよう主張する余地がありますが、立証できなければ住宅全体が清算の対象として扱われます。ここでも鍵は「証拠」です。

重要ポイント:「立証」の3点セット

1. 贈与契約書(できれば公正証書)――いつ・誰から・いくら贈与されたかの証拠
2. 贈与税申告書の控え――110万円を超える贈与なら申告記録が公的な裏付けに(Vol.3参照
3. 専用口座での分別管理――夫婦の家計と混ぜず、贈与資金の流れを通帳で追える状態を保つ

03「婚前契約」(夫婦財産契約)で贈与財産を守る――仕組みと限界

📌 このセクションでわかること:婚前契約(夫婦財産契約)の法的な仕組みと、日本での実務上の注意点を解説します。

欧米で「プレナップ」と呼ばれる婚前契約は、日本では夫婦財産契約(民法755条〜759条。結婚前に夫婦間の財産ルールを契約で定める制度)として法律に規定されています。「親からの贈与財産およびその運用益は、受贈者の特有財産とする」と契約で明確に定めておけば、離婚時の紛争を大幅に予防できます。

項目 内容
締結時期 婚姻の届出に締結(民法755条)。届出後の締結は不可
登記 婚姻の届出までに登記しないと、夫婦の承継人・第三者に対抗できない(=契約を知らない相手に主張できない。民法756条)。夫婦の間では登記がなくても契約は有効
変更 婚姻届出後は、原則として夫婦の財産関係を変更できない(民法758条)
効果 特有財産の範囲を事前に明確化し、財産分与をめぐる争いを予防
限界 一方に著しく不利な内容は公序良俗(民法90条)違反で無効となる可能性。なお、財産分与請求権そのものを婚前契約でどこまで制限できるかについて、その効力を正面から判断した裁判例は当方で確認できていません。全面放棄や特有財産の全面除外の条項が当然に有効になるとは考えないでください

注意:日本での実務

日本では夫婦財産契約の利用例が限られています(登記件数は法務省「登記統計」の「その他の登記(年次表)」で毎年公表されています)。契約書の文言しだいで効力が左右されるため、弁護士・行政書士など専門家の関与のもとで作成することを強くおすすめします。なお、財産分与や婚姻費用をすべて放棄させるような一方的な条項は、無効と判断されるリスクがあります。

04対策はいつがベスト?――結婚前 vs 結婚後

📌 このセクションでわかること:子の結婚のタイミングとの関係で、いつ・何ができるかを整理します。

贈与財産を守る手段は、子が婚姻届を出す前か後かで大きく変わります。夫婦財産契約という最も直接的な手段は、婚姻届出後にはもう使えません。

贈与財産を守る対策のタイミング:婚姻届出が締切。結婚前は夫婦財産契約の締結と登記、結婚後は贈与契約書の公正証書化・専用口座での分別管理・民事信託などの証拠づくりで守る
図:夫婦財産契約のゴールデンタイムは婚姻届出まで──結婚後は代替手段で守る
タイミング 可能な対策 注意点
結婚前 夫婦財産契約の締結+登記、贈与契約書の整備 締結・登記とも婚姻届出までに完了が必要
結婚後 贈与契約書の公正証書化、専用口座での分別管理、民事信託の活用 夫婦財産契約は新規締結できない。「証拠づくり」が中心になる

❓ よくある誤解

❌ 「婚前契約は、結婚した後でも夫婦で合意すれば作れる」
⭕ 正しくは:夫婦財産契約は婚姻の届出までにしか締結できません(民法755条・758条)。結婚後にできるのは、贈与の証拠を固める・信託を組むといった代替手段です。

結婚後でも打てる手として実務で使われるのが民事信託です。親が委託者となり、信頼できる受託者に財産を託し、子を受益者とする形にすれば、財産の名義は受託者に移り、子自身の財産と夫婦の家計が構造的に分離されます。ただし、税務上の帰結は小さくありません。信託の効力が生じた時点で、受益者となる子が委託者(親)から信託に関する権利を贈与により取得したものとみなされ、その時点で贈与税の課税判定が走ります相続税法9条の2第1項。課税は受益権ではなく信託財産に属する資産及び負債について行われます。同条6項)。さらに、その後の信託財産に帰せられる収益及び費用は、分配の有無にかかわらず受益者である子の収益及び費用とみなされます(所得税法13条1項)。子が日本の居住者であれば、その所得について申告義務が生じ得ます。設計の自由度が高い反面、入口と以後の双方で税務の検討が必須なので、専門家と一緒に設計することをおすすめします。

05国際結婚と海外プレナップ――どの国の法律で守られる?

📌 このセクションでわかること:海外在住家族ならではの論点――国際結婚の場合にどの国の法律が適用され、海外で作った婚前契約が日本でどこまで通用するかを解説します。

このシリーズの読者には、「子がアメリカで現地の方と結婚する」「家族全員が海外在住で、日本に不動産だけがある」というケースも多いはずです。そこで問題になるのが準拠法(どの国の法律が適用されるかのルール)です。

日本の国際私法(法の適用に関する通則法26条)では、夫婦の財産関係は次の順序で決まります。

順位 適用される法律
夫婦の本国法が同じなら、その国の法律
(①がなければ)夫婦の常居所地法が同じなら、その国の法律
(②もなければ)夫婦に最も密接に関係する地の法律
特例 夫婦が署名した書面で日付を記載すれば、一方が国籍を持つ国の法・一方の常居所地法(不動産はその所在地法)を選択できる(通則法26条2項)

しかも通則法は「変更主義」を採っているため、国籍や住む国が変われば、夫婦財産の準拠法も婚姻中に変わり得ます。だからこそ、書面による準拠法の選択(26条2項)で、自分たちのルールをあらかじめ固定しておくことに価値があります(選択の効力は将来に向かってのみ生じます)。

もう一つ重要なのは、外国法に基づく夫婦財産制は、日本国内でされた法律行為や日本にある財産については、善意の第三者に対抗できない(通則法26条3項)という点です。ただし、外国法に基づく夫婦財産契約でも、日本で登記すれば第三者に対抗できます(同条4項)。海外でプレナップを作成した場合でも、日本に不動産などの資産があるなら、日本での登記まで済ませて初めて、日本国内の第三者(債権者・買主など)との関係でも「守られる」状態になると考えてください(夫婦の間では登記がなくても契約の効力は主張できます)。

具体例:海外在住のCさんが現地で結婚する場合

Aさん夫妻(海外在住)の長女Cさんが、居住国でプレナップを作成して現地の方と結婚するとします。現地の財産は現地のプレナップで守れても、Cさんが日本に持つ預金や、親から贈与された日本の不動産については、日本での対抗力が問題になります。準拠法の選択(書面)と日本での登記をセットで検討することが、海外在住家族の「抜け漏れない設計」です。

なお、将来日本の裁判所で離婚することになった場合、財産分与の準拠法を離婚の準拠法(通則法27条)で決めるか、夫婦財産制の準拠法(同法26条)で決めるかについては議論があり、条文はいずれとも定めていません。通則法27条ただし書は「夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による」と定めています。いずれにしても、海外プレナップの条項がそのまま自動適用されるのではなく、裁判所の財産分与の判断の中で「考慮される」という位置づけになります。プレナップは万能の盾ではなく、証拠化・登記・準拠法選択と組み合わせて初めて機能する――これが実務の感覚です。

06税務の視点――財産分与に贈与税はかかる?

📌 このセクションでわかること:万一離婚に至った場合、財産分与にどんな税金がかかるのか(かからないのか)を税理士の視点で解説します。

「離婚して財産を分けたら、もらった側に贈与税がかかるのでは?」という質問をよく受けます。答えは、原則かかりません。財産分与は夫婦財産の清算・離婚後の生活保障という性質のもので、贈与ではないからです(相続税法基本通達9-8、国税庁タックスアンサーNo.4414)。

ただし、次の2つの例外があります。

例外 内容
過大な財産分与 婚姻中の協力で得た財産の額など一切の事情を考慮しても多すぎる部分には贈与税がかかる
租税回避目的の離婚 贈与税・相続税を免れるための形式的な離婚と認められる場合は、分与財産全額に贈与税がかかる

もう一つ見落とされがちなのが、渡す側の税金です。不動産など値上がりした資産を財産分与として渡すと、渡した側に譲渡所得税がかかります(分与時の時価で譲渡したものとみなされます。所得税基本通達33-1の4、国税庁タックスアンサーNo.3114)。なお、マイホームを分与する場合は、離婚成立後の分与であれば3,000万円特別控除の適用余地があります(租税特別措置法35条2項1号は配偶者その他政令で定める特別の関係がある者への譲渡を除いているため、離婚成立前に渡すと適用できません)。移転のタイミングひとつで税負担が大きく変わる典型例です。

親から贈与された不動産を子が財産分与で手放すことになれば、値上がり益への課税が生じます。しかも贈与で取得した資産は親の取得価額を引き継ぐ所得税法60条1項1号)ため、課税対象になるのは贈与時からではなく親が取得したときからの含み益です。「財産も税金も失う」最悪の展開になりかねません。だからこそ、特有財産として分与対象から外しておく予防策に価値があるのです。

07贈与・婚前契約・相続対策を一体設計する――シリーズ総まとめ

📌 このセクションでわかること:シリーズ全5回の内容を、「実行→証拠化→保護→承継」の一つの流れとして設計する考え方をまとめます。

贈与税の節税(Vol.3・Vol.4)と、贈与財産の保護(この記事)は、別々のテーマに見えて実は一続きです。節税だけ考えて証拠を残さなければ離婚時に守れず、保護だけ考えて贈与の設計を誤れば余計な税金がかかります

贈与・保護・承継の一体設計4ステップ:①贈与の実行(暦年110万円・精算課税・住宅特例)②証拠化(契約書・専用口座)③保護(夫婦財産契約・準拠法選択)④承継(遺言・信託・相続税10年ルール)
図:シリーズ総まとめ──「実行→証拠化→保護→承継」の4ステップ一体設計

具体例:Aさん家族の一体設計

STEP1(贈与の実行):暦年贈与で毎年110万円ずつCさんへ。大きな資金は相続時精算課税や住宅取得等資金の非課税特例も比較検討(Vol.3Vol.4
STEP2(証拠化):贈与のつど契約書を作成し、Cさん名義の専用口座へ振込で入金。申告が必要な年は申告書控えを保存
STEP3(保護):Cさんの結婚前に夫婦財産契約を締結・登記。国際結婚なら準拠法の選択書面+日本での登記も検討
STEP4(承継):Aさん夫妻自身の相続に備え、遺言や信託で「誰に・どう引き継ぐか」まで設計(Vol.1の10年ルールにも注意)。婚前契約が守るのは離婚の場面であり、相続・遺留分への備えは遺言・信託という別の道具で行います

この4ステップを一貫して設計しておけば、「贈与した財産が子の離婚で流出する」「想定外の税金がかかる」という2大リスクを同時に最小化できます。

08まとめ:贈与財産を守るためのチェックリスト

対策 タイミング 効果
贈与契約書の作成(公正証書化) 贈与のつど 特有財産の立証(民法762条2項の共有推定を破る)
専用口座での分別管理 贈与後ずっと 夫婦財産との「混和」を防ぎ、資金の流れを証明
夫婦財産契約(婚前契約)の締結・登記 子の婚姻届出まで 特有財産の範囲を契約で明確化し、紛争を予防
準拠法の選択書面+日本での登記 国際結婚のとき 海外プレナップに日本国内での対抗力を持たせる
民事信託の活用 結婚の前後を問わず 財産の構造的な分離と、承継までの一体設計

📝 この記事のポイント3つ

1. 親からの贈与財産は「特有財産」で財産分与の対象外――ただし立証できなければ共有と推定される(民法762条)
2. 夫婦財産契約は婚姻届出までしか締結できない――子の結婚前がゴールデンタイム。結婚後は証拠化と信託で守る
3. 令和6年改正で家庭裁判所への財産分与請求(協議に代わる処分)の期間は5年に延長(2026年4月施行済み)――証拠の長期保存と事前設計の価値が一段と向上

あわせて読みたい:贈与税の基本と非課税の使い方は「海外の親から日本の子へ不動産資金援助」を、住民票・出国にまつわる税務リスクは「海外在住で住民票を残すリスク」をご覧ください。

本シリーズでは、海外在住家族の税務問題を5つのテーマで解説してきました。住民票の扱いから、出国税、国際贈与、そして贈与財産の保護まで――資産をめぐる論点は一つの流れでつながっています。実務では、贈与契約書・夫婦財産契約書の作成支援は行政書士、贈与税・譲渡所得の判断は税理士、紛争になった場合は弁護士と、専門家の守備範囲が分かれています。税務上の最適解はご家族の状況によって異なります。具体的な対策をご検討の際は、税務(税理士)と契約書作成(行政書士)をワンストップで扱う専門家にぜひご相談ください。

09よくある質問

Q. 親からの贈与は自動的に特有財産になりますか?

法律上は特有財産です(民法762条1項)。ただし、贈与されたことを証明できない財産は「夫婦の共有に属するものと推定」されます(同条2項)。贈与契約書・贈与税申告書の控え・専用口座の通帳で、証拠を残しておくことが実務上の生命線です。

Q. 婚前契約(プレナップ)は日本でも法的に有効ですか?

有効です。民法755条〜759条の「夫婦財産契約」として法律に規定されています。ただし婚姻の届出前に締結する必要があり、契約は登記がなくても夫婦の間では有効ですが、第三者に対抗するには届出までに登記しておく必要があります。一方に著しく不利な内容は公序良俗違反で無効となる可能性があります。

Q. 結婚後に夫婦財産契約を締結することはできますか?

できません。夫婦財産契約は婚姻の届出までに締結する必要があり(民法755条)、届出後は夫婦の財産関係を原則変更できません(民法758条)。結婚後は、贈与契約書の公正証書化・専用口座での分別管理・民事信託といった代替手段で対応します。

Q. 海外で結んだ婚前契約は日本でも有効ですか?

準拠法のルールを満たしていれば日本でも効力を持ち得ますが、外国法に基づく夫婦財産制は、日本でされた法律行為や日本にある財産については善意の第三者に対抗できません(通則法26条3項)。日本で登記をすれば第三者にも対抗できるようになるため(同条4項)、日本に資産がある場合は日本での登記までがセットです。また、日本の裁判所で財産分与が争われる場合、海外プレナップの条項は自動適用ではなく、裁判所の判断の中で考慮される位置づけになります。

Q. 国際結婚の場合、夫婦の財産にはどの国の法律が適用されますか?

法の適用に関する通則法により、①夫婦の同一本国法→②同一常居所地法→③最も密接な関係がある地の法律、の順で決まります。また、夫婦が署名し日付を記載した書面で、一方の本国法や常居所地法(不動産はその所在地法)を選択することもできます。国際結婚では、この「準拠法の選択」を婚前契約とセットで行うのが定石です。

Q. 特有財産でも財産分与の対象になることはありますか?

あり得ますが、ハードルは高く設定されています。裁判例は「清算的財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するものであって、夫婦の一方の特有財産については原則として清算的財産分与の対象となるものではなく、他方の配偶者がその維持に積極的かつ具体的に寄与してその散逸を防止したなどの特段の事情がある場合に限り、清算的財産分与の対象に含め得るものと解される」としています(東京地裁平成29年6月27日判決(税務訴訟資料 平成29年 順号20))。この事件では、婚姻期間29年余で、子の養育、義父母の看護・介護、家業の手伝いとパート就労という事情がありましたが、裁判所は「共同形成財産に対する寄与としては考慮の対象となり得る」としつつ、特有財産の維持への貢献は「抽象的かつ間接的なものにとどまる」として特段の事情を否定しました。家計を支えた・介護をしたというだけでは足りない、というのが実際の当てはめです。とはいえ「特有財産だから絶対に安全」ではないので、証拠は残しておいてください。

Q. 財産分与はいつまで請求できますか?

令和6年民法改正(2026年4月1日施行)により、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求できる期間が「離婚の時から2年以内」から「5年以内」に延長されました(民法768条2項ただし書)。当事者間の協議による分与自体には、この期間制限はありません。5年が適用されるのは施行日以後に離婚した場合で、2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり2年です。離婚からかなり時間が経ってから請求される可能性があるため、特有財産の証拠は離婚後も長期間保存しておくことをおすすめします。

Q. 財産分与でもらった財産に贈与税はかかりますか?

原則かかりません。ただし、婚姻中の事情一切を考慮してもなお多すぎる部分や、税金逃れを目的とした形式的な離婚と認められる場合には贈与税が課されます。また、不動産を渡した側には譲渡所得税がかかる点も見落とされがちです。

主な根拠資料

本記事は2026年9月時点の法令等(国税庁タックスアンサーは令和8年4月1日現在法令等)に基づいています。個別の取扱いはご事情により異なるため、実務では上記の一次情報をご確認ください。

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山口 淳也

この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。