Vol.4 不動産購入を子に支援する方法|贈与・貸付・共有名義

海外在住家族の税務シリーズ Vol.4

不動産購入を子に支援する方法|贈与・貸付・共有名義

前の記事(Vol.3)では贈与税の基本を解説しました。この記事では、「実際にどうやって子に支援するのがベストか?」を、具体的な方法ごとに比較します。

01方法①:親から子に「貸す」――低利貸付のメリットと落とし穴

このセクションでわかること:贈与ではなく「貸付」という形で支援する方法のメリットと注意点。

「贈与ではなく、貸付(お金を貸すこと)にすれば贈与税はかからない」という考え方があります。確かに、貸付であれば贈与税はかかりません。ただし、これは贈与税だけを見た評価です。貸したお金は返してもらう権利(貸付金債権)として親の手元に残り、相続が起きればその債権が親の相続財産になります(相続税法第2条第1項は「相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する」と定めています)。その評価は、原則として返済されるべき金額、つまり残っている元本の額です(財産評価基本通達204)。回収が不可能または著しく困難と見込まれる金額は元本に算入しない扱いがありますが、これは債務者について取引停止処分や破産手続開始の決定があった場合などに限られます(同205)。貸付は贈与税を避ける代わりに、相続税の課税対象を親のもとに残す方法です。その意味で、贈与のように相続開始前7年以内の生前贈与加算(同法第19条第1項)を受けることはありませんが、「相続の場面でも財産が減る」ということではありません。

不動産購入を子に支援する3つの方法の比較。低利貸付は贈与税がかからず大きな額に対応でき生前贈与加算の対象外だが、毎月の返済と契約書・返済記録が必要で、貸付金は親の相続財産に残る。低廉譲渡は一括で所有権を移転できるが差額にみなし贈与税がかかり、不動産取得税と登録免許税も生じる。共有名義と段階的贈与は年110万円以内なら贈与税ゼロだが完全移転まで約23年かかり、定期贈与と認定されるリスクと、毎年の登記および不動産取得税がある。なお親子間の貸付の利率の水準を定めた法令はない。
図:不動産購入を支援する3つの方法——低利貸付・共有名義・段階的贈与の比較

「真の貸借」と認められるための要件

① 金銭消費貸借契約書を作成(利率・返済期間を明記)
② 実際に毎月返済を行う(銀行振込の記録を残す)
③ 利息を定める(無償又は無利子で金銭等の貸与があった場合には、相続税法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱われます。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとされています=相続税法基本通達9-10)。なお、親子間の貸付の利率そのものの水準を定めた法令・通達はありません。実務上の目安として参照される国税庁の基準年利率は、令和6年分で短期(3年未満)0.01〜0.50%、中期(3年以上7年未満)0.10〜0.75%、長期(7年以上)1.00〜1.50%です(各月ごとに定められます。財産評価基本通達4-4、令和6年分の基準年利率について〔課評2-27〕)
④ 返済能力があることを示す

具体的な計算例:3,000万円の低利貸付

条件:親が子に3,000万円を年1.0%(令和6年分の長期の基準年利率を目安に置いた場合)で貸付、返済期間20年

年間利息:3,000万円 × 1.0% = 30万円

毎月返済額:約14万円(元利均等)

もし無利息で貸付した場合のリスク:

・利息相当額(この例では年30万円)が、相続税法第9条のみなし贈与の対象になり得ます

・贈与税の基礎控除110万円は、その年中に贈与により取得した財産の価額の合計額から控除します(相続税法第21条の2第1項・第21条の5、租税特別措置法第70条の2の4第1項)。その年に他の贈与がなければこの30万円は控除内に収まりますが、下記の「段階的贈与との組み合わせ例」のように同じ年に110万円の現金贈与を行うと、合計140万円となって基礎控除を超えます

・ただし、税務署に「実質的に返済の意思がない」と判断されると全額が贈与認定されるリスクあり

段階的贈与との組み合わせ例:

・1年目:贈与110万円 + 貸付1,890万円 = 2,000万円

・2年目以降:毎年110万円を贈与し、貸付の返済に充当

※金銭消費貸借契約書の作成と毎月の振込記録が必須です。

注意

契約書があっても実際に返済していない場合、みなし贈与(法律上は贈与ではないが、実質的に贈与と同じなので贈与税がかかること)と認定されるリスクがあります。

02方法②:親から子に「安く売る」――低廉譲渡の落とし穴

このセクションでわかること:親が持っている不動産を子に安く売る「低廉譲渡」のリスクを解説します。

低廉譲渡(時価よりも大幅に安い価格で売ること)をすると、相続税法第7条により、時価と売却価格の差額に贈与税がかかります。

具体例:5,000万円のマンションを2,000万円で売る場合

時価5,000万円のマンションを2,000万円で子に売ると、差額の3,000万円がみなし贈与として贈与税の対象になります。この場合の贈与税は約1,036万円(受贈者が贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で、直系尊属からの贈与に係る特例税率を適用したとき)になる可能性があります。受贈者が18歳未満の場合は一般税率で計算するため、税額は上がります(租税特別措置法第70条の2の5第1項、国税庁タックスアンサーNo.4408)。

03方法③:共有名義+段階的贈与――じっくり移転する方法

このセクションでわかること:親子で共有名義にし、毎年少しずつ持分を贈与する方法を解説します。

最初に親子で共有名義(1つの不動産を親と子が一緒に所有すること)で購入し、その後毎年110万円分ずつ親の持分を子に贈与していく方法です。

具体例:5,000万円のマンションを親子50:50で購入

親の持分2,500万円分を毎年110万円ずつ子に贈与すると、約23年で全持分を非課税で移転できます。ただし定期贈与とみなされない工夫が必要です。

⚠ プラン実行前の重要な注意点

① 生前贈与加算:相続又は遺贈により財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間内に暦年課税に係る贈与によって取得した財産は、相続税の課税価格に加算されます(相続税法第19条第1項)。令和5年度税制改正でこの期間は3年から7年に延びましたが、経過措置があり、段階的にしか延びません。加算対象期間は、被相続人の相続開始日が令和8年12月31日までなら「相続開始前3年以内」、令和9年1月1日〜令和12年12月31日は「令和6年1月1日から死亡の日までの間」、令和13年1月1日以後で初めて「相続開始前7年以内」となります(所得税法等の一部を改正する法律〔令和5年法律第3号〕附則第19条第2項、国税庁タックスアンサーNo.4161)。また、相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合は、加算対象期間内に取得した財産のうち相続開始前3年以内に取得した財産以外の部分について、贈与時の価額の合計額から総額100万円までは加算されません。下記例の「約23年計画」であっても、加算対象期間内に行った贈与分は相続税の対象になります。プランは早期に開始するほどリスクが低いです。
② 毎年の移転コスト:持分移転登記のたびに、登録免許税(不動産の価額×贈与持分割合×2%)および司法書士報酬が発生します(登録免許税法別表第一 一(二)ハ「その他の原因による移転の登記」=千分の二十)。さらに、贈与による取得には不動産取得税もかかります。相続による不動産の取得は非課税とされていますが(地方税法第73条の7第1号)、贈与はこの非課税事由に列挙されていないためです。税率は本則4%(同法第73条の15)、令和9年3月31日までの住宅又は土地の取得は3%です(同法附則第11条の2第1項)。ただし、課税標準となるべき額が土地の取得で16万円、建築に係るもの以外の家屋の取得で34万円に満たない場合は課税されません(同法第73条の15の2第1項)。移転の回数だけ積み上がるので、事前に見積もりを取ってください。
③ 「約23年」計算の前提:上記の試算は購入価格(2,500万円)を基準にしていますが、購入時の実際の贈与税評価額は『相続税評価額(路線価・固定資産税評価額)』で計算するため、実際の必要年数は少なくなる場合があります。詳細は税理士にご相談ください。

04海外不動産の評価はどうする?――精通者意見価格とTTB換算

このセクションでわかること:海外の不動産を贈与するときの評価方法を解説します。

海外不動産には日本の「路線価」がありません。もっとも、国外にある財産の価額についても、まずは財産評価基本通達に定める評価方法により評価します(同通達5-2)。同通達の定めによって評価することができない財産については、同通達に定める評価方法に準じて、又は売買実例価額・精通者意見価格(現地の不動産鑑定士などの専門家が出す評価額)等を参酌して評価します。また、課税上弊害がない限り、その財産の取得価額を基に、その財産が所在する地域又は国におけるその財産と同一種類の財産の一般的な価格動向に基づき時点修正して求めた価額や、課税時期後にその財産を譲渡した場合の譲渡価額を基に課税時期現在の価額として算出した価額によることもできます(同通達5-2(注))。

また、外貨建てによる財産及び国外にある財産の邦貨換算は、原則として、納税義務者の取引金融機関が公表する課税時期における最終の為替相場——TTB(対顧客直物電信買相場。銀行が外貨を買うときのレート)又はこれに準ずる相場——によります。課税時期にその相場がない場合は、課税時期前でその日に最も近い日の相場によります(財産評価基本通達4-3)。ただし、外貨建てによる債務を邦貨換算する場合は、TTBを「TTS(対顧客直物電信売相場)」と読み替えて適用します(同通達4-3(注))。

05まとめ:各方法の比較

方法 メリット リスク・注意点
低利貸付 贈与税がかからない 「真の貸借」の証明が必要。貸付金債権は親の相続財産に残る
低廉譲渡 子の負担が軽い 差額にみなし贈与税
共有名義+段階的贈与 非課税で少しずつ移転 定期贈与のリスク、長期間
複数人からの贈与(例:父110万円+母110万円=計220万円) 各贈与者から個別に記録を残せる 受贈者の基礎控除は合計年110万円のみ(贈与者が何人いても非課税枠は増えない)

この記事のポイント3つ

1. 貸付は贈与税回避に有効だが、「真の貸借」の要件を満たす必要がある。また、贈与税がかからない代わりに貸付金債権が親の相続財産として残る(相続税法第2条第1項)
2. 低廉譲渡は差額に「みなし贈与」がかかる――ただし相続税評価額と同水準以上の対価なら原則として該当しないとした裁判例がある(法令上の明確な数値基準はなく、個々の具体的事案に基づく判定)
3. 共有名義+段階的贈与は長期計画が必要だが、非課税で移転できるメリットが大きい

次の記事では、「贈与した財産、子の結婚後に離婚したらどうなる?」という問題を取り上げます。詳しくはVol.5へ。

あわせて読みたい:贈与税の基本的な仕組みは「不動産購入資金援助の贈与税」を、贈与した財産の離婚リスク対策は「婚前契約と特有財産」をご覧ください。

06よくある質問

Q. 親子間の貸付に利息は必要ですか?

無償又は無利子で金銭等の貸与があった場合は、相続税法第9条に規定する利益を受けた場合に該当するものとして取り扱われます。ただし、その利益を受ける金額が少額である場合又は課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくても妨げないものとされています(相続税法基本通達9-10、国税庁タックスアンサーNo.4420)。利率の水準そのものを定めた法令・通達はありませんので、金額と期間に見合った利息を契約書で定めておくのが安全です。

Q. 低廉譲渡の「低廉」の基準は?

法令上の明確な数値基準はなく、著しく低い価額の対価であるかどうかは個々の具体的事案に基づき判定されます(相続税法第7条、国税庁タックスアンサーNo.4423)。なお東京地裁平成19年8月23日判決は、「相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として『著しく低い価額』の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該相続税評価額が時価の80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、『著しく低い価額』の対価による譲渡になり得る」と判示しています。

Q. 親子間の貸付で「みなし贈与」にならないためのポイントは?

①金銭消費貸借契約書を作成する、②利息を定める(利率の水準についての法令上の基準はなく、実務上の目安として期間に応じた基準年利率が参照されます)、③毎月の返済記録を銀行振込で残す、の3点が重要です。口約束や通帳上の記録がない場合、税務署から贈与と認定されるリスクがあります。

Q. 共有名義のデメリットは何ですか?

将来の売却時に共有者全員の同意が必要になること、相続時に共有持分がさらに細分化されること、固定資産税の負担割合でトラブルになりやすいこと、などのデメリットがあります。長期的な出口戦略を考慮して選択してください。

Q. 段階的贈与(暦年贈与)を続けるときの注意点は?

分かれ目は、金額や時期が同じかどうかではなく、あらかじめ定期的に贈与することについて贈与者・受贈者双方の合意(契約・約束)があるかどうかです。「毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けること」が贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約(約束)をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利の贈与を受けたものとして贈与税がかかります(国税庁タックスアンサーNo.4402 Q1・A1、相続税法第24条、相続税法基本通達24-1)。逆に、贈与の都度、贈与者・受贈者の意思確認を行って贈与契約を締結している場合は、「あらかじめ定期的に贈与することについて贈与者・受贈者双方の合意がなされている場合でない限り」定期金給付契約に関する権利の贈与には該当しないとされています(東京国税局文書回答事例「暦年贈与サポートサービスを利用した場合の相続税法第24条の該当性について」)。したがって、総額をあらかじめ約束しないこと、毎年個別に贈与契約書を作成すること、受贈者が自由に使える口座に振り込むことが大切です。

Q. 不動産を時価より安く売ると贈与税がかかりますか?

はい、時価と売買価格の差額が「みなし贈与」(相続税法第7条)として贈与税の対象になる可能性があります。ただし、東京地裁平成19年8月23日判決(国側敗訴・確定)は、親族間で土地を相続税評価額(地価公示価格の約80%)で売買した事案について、相続税法第7条の「著しく低い価額」の対価による譲渡には当たらないとして、課税庁が行った贈与税の決定処分等を取り消しました(税務大学校論叢第65号の検討事例一覧・事例17)。相続税評価額を大きく下回る対価かどうかが実務上の分かれ目になりますので、時価の目安として路線価や公示価格を参考にしてください。

3つの支援方法を比較したところで、次のVol.5では「贈与した財産が離婚で失われるリスク」と、それを防ぐ婚前契約・特有財産の仕組みを解説します。せっかくの贈与を守るために知っておくべき最後のピースです。

主な根拠資料

本記事は 2026 年 9 月時点の法令等に基づいています。個別の取扱いは事実関係により異なります。

SPOT CONSULTATION / スポット相談(有料)

顧問契約の前に、この論点だけ確かめたい——という場合は、単発の有料相談をご利用いただけます。Zoom・対面・メールから選べ、BIG4出身の有資格者が直接お答えします。料金とお申し込み方法はページに記載しています。

スポット相談を見る

日本語 / English / 中文
山口 淳也

この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。