【第5回】退職時の給与計算——翌月払い・月末退職・非居住者源泉の実務

退職・帰国シリーズ ⑤

外国人社員が退職するとき、給与計算で損をしない3つのポイント

外国人社員の退職・帰国では、通常の退職手続きに加えて「出国後の支払い」「非居住者の源泉徴収」という特有の問題が発生します。翌月払いの給与をどう扱うか、月末退職と月末前日退職で社会保険料がどう変わるか——知っているだけでコストが大きく変わるポイントを整理します。

退職時の給与処理、判断に迷っていませんか?

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01

End-of-Month vs Day-Before Resignation

月末退職 vs 月末前日退職——社保1ヶ月分の差

社会保険料は「退職日の翌日(=資格喪失日)が属する月の前月分まで」かかります。少しわかりにくいルールですが、要するに月末退職と月末前日退職では社会保険料の負担月数が1ヶ月変わるということです。

退職日 資格喪失日 最終月の保険料
3月31日(月末)退職 4月1日 3月分の保険料が発生する
3月30日(月末前日)退職 3月31日 3月分の保険料が発生しない

月給25万円の社員の場合、社会保険料の会社負担分は約4万円です。2名の外国人社員が同時に退職するケースでは、退職日を1日前にするだけで月約8万円のコスト削減になります。

注意:本人側のデメリットも説明を

月末前日退職の場合、最終月は国民健康保険・国民年金への切り替えが必要になります。帰国予定の外国人社員の場合、出国日との関係で実質的に無保険期間が生じることもあるため、本人にリスクを説明したうえで退職日を決定してください。

02

Next-Month Pay & Non-Resident Tax

翌月払いの給与——出国後支払いは非居住者扱い

多くの企業は「当月締め・翌月払い」の給与体系です。3月末退職の社員に4月に最終給与を支払う場合、通常であれば問題ありません。

しかし、外国人社員が3月中に出国してしまうと、4月の支払い時点では税法上の「非居住者」(日本に住所がない人)になります。非居住者への給与支払いには一律20.42%の源泉徴収(税金の天引き)が適用されます。

居住者 vs 非居住者で源泉税率が大きく変わる

居住者:通常の源泉徴収税額表に基づく課税(多くの場合、数千円〜数万円)
非居住者:支給額×20.42%(月給25万円なら約5.1万円)

同じ給与額でも、出国のタイミングによって手取りが大幅に減ります。

対策:出国前に最終給与を支払う

最もシンプルな対策は、最終給与を出国前に支払うことです。居住者である間に支払いを完了すれば、通常の源泉徴収で処理できます。

就業規則や賃金規程で「翌月○日払い」と定めている場合でも、退職時の精算払いとして前倒し支給する運用は多くの企業で行われています。就業規則に明確な禁止規定がなければ、前倒し支払いで対応しましょう。

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Pro-Rata Calculation Rules

日割り計算——規定がなければ満額支給でOK

月の途中で退職する場合、日割り計算をするかどうかは就業規則の定め次第です。

日割り計算のルール

・就業規則に日割り規定がある → 規定に従って日割り計算
・就業規則に日割り規定がない → 満額支給で問題なし
・ノーワークノーペイの原則は「欠勤控除」の話であり、退職日までの勤務には適用されない

マネーフォワード給与の日割り機能に注意

マネーフォワード給与には自動日割り機能がありますが、就業規則に日割り規定がない場合にこの機能を使うと、本来不要な控除が発生します。給与ソフトの設定と就業規則の整合性を必ず確認してください。

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Year-End Adjustment at Resignation

退職時年末調整——年の途中退職でも完結できる

外国人社員が年の途中で退職・帰国する場合、通常は確定申告(1年間の税金を自分で精算する手続き)が必要ですが、退職時年末調整(年末を待たずに退職時点で税金の精算を行うこと)により企業側で処理を完結させることができます。帰国後に本人が確定申告するのは現実的でないため、企業側で完結させることが極めて重要です。

退職時年末調整の対象者

退職時年末調整ができるのは、以下のいずれかに該当する場合です(所得税法第190条)。

・死亡退職
・著しい心身障害による退職
・12月の給与支払い後に退職
年の途中で非居住者となる場合(出国前の最終給与で年末調整を実施)

帰国する外国人社員は「年の途中で非居住者となる」に該当します。なお、その年の給与総額が2,000万円を超える場合は年末調整の対象外となり、確定申告(納税管理人経由)が必要です。

通常の年末調整との違い

退職時年末調整は12月の通常年末調整と基本的な計算方法は同じですが、以下の点が異なります。

① 対象期間は1月〜出国日まで
通常の年末調整は1月〜12月の1年分ですが、退職時年末調整は1月1日から出国日までに支払いが確定した給与が対象です。出国後に支払われる給与(翌月払いの最終給与など)は非居住者への支払いとなるため、退職時年末調整の対象に含めません。

② 所得控除の判定時点が「出国時」になる
扶養控除・配偶者控除は、通常は12月31日時点の現況で判定しますが、退職時年末調整では出国時点の現況で判定します。出国日に扶養の要件を満たしていれば控除を適用できます。

③ 保険料控除は出国日までの支払い分のみ
社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除は、出国日までに実際に支払った金額が対象です。出国後に引き落とされる保険料は控除できません。

実務の手順——出国前にやること

ステップ1:本人から申告書を回収する
出国前に以下の書類を本人から回収します。通常の年末調整と同じ書類ですが、帰国後の回収は不可能なため、退職面談時にまとめて対応するのが鉄則です。

・「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」——最新の扶養状況を反映
・「給与所得者の保険料控除申告書」——生命保険・地震保険がある場合(控除証明書も回収)
・「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年金等控除申告書」

ステップ2:1月〜出国日の給与総額を確定する
出国日までに支払いが確定した給与・賞与の合計額を計算します。前述のとおり、翌月払いで出国後に支払われる最終給与は含めません。

ステップ3:所得控除を計算する
社会保険料(出国日までの支払い分)、生命保険料、扶養控除等を計算します。ここが外国人社員特有の注意点が多い部分です(後述)。

ステップ4:年税額を算出し、過不足を精算する
年間の所得税額を計算し、すでに源泉徴収した税額との差額を最終給与で精算(還付または追加徴収)します。

ステップ5:源泉徴収票を発行・交付する
精算完了後、退職後1ヶ月以内に「給与所得の源泉徴収票」を発行し、本人に交付します。帰国前に手渡しするのが理想ですが、間に合わない場合は本国の住所に郵送するか、納税管理人に交付してください。

外国人社員特有の注意点

国外扶養親族の書類要件
外国人社員が本国の家族を扶養親族として申告するケースは多いですが、控除を受けるには以下の書類が必要です。不備があると税務調査で否認される可能性があるため、入社時から計画的に準備してもらうのが重要です。

親族関係書類——本国の公的機関が発行した出生証明書・婚姻証明書等(日本語訳を添付)
送金関係書類——その年に扶養親族の生活費として送金した事実を証明する書類(外国送金依頼書の控え等)

2023年の改正により、30歳以上70歳未満の国外居住親族は、留学・障害者・38万円以上の送金のいずれかに該当しない限り扶養控除の対象外です。退職時年末調整でも同じ要件が適用されるため、対象者を正確に確認してください。

本国の保険料は控除対象外
本国の社会保険制度に加入している場合や、海外の保険会社と契約している保険料は、日本の所得控除の対象になりません。本人が申告書に記載していないか確認してください。

出国時の年末調整では住宅ローン控除は適用できない
出国時の年末調整では、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は適用できません。平成28年の税制改正により、非居住者でも生計を一にする親族がその家屋に引き続き居住している場合は確定申告で控除を受けられる制度がありますが、帰国する外国人社員のケースでは通常該当しません。退職時年末調整からは除外してください。

05

Simulation: Real-World Example

シミュレーション——月給30万円・3月退職・翌月払いのケース

退職時に企業がコントロールできるのは、主に2つの独立した判断です。

判断①:退職日を月末(3月31日)にするか前日(3月30日)にするか
→ 社会保険料の有無に影響。所得税には基本的に影響しません。

判断②:最終給与を出国前に支給するか、出国後に通常どおり支給するか
→ 源泉徴収の税率と年末調整の対象範囲に影響。退職日とは別の判断です。

前提条件

・月細30万円(当月締め・翌月25日払い)/2026年1月入社
・扶養なし・標準報酬月額30万円
・健康保険料率10.00%(本人5%)、厚生年金18.30%(本人9.15%)、雇用保隺0.55%
・社会保険料は翌月控除(1月分を2月給与から控除)
・源泉徴収税額表は令和8年分(基礎控除58万円・給与所得控除65万円)を適用

年間給与収入:300,000円 × 3ヶ月 = 900,000円
給与所得控除65万円 + 基礎控除58万円 = 123万円 > 収入90万円
年間所得税はゼロ。退職時年末調整で源泉徴収済みの所得税が全額還付されます。

判断①の効果:退職日と社会保険料

3月30日退職なら資格喪失日は3月31日 → 3月は被保険者期間に含まれず、3月分の保険料が発生しません。3月31日退職では資格喪失日が4月1日となり、3月分の保険料がかかります。

3月30日退職 3月31日退職
健康保険料(本人) 0円 15,000円
厚生年金保険料(本人) 0円 27,450円
本人負担の差 +42,450円

退職日を1日前にずらすだけで、本人・会社それぞれ42,450円の差が生じます。この判断は所得税の額や還付には影響しません。

判断②の効果:給与支給タイミングと源泉税

支給日時点で本人が日本の「居住者」か「非居住者」かにより、源泉徴収の方法が変わります。

3月分給与(額面30万円) 出国前に支給 出国後に支給(4月25日)
源泉徴収の方法 居住者:税額表により徴収 非居住者:20.42%で61,260円
年末調整の対象 1〜3月分(3ヶ月) 1〜2月分のみ(2ヶ月)
年末調整による還付 12,640円(源泉税全額) 12,640円(1〜2月分の源泉税全額)
所得税の実質負担 0円(全額還付) 61,260円(20.42%分は還付対象外)

出国前に支給すれば、居住者として通常の税額表が適用され、退職時年末調整で1〜3月分の源泉税が全額還付されます(年収が低いため年税額0円)。一方、出国後の支給で20.42%の源泉徴収が最終税額となり、年末調整の対象にもなりません。支給タイミングだけで所得税の実質負担に61,260円の差が生じます。

全体比較:両方を最適化した場合

判断①・②の両方を最適化した「ベストケース」と、いずれも行わなかった場合を月別に比較します。

ベストケース:3月30日退職+出国前に前倒し支給

1月給与 2月給与 3月給与(最終給与)
基本給 300,000 300,000 300,000
健康保険料 △15,000 △15,000 0(判断①の効果)
厚生年金 △27,450 △27,450 0(判断①の効果)
雇用保険 △1,650 △1,650 △1,650
源泉所得税 △6,320 △6,320 0(年税額0円のため)
1・2月分源泉還付 +12,640(6,320×2)
振込支給額 249,580 249,580 310,990

3ヶ月の手取り合計:810,150円

比較ケース:3月31日退職+4月25日に通常支給

1月給与 2月給与 3月給与(4月25日支給)
基本給 300,000 300,000 300,000
健康保険料 △15,000 △15,000 △15,000(判断①未対策)
厚生年金 △27,450 △27,450 △27,450(判断①未対策)
雇用保険 △1,650 △1,650 △1,650
源泉所得税 △6,320 △6,320 △61,260(判断②未対策:20.42%)
振込支給額 249,580 249,580 194,640

退職時年末調整(出国前に実施・1〜2月分のみ精算)
・給与総額:600,000円(3月分は非居住者所得のため対象外)
・給与所得控除:−650,000円 → 給与所得:0円
・課税所得:0円 → 年税額:0円
・源泉徴収済み:12,640円 → 全額還付:+12,640円

3ヶ月の手取り合計:706,440円(249,580 + 249,580 + 194,640 + 12,640)

差額まとめ——2つの判断は独立

判断 影響する項目 手取りの差
① 退職日(3/30 vs 3/31) 社会保険料(3月分の有無) 42,450円
② 支給タイミング(出国前 vs 出国後) 源泉税率+年末調整の対象範囲 61,260円
合計 103,710円

退職日の選択は社会保険料だけに影響し、所得税の還付額は変わりません。所得税に大きく影響するのは給与の支給タイミング(居住者のうちに支給するかどうか)です。両方を最適化すれば本人の手取りが約10万円改善し、会社側も社会保険料の会社負担分(約42,450円)を節約できます。

※上記は概算です。実際の金額は健康保険組合の料率、前職の源泉徴収状況、適用される所得控除等により異なります。正確な計算は給与ソフトまたは税理士にご確認ください。

06

Practical Checklist

実務チェックリスト

確認項目 対応内容 期限
退職日の設定 月末 vs 月末前日——社保コストと本人への影響を比較して決定 退職1ヶ月前
最終給与の支払い時期 出国前に支払い完了を目指す(非居住者課税を回避) 出国日前
日割り計算の要否 就業規則を確認。規定なしなら満額支給 最終給与計算前
退職時年末調整 出国前の最終給与で実施 最終給与支払い時
源泉徴収票の発行 退職後1ヶ月以内に発行・交付 退職後1ヶ月以内
給与ソフトの設定確認 自動日割り機能が不要な控除をしていないか確認 最終給与計算前

07

Tax Agent: Don't Miss the Filing

所得税の納税管理人——届出を忘れると還付金が届かない

帰国する外国人社員が出国後に確定申告(還付申告)を行う可能性がある場合、所得税の納税管理人を出国前に届け出ておく必要があります(国税通則法117条)。届出先は住民税の納税管理人(市区町村)とは異なり、所轄の税務署です。

所得税の納税管理人が必要になるケース

・退職時年末調整で精算しきれない所得控除がある場合(医療費控除など)
・年の途中で出国し、確定申告が必要な場合
・出国後に届く還付金を受け取る必要がある場合
・不動産所得など給与以外の所得がある場合

届出の実務

「納税管理人の届出書」を所轄税務署に提出します(正式名称は「所得税・消費税の納税管理人の届出書」ですが、給与所得者は所得税部分のみの記入で問題ありません)。届出のタイミングは出国前です。届出がないまま出国すると、税務署からの通知が届かず、還付金の受取りができなくなるリスクがあります。住民税の納税管理人(市区町村への届出)とは別の手続きですので、両方忘れずに対応しましょう。

08

Frequently Asked Questions

よくある質問

出国後に賞与を支払う場合も20.42%が適用されますか?

はい。出国後(非居住者となった後)に支払う賞与にも20.42%の源泉徴収が必要です。賞与の支給日が出国後になる場合は、給与と同様に前倒し支給を検討してください。

退職金にも非居住者の源泉徴収が適用されますか?

退職金は「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば退職所得控除後の金額に課税されます。申告書が未提出の場合は支給額全体に20.42%が課税されます。出国前に申告書を提出してもらうことが重要です。

納税管理人を選任していない場合はどうなりますか?

納税管理人が未選任の場合、帰国後の還付申告や税務署からの通知の受領ができなくなります。出国前に「納税管理人の届出書」を税務署に提出するよう、退職手続きの一環として本人に案内してください。

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