Vol.3 海外の親から日本の子へ不動産資金援助|贈与税は?

海外在住家族の税務シリーズ Vol.3

海外の親から日本の子へ不動産資金援助|贈与税は?

前の記事(Vol.2)では、住民票抹消の効果と限界を解説しました。この記事では、ある家族の次のステップ――「海外にいる親から日本の子へお金を援助すると、贈与税はどうなる?」を解説します。

📌 このセクションでわかること:贈与税の基本的な仕組みと、誰が税金を払うのかを解説します。

贈与税(財産を無償でもらったときにかかる税金)は、「もらった側」(受贈者)が納税義務者です。あげた側(贈与者)ではない点に注意してください。

贈与税の2つの課税方式の比較:暦年課税は基礎控除年110万円・税率10〜55%の累進・相続時は7年分を加算。相続時精算課税は特別控除累計2,500万円・超過分に一律20%・相続時に全額加算。選択すると暦年課税には戻れない
図:暦年課税と相続時精算課税の比較——精算課税を選ぶと暦年課税には戻れない

具体的な計算例:1,000万円の住宅資金を贈与する場合

パターンA:暦年課税のみ

・課税価格:1,000万円 − 110万円(基礎控除)= 890万円

・贈与税額:890万円 × 30% − 90万円 = 177万円

パターンB:住宅取得資金の非課税特例を使う(省エネ住宅)

・非課税枠:1,000万円

・課税価格:1,000万円 − 1,000万円(非課税)= 0円

・贈与税額:0円

パターンC:相続時精算課税を選択

・特別控除枠:2,500万円のうち1,000万円を使用

・贈与税額:0円(ただし相続時に加算)

※特例の適用には床面積や所得要件など条件があります。必ず事前に確認してください。

なぜ「もらった側」なのでしょうか?それは、財産を受け取って経済的に豊かになるのは受贈者なので、その人が税金を負担するのが公平だという考え方に基づいています。

具体例:ある家族のケース

Aさん(親)が、日本に住む娘のCさんにマンション購入資金として3,000万円を援助する場合、納税義務者は「もらった側」のCさんです。

❓ よくある誤解

❌ 「親がお金を出すのだから、親が税金を払う」
⭕ 正しくは:贈与税は「もらった側」が払います。Cさんが納税義務者です。

01海外の親からもらったら、日本で税金がかかる?――課税範囲の考え方

📌 このセクションでわかること:海外にいる親からの贈与が、日本の贈与税の対象になるかどうかの判定基準を解説します。

贈与税の課税範囲は、あげる側・もらう側それぞれの「居住地」と「国籍」で決まります。

このケースでは、もらう側のCさんが日本在住なので、世界中どこからもらった財産にも日本の贈与税がかかります。海外の口座から振り込まれたお金であっても、日本の贈与税がかかります。

❓ よくある誤解

❌ 「海外から送金されたお金は日本で税金がかからない」
⭕ 正しくは:受贈者(もらった側)が日本在住なら、海外からの送金でも贈与税がかかります

02年110万円まで非課税?――暦年贈与の基本と落とし穴

📌 このセクションでわかること:贈与税の基本的な非課税枠(110万円)と、落とし穴である「定期贈与」のリスクを解説します。

暦年贈与(1月1日~12月31日の1年間で贈与を計算する方法)では、受贈者1人につき年間110万円の基礎控除(税金がかからない非課税の枠)があります。

具体例:年110万円ずつ贈与する場合

Aさんが毎年110万円ずつCさんに贈与すれば、贈与税はゼロです。10年間続ければ1,100万円を非課税で移転できます。ただし、「毎年同じ金額を同じ時期に」繰り返すと、定期贈与(最初から全額を贈与する計画だったとみなされ、全額に課税されること)とみなされるリスクがあります。

定期贈与とみなされないためには、毎年金額や時期を変えたり、その都度贈与契約書を作成することが有効です。

また、令和5年度税制改正で生前贈与加算が7年に延長されました(令和6年1月1日以後の贈与から適用)。これは、「亡くなる前7年以内の贈与は、相続財産に加算される」という意味です。つまり、贈与はできるだけ早く始めることが重要です。

03まとめて贈与するなら「相続時精算課税」も検討?

📌 このセクションでわかること:暦年贈与とは別の選択肢、「相続時精算課税」の仕組みと令和5年度税制改正のポイント。

相続時精算課税(贈与時には軽い税負担で済ませ、相続時にまとめて精算する制度)は、60歳以上の親から18歳以上の子への贈与に使えます。

累計2,500万円までが特別控除(税金がかからない枠)で、それを超える分には一律20%の税率です。ただし、相続時にすべて精算(贈与分も相続財産に含めて再計算)されます。

令和5年度税制改正(令和6年1月1日施行)で、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が新設されました。これにより、精算課税を選択しても年110万円までの少額贈与は相続財産に加算されなくなりました。

ただし注意点があります。この110万円の基礎控除は、複数の精算課税贈与者がいる場合は按分されます。例えば、父と母の両方から精算課税で贈与を受けている場合、110万円を父50%・母50%(各55万円)のように分ける必要があります。暦年贈与の110万円とは異なり、贈与者ごとに110万円使えるわけではありません。

04住宅購入なら「非課税特例」が使えるかも?

📌 このセクションでわかること:住宅購入資金の贈与に使える非課税特例の内容と条件を解説します。

親から子への住宅購入資金の贈与には、「住宅取得等資金の非課税特例」(租税特別措置法第70条の2)(一定の条件を満たせば、住宅購入のための贈与が非課税になる制度)があります。省エネ住宅なら最大1,000万円まで非課税です。

具体例:3,000万円のマンション購入の場合

Cさんが3,000万円のマンションを購入する場合、Aさんからの援助1,000万円を非課税特例+基礎控除110万円=最大1,110万円まで非課税にできる可能性があります。ただし、省エネ住宅であること、床面積や築年数の要件を満たす必要があります。

05まとめ:贈与税の3つの方法を比較

方法 非課税枠 特徴
暦年贈与 年110万円 毎年少しずつ。定期贈与に注意
相続時精算課税 累計2,500万円 まとめて贈与可。相続時に精算
住宅取得等資金の非課税 最大1,000万円 住宅購入専用。要件あり

📝 この記事のポイント3つ

1. 贈与税は「もらった側」が払う――受贈者が日本在住なら海外からの贈与でも課税
2. 暦年贈与の110万円枠は有効だが、「定期贈与」とみなされない工夫が必要
3. 住宅購入なら非課税特例も活用可能――複数の制度を組み合わせて節税

次の記事では、「では実際にどうやって支援するのがベストか?」――低利貸付・共有名義・段階的贈与など具体的な方法を比較します。詳しくはVol.4へ。

あわせて読みたい:具体的な支援方法(低利貸付・共有名義など)の比較は「不動産購入を子に支援する方法」で、贈与後の婚姻リスク対策は「婚前契約と特有財産」で解説しています。

06よくある質問

Q. 海外送金は税務署にわかりますか?

はい。100万円を超える海外送金は金融機関から税務署に報告されます(「国外送金等調書」)。贈与税の申告漏れは発見されやすいです。

Q. 暦年課税と相続時精算課税、どちらを選ぶべきですか?

ケースによります。暦年課税は年110万円の基礎控除で少額ずつ贈与するのに向いています。相続時精算課税は累計2,500万円まで贈与税がかからず大型贈与に適していますが、選択すると暦年課税に戻せません。将来の相続税額や贈与総額を考慮して選択してください。

Q. 住宅取得等資金の非課税特例はいくらまで使えますか?

省エネ等住宅の場合は最大1,000万円、それ以外の住宅は最大500万円が非課税になります(租税特別措置法第70条の2)。暦年課税の基礎控除110万円と併用できるため、最大1,110万円(省エネ住宅の場合)まで非課税で贈与可能です。

Q. 海外在住の親からの贈与でも日本の贈与税がかかりますか?

はい、受贈者(もらう側)が日本に住所を持つ居住者であれば、贈与者が海外在住であっても日本の贈与税が課されます。贈与税は基本的に受贈者が納税義務者となるため、親の居住地は関係ありません。

Q. 生前贈与加算の7年延長とは何ですか?

相続開始前に行った贈与を相続財産に加算する期間が、従来の3年から7年に延長されました。令和6年1月1日以降の贈与から適用されます。ただし、延長された4年分(4〜7年前)については合計100万円まで控除されます。

山口 淳也

この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。