Vol.3 海外の親から日本の子へ不動産資金援助|贈与税は?

海外在住家族の税務シリーズ Vol.3

海外の親から日本の子へ不動産資金援助|贈与税は?

前の記事(Vol.2)では、住民票抹消の効果と限界を解説しました。この記事では、ある家族の次のステップ――「海外にいる親から日本の子へお金を援助すると、贈与税はどうなる?」を解説します。

📌 このセクションでわかること:贈与税の基本的な仕組みと、誰が税金を払うのかを解説します。

贈与税(財産を無償でもらったときにかかる税金)は、「もらった側」(受贈者)が納税義務者です。あげた側(贈与者)ではない点に注意してください。

贈与税の2つの課税方式の比較:暦年課税は基礎控除年110万円・税率10〜55%の累進・相続時は加算対象期間内の贈与を加算(令和8年末までに開始する相続は3年以内)。相続時精算課税は特別控除累計2,500万円・超過分に一律20%・相続時は年110万円の基礎控除後の残額を加算。選択すると暦年課税には戻れない
図:暦年課税と相続時精算課税の比較——精算課税を選ぶと暦年課税には戻れない

具体的な計算例:1,000万円の住宅資金を贈与する場合

パターンA:暦年課税のみ(子が贈与を受けた年の1月1日に18歳以上=特例税率)

・課税価格:1,000万円 − 110万円(基礎控除)= 890万円

・贈与税額:890万円 × 30% − 90万円 = 177万円

・子が同じ日に18歳未満なら一般税率:890万円 × 40% − 125万円 = 231万円(国税庁タックスアンサーNo.4408)

パターンB:住宅取得資金の非課税特例を使う(省エネ住宅)

・非課税枠:1,000万円

・課税価格:1,000万円 − 1,000万円(非課税)= 0円

・贈与税額:0円

パターンC:相続時精算課税を選択

・基礎控除:1,000万円 − 110万円 = 890万円(令和6年1月1日以後の贈与。租税特別措置法70条の3の2第1項)

・特別控除枠:2,500万円のうち890万円を使用

・贈与税額:0円(相続時に加算されるのは基礎控除後の890万円。相続税法21条の15第1項)

※特例の適用には床面積や所得要件など条件があります。必ず事前に確認してください。また、これらの特例は贈与税額がゼロになる場合でも申告・届出が適用要件です。住宅取得等資金の非課税特例は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書に一定の書類を添付して提出する必要があります(租税特別措置法70条の2第14項)。相続時精算課税は、同じ期間内に「相続時精算課税選択届出書」の提出が必要で、特別控除額は期限内申告書を提出した場合に限り控除できます(相続税法21条の9第2項、21条の12第2項)。

なぜ「もらった側」なのでしょうか?それは、財産を受け取って経済的に豊かになるのは受贈者なので、その人が税金を負担するのが公平だという考え方に基づいています。

具体例:ある家族のケース

Aさん(親)が、日本に住む娘のCさんにマンション購入資金として3,000万円を援助する場合、納税義務者は「もらった側」のCさんです。

❓ よくある誤解

❌ 「親がお金を出すのだから、親が税金を払う」
⭕ 正しくは:贈与税は「もらった側」が払います。Cさんが納税義務者です。

01海外の親からもらったら、日本で税金がかかる?――課税範囲の考え方

📌 このセクションでわかること:海外にいる親からの贈与が、日本の贈与税の対象になるかどうかの判定基準を解説します。

贈与税の課税範囲は、あげる側・もらう側それぞれの「居住地」と「国籍」で決まります。

このケースでは、もらう側のCさんが日本に住所を持つ「一時居住者でない個人」なので、世界中どこからもらった財産にも日本の贈与税がかかります(相続税法1条の4第1項1号イ、2条の2第1項)。海外の口座から振り込まれたお金であっても、日本の贈与税がかかります。

ただし、日本に住所があっても全世界課税にならない場合があります。①贈与の時に在留資格を持ち、②贈与前15年以内に日本に住所を有していた期間の合計が10年以下である受贈者(=一時居住者。相続税法1条の4第3項1号)が、③贈与の時に日本に住所がなく贈与前10年以内も日本に住所がなかった贈与者など(=非居住贈与者。同項3号)、または贈与の時に在留資格を持ち日本に住所があった贈与者(=外国人贈与者。同項2号)から贈与を受けたときは、同条1項1号ロのかっこ書により1号から除かれて同項3号となり、課税対象は日本国内にある財産だけになります(同法2条の2第2項)。日本国籍のお子さんや、日本での居住期間が長いお子さんは、この例外に当たりません。

❓ よくある誤解

❌ 「海外から送金されたお金は日本で税金がかからない」
⭕ 正しくは:受贈者(もらった側)が日本に住所を持つ一時居住者でない個人なら、海外からの送金でも贈与税がかかります。なお、上の例外に当たる場合でも、海外から日本国内の銀行口座へ直接送金すれば、受け取るのは日本の営業所に対する預金債権=国内財産なので課税されます(相続税法10条1項4号)。

02年110万円まで非課税?――暦年贈与の基本と落とし穴

📌 このセクションでわかること:贈与税の基本的な非課税枠(110万円)と、落とし穴である「定期贈与」のリスクを解説します。

暦年贈与(1月1日~12月31日の1年間で贈与を計算する方法)では、受贈者1人につき年間110万円の基礎控除(税金がかからない非課税の枠)があります。

具体例:年110万円ずつ贈与する場合

Aさんが毎年110万円ずつCさんに贈与すれば、贈与税はゼロです。10年間続ければ1,100万円を非課税で移転できます。ただし、「毎年110万円ずつ10年間にわたって贈与を受けること」が当初から贈与者との間で契約(約束)されている場合は、定期贈与(契約をした年に「定期金に関する権利」の贈与を受けたものとして課税されること。権利の評価は相続税法24条によります)とみなされます(国税庁タックスアンサーNo.4402 Q1)。

分かれ目は金額や時期を変えたかどうかではなく、当初に総額の給付を約する契約があったかどうかです。したがって、毎年その都度贈与の合意をして贈与契約書を作成し、契約どおりに履行することが本質的な対応になります(国税庁タックスアンサーNo.4402 Q1)。

また、令和5年度税制改正で生前贈与加算が3年から7年に延長されました(相続税法19条1項。令和6年1月1日以後の贈与が対象)。これは、「亡くなる前7年以内の贈与は、相続財産に加算される」という意味です。ただし経過措置があり、加算対象期間は相続開始日によって段階的に延びます。令和8年12月31日までに開始する相続については、従来どおり「相続開始前3年以内」です(令和5年法律第3号附則19条2項)。令和9年1月1日〜令和12年12月31日に開始する相続は「令和6年1月1日から死亡の日まで」、令和13年1月1日以後に開始する相続で初めて「相続開始前7年以内」になります(国税庁タックスアンサーNo.4161)。いずれにせよ、贈与はできるだけ早く始めることが重要です。

03まとめて贈与するなら「相続時精算課税」も検討?

📌 このセクションでわかること:暦年贈与とは別の選択肢、「相続時精算課税」の仕組みと令和5年度税制改正のポイント。

相続時精算課税(贈与時には軽い税負担で済ませ、相続時にまとめて精算する制度)は、贈与の年の1月1日において60歳以上の父母・祖父母から、同じ日に18歳以上の推定相続人である子(または孫)への贈与に使えます(相続税法21条の9第1項、租税特別措置法70条の2の6第1項)。年齢はいずれも贈与の年の1月1日で判定するため、贈与の時点で18歳・60歳に達していても、その年の1月1日に達していなければ選択できません。また、選択するには贈与税の申告期間内に「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があり、いったん提出すると撤回できません(相続税法21条の9第2項・第6項)。

累計2,500万円までが特別控除(税金がかからない枠)で、それを超える分には一律20%の税率です。ただし、相続時にすべて精算(贈与分も相続財産に含めて再計算)されます。

令和5年度税制改正(令和6年1月1日施行)で、相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除が新設されました。これにより、精算課税を選択しても年110万円までの少額贈与は相続財産に加算されなくなりました。

ただし注意点があります。この110万円の基礎控除は、複数の精算課税贈与者がいる場合は按分されます。按分の基準は贈与者ごとの贈与税の課税価格が、その合計額に占める割合です(租税特別措置法70条の3の2第3項、同法施行令40条の5の2)。例えば、父から400万円・母から100万円の贈与を受けた年は、父分88万円・母分22万円が基礎控除額になります(各55万円ずつではありません)。暦年贈与の110万円とは異なり、贈与者ごとに110万円使えるわけではありません。

04住宅購入なら「非課税特例」が使えるかも?

📌 このセクションでわかること:住宅購入資金の贈与に使える非課税特例の内容と条件を解説します。

親から子への住宅購入資金の贈与には、「住宅取得等資金の非課税特例」(租税特別措置法第70条の2)(一定の条件を満たせば、住宅購入のための贈与が非課税になる制度)があります。省エネ等住宅なら最大1,000万円、それ以外の住宅は最大500万円まで非課税です(同条2項6号)。この特例が使えるのは、令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間の贈与です(同条1項)。令和9年以後の取扱いは税制改正で変わり得るため、贈与を実行する前に最新の法令をご確認ください。

具体例:3,000万円のマンション購入の場合

Cさんが3,000万円のマンションを購入する場合、Aさんからの援助1,000万円を非課税特例+基礎控除110万円=最大1,110万円まで非課税にできる可能性があります。ただし、省エネ等住宅であること、床面積(原則40㎡以上240㎡以下)、受贈者のその年の合計所得金額(原則2,000万円以下)などの要件を満たす必要があります(租税特別措置法70条の2第2項1号、国税庁タックスアンサーNo.4508)。なお、中古住宅の築年数の要件は撤廃されており、現在は「昭和57年1月1日以後に建築されたもの」または「耐震基準に適合することが証明されたもの」であることが要件です(同条2項3号)。

05まとめ:贈与税の3つの方法を比較

方法 非課税枠 特徴
暦年贈与 年110万円 毎年少しずつ。定期贈与に注意
相続時精算課税 年110万円+特別控除累計2,500万円 まとめて贈与可。相続時に精算(年110万円の基礎控除を引いた後の残額を加算)
住宅取得等資金の非課税 最大1,000万円 住宅購入専用。要件あり

📝 この記事のポイント3つ

1. 贈与税は「もらった側」が払う――受贈者が日本在住(一時居住者でない場合)なら海外からの贈与でも課税
2. 暦年贈与の110万円枠は有効だが、「定期贈与」とみなされない工夫が必要
3. 住宅購入なら非課税特例も活用可能――複数の制度を組み合わせて節税

次の記事では、「では実際にどうやって支援するのがベストか?」――低利貸付・共有名義・段階的贈与など具体的な方法を比較します。詳しくはVol.4へ。

あわせて読みたい:具体的な支援方法(低利貸付・共有名義など)の比較は「不動産購入を子に支援する方法」で、贈与後の婚姻リスク対策は「婚前契約と特有財産」で解説しています。

06よくある質問

Q. 海外送金は税務署にわかりますか?

はい。100万円を超える海外送金は金融機関から税務署に報告されます(「国外送金等調書」)。贈与税の申告漏れは発見されやすいです。

Q. 暦年課税と相続時精算課税、どちらを選ぶべきですか?

ケースによります。暦年課税は年110万円の基礎控除で少額ずつ贈与するのに向いています。相続時精算課税は累計2,500万円まで贈与税がかからず大型贈与に適していますが、選択すると暦年課税に戻せません。将来の相続税額や贈与総額を考慮して選択してください。

Q. 住宅取得等資金の非課税特例はいくらまで使えますか?

省エネ等住宅の場合は最大1,000万円、それ以外の住宅は最大500万円が非課税になります(租税特別措置法第70条の2第2項6号)。暦年課税の基礎控除110万円と併用できるため、最大1,110万円(省エネ等住宅の場合)まで非課税で贈与可能です。ただし、この特例の対象は令和6年1月1日から令和8年12月31日までの間の贈与に限られます(同条1項)。また、贈与税額がゼロでも、期限内に贈与税の申告書を提出することが適用要件です(同条14項)。

Q. 海外在住の親からの贈与でも日本の贈与税がかかりますか?

原則としてかかります。受贈者(もらう側)が日本に住所を持ち、かつ「一時居住者」に当たらなければ、贈与者が海外在住であっても、もらった財産の全部に日本の贈与税が課されます(相続税法1条の4第1項1号イ、2条の2第1項)。ただし、受贈者が①贈与の時に在留資格を有し、②贈与前15年以内に日本に住所を有していた期間の合計が10年以下(=一時居住者。同条3項1号)で、かつ③贈与者が「外国人贈与者」または「非居住贈与者」(同項2号・3号)に当たる場合は、同条1項1号ロのかっこ書により1号から除かれ、同項3号の制限納税義務者となるため、国外にある財産には贈与税がかかりません(同法2条の2第2項)。この判定では贈与者(親)の住所・国籍・在留資格が直接効いてきます。日本国籍のお子さんや、日本での居住期間が長いお子さんは全世界課税です。

Q. 生前贈与加算の7年延長とは何ですか?

相続開始前に行った贈与を相続財産に加算する期間が、従来の3年から7年に延長されました(相続税法19条1項)。令和6年1月1日以後の贈与が対象です。ただし経過措置があり、令和8年12月31日までに開始する相続については、加算期間は従来どおり3年です(令和5年法律第3号附則19条2項)。令和9年1月1日〜令和12年12月31日に開始する相続は「令和6年1月1日から死亡の日まで」、令和13年1月1日以後に開始する相続で初めて「相続開始前7年以内」となります(国税庁タックスアンサーNo.4161)。なお、加算対象期間のうち相続開始前3年以内より前の部分については合計100万円が控除されますが、この控除は相続開始の日が令和9年1月2日以後の場合に限られます。

主な根拠資料

本記事は2026年9月時点の法令等(タックスアンサーはいずれも〔令和8年4月1日現在法令等〕)に基づいています。個別の取扱いはご事情により異なりますので、実行の前に上記の一次情報をご確認ください。

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山口 淳也

この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。