外国籍社員の出国・帰任時の税務手続き【HR外国籍税務⑥】

HR外国籍税務シリーズ

外国籍社員の出国・帰任時の税務手続き|退職・転勤時にHRが対応すべきこと

退職日が決まってからでは遅い。準確定申告、納税管理人、住民税一括徴収……
出国前に完了すべき税務手続きを、HRの対応タイムラインで整理します。

01出国による居住者区分の変更と課税への影響

STEP 01
出国30日前まで
納税管理人の選任準確定申告の2択を社員と決定。住民税の一括徴収準備も。
STEP 02
出国月の給与計算
出国日まで居住者→以降は非居住者。月の途中で区分切替が発生し、徴収率も変わる。
STEP 03
帰任後の対応
帰任日からは再び居住者扱い。源泉徴収・年末調整の対象に戻る。出国前の所得との連続性に注意。

外国籍社員が日本を出国すると、所得税法上の居住者区分が「居住者」から「非居住者」に変わります。この変更は出国日を境に発生し、その年の所得の課税方法に直接影響します。

居住者と非居住者で何が変わるのか

項目 居住者(出国前) 非居住者(出国後)
課税範囲 全世界所得 国内源泉所得のみ
所得税率 累進課税(5〜45%) 原則20.42%
所得控除 各種控除適用可 基礎控除等のみ
年末調整 対象 対象外
住民税 翌年度課税 1月1日時点で不在なら非課税

重要なのは、出国日を境にその年の所得を「居住者期間分」と「非居住者期間分」に分けてそれぞれ異なるルールで課税される点です。出国前の給与は通常の累進課税、出国後に日本の会社から支払われる給与(残余の賞与等)は国内源泉所得として20.42%の源泉徴収が必要になります。

02準確定申告——出国前に行う「年の途中の確定申告」

年の途中で出国する外国籍社員のうち、確定申告が必要なケースでは、出国日までに「準確定申告」を行う必要があります(所得税法第127条)。通常の確定申告は翌年2月16日〜3月15日ですが、準確定申告は出国の日までが期限です。

準確定申告が必要になるケース

  • 給与以外の所得(RSU・ストックオプション・不動産所得等)がある場合
  • 2か所以上から給与を受けている場合
  • 給与収入が2,000万円を超える場合
  • 医療費控除・寄附金控除等で還付を受けたい場合
  • 年末調整が行われない場合(年の途中退職のため)

HRの実務ポイント:準確定申告は本人が出国前に自ら行うか、納税管理人を選任して委任する必要があります。HRが直接申告するわけではありませんが、「申告が必要であること」「期限は出国日まで」であることを社員に明確に伝え、必要に応じて税理士を紹介する役割がHRに求められます。

HRが準備すべき書類

準確定申告のために、HRは以下の書類を出国の2〜3週間前までに準備することが望まれます。

書類 内容 準備担当
給与所得の源泉徴収票 1月1日〜退職日までの分 HR・経理
退職所得の源泉徴収票 退職金が支給される場合 HR・経理
社会保険料控除証明書 健保・厚生年金の年間支払額 HR・経理
RSU・SO関連資料 付与日・権利確定日・時価等 HR+本社報酬部門

03納税管理人の届出——出国後の税務対応の「代理人」

出国する社員が日本国内での税務手続きを出国後に行えなくなるため、出国前に「納税管理人」を選任し、税務署に届出を提出する必要があります(所得税法第117条)。

納税管理人とは何か

納税管理人とは、本人に代わって日本国内で税務書類の受領・申告書の提出・還付金の受領等を行う者です。個人でも法人でも選任可能ですが、実務上は税理士を納税管理人に指定するのが最も確実です。

⚠ 注意:納税管理人の届出を行わずに出国した場合、税務署からの通知が届かず、延滞税や加算税が膨らむリスクがあります。また、将来日本に再入国する際にビザ審査で不利になる可能性もあります。HRは「出国前に必ず届出を出すこと」を退職チェックリストに組み込んでください。

届出の手順

  1. 「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を入手(国税庁HPからダウンロード可)
  2. 本人と納税管理人がそれぞれ署名・押印
  3. 出国前に、本人の納税地を管轄する税務署に提出
  4. 住民税の納税管理人届出も、市区町村に別途提出

04住民税の一括徴収——出国前に未納分を精算する

住民税は前年の所得に対して翌年6月〜翌々年5月に特別徴収(給与天引き)されます。外国籍社員が年度の途中で退職・出国する場合、残りの住民税を最終給与から一括徴収する必要があります。

一括徴収の具体的ルール

退職時期 対応
1月1日〜4月30日退職 残りの住民税を必ず一括徴収(法律上の義務)
5月1日〜12月31日退職 本人の申し出があれば一括徴収。出国する外国籍社員には一括徴収を強く推奨
6月1日より前(新年度開始前) 前年度分の残額のみ対象。当年度分は6月以降に市区町村から通知

実務上の注意:出国が確定している外国籍社員は、5月以降の退職であっても一括徴収の対応を取るべきです。普通徴収に切り替えても、本人が出国済みで納付書を受け取れないため、未納となります。最終給与から差し引けない場合は、退職金からの控除も検討してください。

05退職金の課税——居住者と非居住者で大きく変わる税率

納税管理人の選任フロー

出国する外国籍社員には、出国前に「納税管理人」を選任する必要があります。

Step 1:納税管理人の候補を決める

個人(日本在住の知人・親族)、または法人(税理士事務所)を選定。推奨:税理士事務所

Step 2:届出書を作成・提出

「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を所轄税務署に提出。住民税は別途市区町村にも届出。提出期限:出国日まで(2週間前推奨)

Step 3:準確定申告の要否を判断

年の途中で出国 → 出国日までの所得について準確定申告が必要。納税管理人が代理で行うことも可能。

退職所得申告書の有無で税率が大きく変わる

退職金支払時、「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無で源泉徴収税率に大きな差が出ます。

申告書あり → 適正税率

勤続年数に応じた退職所得控除が適用。例:勤続20年・退職金1,500万円 → 税額約37万円

申告書なし → 20.42%一律

退職所得控除が適用されず全額に20.42%。例:同条件 → 税額約306万円

差額:約269万円

HR担当者は退職手続き時に必ず提出を確認してください。

06納税管理人の選任フロー

出国する外国籍社員には、出国前に「納税管理人」を選任する必要があります。

Step 1:納税管理人の候補を決める

個人(日本在住の知人・親族)、または法人(税理士事務所)を選定。推奨:税理士事務所

Step 2:届出書を作成・提出

「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を所轄税務署に提出。住民税は別途市区町村にも届出。提出期限:出国日まで(2週間前推奨)

Step 3:準確定申告の要否を判断

年の途中で出国 → 出国日までの所得について準確定申告が必要。納税管理人が代理で行うことも可能。

07退職所得申告書の有無で税率が大きく変わる

退職金支払時、「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無で源泉徴収税率に大きな差が出ます。

申告書あり → 適正税率

勤続年数に応じた退職所得控除が適用。例:勤続20年・退職金1,500万円 → 税額約37万円

申告書なし → 20.42%一律

退職所得控除が適用されず全額に20.42%。例:同条件 → 税額約306万円

差額:約269万円

HR担当者は退職手続き時に必ず提出を確認してください。

08出国税(国外転出時課税)——対象となる社員の見極め

2015年7月以降、一定の要件を満たす個人が出国する際に、保有する有価証券等の含み益に対して所得税が課される制度(いわゆる「出国税」)が施行されています(所得税法第60条の2等)。

対象要件(2つとも満たす場合に適用)

  1. 対象資産の合計額が1億円以上:株式、投資信託、デリバティブ取引等の時価合計
  2. 出国日前10年以内に5年超の居住期間:日本の居住者であった期間が通算5年超

外国籍社員の場合、RSUや親会社株式を大量に保有しているケースで該当する可能性があります。HRとしては、退職面談時にRSU・SO等の保有状況を確認し、該当しそうな場合は早期に税理士に相談するよう案内してください。

⚠ 申告期限:出国税の確定申告期限は出国日から4か月以内です。納税猶予の適用を受ける場合は、出国日までに担保提供と届出書提出が必要です。該当可能性がある場合は必ず専門家に引き継いでください。

09HR対応タイムライン——出国日から逆算するチェックリスト

時期 対応事項 担当
出国3か月前 退職日・出国日の確定、出国税対象可否の事前確認、税理士への相談開始 HR+社員
出国2か月前 納税管理人の選任・届出書準備、源泉徴収票の作成開始 HR+経理
出国1か月前 納税管理人届出書の提出、準確定申告の準備、住民税一括徴収額の確定 HR+社員+税理士
出国2週間前 準確定申告の提出、退職金支給日の最終確認 社員+税理士
最終給与日 住民税一括徴収の実行、社会保険資格喪失届の提出 HR+経理
出国後 出国後支給の賞与等は20.42%源泉徴収、給与支払報告書の提出 経理

10出国時によくある税務上の失敗パターン

失敗①:住民税の一括徴収を忘れる 退職時に普通徴収に切り替えたが、本人は出国済みで納付書を受け取れない。結果、滞納扱いとなり、企業に督促が届く。

失敗②:納税管理人を選任しない 出国後に還付申告が必要だったが、納税管理人がいないため手続きができない。還付金を受け取れないまま時効(5年)を迎える。

失敗③:出国後の賞与に誤った税率を適用 出国後に支給された賞与を居住者と同じ税率で源泉徴収。本来は非居住者として20.42%を適用すべきところ、過少徴収で税務署から指摘を受ける。

11まとめ——出国前の「3つの必須対応」

外国籍社員の出国時にHRが最低限押さえるべきポイントは、以下の3つに集約されます。

  1. 準確定申告の要否確認と対応:給与以外の所得がある場合は出国前に申告。HRは源泉徴収票等を早期に準備する
  2. 納税管理人の選任と届出:出国前に税務署・市区町村に届出を完了。税理士への委任が最も確実
  3. 住民税の一括徴収:最終給与または退職金から未納の住民税を確実に差し引く

これらは一つでも漏れると、出国後にリカバリーが極めて難しくなります。退職が確定した時点で税理士と連携し、出国日から逆算したスケジュールで進めることが重要です。

山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。