経営管理ビザと資本金の落とし穴|2025年改正と2028年対策
退職・帰国シリーズ ⑥
経営管理ビザと資本金の落とし穴——2025年改正で何が変わったか
2025年10月16日、経営管理ビザの要件が大幅に厳格化されました(施行済み)。既存の在留資格保持者にも2028年10月までの経過措置が設けられていますが、「資本金500万円を入れたはずなのに問題がある」——そんな見せ金リスクを抱えた企業は少なくありません。本記事では、改正の全体像と資本金をめぐる実務上の落とし穴、そして今から打てる対策を解説します。
退職・帰国シリーズ 全6回
① 全体像——経営管理ビザ2025年改正・年金・税務
② 住民税はどうなる?
③ 社会保険の手続き
④ 脱退一時金——6ヶ月要件と2つの落とし穴
⑤ 退職時の給与計算——翌月払い・月末退職・源泉区分
⑥ 経営管理ビザと資本金の落とし穴(この記事)
経営管理ビザの更新・資本金の問題、早めの対策が必要です
状況を整理する経営管理ビザ(在留資格「経営・管理」=外国人が日本で会社経営を行うために必要なビザ)の取得要件が、2025年10月16日から大きく変わりました。
| 旧基準(〜2025年10月15日) | 新基準(2025年10月〜) | |
|---|---|---|
| 資本金 | 500万円以上 または常勤2名以上 |
3,000万円以上 かつ常勤1名以上 |
| 日本語能力 | 要件なし | 日本語教育の参照枠B2相当以上(JLPT N2、BJT 400点以上等で証明) (事業主または常勤職員のいずれかが充足すれば可。なお日本語要件における「常勤職員」には就労ビザ保有者も含まれ、雇用要件の常勤職員より対象が広い) |
| 学歴・経験 | 要件なし | 修士・博士・専門職学位、または経営・管理の実務経験3年以上 |
| 事業計画 | 任意 | 専門家評価付き事業計画書が必須 |
雇用要件の「常勤職員」は、日本人・永住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等・定住者に限定され、就労ビザの外国人は含まれません。また「常勤」とは週30時間以上・年間217日以上の勤務をいいます。
最大の変更点は、資本金要件が500万円から3,000万円に引き上げられ、さらに「または」だった常勤雇用要件が「かつ」に変わったことです。新規取得のハードルは大幅に上がります。
改正施行日(2025年10月16日)時点で経営管理ビザを保持している方には、2028年10月16日までの経過措置が適用されます。
経過措置のポイント
・2028年10月16日までは旧基準(資本金500万円or常勤2名)をベースに個別判断
・ただし更新審査は年々厳しくなる傾向が予想される
・2025年7月以降の更新申請では「事業活動の内容説明文書」の提出が原則必須
・経過措置期間中に新基準への移行準備を進めることが強く推奨される
「あと3年ある」と思いがちですが、資本金の増額やDES(後述)には準備期間が必要です。早めの対応を推奨します。
経営管理ビザの取得にあたり、設立時に資本金500万円を払い込んだものの、実態としてはすぐに引き出されているケースが少なくありません。
典型的な見せ金パターン
以下のような流れは、入管が「見せ金」と判断するリスクがあります。
見せ金の典型パターン
① 設立日に現金500万円を銀行口座に払い込む
② 同日または数日以内に資本金として計上
③ 同日または数日以内に大部分を引き出す
④ 帳簿上は「未収入金」(役員への貸付金等)として処理
払込と引き出しが同日・近接日に行われる場合、このパターンは特に疑われやすくなります。
会社法上は、払込が完了すれば設立手続き自体は有効です。しかし入管の審査では「事業の安定性・継続性」が問われるため、実質的に資金が事業に投下されていない状態は問題視されます。
見せ金による会社設立は払込みの仮装にあたり、会社法上は発起人の責任(会社法第52条の2)が問われる違法行為です。さらに経営管理ビザの審査においては、虚偽の資本金による申請として在留資格の取消し事由(入管法第22条の4)に該当するリスクがあります。過去にこのような形で設立してしまった場合は、速やかに専門家に相談し、是正措置を講じてください。
見せ金で設立された会社の貸借対照表には、資産の部に「未収入金」(または「役員貸付金」「短期貸付金」)が計上されたままになっていることがあります。
この状態が何年も続くと、以下の問題が生じます。
・入管の更新審査で「資本金の実在性」を疑われる
・金融機関からの融資審査でマイナス評価になる
・税務調査で「役員にお金を貸しているなら利息を取るべきでは?」と指摘され、追徴課税を受ける可能性がある
多くの場合、見せ金で設立した会社では、役員が個人資金を会社に貸し付けている(=役員借入金が負債に計上されている)ケースがあります。
この場合、未収入金と役員借入金を相殺することで、帳簿をクリーンにできます。
仕訳例:未収入金と役員借入金の相殺
(借方)役員借入金 5,000,000円 /(貸方)未収入金 5,000,000円
この仕訳により、貸借対照表から未収入金と役員借入金の両方が消え、帳簿がスリムになります。
2028年以降の新基準(資本金3,000万円)に向けて、資本金を増額する必要がある場合、DES(デット・エクイティスワップ)が会社法上の選択肢として考えられます。ただし、後述のとおり入管審査での評価には不確実な面があるため、必ず専門家に相談のうえ検討してください。
DESとは、簡単にいえば「社長が会社に貸しているお金を、資本金に変換する」手続きです。負債が減り、資本金が増えるので、帳簿上の財務体質が改善します。
DESの仕組み
・役員が会社に対して持つ貸付金(債権)を現物出資する形で増資
・新たな現金の払い込みが不要
・負債が減少し、資本金が増加するため、財務体質が改善
・弁済期到来済みの金銭債権で、出資価額が帳簿価額以下であれば検査役の調査は不要(会社法207条9項5号)。ただし税務・登記の手続きには専門家の関与が必要
たとえば、役員借入金が2,500万円ある場合にDESを実行すると、登記上は既存の資本金500万円と合わせて3,000万円の資本金を達成できます。
重要:DESと経営管理ビザの審査
会社法上、DESによる増資は有効であり、登記簿上の資本金は増加します。しかし、入管がDESによる資本金増額を「実質的な事業投資」として評価するかは現時点で明確な先例がありません。入管の審査では資本金の「出所」と「形成過程」が重視され、省令上の要件は「払込済資本の額」とされています。DESは新たな現金の払い込みを伴わないため、入管が額面どおりに評価しない可能性があります。DESのみに依存した新基準対応は避け、実際の事業活動による利益蓄積や現金増資と組み合わせて対応することを推奨します。具体的な対応方針は、入管実務に精通した行政書士・弁護士に相談してください。
DES実行時の注意点
・債務超過(負債が資産を上回っている状態)の場合、帳簿上の「借金が消えた利益」として法人税がかかる可能性がある
・登記手続き(増資の変更登記)が必要で、登録免許税がかかる
・税務・法務の両面から専門家の関与が不可欠
・入管への説明資料として、DES実行の経緯と事業計画を整理しておくことが望ましい
経過措置期間中であっても、2025年7月以降に提出する更新申請では、「事業活動の内容説明文書」の提出が原則必須になります。
この文書では、事業の実態・売上・取引先・従業員の状況などを具体的に説明する必要があります。資本金の見せ金問題を抱えたまま更新申請に臨むと、書類の整合性が取れずに不許可リスクが高まります。
| 時期 | やるべきこと |
|---|---|
| 今すぐ | 貸借対照表を確認し、未収入金・役員貸付金の有無を把握する |
| 2025年内 | 未収入金と役員借入金の相殺処理を実施。帳簿をクリーンにする |
| 2026年〜2027年 | 新基準への移行を見据え、事業利益の蓄積・現金増資を軸に準備。DESは補助的な手段として専門家と検討 |
| 2028年10月まで | 新基準(資本金3,000万円+常勤1名+JLPT N2+専門家評価事業計画書)の充足を完了 |
資本金を3,000万円にできない場合、経営管理ビザは維持できませんか?
経過措置終了後は新基準が適用されるため、原則として3,000万円の資本金が必要になります。ただし、制度の詳細な運用基準は今後のガイドラインや通達で明確化される可能性があります。早めに専門家と相談し、取り得る選択肢を整理しておくことが重要です。
DESを行うと税金がかかりますか?
会社が債務超過の場合、役員借入金の帳簿価額と時価の差額が「債務消滅益」として法人税の課税対象になる可能性があります。健全な財務状態であれば課税が生じないケースもありますが、必ず税理士に事前確認してください。
見せ金で設立した会社でも、後から正当な資本金にできますか?
まず前提として、見せ金による会社設立は会社法上の払込み仮装(会社法第52条の2)にあたる違法行為であり、経営管理ビザの取消し事由にも該当しうる重大な問題です。そのうえで、未収入金と役員借入金の相殺処理や追加の現金出資により帳簿上の是正を行うことは可能です。ただし、帳簿の是正だけで入管の審査をクリアできるとは限らず、事業の実態や資金の出所について改めて説明を求められる可能性があります。必ず行政書士・弁護士に相談のうえ対応してください。更新申請のタイミングで初めて指摘されると対応が間に合わない可能性があります。
資本金の問題整理、DESの検討、更新申請の準備——まずはご相談ください
経営管理ビザの要件変更は、早期の対策が選択肢を広げます。現状の分析から具体的なアクションプランまで、一緒に整理しましょう。
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