【第3回】外国人社員が帰国・退職するとき、社会保険の手続きはどうする?
退職・帰国シリーズ ③
外国人社員が帰国・退職するとき、社会保険の手続きはどうする?
外国人社員の退職・帰国時の社会保険手続きは、基本的には日本人社員と同じです。ただし、保険証の回収タイミング、扶養家族の資格喪失、退職日の設定による保険料の違いなど、帰国を伴うケース特有の注意点があります。人事担当者が見落としやすいポイントを中心に解説します。
退職・帰国シリーズ 全6回
① 全体像——経営管理ビザ2025年改正・年金・税務
② 住民税はどうなる?
③ 社会保険の手続き(この記事)
④ 脱退一時金——6ヶ月要件と2つの落とし穴
⑤ 退職時の給与計算——翌月払い・月末退職・源泉区分
⑥ 経営管理ビザと資本金の落とし穴
社会保険の手続き漏れは届出遅延ペナルティの対象です
外国人社員が退職する際、企業が行う社会保険手続きは以下の通りです。
| 手続き | 届出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金 被保険者資格喪失届 (「この社員は保険の対象外になりました」という届出) |
管轄の年金事務所(または健康保険組合) | 退職日の翌日から5日以内 |
| 雇用保険 被保険者資格喪失届 | 管轄のハローワーク | 資格喪失日の翌日から10日以内 |
| 健康保険証の回収 | 年金事務所(または健保組合)に返却 | 資格喪失届と同時 |
これらは日本人社員の退職時と同じ手続きですが、帰国を伴う外国人社員の場合は回収・届出のタイミングがより重要になります。
日本人社員の場合、退職後に郵送で保険証を返却してもらうケースも多いですが、帰国する外国人社員の場合は退職日当日の回収が鉄則です。
帰国後の保険証回収は極めて困難
・帰国してしまうと保険証の郵送返却は期待できない
・資格喪失後の保険証使用(いわゆる「資格喪失後受診」)が発生すると、医療費の返還請求手続きが必要
・海外への返還請求は実務上ほぼ不可能
退職日に保険証(被保険者証)を物理的に回収し、資格喪失届と一緒に返却してください。
被扶養者がいる場合は、被扶養者分の保険証もあわせて回収します。本国に家族がいて被扶養者になっているケースでは、保険証が本国にある場合もあります。この場合は「保険証を回収できない旨」を資格喪失届に記載して提出してください。
社会保険の資格喪失日は「退職日の翌日」です。社会保険料は「資格喪失日が属する月の前月分まで」かかるルールなので、退職日を月末にするか月末前日にするかで、最終月の社会保険料の取り扱いが変わります。
| 退職日 | 資格喪失日 | 最終月の保険料 |
|---|---|---|
| 3月31日(月末) | 4月1日 | 3月分あり(会社・本人とも負担) |
| 3月30日(月末前日) | 3月31日 | 3月分なし |
月末前日退職にすると社会保険料が1ヶ月分削減されますが、本人側にはデメリットもあります。
月末前日退職のメリット・デメリット
メリット(会社・本人とも)
・社会保険料が1ヶ月分不要(月給25万円なら会社負担約3.7万円の削減)
デメリット(本人側)
・最終月は国民健康保険・国民年金への切り替えが必要
・帰国が近い場合、実質的に無保険期間が生じる可能性
・脱退一時金の被保険者期間が1ヶ月短くなる
退職日の設定は、社会保険料のコストだけでなく脱退一時金の要件(シリーズ④参照)にも影響します。総合的に判断してください。
雇用保険の資格喪失届はハローワークに提出しますが、帰国する外国人社員の場合、失業給付の受給は原則としてできません(日本国内での求職活動が前提のため)。
ただし、離職票の発行は必要です。以下の理由からです。
・将来、再来日して就職する際に加入期間の通算に必要になる場合がある
・本国の社会保障制度で必要になる可能性がある
・本人の記録として保管しておくべき書類である
外国人雇用状況届出も忘れずに
外国人社員の退職時には、ハローワークへの「外国人雇用状況届出」も必要です。雇用保険の資格喪失届を提出すれば届出を兼ねますが、雇用保険未加入の外国人(週20時間未満のパートなど)の場合は別途届出が必要です。届出を怠ると30万円以下の罰金の対象になります。
外国人社員に被扶養者(健康保険で扶養に入っている配偶者・子ども等)がいる場合、被扶養者の資格喪失手続きも同時に行います。
外国人社員特有のケースとして、以下に注意してください。
・本国在住の家族を被扶養者にしている場合がある(2020年の制度改正で国内居住要件が追加されたが、海外留学・海外赴任同行等の例外あり)
・被扶養配偶者(第3号被保険者=会社員の配偶者として国民年金に加入している人)がいる場合は、「第3号被保険者関係届」の喪失手続きも必要
・帰国する配偶者が日本で就労していた場合は、配偶者本人の社会保険喪失手続きも別途必要
退職日から帰国日までに期間がある場合、その間の健康保険をどうするかという問題があります。選択肢は以下の3つです。
| 選択肢 | 概要 | 帰国予定者への適否 |
|---|---|---|
| 任意継続 | 退職後も最大2年間、退職前の健康保険に引き続き加入できる制度(ただし会社負担分がなくなるため保険料は約2倍) | 帰国まで数ヶ月ある場合は検討。保険料が高額になる点に注意 |
| 国民健康保険 | 市区町村の国保に加入 | 帰国まで短期間ならこちらが一般的 |
| 無保険 | 加入手続きをしない | 退職翌日が出国日の場合は実質的にこのパターン。リスクあり |
企業の法的義務はありませんが、退職後の健康保険について本人に選択肢を案内しておくことで、トラブルを予防できます。
| 確認項目 | 対応内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 保険証の回収 | 本人分+被扶養者分を退職日当日に物理回収 | 退職日当日 |
| 資格喪失届(健保・厚年) | 年金事務所(または健保組合)に提出 | 退職翌日から5日以内 |
| 資格喪失届(雇用保険) | ハローワークに提出。離職票も発行 | 資格喪失日の翌日から10日以内 |
| 外国人雇用状況届出 | 雇用保険喪失届で兼ねる。未加入者は別途届出 | 退職翌日から10日以内 |
| 被扶養者の喪失手続き | 被扶養者がいる場合は同時に手続き | 資格喪失届と同時 |
| 退職日の設定確認 | 月末vs月末前日の保険料差、脱退一時金への影響を確認 | 退職日確定前 |
| 退職後の健康保険の案内 | 任意継続・国保の選択肢を本人に説明 | 退職前 |
退職日に保険証を回収できなかった場合はどうすればいいですか?
まだ帰国前であれば、速やかに連絡して回収してください。すでに帰国してしまった場合は、「健康保険被保険者証回収不能届」を添えて資格喪失届を提出します。回収不能の理由を記載して届出することで手続き自体は進められます。
退職後に保険証を使って病院にかかった場合はどうなりますか?
資格喪失後の受診は「不正使用」にあたり、健康保険が負担した医療費(7割分)の返還請求が本人に届きます。帰国後に請求しても回収はほぼ不可能なため、退職日当日の保険証回収が極めて重要です。
社会保障協定の締結国の社員は、手続きが変わりますか?
社会保障協定(日本と相手国の間で年金や保険の二重加入を防ぐ取り決め)により本国の制度に加入したまま日本で勤務している社員(適用証明書を持つ社員)は、日本の厚生年金・健康保険に加入していないため、資格喪失届は不要です。ただし、協定の対象にならない制度(雇用保険など)については通常どおり手続きが必要です。
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