海外不動産の売却損は給与と損益通算できるか?【税理士監修】

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海外不動産の売却損は給与と損益通算できるか?【税理士監修】

海外不動産の売却損は日本での給与所得と損益通算できるのか。税理士監修で実務上の判断基準を整理。

01海外不動産の売却損は日本の給与と損益通算できるか?

基本原則 01
給与との通算は不可
譲渡損失は給与所得と通算できない。所得区分が異なるため。
基本原則 02
譲渡所得内で通算可
国内不動産売却益と相殺は可能。海外内同士の損益通算もOK。
基本原則 03
2021年改正の特例
国外中古不動産の減価償却損失は2021年以降、給与と通算不可に厳格化。
CHECK 01
損益通算の原則
譲渡所得の損は給与所得と通算不可が原則。土地建物の譲渡損は分離課税の中だけで通算。
CHECK 02
居住者区分の影響
非永住者は海外不動産売却損が「国外源泉所得の損」として扱われ、国内分との通算に制限。
CHECK 03
実務の判断
海外側で先に確定申告→外国税額控除の対象になる場合あり。租税条約と現地税法の確認が必要。

2021年改正後の「国外中古建物の損益通算制限」と減価償却の注意点。 富裕層の資産防衛と企業のグローバル人事のための、最新出口戦略レポート。

2026.01.17 更新

この記事の要点(Executive Summary)

  • 1. 損益通算は原則不可: 海外不動産の売却損(譲渡損失)を、日本の給与所得等と通算することはできません(分離課税の原則)。
  • 2. 「消えた償却費」は復活する: 2021年改正で損益通算を否認された減価償却費は、売却時の「取得費」として計算に組み入れ、譲渡益を圧縮できます。
  • 3. 為替と期間の罠: 円安による為替差益課税や、「1月1日時点」での5年超保有(長期譲渡)判定に注意が必要です。
かつて「節税の王道」と呼ばれた海外中古不動産投資。特に米国や英国の木造住宅は、日本の税制上の「法定耐用年数」と現地の「実質的な建物価値」の乖離(アービトラージ)を利用し、短期間で多額の減価償却費を計上するスキームとして広く活用されました。 しかし、令和2年度の税制改正(令和2年法律第8号)租税特別措置法41条の4の3(国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例)が創設され、このスキームは事実上封じ込められています。条文は「個人が、令和3年以後の各年において」と書いており、改正されたのは令和2年度、実際に効き始めるのは令和3年分からという関係です。「2021年の改正」と呼ばれることがありますが、正確には令和2年度改正の令和3年分以後の適用です。現在、多くの投資家や企業のグローバル人事担当者が直面しているのは、「保有中の赤字が通算できないなら、せめて売却時の損失(出口)で給与の税金を取り戻せるのか?」という疑問です。 結論から申し上げます。海外不動産の売却損を、給与所得と損益通算して税還付を受けることは、原則として不可能です。 本稿では、その法的根拠と、改正法に含まれる救済措置(損益通算の特例計算)、そして円安環境下における具体的な出口戦略について、実務的な観点から解説します。

02なぜ「売却損」は給与と通算できないのか?

所得との組合せ損益通算可否根拠
給与所得不可所得区分が異なる(譲渡vs給与)
事業所得不可同上
不動産所得(賃料)不可(原則)譲渡損失は他の所得と通算不可
国内不動産譲渡益同じ譲渡所得内で通算可能
海外不動産譲渡益同上
株式譲渡益不可申告分離課税(別区分)
日本の所得税法は、所得の性質に応じて課税方法を区分しています。給与所得や事業所得、不動産所得(インカムゲイン)は「総合課税」として合算されますが、土地や建物を売却して得た譲渡所得(キャピタルゲイン/ロス)は「分離課税」として扱われます。

分離課税の壁

不動産投資のリスク(価格変動)は投資家自身が負うべきものであり、その損失を給与所得の税金還付という形で補填することは制度上認められていません。 したがって、海外不動産で5,000万円の売却損が出たとしても、高額な給与所得の課税所得を1円も減らすことはできません。

「自宅の買い替え」であれば例外的に損益通算と繰越控除が認められる制度はあります(措置法41条の5。居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除)。ただしこの特例は、売る側の家屋も、買い換える側の家屋も「国内にあるもの」に限ると条文が明記しています(同条7項1号イ・同号かっこ書)。したがって海外の物件は、居住用かどうかを論じる前に国内要件で落ちます。節税目的で保有していた海外の投資物件や別荘であればなおさら適用の余地はありません。

032021年改正法の「救済メカニズム」を理解する

項目〜2020年(改正前)2021年〜(改正後)
国外中古建物の減価償却給与と通算可(節税スキームで人気)給与との通算は不可
耐用年数の取扱い米国の中古木造で4年償却→巨額減価償却同前提だが「給与との通算分」は損失として認められない
売却時の調整過去に控除できなかった償却費は取得費に加算して譲渡所得側で精算
主な対象者高所得サラリーマン・経営者富裕層の節税余地が大幅縮小
⚠ 救済メカニズム:2021年改正で「給与との通算ができなくなった分」は、売却時の取得費に加算される。最終的に譲渡損失で精算できる仕組み。ただしタイミングの問題でキャッシュフロー上の負担は残る。
ここからが本稿の核心です。売却損そのものの通算はできませんが、措置法41条の4の3には、保有期間中に損益通算を禁じられた減価償却費を「売却時に経費として復活させる」仕組みが組み込まれています(同条3項が所得税法38条2項1号を読み替えます)。先に、この特例が誰に当たるのかを2点だけ確認してください。ひとつは対象になる建物が限られることです。切り捨ての対象は、耐用年数を簡便法で計算した建物か、使用可能期間を見積もったもののその根拠書類がない建物だけで(措置法施行規則18条の24の2第1項1号・2号)、所在地国の法令に基づく耐用年数によっていることを示す書類や、不動産鑑定士(またはその国の同等資格者)の見積書があれば対象外です。その書類は確定申告書に添付します(同条2項)。もうひとつは切り捨ての順番です。国外中古建物の損失は、まずほかの国外不動産等の貸付けによる不動産所得と内部通算し、それでも引ききれない部分のうち償却費相当額が「生じなかったもの」とみなされます(同条2項2号かっこ書)。国内の物件の黒字とは通算できませんが、国外物件どうしなら先に相殺されるので、いきなり全額が消えるわけではありません。

「なかったもの」とされた損失の行方

改正法では、海外中古建物から生じる不動産所得の損失のうち、減価償却費相当額は「生じなかったもの」とみなされます。しかし、この切り捨てられた金額は消滅するわけではありません。 売却時の譲渡所得の計算において、以下の式が適用されます。
【譲渡所得の取得費計算】取得費 = 購入価額 - ( 通常の減価償却累計額 - 特例により切り捨てられた損失額 )
つまり、「過去に通算できなかった減価償却費を、減価償却累計額から控除する(=取得費を増やす)」という調整が行われます。これにより、売却益(譲渡所得)が圧縮され、結果として税負担が軽減される設計になっています。

具体的なシミュレーション

  • 購入額:5,000万円
  • 売却額:4,500万円(▲500万円の値下がり)
  • 減価償却累計:2,000万円
  • うち、損益通算不可額:1,500万円

▼ 通常の計算(救済なしの場合)

取得費:5,000万 - 2,000万 = 3,000万 譲渡所得:4,500万 - 3,000万 = +1,500万円(架空利益に課税!)

▼ 改正法の特例適用(正しい計算)

有効な減価償却:2,000万 - 1,500万 = 500万 取得費:5,000万 - 500万 = 4,500万 譲渡所得:4,500万 - 4,500万 = 0円(課税なし)

※実際には損をしているのに税金がかかるという事態を防ぎ、税務上の中立性が保たれます。

04出口戦略における2つのリスク

⚠ リスク1:為替変動による実質損失の拡大
取得時より円高で売却すると、円建てでは大幅な損失。譲渡損失と為替差損は別計算で、両方で不利になるケース。
⚠ リスク2:現地法制度・税制の変動
米国・東南アジア等は外国人不動産投資への課税・規制が頻繁に変動。源泉徴収率・キャピタルゲイン税・相続税の現地税負担を出口で評価必須。

① 為替マジックの恐怖(円安の影響)

現在の歴史的な円安局面では、現地通貨ベースで損失が出ていても、円換算すると「利益」が出てしまうケースが多発しています。 譲渡所得は、売買それぞれの時点でのTTM(仲値)で円換算して計算されます。 例えば、1ドル110円で購入した物件を、1ドル150円で売却した場合、物件価格が10%以上下落していても、為替差益だけで数千万円の利益(譲渡所得)が発生する可能性があります。この為替差益にかかる税率は、下の表のとおり保有期間で倍近く変わります。譲渡した年の1月1日で5年超なら20.315%(所得税15%×1.021+住民税5%)ですが、5年以下だと39.63%(所得税30%×1.021+住民税9%)です(措置法31条1項・32条1項No.3208 長期譲渡所得の税額の計算(国税庁))。「約20%」で見積もると短期の場合に倍近く外れるので、キャッシュフローの試算では必ずどちらの区分かを先に確定させてください。

② 「1月1日時点」の5年ルール

不動産の譲渡税率は、保有期間によって2倍近く変わります。判定基準は「譲渡した年の1月1日」である点に最大の注意が必要です。
所得区分 要件(譲渡年の1月1日時点) 合計税率(住民税含)
短期譲渡所得 保有期間が5年以下 39.63%
長期譲渡所得 保有期間が5年超 20.315%

※「満5年経った翌日に売る」のではなく、「6回目のお正月を迎えてから売る」ことが鉄則です。

主な根拠資料

本記事の条文・税率は2026年9月10日にe-Gov法令検索と国税庁の公表資料で確認しました。現地国の課税関係は各国の制度と租税条約によります。個別の物件・年分の判定は事実関係で変わりますので、実行前に必ず個別にご確認ください。

05総括と提言

富裕層が保有する海外不動産の出口戦略は、単なる物件売却ではなく、高度な税務プロジェクトです。 特に企業のエグゼクティブや人事担当者は、以下の3点を確認する必要があります。
  1. 過去の申告書の精査:特例適用により否認された損失額(=将来の取得費)を正確に記録しているか。
  2. 二重課税の調整:米国不動産等の場合、現地での税金(Recapture Tax等)を日本の確定申告で「外国税額控除」として適切に処理できるか。
  3. コンプライアンス:「国外財産調書」の提出漏れはないか。提出義務があるのは、その年の12月31日において国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える居住者(非永住者を除く)で、期限は翌年6月30日です(国外送金等調書法5条1項)。不提出や虚偽記載には1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められており(同10条)、記載があれば過少申告加算税等が5%軽減、記載がなければ5%加重されます(同6条)。
「今はもうできない」節税策に固執するのではなく、改正法を正しく理解し、適切なタイミングで出口を迎えることこそが、資産を確実に守る唯一の道です。
 
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ACTION | 海外不動産の出口戦略で押さえる3つ
  1. 所得区分の事前シミュレーション売却年度の他の所得(株式・国内不動産・給与)を見据えて譲渡所得との通算余地を試算。
  2. 2021年改正後の取得費加算を活用過去に通算できなかった減価償却費は売却時の取得費に加算可能。記録を完全に保存しておく。
  3. 為替・現地税の出口時評価円建て・現地通貨建ての両方で実質手取りを試算。源泉徴収率・キャピタルゲイン税の現地確認を必須に。

▶ 国外の株式を売却して損失が出た場合の損益通算の可否は、外国株式報酬を売却したときの確定申告|取得費・為替・損益通算の壁で整理しています。

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山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。