租税条約早見表――主要15か国の限度税率・届出・適用ポイントを一覧で確認

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租税条約早見表

主要15か国の限度税率・届出・適用ポイントを一覧で確認

海外赴任・海外投資・国際取引で「源泉徴収されすぎていないか?」は必ずチェックすべきポイントです。日本が締結する租税条約のうち実務で登場頻度の高い15か国について、配当・利子・使用料の限度税率を早見表にまとめました。届出手続きや見落としやすい実務ポイントも併せて解説します。

01こんな場面で租税条約が必要です

  • 海外子会社からの配当に20.42%の源泉徴収がかかっているが、条約で軽減できないか
  • 外国法人へのロイヤルティ支払いにかかる源泉税率を確認したい
  • 海外駐在員の給与に対する二重課税を解消したい
  • 海外口座の利子所得にかかる源泉税を条約で軽減・免除したい
  • 短期出張者の給与免税(183日ルール)の適用条件を確認したい

租税条約を正しく使えば、源泉税の軽減・免除や二重課税の排除が可能です。
しかし条約は「自動適用」ではありません。届出書を提出しなければ条約税率は適用されず、国内法の高い税率で源泉徴収されたままになります。この記事では、主要15か国の限度税率早見表と、実務上必要な届出手続き、見落としやすいポイントを網羅的に解説します。

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    02租税条約とは何か――3分でわかる基本

    租税条約(Tax Treaty / Double Taxation Convention)とは、2つの国の間で締結される条約で、国際的な二重課税の排除と脱税の防止を目的としています。個人の所得税だけでなく、法人税、源泉徴収税にも適用されます。

    租税条約が果たす主な役割は3つあります。

    租税条約が果たす3つの役割(源泉税率の軽減・免除/二重課税の排除/課税権の配分)と国内法の原則税率
    図1:租税条約の3つの役割 ── 税率を下げ、二重課税を消し、課税権を分ける

    役割①:源泉税率の軽減・免除

    国境をまたぐ配当・利子・使用料(ロイヤルティ)には、支払国の国内法に基づいて源泉徴収税が課されます。日本の国内法では、非居住者・外国法人への配当は原則20.42%(上場株式等の配当等は15.315%。大口株主等を除く)、利子は15.315%(一部20.42%)、使用料は20.42%の源泉税率が適用されます。租税条約は、この税率を引き下げ、または免除する枠組みを提供します。

    役割②:二重課税の排除

    海外で稼いだ所得が現地国と日本の両方で課税される「二重課税」を解消するため、外国税額控除や免除法といった仕組みを条約で規定しています。これにより、同一の所得に対して二重に課税される負担を軽減します。

    役割③:課税権の配分

    どの所得をどちらの国が課税できるかのルールを定めます。

    KEY POINT

    租税条約は国内法に優先します(憲法第98条2項)。条約の税率が国内法より低い場合は条約税率が適用されます。ただし、条約の税率が国内法より高い場合は、国内法の税率が適用されます。つまり、常に「低い方」の税率が適用されると理解してください。

    03日本の租税条約ネットワーク――締結状況の全体像

    日本は2026年7月1日現在、90の条約等(租税条約・情報交換協定・税務行政執行共助条約を含む)を締結しており、適用対象国・地域は157か国・地域に及びます(うち二重課税の除去等を主目的とする租税条約は77本・81か国/地域)。OECDモデル租税条約をベースとしつつ、相手国の経済状況に応じて個別に交渉されるため、条約ごとに税率や条件が異なります。

    日本企業の海外進出先や日本に在住する外国人の出身国として頻度の高い国・地域は、ほぼすべて租税条約の対象となっています。ただし、台湾とは正式な外交関係がないため租税条約は存在せず、代わりに「日台民間租税取決め」(2015年署名・2017年1月以後の所得に適用)が類似の機能を果たしています。また、ブラジルとの租税条約は古い条約(1967年発効)で内容が限定的であることに注意が必要です。

    近年は、MLI(多数国間条約、BEPS防止措置実施条約)の発効により、既存の二国間条約に追加的な規定(特典制限条項=LOB、主要目的テスト=PPTなど)が上書きされるケースが増えています。条約テキストだけでなく、MLIによる修正の有無も確認する必要があります。

    日本の租税条約ネットワークの規模(90の条約等・157か国地域)と台湾・ブラジル・MLIに関する例外注意点
    図2:日本の租税条約ネットワーク ── 90の条約等で157か国・地域をカバー

    条約締結状況の確認方法

    • 財務省ウェブサイト「租税条約に関する資料」で最新の締結国一覧を確認可能
    • 国税庁ウェブサイトで各条約の条文テキスト(日本語・英語)を閲覧可能
    • MLIによる修正は財務省「BEPS防止措置実施条約」ページで確認

    04主要15か国の限度税率早見表(配当・利子・使用料)

    以下の早見表は、日本が締結する主要15か国との租税条約における配当・利子・使用料の限度税率をまとめたものです。「限度税率」とは、条約上の上限税率を意味し、国内法の税率と条約税率のうち低い方が適用されます。

    配当の「親子間」は、一定の持株比率・保有期間を満たす法人株主に適用される軽減税率です。この15か国では議決権10%以上・6か月保有を要件とする条約が多数派で、25%以上を求める条約(シンガポール・韓国・タイ)や、そもそも親子間の軽減区分がない条約(中国・ベトナム・インドは一律10%)もあります。「一般」はそれ以外の場合の税率です。

    相手国配当(親子間)配当(一般)利子使用料
    アメリカ0% / 5%10%0% / 10%0%
    イギリス0%10%0%0%
    ドイツ0% / 5%15%0%0%
    フランス0% / 5%10%0% / 10%0%
    オーストラリア0% / 5%10%10%5%
    シンガポール5%15%10%10%
    香港5%10%0% / 10%5%
    中国10%10%10%10%
    韓国5%15%10%10%
    タイ15% / 20%軽減なし10% / 25%15%
    ベトナム10%10%10%10%
    インド10%10%10%10%
    インドネシア10%15%10%10%
    フィリピン10%15%10%10% / 15%
    UAE(ドバイ)5%10%10%10%
    ※ 0%/5% 等の表記は条件による場合分けです。フランスの利子は原則10%で、0%となるのは政府・中央銀行・銀行・保険会社・証券会社等が受け取る場合に限られます。タイの配当は議決権の25%以上を6か月以上保有する法人株主のみが対象で、支払法人が「産業的事業」に従事する場合15%・それ以外20%、25%未満の株主には条約上の限度税率がありません。タイの利子(10%/25%)も受益者が法人である場合の税率です。上記は概要であり、正確な条件は各条約の条文をご確認ください。2026年7月時点。
    主要15か国との配当・利子・使用料の限度税率ヒートマップ
    図3:主要15か国の限度税率ヒートマップ ── 先進国ほど低く、アジア新興国ほど高い

    この表から読み取れる重要なポイントを整理します。

    先進国との条約ほど税率が低い

    アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスとの条約では、使用料が0%(免税)、親子間配当も0%〜5%と大幅に軽減されています。これは日本との経済関係が深く、条約改定が進んでいるためです。一方、アジアの新興国との条約は比較的税率が高く、10%〜15%が一般的です。

    タイとの条約は税率が高め

    日タイ租税条約は現行条約が1990年発効(最初の条約は1963年)と改定から年数が経っており、他国と比べて税率が高く設定されています。配当は議決権の25%以上を6か月以上保有する法人株主に限って軽減され、支払法人が「産業的事業」に従事する場合は15%、それ以外は20%です。25%未満の株主には条約上の限度税率がなく、軽減を受けられません。利子の限度税率は受益者が法人である場合に限って定められており、金融機関(保険会社を含む)が受け取る場合10%、それ以外は25%です(日タイ条約11条2項)。タイとの取引が多い企業にとっては、条約改定の動向を注視することが重要です。

    条約がない場合の影響

    租税条約が存在しない国・地域との取引では、各国の国内法に定められた源泉税率がそのまま適用されます。

    KEY POINT

    早見表の数字はあくまで「限度税率」です。実際に適用される税率は、受益者の属性(個人か法人か)、持株比率、保有期間、所得の性質などの条件によって異なります。特に「0%/5%」のように記載されている場合は、より有利な税率の適用条件を個別に確認する必要があります。

    05租税条約の届出手続き――適用を受けるための必須ステップ

    租税条約の税率軽減は自動的に適用されません。日本国内で源泉徴収の軽減・免除を受けるには、「租税条約に関する届出書」を支払の日の前日までに支払者(源泉徴収義務者)を通じて所轄税務署に提出する必要があります。届出を怠ると、国内法の税率で源泉徴収されてしまい、後から還付請求する手間が生じます。

    主な届出書の種類

    様式対象所得提出のタイミング
    様式1配当に対する源泉税の軽減・免除配当の支払日の前日まで
    様式2利子に対する源泉税の軽減・免除利子の支払日の前日まで
    様式3使用料に対する源泉税の軽減・免除使用料の支払日の前日まで
    様式7自由職業者・芸能人・運動家・短期滞在者の報酬・給与報酬・給与の支払日の前日まで
    様式11源泉徴収税額の還付請求(軽減・免除の適用漏れ時)支払後(還付請求)

    届出に必要な添付書類

    届出書には、原則として相手国の税務当局が発行する「居住者証明書」(Certificate of Residence / Tax Residency Certificate)の添付が必要です。居住者証明書は、受益者が条約の相手国の居住者であることを証明する書類で、各国の税務当局から取得します。

    また、配当の軽減税率を受ける場合には、持株比率と保有期間を証明する書類(株主名簿の写しなど)、親子間の軽減税率の場合は25%以上の議決権保有を示す書類が追加で必要になります。

    租税条約に関する届出書の提出フローと様式の一覧
    図4:租税条約の届出フロー ── 締切は「支払の日の前日まで」

    届出が遅れた場合の対応

    届出が支払日に間に合わなかった場合、国内法の税率で源泉徴収されます。この場合、源泉徴収された税額と条約税率の差額を還付請求することが可能です(「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」=様式11を使用)。ただし、還付までに数か月かかることもあるため、事前の届出が原則です。

    KEY POINT

    届出なくして条約適用なし。租税条約の恩典は自動適用ではありません。支払の前日までに届出書+居住者証明書を税務署に提出することで初めて軽減税率が適用されます。届出を忘れると、国内法の高い税率で源泉徴収され、還付請求の手間とキャッシュフローの悪化を招きます。

    06二重課税の排除方法――外国税額控除と免除法

    源泉税の軽減だけでなく、租税条約のもう一つの重要な機能が二重課税の排除です。海外で課税された所得が日本でも課税される場合に、二重の負担を解消する仕組みです。

    外国税額控除(Tax Credit Method)

    日本が採用する主な二重課税排除方法です。海外で支払った税額を、日本の所得税・法人税から控除します。ただし、控除額には限度額があり、「日本の税額 ×(国外所得 ÷ 全世界所得)」が上限です。

    個人の場合は確定申告(外国税額控除に関する明細書を添付)で、法人の場合は法人税申告書の別表六(二)で控除を受けます。控除しきれなかった金額は、3年間の繰越控除が可能です(法人税法第69条)。

    免除法(Exemption Method)

    一部の条約では、特定の所得について居住地国が課税を免除する方式(免除法)が採用されることがあります。ただし、日本の条約ではほとんどの場合、外国税額控除方式が採用されています。

    みなし外国税額控除(Tax Sparing Credit)

    発展途上国との条約で見られる特殊な制度です。相手国が投資誘致のために減免した税額を、実際に支払ったものとみなして日本で控除を認める仕組みです。中国・タイ・ブラジルなどとの条約に規定があります。ただし、近年の条約改定ではこの制度を廃止する傾向にあります。

    KEY POINT

    外国税額控除は「申告しなければ使えない」制度です。確定申告(個人)または法人税申告(法人)で外国税額控除の適用を受けるには、外国税額控除に関する明細書と外国の課税証明書の添付が必要です。申告を忘れると、海外で支払った税金が二重課税のまま放置されます。

    07実務で間違えやすい5つの落とし穴

    落とし穴①:「受益者」の判定を誤る

    租税条約の軽減税率は「受益者」(Beneficial Owner)に対して適用されます。名義上の受取人ではなく、実質的にその所得の利益を享受する者でなければなりません。例えば、導管取引(Conduit Arrangement)では、条約の恩典が否認されます。

    落とし穴②:特典制限条項(LOB)を見落とす

    日米租税条約など近年改定された条約には、特典制限条項(Limitation on Benefits = LOB)が含まれています。これは、条約の恩典を受ける資格がある者を厳格に限定する規定です。LOB条項を充足しない場合、条約税率は適用されません。MLIの適用により、主要目的テスト(PPT)が追加されている条約もあります。

    落とし穴③:所得の分類を間違える

    「使用料」と「事業所得」の区分は実務上よくある問題です。ソフトウェアのライセンス料は「使用料」として源泉課税されるのか、それとも「事業所得」としてPEがなければ免税になるのか。SaaSやクラウドサービスの対価の分類は各国で解釈が分かれています。

    落とし穴④:条約の「旧版」を参照してしまう

    租税条約は改定されることがあります。日英条約は2006年発効の新条約で大幅に改善されましたし、日独条約も2016年に全面改正された新条約が発効しています。古い文献やウェブサイトの情報を参照していると、改定前の税率を使ってしまうミスが起こります。さらに、MLIによる修正が加わっている場合もあるため、常に最新の条約テキストを確認する必要があります。

    落とし穴⑤:相手国側の手続きを忘れる

    日本側の届出だけでなく、相手国側でも条約適用のための手続きが必要な場合があります。例えば、アメリカではIRSにW-8BEN(個人)またはW-8BEN-E(法人)を提出する必要があります。インドでは税務居住者証明書(TRC)に加えてForm 10Fの提出が求められます。

    実務で間違えやすい5つの落とし穴のチェックリスト
    図5:実務で間違えやすい5つの落とし穴 ── 条約は「読んで終わり」ではない

    KEY POINT

    租税条約は「読んで終わり」ではなく「手続きして初めて使える」制度です。受益者の認定、LOB/PPTの充足、所得分類の確認、最新条約テキストの参照、そして日本側・相手国側双方での届出手続き。これらをすべてクリアして初めて条約の恩典を正しく享受できます。

    本記事の内容についてご不明な点や、ご自身のケースでの判断にお迷いの場合は、お問い合わせください。

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    本記事の内容は2026年7月時点の日本の税法および租税条約に基づいています。租税条約はMLI等により改正されることがありますので、個別のケースについては必ず最新の条約テキストを確認し、専門家にご相談ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務アドバイスを構成するものではありません。

    08よくある質問(FAQ)

    Q. 租税条約の届出書は、いつまでに提出すればよいですか?

    原則として支払を受ける日の前日までに、支払者を経由して支払者の納税地の所轄税務署長へ提出します。提出が遅れた場合、いったん国内法の税率で源泉徴収されたうえで、後から還付請求(租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書)で取り戻す流れになります。手続の順序が前後すると資金繰りと事務負担が増えるため、支払スケジュールから逆算して準備してください。

    Q. 租税条約がない国への支払いは、どうなりますか?

    条約による軽減・免除が使えないため、日本の国内法の税率がそのまま適用されます。非居住者・外国法人への配当・利子・使用料の源泉徴収税率は所得の種類により異なり、復興特別所得税が上乗せされます。条約の有無は支払条件の設計に直結するので、契約前に相手国との条約締結状況を確認しておくことが実務上重要です。

    Q. 限度税率が条約に定められていれば、自動的にその税率になりますか?

    なりません。届出書の提出が適用の条件です。条約に限度税率の定めがあっても、所定の届出をしていなければ国内法の税率で源泉徴収されます。また「受益者」に該当するかの判定や、特典制限条項(LOB)の要件を満たすかの確認も必要で、条約を読むだけでは適用可否は決まりません。

    Q. 外国税額控除と免除法は、どちらが有利ですか?

    一概には言えません。外国税額控除は外国で納めた税を日本の税額から差し引く方法で控除限度額の計算が必要になり、免除法は国外所得そのものを課税対象から外す方法です。どちらの方式が適用されるかは相手国との条約と日本の国内法によって決まり、納税者が任意に選べるとは限りません。所得の種類と相手国ごとに確認してください。

    Q. 条約を確認するとき、特に間違えやすい点は何ですか?

    本記事で挙げた5点です。①受益者の判定を誤る ②特典制限条項(LOB)を見落とす ③所得の分類を間違える ④改正前の旧版を参照してしまう ⑤相手国側の手続を忘れる。とくに④は、条約が改正されていても検索で旧版が上位に出ることがあるため、発効日と適用開始時期を必ず確認する必要があります。

    山口 淳也
    この記事の監修

    公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

    日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。