【最高裁判決】約100億円の海外運用に「為替差益」課税——円に戻していなくても課税される、最高裁の新判断を税理士が解説【2026年版】
【最高裁判決】円に戻さなくても課税される、外貨の為替差益
外貨で資産を持つ方の多くは、円に戻すまで税金はかからないと考えています。ところが2026年6月、最高裁はその考え方をはっきり否定しました。海外に資産をお持ちの方が、自分の取引は大丈夫かを確かめ、必要な手当てにつなげられるよう、要点を税理士の視点でまとめます。
01結論と問題点
外貨を別の外貨や外貨建ての証券に換えた時点で、円に戻していなくても為替差益に課税される。2026年6月、最高裁がそう判断しました。外貨での不動産購入についても、下級審判決と国税庁の取り扱いで同様に課税とされています。これが今回の結論です。スイスの銀行に105億円を預けた個人が、その資金で外貨や外貨建ての証券を売買していたところ、円に一度も戻していないのに為替差益に課税され、最高裁もこれを適法と認めました。
何が問題か。大きく3つです。
- 円にしていないのに課税されるため、気づかないうちに申告漏れになりやすい。
- 為替差益は雑所得(総合課税)で、税率は最高で約55%と重い。
- 一任運用やドルの置きっぱなしで、課税対象が静かに積み上がる。
まず、自分の取引が課税されるかどうかを確かめましょう。
| あなたの取引 | 為替差益の課税 |
|---|---|
| 外貨を同じ外貨のまま持っているだけ | されない(含み益) |
| 外貨を別の種類の外貨に両替(ドル→ユーロ等) | される |
| 外貨で外貨建ての債券・株式・ファンドを買った | される |
| 外貨で海外不動産を買った | される |
| 外貨を日本円に換金した | される(従来から) |
| 一任口座の中で外貨が組み替えられている | される(取引ごとに判定) |
課税の引き金は「円に戻すこと」ではなく、「外貨を別のものに換えること」です。一つでも心当たりがあれば、この先を読む価値があります。
02最高裁は何を決めたのか
事件の輪郭です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 判決 | 最高裁第三小法廷 2026年(令和8年)6月16日(令和5年(行ヒ)第366号) |
| 当事者 | 日本の居住者(個人)vs 国(渋谷税務署長) |
| 取引 | 2014年にスイスの金融機関へ105億円を送金。保有外貨で別の外貨・外貨建有価証券を反復取得 |
| 処分 | 2014年分・2015年分の所得税等の更正処分と過少申告加算税の賦課決定(2015年分は再調査決定でその一部が取り消されている) |
| 結論 | 課税は適法。上告棄却(裁判官5人全員一致) |
判決の中身は単純です。ドルを売ってユーロを買う。これは税務上、いったんドルを円に戻して利益を確定し、その円でユーロを買い直したのと同じだと見ます。ドルがユーロに置き換わった瞬間に、それまでの含み益が課税対象の利益に変わる。根拠は、所得税法が所得を円で測っていることにあります。裏を返せば、外貨を外貨のまま持っている限りは課税されません。引き金は、別の資産に換えた瞬間だけです。
これは突然の判断ではありません。前年の東京地裁判決(2025年2月)も、米ドル等の外貨で米国の不動産を買った事案で同じ結論を出しています。さらに3人の裁判官は補足意見で、為替差損益に係る課税について明文の規定がないことを租税法律主義の観点から問題とし、その要件や内容について「抜本的に検討し、必要な法的な手当てを講じていくことが強く望まれている」と述べました。今後の税制改正の議論は注視が必要です。
03税率と例外(MMF・FX・NISA)
為替差益は、原則として雑所得の総合課税です。給与などと合算され、税率は最高で約55%。株式の譲渡益(申告分離・約20%)より重く、損益通算も損失の繰越もほとんど使えません。
ただし、外貨がらみがすべて55%になるわけではありません。外貨建MMFは上場株式等の譲渡所得として申告分離(20.315%)、FX(外国為替証拠金取引)も先物取引に係る雑所得等として申告分離です。ただし、この申告分離の対象は差金等決済に限られ、通貨の受渡しが行われる銀行との為替予約は含まれません。NISA口座の株式・投信の譲渡益や配当は非課税。ただし外貨決済でドルを口座に残し、後で円に戻すと、その為替差益は雑所得として課税されます。非課税なのは株式や投信であって、外貨そのものではないからです。手間を避けたいなら、口座にドルを残さない円貨決済が無難です。
なお「取得時に課税され、売却時にもう一度」という二重課税にはなりません。取得時に認識した円換算額が株の取得費として引き継がれ、売却時の損益計算で差し引かれるためです。ただし、そのための記録は必要です。
04いくら課税される:計算と数値例
計算の考え方と数字を見ます。円換算は原則、取引日の仲値(TTM)。同じ外貨を複数回にわたって取得している場合の1単位あたりの円換算額は、所得税法施行令118条1項(総平均法に準ずる方法)の規定に準じて計算するのが相当とされています(国税庁質疑応答事例「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して貸付用の建物を購入した場合の為替差損益の取扱い」)。正確な計算を自分で完結させるのは現実的ではないので、大事なのは、専門家に任せられるよう取引の記録を残しておくことです。
例で見ます(手数料は省略)。1ドル100円のときの10万ドル(=1,000万円)を、1ドル150円のときにユーロ建て債券(=1,500万円相当)に換えた場合。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 収入とみなす額(取得した債券の円換算) | 1,500万円 |
| 必要経費(支出した10万ドルの取得時円換算) | 1,000万円 |
| 為替差益(雑所得) | 500万円 |
この500万円は、円に1円も戻していなくても課税されます。一任運用ではこうした取引が年に何十回も起き、円安が続けば申告すべき雑所得は数千万円に膨らむこともあります。外貨は寝かせるほど課税と手間が膨らみます。受け取った外貨はすぐ円に戻す、使うなら早めに。これが基本です。
05賢い持ち方:生のドルか、株か
同じドルの値上がり益でも、どんな形で持っているかで税率がまるで変わります。ここが一番効く判断材料です。
| ドルの持ち方 | 値上がり分の扱い | 税率 |
|---|---|---|
| 生のドルで寝かせ、後で円転・別資産へ | 雑所得・総合課税 | 最大約55% |
| 課税口座で外貨建て株・債券を保有→売却 | 株の譲渡損益に含まれる | 約20.315% |
| NISAで外貨建て株・投信を保有→売却し即円転 | 譲渡益に含まれ非課税 | 0% |
※手持ちの外貨でNISA商品を購入する場合、その購入時点で外貨自体の為替差益(取得時からの円換算差額)が雑所得として課税される可能性があります。非課税となるのは購入後の値上がり分です。
株を持っている間のドルの値上がりは、雑所得(55%)にはなりません。株の売却損益は円換算で計算され、ドルの値上がり分はその中に溶け込むからです。だから課税口座なら約20%、NISAなら非課税。受け取ったドルをすぐ円に戻せば、雑所得になるのは売却から円転までの値動き分だけです(売却時の円換算額が、そのドルの取得価額になります。所得税法57条の3第1項)。
例。1ドル130円のとき1万ドルで米国上場株式をNISAで買い、1ドル170円で売って即円転。株価が動かなくても円換算では40万円の値上がりですが、NISAの譲渡益として非課税で、売却から円転までの値動き分を除けば雑所得も生じません。同じ1万ドルを生のドルで寝かせて170円で円転していたら、同じ40万円が雑所得(最高約55%)でした。
本記事は税務上の一般的な整理であり、特定の銘柄や取引を勧めるものではありません。実際の判断は最新の制度と個別事情に基づき税理士等にご確認ください。
06過去分・当局の把握・やること
過去分は、早く動くほど負担が軽くなります。税務署が直せる期間は原則5年(悪質なら7年)。加算税は、いつ直すかで大きく変わります。
| 修正のタイミング | 過少申告加算税 |
|---|---|
| 税務調査の通知前に自分で修正 | 課されない(本税+延滞税のみ) |
| 調査通知後〜更正の予知前 | 原則5%(一定額超は10%) |
| 調査で指摘されて修正 | 原則10%(一定額超は15%) |
| 仮装・隠蔽(重加算税) | 35%(無申告は40%) |
※上表は期限内に申告していた方が修正申告する場合(過少申告加算税)の取り扱いです。申告自体をしていなかった場合は無申告加算税で、調査通知前の自主的な期限後申告は5%(国税通則法66条8項)、調査通知後は15%で、納付すべき税額のうち50万円を超える部分は20%、300万円を超える部分は30%になります(同条1項〜3項)。ただし、更正・決定を予知したものでなく、期限内申告書を提出する意思があったと認められる場合として政令で定める場合に当たり、かつ法定申告期限から1か月を経過する日までに行われた期限後申告であれば、無申告加算税は課されません(同条9項)。
「海外口座なら分からない」はもう通用しません。国外財産調書(居住者(非永住者を除く)で12/31時点の国外財産合計が5,000万円超の方は翌年6/30までに提出)、CRS(海外口座の残高・利子・配当などの概要を各国当局間で自動交換)、出国税(正式には国外転出時課税制度。対象資産の合計額が1億円以上で、かつ国外転出をする日前10年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超える居住者が対象です。所得税法60条の2第5項。この5年の判定では、出入国管理及び難民認定法別表第一の在留資格をもって在留していた期間は除かれます=所得税法施行令170条3項1号)。海外に資産があることは当局に伝わる前提で、回避ではなく適正申告で備えるのが現実的です。
まず進める3つ
- 過去5年分の取引報告書を、取引明細つきで取り寄せる。
- 外貨を別の外貨・証券・不動産に換えた取引を洗い出し、取得レートと取得単価をそろえる。
- 申告漏れの不安があれば、税務調査の前に専門家へ相談する。
07よくある質問と、ご相談
持っているだけ(含み益)なら課税されませんか
されません。同じ外貨のまま持ち続ける含み益は未実現です。引き金は別の資産に換えた瞬間です。
外貨預金を別の外貨預金に移しただけでも課税されますか
違う通貨に換えたなら課税対象になり得ます。同じ通貨のまま預け替える分には、通常問題は生じません。
現地でも課税されています。二重課税になりませんか
外国でも税金がかかっていれば、外国税額控除で調整できることがあります。ただし為替差益は日本側で円ベースの所得として把握されるため、現地で課税されていないと控除の対象になりにくい点に注意です。
相続・贈与で引き継いだ外貨を組み替えた場合は
原則として先代の取得時期・取得価額を引き継ぎます(所得税法60条1項。外貨建有価証券などが対象で、外貨そのものは扱いが異なる場合があります)。取得記録がないと計算が難しくなります。
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本記事は2026年6月16日の最高裁判決(令和5年(行ヒ)第366号)等に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の取扱いは税理士等にご確認ください。
主な根拠資料
- 最高裁判所第三小法廷 令和8年6月16日判決(令和5年(行ヒ)第366号 所得税更正処分等取消請求事件)判決全文(裁判所)
- 所得税法36条1項(収入金額)・57条の3第1項(外貨建取引の換算)・60条1項(贈与等により取得した資産の取得費等)・60条の2第5項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)(e-Gov法令検索)
- 所得税法施行令118条1項(総平均法に準ずる方法)・170条3項1号(国内居住期間から別表第一の在留資格による在留期間を除く)(e-Gov法令検索)
- 質疑応答事例「保有する外国通貨を他の外国通貨に交換した場合の為替差損益の取扱い」(国税庁)
- 質疑応答事例「外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い」(国税庁)
- 質疑応答事例「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して貸付用の建物を購入した場合の為替差損益の取扱い」(国税庁)
- 質疑応答事例「預け入れていた外貨建預貯金を払い出して外貨建MMFに投資した場合の為替差損益の取扱い」(国税庁)
- 質疑応答事例「外貨建取引による株式の譲渡による所得」(国税庁)
- 所得税基本通達57の3-2(外貨建取引の円換算)(国税庁)
- No.2260 所得税の税率(国税庁)
- No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係(国税庁)
- No.1522 先物取引に係る雑所得等の課税の特例(国税庁)
- No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例(国外転出時課税制度)(国税庁)
- No.7456 国外財産調書の提出義務(国税庁)
- 租税特別措置法37条の11(上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例)・37条の14(NISA)・41条の14(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)(e-Gov法令検索)
- 国税通則法65条・66条・68条・70条(過少申告加算税・無申告加算税・重加算税・更正の期間制限)(e-Gov法令検索)
- 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律5条1項(国外財産調書)(e-Gov法令検索)
本記事は2026年9月時点の法令・通達等に基づいています。個別の取扱いは取引の内容により異なります。
▶ 外貨建ての株式を売却したときの為替換算と取得費の考え方は、外国株式報酬を売却したときの確定申告|取得費・為替・損益通算の壁をご覧ください。
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公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表
日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。


