年末に退職・帰国する外国籍社員の年末調整|出国の時までに行う判定と、令和8年12月1日で変わる計算

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年末に退職・帰国する外国籍社員の年末調整
——出国の時までに行う判定と、令和8年12月1日で変わる計算

「転勤ではなく退職だから、出国のときの年末調整はできない」と整理していませんか。所得税法190条にも国税庁の手引にも、そのような要件はありません。分かれ目は退職の理由ではなく、その年のうちに非居住者になるかどうかです。さらに令和8年分は、給与所得控除の表と基礎控除が12月1日で切り替わり、最後に給与を支払う日が11月30日以前か12月1日以後かで計算そのものが変わります。条文と国税庁の資料だけを根拠に、人事・給与担当者が判定に使える形で整理します。

01分かれ目は退職の理由ではない

年末調整ができるかどうかは、退職の理由ではなく、その年のうちに非居住者になるかどうかで決まります。

所得税法190条1項は、年末調整を行う場面を次のように定めています。給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2,000万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合に、過不足を精算する、というものです。ここに退職の理由は要件として出てきません。

国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」(5〜6頁)の表も、年末調整の対象となる人として「年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人」を挙げ、年末調整を行う時を「非居住者となった時」としています(同手引・PDF)。理由を転勤に限っていません。退職して母国へ帰る社員も、その年のうちに非居住者になるのであれば、この区分で考えることになります。

社内規程や給与システムの仕様書が「転勤の場合に限る」という前提で書かれている場合は、令和8年分の処理に入る前に確認しておくことをお勧めします。

年末調整を行う時の分かれ目。年末まで在籍は12月の最後の給与、年の中途で非居住者になる人は非居住者となった時、12月支給後に退職した人は退職の時。年の中途で退職しその年に非居住者にならない人は対象外
図1:分かれ目は退職の理由ではなく、その年のうちに非居住者になるかどうか

02いつ年末調整を行うか

年末調整を行う時は、国税庁の手引の区分と、所得税基本通達190-1で確認します。

その人の状況年末調整を行う時根拠
年末まで在籍している本年最後に給与を支払う時(通常は12月)所得税法190条1項
年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により非居住者となった非居住者となった時「令和8年分 年末調整のしかた」6頁/所得税基本通達190-1(2)
12月に支給期の到来する給与等の支払を受けた後に退職した退職の時所得税基本通達190-1(4)
死亡により退職した退職の時所得税基本通達190-1(1)
著しい心身の障害のため退職し、その年中の再就職が明らかに不可能と認められる退職の時所得税基本通達190-1(3)

所得税基本通達190-1は、これらの場合に「該当することとなった時において法第190条の規定を適用する」と定めています。通達が定めているのは適用する時点であって、190条の3つの要件を緩めるものではありません。

03対象にならない人

扶養控除等申告書の提出がない人(乙欄)と、給与等が2,000万円を超える人は、出国するかどうかにかかわらず対象外です。

  • 扶養控除等申告書を提出していない人(月額表・日額表の乙欄適用者)。短期間だけ在籍した外国籍社員で漏れやすい論点です
  • 本年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人(所得税法190条1項の金額要件)
  • 年の中途で退職した人で、手引の表の⑶(12月中に支給期の到来する給与の支払を受けた後に退職した人)に該当しない人
  • 非居住者、日額表の丙欄適用者

対象にならない人は、自分で確定申告をして精算することになります。外国籍社員の場合、出国後に本人が日本の申告をするのは負担が大きいため、在籍しているうちに必要な手続きを伝えておくのが実務的です。確定申告が必要になる人の切り分けは外国人社員・駐在員の確定申告と税務 完全ガイドで整理しています。

04令和8年分は12月1日で計算が変わる

判定するのは出国日ではなく、その年中に支払うべき給与等で「最後に支払をする日」です。

年末調整で使う給与所得控除は、所得税法190条2号が同法別表第五によると定めています。この別表第五について、令和8年法律第12号の附則13条2項は、令和8年中に支払うべき給与等でその最後に支払をする日が令和8年12月1日以後であるものについて新しい別表第五を適用し、12月1日前であるものは従前の例によると定めています。

基礎控除も同じ日で変わります。所得税法86条1項1号の金額は58万円ですが、令和8年12月1日施行の改正後は62万円になります。さらに年末調整では、租税特別措置法41条の16の2第1項の加算額を上乗せした額を使います(同条2項が190条2号ヘを読み替えます)。この加算額は、11月30日以前は合計所得金額に応じて37万円・30万円・10万円・5万円、12月1日以後は合計所得金額489万円以下で42万円・それ以外は5万円です。

令和8年分は最後に支払をする日が11月30日以前か12月1日以後かで、給与所得控除の別表第五・基礎控除58万円と62万円・措置法の加算額・措置法29条の4第4項の読替えが変わる
図2:令和8年12月1日で年末調整の計算が切り替わる

あわせて、12月1日以後は租税特別措置法29条の4第4項が入ります。その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が69万1千円以上220万円未満である場合に、年末調整で使う「給与所得控除後の給与等の金額」を別表第五によらずに計算する、という読替えです。短期間だけ在籍した社員の精算で効いてきます。

ここで押さえておきたいのが、控除の本体は「年分」で決まるという点です。改正後の所得税法86条(基礎控除)は令和8年分以後の所得税について適用されます(令和8年法律第12号附則9条1項。給与所得控除を定める28条も同附則3条1項で同じ)。それでも11月の年末調整が改正前の額になるのは、これらの改正規定の施行日が令和8年12月1日だからです(同附則1条4号イ)。

11月までに出国時の申告を終えた人には、あとから直す道があります。令和8年12月1日前に同年分の所得税について所得税法125条または127条の確定申告書を提出した人(年の中途で出国する人の申告はこの127条です)は、改正後の86条・28条・2条1項32〜34号の適用で異動が生じたときは、同日から5年以内に更正の請求ができます(同附則9条2項・3条2項・2条2項、国税通則法23条1項)。11月に出国精算を済ませた社員には、この手続きがあることを伝えておくと、本人が損をしません。

11月に出国精算を済ませても、その後に未払給与や賞与を支払えば、「最後に支払をする日」は12月1日以後になります。その場合は新しい別表第五で計算します。

05控除の判定は「出国の時の現況」で固める

控除の判定は、12月31日ではなく「出国の時の現況」で行います。

所得税法85条は、障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生に当たるかどうか、同一生計配偶者や扶養親族に当たるかどうかの判定を、その年12月31日(その者がその年の中途において死亡し、又は出国をする場合には、その死亡又は出国の時)の現況によると定めています。

ここでいう「出国」には定義があります。同法2条1項42号は、居住者については国税通則法117条2項の納税管理人の届出をしないで国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう、としています。納税管理人を届け出て日本を離れる場合は、この「出国」には当たりません。国外に住む家族を扶養に入れる場合の書類と期限は外国籍社員の国外扶養親族で扱っています。

06出国した後に支払う給与

出国後に支払う給与でも、国内勤務に基因する部分は日本で源泉徴収します。

非居住者になった後に支払う給与であっても、国内において行う勤務に基因するものは国内源泉所得です(所得税法161条1項12号イ)。支払者はその支払の際に所得税を徴収し、徴収の日の属する月の翌月10日までに納付します(同212条1項)。税率は20%です(同213条1項1号)。これに復興特別所得税が併せて徴収され、その額は所得税の額に2.1%を乗じた金額です(復興財確法28条1項・2項)。合わせて20.42%になります。

出国の時までに支払う給与は年末調整で精算し、出国後に支払う国内勤務に基因する給与は20.42%で源泉徴収する。1月から4月の退職等は住民税を5月31日までに一括徴収する
図3:出国の前後で扱いが変わる

07住民税の一括徴収

1月1日から4月30日までの退職等は、5月31日までに支払う給与等から残りを一括徴収します。

地方税法321条の5第2項は、給与の支払を受けないこととなった場合、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額について特別徴収義務者は徴収・納入の義務を負わないとしつつ、ただし書でその事由がその年の翌年1月1日から4月30日までの間に発生した場合には、その年の5月31日までに支払われるべき給与または退職手当等から一括徴収すると定めています。6月1日から12月31日までの間に発生した場合は、本人からの申出があるときに一括徴収します。

最終給与の手取りが大きく変わる場面です。本人には、住民税が前年の所得に対する後払いであることを含めて、早めに説明しておくと行き違いが起きません。

主な根拠資料

本記事の条文・条番号・金額は2026年9月20日にe-Gov法令検索と国税庁の公表資料の本文で確認しました。社会保険の手続き、脱退一時金の課税、母国側の申告は扱っていません。個別の判定は事実関係により異なります。

08よくある質問(FAQ)

転勤ではなく退職して帰国する社員にも、出国の時の年末調整はできますか。

年末調整ができるかどうかを決めるのは退職の理由ではありません。所得税法190条1項は、扶養控除等申告書を提出した居住者で、その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2,000万円以下である人について、その申告書の提出を経由した支払者がその年最後に給与等の支払をする場合に年末調整を行うと定めています。国税庁「令和8年分 年末調整のしかた」5〜6頁の表も、年末調整の対象となる人として「年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人」を挙げ、年末調整を行う時を「非居住者となった時」としており、理由を転勤に限っていません。

12月に退職する社員は、いつ年末調整をしますか。

12月に支給期の到来する給与等の支払を受けた後に退職した場合は、その退職の時に年末調整を行います(所得税基本通達190-1(4))。一方、年の中途で退職して、その年のうちに非居住者にならない人は年末調整の対象になりません。その人は自分で確定申告をして精算します。

令和8年分は11月と12月で計算が違うと聞きました。何が変わりますか。

年末調整で使う給与所得控除の表(所得税法別表第五)は、令和8年中に支払うべき給与等で「その最後に支払をする日」が令和8年12月1日以後のものについて新しい表を使い、12月1日前のものは従前の例によります(令和8年法律第12号附則13条2項)。基礎控除も、所得税法86条1項1号の金額が58万円から62万円になり、租税特別措置法41条の16の2第1項の加算額も変わります。判定するのは出国日ではなく、最後に給与等を支払う日です。

出国したあとに支払う給与からは、どのように源泉徴収しますか。

国内において行う勤務に基因する給与は、非居住者になった後に支払うものでも国内源泉所得です(所得税法161条1項12号イ)。支払者はその支払の際に所得税を徴収して翌月10日までに納付し(212条1項)、税率は20%です(213条1項1号)。これに復興特別所得税が併せて徴収され、その額は所得税の額に2.1%を乗じた金額です(復興財確法28条1項・2項)。合わせると20.42%になります。

住民税はどうなりますか。

1月1日から4月30日までの間に退職等があった場合は、5月31日までに支払われる給与または退職手当等から、その年度の残りの月割額を一括して徴収します(地方税法321条の5第2項ただし書)。6月1日から12月31日までの間に退職等があった場合は、本人からの申出があるときに一括徴収します。最終給与の手取りが大きく変わるため、本人への説明を先にしておくと行き違いが起きません。

11月に出国して年末調整と出国時の申告を終えました。12月1日からの改正に合わせて直せますか。

直せます。令和8年12月1日前にその年分の所得税について所得税法125条または127条の確定申告書を提出した人は、改正後の所得税法86条・28条・2条1項32号から34号までの適用で異動が生じたときは、同日から5年以内に税務署長に対して更正の請求をすることができます(令和8年法律第12号附則9条2項・3条2項・2条2項、国税通則法23条1項)。年の中途で出国する人の確定申告は127条の申告です。

【参照】所得税法(e-Gov法令検索)85条・190条・別表第五/租税特別措置法29条の4・41条の16の2/所得税基本通達190-1。本記事は一般的な解説であり、個別の判断は事実関係により異なります。

🏢 年末調整の前に、対象者の切り分けから

国外扶養親族の年齢区分の判定、送金記録の集計、書類の要否まで。確定申告が必要になる社員の切り分けとあわせて、BIG4出身の税理士が引き取ります。人事の作業はご紹介と完了確認だけです。

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山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。