代表取締役等住所非表示制度について

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代表取締役等住所非表示制度について

代表取締役等住所非表示制度について。プライバシー保護とビジネス信用のバランス、申請手続きを整理。

01制度の趣旨と背景

POINT 01
制度の概要
2024年10月施行の改正商業登記法。代表取締役等の住所を一般公開から非表示にできる制度。
POINT 02
対象と要件
株式会社の代表取締役・代表執行役・清算人が対象。申請時に住所証明書類の提出が必要。
POINT 03
メリットと注意点
プライバシー保護に有効。ただし、登記事項証明書取得や取引先信用には影響なし。

法人の登記簿にはこれまで代表取締役の氏名だけでなく住所も記載されており、誰でも登記事項証明書を取得して閲覧できました。そのため、企業経営者の自宅住所が公になることで個人情報保護やプライバシー確保の観点から問題視されてきました。

こうした背景から、まず2022年9月にDV・ストーカー被害者等を対象とした非表示制度が導入され、さらに2024年10月からはすべての株式会社代表者を対象とした非表示制度が施行されることとなりました。

02制度の概要と法的根拠

2024年10月1日施行の商業登記規則第31条の3により、株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人の住所を、登記事項証明書の写しから「市区町村まで」に省略表示できる制度が始まりました。プライバシー保護とビジネス信用のバランスを取るための制度です。

住所非表示の対象は「代表取締役等」に限定されています。具体的には①代表取締役、②代表執行役(指名委員会等設置会社)、③代表清算人の3類型のみで、平取締役・監査役・執行役(非代表)は対象外です。また、対象会社は株式会社のみで、合同会社(LLC)の代表社員等は対象外となっています。これは、株式会社が広範に登記情報を取引先や金融機関と共有する慣行があり、プライバシーリスクが特に高いという立法事実によるものです。

制度の趣旨は「登記情報のオープン化」と「個人のプライバシー保護」のバランスにあります。法人登記情報は公示原則に基づき広く公開されますが、デジタル化により個人特定リスクが格段に高まったため、市区町村レベルまでの開示でビジネスの透明性は維持しつつ、自宅特定リスクを下げる設計となっています。

項目内容
法的根拠商業登記規則 第31条の3/商業登記法施行規則の改正
施行日2024年10月1日
対象株式会社の代表取締役・代表執行役・代表清算人
非表示の範囲登記事項証明書(コピー)上で市区町村まで表示、それ以下を省略
登記簿原本原本には全住所が記録(裁判所・行政機関は閲覧可)
申請方式登記申請時に「非表示の希望」を併せて申請

改正商業登記規則(令和6年法務省令第28号)により、代表取締役等の住所を登記事項証明書などに表示しない制度が創設されました。

対象は株式会社の「代表取締役」「代表執行役」「代表清算人」です。合同会社などは対象外です。登記記録には正確な住所が保持されますが、証明書には市区町村までしか表示されません。

03制度を利用できる場面

主に「ネット上に自宅住所が晒される」リスクを懸念する経営者層が活用しています。プライバシーリスクと事業上の必要性が交差する場面で価値を発揮する制度です。

制度利用は主に「個人住所が事業上の弱点になる」場面で価値を発揮します。一方、企業の社会的信用を高めたい場面(IPO準備中・上場会社等)では、住所非表示がネガティブに評価されるリスクもあるため、目的に応じた使い分けが必要です。以下は典型的な活用パターンです。

PROFILE 01
スタートアップ創業者
自宅を本店登記している創業期に、登記簿経由での自宅特定を防ぎたいケース。資金調達フェーズで投資家向け登記情報共有時にもメリット大。
PROFILE 02
配信者・インフルエンサー
法人成りした YouTuber・配信者など、不特定多数からの個人情報露出リスクが高い職業。アンチ・ストーカー対策。
PROFILE 03
DV被害者・要保護経営者
過去のDV被害や脅迫等で住所を公にできない経営者。住民票の支援措置と組み合わせて活用するパターン。

以下の登記と同時に申出が可能です。単独申請はできません。

  • 会社設立登記
  • 代表者の就任・重任登記
  • 代表者の住所変更登記
  • 本店移転に伴う登記

04手続きの流れ

申請は新規登記時または住所変更登記時に行います。専用の追加様式と非上場会社の場合は実在証明書が必要です。司法書士に依頼するのが一般的です。

手続きは「住所非表示の希望」を登記申請と同時に提出する形式です。後から単独で非表示申請することはできず、必ず登記イベント(設立、本店移転、代表者変更等)に紐付ける必要があります。非上場会社では代表取締役の実在性を証明する書類(運転免許証写し、公共料金請求書等)を追加添付するのが特徴です。上場会社は有価証券報告書提出義務があるため、実在性証明は不要です。

申請書類の準備
登記申請書に「住所非表示の希望」欄を記載/申出書を別途添付
添付書類(非上場)
実在性確認のため、公共料金請求書・運転免許証コピー等を添付
法務局へ提出
本店所在地を管轄する法務局に登記申請と同時に提出
登記反映
通常 1〜2週間で登記完了。以降の証明書取得時から市区町村まで表示に

1. 登記申請書の記載

「代表取締役等住所非表示措置の申出」を申請書に明記します。対象者の資格・氏名・住所を記載。

2. 添付書類(非上場会社の場合)

  • 本店が実在することの証明(配達証明郵便等)
  • 代表者の住所証明書(住民票、免許証コピー等)
  • 実質的支配者に関する書類(本人確認記録、申告書等)

3. 登記申請の実行

オンライン申請または書面で行います。住所非表示の申出自体には追加の登録免許税は不要です。

05登記簿の記載イメージ

制度を利用すると、登記事項証明書(取引先や金融機関に提示するもの)の代表取締役住所欄が下記のように変化します。原本(オンライン登記情報・裁判所閲覧)は全住所のまま残る点に注意。

実務上もっとも誤解が多いのが「登記簿そのものが書き換わるわけではない」点です。法務局が保管する登記簿原本には全住所が記録されたままで、裁判所、警察、税務署、金融庁等の法定閲覧権限を持つ機関は引き続き全住所を確認できます。本制度は「登記事項証明書のコピー」というアウトプット層での省略に過ぎず、データそのものの抹消・隠匿ではない点を依頼者に正しく説明する必要があります。

区分制度利用前制度利用後
登記事項証明書東京都港区赤坂1-2-3-405東京都港区(以下省略)
登記簿原本全住所が記録全住所が記録(変化なし)
登記情報提供サービス全住所表示全住所表示(変化なし)
裁判所・行政機関全住所閲覧可全住所閲覧可
⚠ 重要:「証明書のコピー」上で省略されるのみで、登記情報そのものを抹消するわけではありません。訴訟・税務調査・行政手続では全住所が依然として参照されます。

以下は、法務省が公表している「代表取締役等住所非表示制度」に関する登記事項証明書の記載例です。

代表取締役等住所非表示制度 登記事項証明書の記載例
出典:法務省「代表取締役等住所非表示措置について」

出典:法務省「代表取締役等住所非表示措置について」

この画像は、代表取締役等住所非表示制度の適用前後における登記事項証明書の記載内容を比較したものです。
非表示措置を講じることで、市区町村名までの表示に限定され、番地以下の住所は証明書に表示されなくなります。

適用後は、登記事項証明書では「東京都千代田区」までしか表示されず、それ以降の番地以下は表示されません。

06注意点・制度の限界

申請しても全てのケースで「住所が完全に隠れる」わけではありません。下記4つの限界を把握した上で活用する必要があります。

制度の限界を正しく理解することが、依頼者への適切な助言につながります。以下4点は、利用を勧める前に必ず説明すべき重要な留意点です。「住所非表示にすれば自宅は完全に隠れる」という誤った期待値を作らないよう、限界の事前共有が必須です。

① 過去の登記履歴は変更されない:制度施行前に登記済みの代表取締役住所は、過去の登記事項証明書では引き続き全住所表示。「履歴」を遡れば見えてしまう。
② 金融機関・契約相手の実務:銀行口座開設・賃貸契約・許認可申請などで「実住所の証明書類」を別途求められるケースが多い。登記上の非表示と実務上の必要は別。
③ 海外居住代表者は別ルール:非居住者が代表取締役の場合、別途国際的な居住証明や日本国内住所を持つ代表者の登記が必要なケースあり。
④ 取締役会非設置会社の留意:取締役全員が「代表」となる構造の場合、制度利用には取締役会設置への定款変更が必要となる場合がある。
  • 登記申請と同時でなければ申出不可
  • 過去の登記記録は非表示にならない(遡及不可)
  • 金融機関・取引先で追加資料を求められる可能性あり
  • 住所変更があれば改めて申出が必要

07メリットとデメリット

本制度はプライバシー保護の強力な選択肢ですが、信用情報との両立を考慮する必要があります。代表取締役本人と会社双方の視点で評価しましょう。

本制度のメリットとデメリットは表裏一体です。プライバシー保護のメリットを享受する代わりに、取引透明性のデメリット(取引先からの追加説明要求、信用調査時の追加コスト)を受け入れる構造です。経営者のステージ(創業期/成長期/IPO準備期)によって最適解が変わる点に注意が必要です。

MERIT | メリット
  • 登記簿経由の自宅住所特定リスク大幅低減
  • 登記情報の二次流通による拡散防止
  • 創業者個人のプライバシー保護で経営に集中できる
  • 家族・親族の安全確保(ストーカー・DV対策)
DEMERIT | デメリット
  • 取引先金融機関で「信用調査時の説明負担」増
  • 非上場会社は添付書類準備に追加コスト・時間
  • 過去の登記履歴は遡及されない
  • 登記簿原本・行政機関では引き続き全住所参照可

メリット

  • 自宅住所の非公開によりプライバシー保護
  • 嫌がらせ・詐欺リスクの軽減
  • 在宅起業の心理的ハードルを下げられる
  • 追加費用なしで利用可能

デメリット

  • 添付書類の用意がやや煩雑
  • 銀行や重要契約時に本人確認資料の追加が必要な場合あり
  • 合同会社などは対象外

08まとめ

この制度により、代表取締役のプライバシーを守りながら安全に会社を運営することが可能になります。とくに設立時に申出を行えば、登記簿に一切自宅住所を残すことなく起業が可能です。興味がある方は、登記のタイミングを逃さず活用されることをおすすめします。

ACTION | 制度活用前に押さえる3つ
  1. 新規登記時に併せて申請創業時・本店移転時など登記イベントに合わせて非表示申請する。後追い変更も可能だが、添付書類とコストが重なる。
  2. 金融・賃貸契約への影響を事前確認銀行・賃貸オーナー・許認可窓口は実住所を要求するケース多数。事前に各方面と擦り合わせる。
  3. 司法書士に申請を依頼添付書類(実在証明)の収集・記載要件が細かく、自力申請より司法書士費用5〜10万円を払って確実に通すのが標準。
山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。