外国人社員の年末調整【令和8年版】|居住者判定・租税条約・国外扶養

外国籍社員|人事・給与実務ガイド

外国人社員の年末調整【令和8年版】|居住者判定・租税条約・国外扶養

令和8年度税制改正で、基礎控除は最大104万円(令和8年分・9年分)、給与所得控除の最低保障は74万円に引き上げられ、給与収入だけなら年178万円まで所得税がかからない水準になりました。この新しい控除額が初めて適用されるのが、令和8年12月の年末調整です(月々の源泉徴収税額表の改定は令和9年1月から)。ただし外国籍社員については、控除額の話の前に「居住者判定」「租税条約」「国外居住親族」という3つの関門があります。本記事は、人事・給与計算の実務担当者向けに、この3つの関門を実務の順序どおりに解説します。

監修:公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也|最終更新日:2026年7月20日|令和8年度税制改正対応

この記事の要点
  • 令和8年分は基礎控除が最大104万円・給与所得控除の最低保障が74万円。適用は12月の年末調整で一括精算(月々の税額表改定は令和9年1月から)
  • 外国籍社員でも、税務上の「居住者」なら原則どおり年末調整の対象。判定は滞在の実績ではなく入国時の滞在予定
  • 非居住者の国内勤務給与は一律20.42%の源泉徴収。税額表・年末調整は使わない
  • 国外居住親族の扶養控除は30〜69歳の壁と送金関係書類がカギ。租税条約は国籍ではなく条項と手続で判定

01令和8年分の控除額を正しく押さえる:104万円・74万円・「178万円」

令和8年分は基礎控除が最大104万円・給与所得控除の最低保障が74万円。月々の源泉徴収は変えず、12月の年末調整で一括精算します。

「103万円の壁」を巡る議論は、2段階の改正で決着しました。まず令和7年度税制改正で、令和7年分の基礎控除が最大95万円・給与所得控除の最低保障が65万円となり(給与のみなら非課税ラインは160万円)、続く令和8年度税制改正(令和8年12月1日施行)で、令和8年分以後の基礎控除の本則が62万円に引き上げられたうえ、令和8年分・9年分には特例の上乗せが設けられました。2年連続で数字が動いたため実務の現場には混乱が残っていますが、令和8年分の年末調整に適用される数字は次のとおりです。

基礎控除:最大104万円(本則62万円+特例42万円)

基礎控除は一律の金額ではなく、本人の合計所得金額に応じた段階構造です。令和8年分・9年分には時限的な特例上乗せがあります(国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」)。

本人の合計所得金額令和8年分・9年分令和10年分以後(現行法)
489万円以下104万円(本則62万円+特例42万円)62万円
(132万円以下は99万円)
489万円超 655万円以下67万円(本則62万円+特例5万円)62万円
655万円超 2,350万円以下62万円62万円
2,350万円超従来どおり段階的に縮小

ポイントは2つあります。第一に、「104万円」が適用されるのは合計所得金額489万円以下(給与収入だけなら年収665万5,556円以下)の層で、大半の外国籍社員はここに収まりますが、給与水準の高い駐在員・役員は67万円・62万円の区分になることです。第二に、特例の上乗せ(42万円・5万円)は令和8年分・9年分限りの時限措置で、令和10年分以後は現行法では62万円(合計所得金額132万円以下の層は恒久上乗せにより99万円)となることです。雇用契約の更新や給与改定の場面で、令和10年以降の手取りの変化まで先回りして説明しておくと、後のトラブルを避けられます。

給与所得控除:最低保障74万円

給与所得控除の最低保障額は、令和7年分の65万円から、令和8年分・9年分は74万円(本則69万円+特例5万円)に引き上げられました。この74万円は給与収入220万円以下の範囲に適用されます(220万円超は改正なし)。ただし令和8年分・9年分については、給与収入69万1,000円以上220万円未満の帯について給与所得の金額を直接定める特例計算が置かれているため、実際の年末調整では国税庁の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の令和8年分を使います(令和10年分以後は本則に戻り、最低保障は69万円です)。基礎控除104万円と合わせると、給与収入だけの人は年178万円まで所得税がかからない計算になります。いわゆる「178万円の壁」と呼ばれている水準です(法令上の用語ではなく通称です)。

令和8年分の非課税ライン178万円(基礎控除104万円+給与所得控除74万円)と適用スケジュール
図1:令和8年分・9年分は基礎控除104万円+給与所得控除74万円=178万円ライン。月々の税額表は改正前のままで、令和8年12月の年末調整で一括精算する。

最大の実務ポイント:月々の源泉徴収は変わらず、12月の年末調整で一括精算

令和8年度改正には適用タイミングのねじれがあります。改正は令和8年12月1日施行で令和8年分の所得税から適用されますが、月々の源泉徴収税額表の改定は令和9年1月からです。つまり令和8年1月〜11月の給与は改正前ベースの税額表で源泉徴収されており、新しい控除額(104万円・74万円)との差額は12月の年末調整で一括精算されます。例年より還付額が大きくなる社員が多く生じ得る年です(給与水準や扶養状況によっては変わらない人もいます)。還付の原資は、通常その月以降に納付する源泉所得税から控除して精算します(不足分は翌月以降の納付額から順次控除。一定の場合は税務署への還付請求も可能)。あわせて「なぜ今年は還付が多いのか」という社員向けの説明(外国籍社員には母国語・やさしい日本語の案内)を準備しておくと、問い合わせ対応がスムーズになります。

ひとつ重要な例外があります。海外転勤・退職などで令和8年分最後の給与が11月30日以前に支払われ、その時点で年末調整を行う場合(出国時年末調整など)には、改正後の控除はその年末調整に適用されません。この場合、本人が確定申告等によって改正後の控除の適用を受けることになります。年内に出国する外国籍社員が多い会社では、本人への案内まで含めて準備しておきたいポイントです。

あわせて押さえる:特定親族特別控除と扶養親族の所得要件

令和7年分から、19歳以上23歳未満の親族(大学生年代の子など)について「特定親族特別控除」(最大63万円)が創設されています。親族の所得が扶養控除の要件内(令和8年分は合計所得金額62万円以下)なら従来どおり扶養控除(特定扶養親族63万円)を適用し、62万円超123万円以下(給与収入だけならおおむね136万円超197万円以下)は所得に応じて段階的にこの新控除が残る、という階層構造です。外国籍社員が母国に大学生年代の子を残しているケースでも適用の余地がありますが、国外居住親族については後述(§04)の書類要件が別途かかります。また、扶養親族・同一生計配偶者の所得要件は令和8年分から62万円以下(給与収入だけなら136万円以下)に引き上げられ、これまで対象外だった家族が新たに対象へ入ってくる可能性があります。

実務上の注意:給与ソフトの「年末調整モジュール」の対応時期を確認

令和8年分は「月次の税額表は改正前のまま・年末調整だけ改正後の控除額」という特殊な年です。給与計算ソフトの年末調整機能が改正後の基礎控除(104万円)・給与所得控除(74万円)・基礎控除申告書の新様式に対応しているか、アップデートの提供時期を9月〜10月の準備段階でベンダーに確認してください。月次側が変わらないため「対応済みのつもりで未対応」に気づきにくいのが、この年の落とし穴です。

02居住者判定は「滞在実績」ではなく「滞在予定」で決まる

年末調整の対象かどうかは国籍や在留資格ではなく、所得税法上の「居住者」かどうかで決まります。判定の主役は滞在の実績ではなく入国時の予定です。

「居住者」の定義と、実務で最も誤解されている点

外国籍社員が年末調整の対象になるかどうかは、在留資格ではなく、所得税法上の「居住者」かどうかで決まります。居住者とは、①国内に住所(生活の本拠)を有する個人、または②現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人です(所得税法第2条第1項第3号)。

ここで実務上決定的に重要なのが、住所の「推定」規定です。国内に居住することになった個人が、国内において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合、入国した日から国内に住所を有するものと推定されます(所得税法施行令第14条)。つまり、1年以上の雇用契約や技能実習計画に基づいて来日した社員は、「来日からまだ半年しか経っていない」としても、入国日から居住者です。

「滞在が1年を超えた時点で居住者になる」という理解は誤りで、実務ではまず滞在の実績ではなく、入国時点の予定(契約期間)が最重要の判断材料になります。逆方向の推定もあり、国外で継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合などは非居住者側に推定されます(同施行令第15条)。なお、判定の根本はあくまで「生活の本拠」がどこにあるかという客観的な事実認定であり、推定は住居・家族・資産などの実態によって覆ることもあります。

外国籍社員の居住者判定フロー(入国時の滞在予定で判定)
図2:居住者判定は滞在の実績ではなく「入国時の予定」で決まる。1年以上の勤務予定なら入国日から居住者。

非居住者になるのはどんなケースか

雇用に伴う来日で非居住者に当たる典型は、当初から滞在予定が1年未満のケースです。たとえば8か月の短期プロジェクトのために来日し、延長の予定がなく、家族帯同や住居の状況からも国内に生活の本拠があるとはいえない場合は、非居住者としてスタートします。その後に契約が延長されて滞在予定が1年以上になったときは、一般に延長が確定した日以後は居住者として扱いが切り替わります(居住形態の変更。正確には契約・住居・家族などの事実関係で判定します)。

非居住者の給与は「税額表」ではなく一律20.42%

非居住者に支払う給与のうち国内勤務に対応する部分は、国内源泉所得として支払額に対し一律20.42%(復興特別所得税を含む)で源泉徴収する分離課税です(所得税法第212条・第213条)。月額表・日額表といった源泉徴収税額表は使わず、扶養控除等申告書による甲欄計算の対象にもならず、年末調整も行いません。通常の使用人給与については、原則としてこの源泉徴収で日本での課税関係が完結します。

注意すべきは、「年末調整の対象外=会社の手間が少ない」わけではないことです。20.42%の徴収・納付を失念していた場合、本来の納期限に遅れた源泉所得税として取り扱われ、不納付加算税や延滞税の対象になり得ます。誤って居住者用の税額表で少なく徴収してしまうミスは、外国籍社員の給与実務で最も金額インパクトが大きい部類の誤りです。

実務メモ:確認するのは「入社日」ではなく「入国日と契約期間」

中途入社の外国籍社員は、自社への入社日ではなく「日本への入国日」と「入国時の滞在予定(契約期間・在留資格の内容)」で判定します。前職から日本に居住している人は、前職の入国時点ですでに居住者になっていることがほとんどです。人事システム上、入国日と在留期間・契約期間をセットで記録しておくと、毎年の判定が機械的にできます。

03租税条約は「国籍」ではなく「条項と手続」で見る

条約の免税は「国籍」では決まりません。条項の要件と支払前の届出書がそろって初めて機能します。

条約は「控除の上乗せ」ではない

租税条約は、二重課税を防ぐために国と国の間で課税権を配分する取り決めです。「条約を使うと控除額が増える」という性質のものではなく、特定の条項の要件を満たす所得について、日本の課税が免除(または軽減)されるという仕組みです。給与実務で登場するのは、主に次の3類型です。

  • 短期滞在者免税(いわゆる183日ルール):滞在183日以内・給与の支払者が日本の居住者でない・日本の恒久的施設が給与を負担していない、という3要件をすべて満たす場合の免税。183日の数え方(暦年か・任意の12か月か)は条約ごとに異なります。日本法人が雇用して給与を払う通常のケースでは要件を満たしません。海外親会社からの短期出張者などで検討します。
  • 学生(留学生)条項:教育を受けるために滞在する学生への一定の給付の免税。内容は条約により大きく異なります(後述)。
  • 事業修習者等の条項:訓練目的の滞在者への一定の給付の免税。多くの条約で、免税対象は生計・教育のための国外からの送金等に限られます。

同じ「留学生アルバイト」でも国によって結論が逆になる

実務で誤りが集中するのが留学生のアルバイト給与です。たとえば日中租税条約の学生条項では、専ら教育を受ける目的で滞在する中国からの留学生(来日直前まで中国の居住者であった人)が生計・教育のために受け取る給付が免税とされ、日本国内のアルバイト給与も免税の対象となり得ることが国税庁の質疑応答でも示されています。一方、ベトナムなど多くの国との条約では、免税となるのは国外から送金される生計・教育のための給付だけで、日本国内のアルバイト給与は通常どおり課税されます。「留学生だから免税」でも「留学生だから課税」でもなく、出身国(正確には条約上の相手国の居住者かどうか)と条約の文言で結論が変わります。

留学生アルバイトの租税条約免税は出身国で結論が逆になる(中国とベトナムの対比)と届出手続きの流れ
図3:同じ留学生アルバイトでも条約の学生条項の書き方で結論が逆になる。免税は様式8の事前提出が前提で、出し忘れは様式11の還付請求で立て直す。
典型パターン条約免税の可能性実務対応
中国からの留学生のアルバイト学生条項による免税の余地あり「租税条約に関する届出書」を支払前に提出
ベトナムなど多くの国の留学生のアルバイト国内給与は原則課税(免税は国外送金部分)通常どおり源泉徴収(乙欄/甲欄)
技能実習生の給与雇用の対価であり原則課税通常の給与として源泉徴収・年末調整
海外親会社からの短期出張者(183日以内・国外払い)短期滞在者免税の検討余地要件3つを満たすか個別確認
通常の就労在留資格での雇用(技術・人文知識・国際業務など)免税規定は基本的になし通常の源泉徴収・年末調整

特に強調したいのは、「技能実習生は租税条約で非課税」という理解は誤りだという点です。技能実習生の給与は雇用契約に基づく労働の対価であり、原則として課税されます。しかも§02のとおり、1年以上の実習計画で来日した実習生は入国日から居住者ですから、日本人従業員と同じように源泉徴収し、年末調整の対象に含めるのが基本形です。

手続:届出書は「支払の前」、忘れたら「還付請求」

条約の免税を受けるには、給与の支払を受ける本人が「租税条約に関する届出書」(留学生・事業修習者等の場合は様式8)を、入国の日以後、最初にその給与の支払を受ける日の前日までに、支払者(会社)を経由して税務署へ提出する必要があります(記載内容に異動があった場合はその都度再提出)。届出書の提出がないまま支払った給与は、条約があっても国内法どおり源泉徴収します。

提出を忘れていた場合でも、後から届出書とあわせて「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書」(様式11。条約・所得の種類により使用様式は要確認)を提出することで、納めすぎた税額の還付を受けられる場合があります。年末調整で取り戻すことはできないので、「年末にまとめて精算すればよい」という運用は成り立ちません。

実務メモ:判定の起点は「国籍」ではない

条約の適用可否は、パスポートの国籍だけでは決まらず、「相手国の(条約上の)居住者かどうか」と条項の要件で判定します。たとえば中国籍でも、来日直前まで第三国に居住していた場合は日中条約の学生条項が使えないことがあります。届出書には該当する条約の条項番号を記載するため、採用時に「来日直前の居住国」を確認しておくと手戻りがありません。

04国外居住親族の扶養控除:30歳〜69歳の壁と送金書類

国外の家族の扶養控除は「年齢 → 書類 → 所得」の順で確認します。最初の関門は30〜69歳の親族です。

まず年齢で絞られる(令和5年分からの制限)

外国籍社員が母国の家族を扶養控除の対象にするケースは多いですが、国外居住親族(非居住者である親族)については、令和5年分から対象が次のいずれかに限定されています。

  • 16歳以上30歳未満の親族
  • 70歳以上の親族
  • 30歳以上70歳未満のうち、次のいずれかに該当する親族
    • 留学により国内に住所・居所を有しなくなった人
    • 障害者である人
    • その社員から生活費・教育費として年38万円以上の送金を受けている人

実務で最も引っかかるのがこの「30歳〜69歳」の層です。母国にいる働き盛りの兄弟姉妹や60代の親は、年38万円以上の送金(とその証拠書類)がなければ、そもそも扶養控除の対象になりません。この年齢制限の説明が漏れたまま扶養控除等申告書を回収すると、書き直しの往復が発生します。

国外居住親族の扶養控除の年齢要件(16〜29歳・70歳以上は対象、30〜69歳は留学・障害者・年38万円以上送金のいずれかが必要)
図4:国外居住親族の扶養控除は年齢で入口が決まる。実務で最も引っかかるのは「30〜69歳の壁」と送金関係書類。

所得要件は62万円以下(令和8年分)——ただし「日本の国内源泉所得」で判定

扶養親族の所得要件は、令和7年分の58万円以下から、令和8年分は合計所得金額62万円以下(給与収入だけなら136万円以下)に引き上げられています。ここで見落とされがちなのが、非居住者である親族の合計所得金額は日本の国内源泉所得だけで判定するという点です。母国の勤め先から受け取る給与は日本の課税所得ではないため、この判定には算入されません。「母国で働いている親だから扶養に入れられない」と機械的に断る必要はありません。ただし「生計を一にしている」という実態要件は別途必要で、親が自活していて送金実態もないケースまで扶養にできるわけではありません。実務上のカギは所得証明ではなく、次の書類要件です。

必要書類:親族関係書類と送金関係書類

国外居住親族について扶養控除・特定親族特別控除などを受けるには、次の書類の提出(または提示)が必要です。

  • 親族関係書類:①戸籍の附票の写しなど日本の公的書類+その親族の旅券の写し、または②外国政府(外国の地方公共団体)が発行した氏名・生年月日・住所の記載がある書類(出生証明書・婚姻証明書など)。外国語の書類には翻訳文が必要です。
  • 送金関係書類:金融機関の外国送金依頼書の控えや、クレジットカード(家族カード)の利用明細など、その年に生活費・教育費を支払ったことが分かる書類。30歳以上70歳未満で「38万円以上送金」の区分を使う場合は、合計38万円以上であることが分かるものが必要です。
  • 留学の区分を使う場合は、留学ビザ等に相当する書類の写し。

送金関係書類は扶養親族ごとに必要です。たとえば母親の口座にまとめて送金し、「父と祖母の生活費も含んでいる」と説明しても、原則として書類上の受取人である母親の分しか認められません。父・祖母も対象にしたい場合は、それぞれに送金するのが確実です。

実務上の注意:送金書類は「その年」のもの・早めの案内が全て

送金関係書類はその年中の支払に係るものが必要です。年末調整の書類配布(11月)の段階で初めて案内すると、「今年は送金記録が1件もない」「明細の取り寄せが年内に間に合わない」という事態が起こります。国外居住親族を扶養に入れている(入れたい)社員には、9月〜10月の準備段階で必要書類を予告し、送金明細の取り寄せを始めてもらうのが実務の定石です。

059月〜12月の実務スケジュールとつまずきやすいポイント

勝負を決めるのは9〜10月の棚卸しです。11月からの回収・突合は「準備の答え合わせ」になります。

外国籍社員がいる会社の年末調整カレンダー(9〜10月準備・11月回収・12月精算・出国者は都度対応)
図5:令和8年分は12月の年末調整で改正後の控除を一括精算する。出国者対応だけは季節に関係なく「その都度」発生する。

9月〜10月:判定と案内の準備

  • □ 外国籍社員の一覧を作成(氏名・国籍・在留資格・入国日・契約期間・在留期限)
  • □ 居住者/非居住者を「入国時の滞在予定」ベースで判定し、判定結果と根拠をメモ(§02)
  • □ 年内に出国(帰国・転勤)予定の社員を洗い出し(出国時年末調整の要否確認)
  • □ 租税条約の適用がありそうな社員(留学生アルバイト・短期出張者など)を特定し、届出書の提出状況を確認(§03)
  • □ 国外居住親族を扶養に入れている社員へ、年齢区分・必要書類(親族関係書類・送金関係書類)を予告(§04)
  • □ 給与ソフトの年末調整機能が改正後の控除額(基礎控除104万円・給与所得控除74万円)と新様式に対応するか、更新時期をベンダーに確認(§01)

11月〜12月:回収・突合・精算

  • □ 扶養控除等(異動)申告書・基礎控除申告書等を配布・回収(外国籍社員には記入例やふりがな付きの案内を用意)
  • □ 国外居住親族の申告内容と書類(親族関係・送金関係)を突合。年齢区分(30〜69歳の要件)を必ずチェック
  • □ 条約適用者の届出書・在留状況に変更がないか確認
  • □ 年の中途で非居住者になった社員の出国時年末調整の処理を確認(要件を満たす場合に出国の都度実施。11〜12月に限らない。※11月30日以前に行う出国時年末調整には令和8年度改正後の控除が適用されない点に注意→§01
  • □ 12月支給分で年税額を精算し、源泉徴収票を作成・交付

つまずきやすいポイント(想定される誤りの例)

以下は特定の事案ではなく、この分野で典型的に起こり得る誤りの例です。

  • 居住者判定を「実績1年」でやってしまう——1年以上の契約で来日した社員を「まだ1年経っていないから」と非居住者扱いし、20.42%で源泉徴収してしまう(またはその逆)。判定は入国時の予定ベースです(§02)。
  • 非居住者への20.42%徴収漏れ——短期滞在予定の非居住者に居住者用の税額表を適用してしまい、徴収不足に。不納付加算税・延滞税の対象になり得ます。
  • 留学生バイトの条約届出の出し忘れ——免税で処理していたのに届出書が未提出だった、というケース。発覚後は国内法どおりの源泉徴収が必要になり、還付請求(様式11)での立て直しになります。
  • 国外居住親族の書類不備——30〜69歳の親族の送金書類がない、まとめ送金で親族ごとの書類が揃わない、翻訳文が付いていない、など。年末調整のやり直しで最も多いパターンのひとつです。

06外部専門家に相談すべきケース(当事務所の対応範囲)

基本形はこの記事のとおり。ただし入出国の反復・二重居住・出国精算は個別判断の世界です。

この記事で扱った範囲と、個別判断が必要な範囲

ここまでの内容は、外国籍社員の年末調整の「基本形」です。次のようなケースは条文・条約・事実関係の個別判断が必要になるため、税務の専門家に相談することをおすすめします。

  • 入出国を繰り返す社員の居住者判定——一度帰国して再来日した場合の居所期間の通算や、生活の本拠がどちらの国にあるかの事実認定。
  • 日本と本国の双方で居住者になるケース——条約上の振り分けルール(恒久的住居・利害関係の中心など)の適用。
  • 短期滞在者免税の183日カウント——課税年度をまたぐ滞在や、暦年か任意の12か月かが条約により異なる点の確認。
  • 年の中途で出国する社員の精算——出国時年末調整、出国後に支払う給与・賞与の取扱い、納税管理人の選任や出国前の確定申告の要否。
  • 過年度の誤りの是正——源泉徴収不足の自主的な是正、納めすぎの還付請求など。

当事務所が対応できること

Esperanza Consulting Groupでは、外国籍社員の給与・年末調整について次の業務に対応しています。逆に、在留資格の申請手続そのもの(行政書士業務)や本国側の税務申告は、提携先の紹介・連携で対応します。

  • 外国籍社員の居住者判定の一括レビュー(入国日・契約内容の確認を含む)
  • 租税条約の適用可否の検討と届出書(様式8ほか)・還付請求書(様式11)の作成支援
  • 国外居住親族の扶養控除の書類チェック体制づくり
  • 給与計算ソフトの設定検証(税額表・控除額の令和8年分対応)
  • 出国者の精算・納税管理人対応、過年度誤りの洗い替え

07よくある質問(FAQ)

Q. 技能実習生は年末調整の対象ですか?

対象になるのが基本形です。1年以上の技能実習計画に基づいて来日した実習生は、入国した日から所得税法上の居住者となるのが原則のため、日本人従業員と同じように源泉徴収税額表で源泉徴収し、年末調整の対象に含めます。「技能実習生は租税条約で非課税」という理解は誤りで、給与は原則として課税されます。

Q. 母国に住む親を扶養控除の対象にできますか?

できる場合があります。ただし国外居住親族のうち30歳以上70歳未満の人は、留学・障害者・年38万円以上の送金のいずれかに該当することが必要です。また親族関係書類と送金関係書類の提出(または提示)が必要で、送金関係書類は扶養親族ごとに用意します。母親の口座にまとめて送金する方法では、原則として母親の分しか認められません。

Q. 留学生のアルバイト給与は租税条約で免税になりますか?

出身国(条約上の相手国)によって結論が異なります。中国からの留学生は日中租税条約の学生条項により免税となり得ますが、最初の給与支払前に「租税条約に関する届出書」(様式8)の提出が必要です。ベトナムなど多くの国の条約では、免税は国外から送金される生計・教育費に限られ、日本国内のアルバイト給与は課税されます。

Q. 年の途中で帰国する外国籍社員の年末調整はどうなりますか?

要件を満たす場合、出国の時点で年末調整(出国時年末調整)を行います。ただし令和8年分については、11月30日以前に行う出国時年末調整には令和8年度改正後の控除(基礎控除104万円・給与所得控除74万円)が適用されず、本人が確定申告等で改正後の控除の適用を受けることになる点に注意してください。

🏢 外国籍社員の年末調整・給与計算を、税務専門家が支援

居住者判定・租税条約・国外居住親族の書類要件まで、外国籍社員の給与に特化した実務を税理士がワンストップで支援します。10月の「準備段階の判定」から12月の「年末調整の実行」まで、誤りと手戻りを最小化する体制づくりをお手伝いします。

外国籍社員の年末調整について相談する ▶
サービス内容・料金の詳細も同じページでご案内しています。従業員様と当事務所の直接契約方式にも対応しており、その場合、企業様側の取引先登録・与信審査などの調達手続は不要です。人事・給与ご担当者様は対象者のお取り次ぎのみで完結します。

※本記事は2026年7月時点の法令・国税庁の公表情報に基づいて作成しています。個別の取扱いについては、所轄税務署または顧問税理士にご確認ください。

▶ あわせて読みたい:年末調整では精算できない海外親会社の株式報酬は外国親会社の株式報酬と確定申告、租税条約の限度税率と届出書は租税条約早見表で確認できます。

🏢 年末調整で終わらない社員の申告まで、まとめて

年収2,000万円超、海外親会社の株式報酬、国外居住親族の扶養——年末調整では処理しきれない社員の確定申告を、税理士がご本人と直接進めます。人事のご担当者に発生する作業は、対象者リストのご共有だけです。

外国籍社員の年末調整・確定申告を相談する ▶
※企業様側の取引先登録・与信審査は不要(従業員様との直接契約方式に対応)
山口 淳也
この記事の監修

公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表

日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。