中国から利益を本国へ送る — 配当・源泉税・税務備案と外貨規制【連載⑤】

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中国進出 | 連載⑤

中国から利益を本国へ送る — 配当・源泉税・税務備案と外貨規制

会社を回せるようになったら(連載④)、次は稼いだ利益を日本へ戻す段階です。中国の利益送金は「経常項目だから自由に送れるはず」と考えるとつまずきます。配当原資の算定 → 源泉税10% → 税務備案 → 銀行の真実性審査という関門があり、さらに外貨管理(SAFE)の枠組みを理解しておく必要があります。本稿は配当を中心とした利益還流と外貨規制を整理します(事業の畳み方・撤退は次回連載⑥)。

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01還流手段の比較 — 配当・ロイヤルティ・役務費・利息

利益を日本へ戻す手段は配当だけではありません。配当・ロイヤルティ(特許権使用料)・サービスフィー(役務費)・親子ローンの利息を、税コストと実務リスクで横並びに比較するところから始めます。

利益還流4手段の課税要素 比較マトリクス
図:還流4手段(配当/ロイヤルティ/役務費/利息)の課税要素 比較
  • 配当:中国側で源泉企業所得税10%(実施条例で減按10%、日中租税条約の限度税率も10%)。増値税はかかりません。ただし税引後利益の処分なので子会社の損金にはなりません
  • ロイヤルティ・役務費・利息増値税6%+源泉所得税10%。要件を満たせば子会社で損金算入でき課税所得を圧縮できます。なお役務費は、増値税が役務の種類により6/9/13%と異なり、源泉所得税も中国にPE(機構・場所。役務は実務上183日超で認定されやすい)があるかで扱いが変わります。ただし管理費(マネジメントフィー)は損金不算入(実施条例第49条)、受益性・移転価格の立証が前提です。
配当ルートと損金算入ルートの税負担フロー比較
図:利益100を日本へ還すときの税負担 — 配当ルート vs 損金算入ルート(概念図)

有利不利を最終的に決めるのは「日本側の扱い」です。配当は外国子会社配当益金不算入で95%非課税ですが中国源泉税10%は外国税額控除も損金算入もできずコストとして残ります。一方ロイヤルティ・役務費・利息は日本側で益金算入されるものの、中国源泉税10%は外国税額控除で回収可能です(数値は前提により変動)。

02配当を出すまでの関門と送金手続

配当は「決議すればすぐ送れる」ものではありません。まず配当できる利益があるかを、決まった順序で確かめます。

配当可能利益の算定ウォーターフォール
図:配当可能利益の算定 — 税引後利益から配当に届くまで
  • 可分配利益=当期純利益+期首未分配利益(−期首未填補欠損)。順序は過年度欠損の補填 → 法定盈余公積金10%の積立(累計が登録資本の50%で停止可)→ 配当累積欠損が残る限り、当年が黒字でも配当できません
  • 配当原資は年度監査済みの財務諸表に基づきます。連載④の年度監査・確定申告がそのまま前提になります。

配当可能利益が確認できたら、源泉税・備案・送金の手続です。

配当が国外株主に届くまでのフローチャート
図:配当が国外株主に届くまで — 関門とつまずきポイント
  • 源泉所得税10%:非居住者株主への配当に課されます。日中租税条約の限度税率も10%で軽減効果はありませんが、条約上の受益所有者(beneficial owner)要件を満たすことが前提です。
  • 税務備案:1回あたり等価5万米ドル超の対外支払は、送金前に税務備案が必須(2013年第40号)。5万米ドル以下は不要、同一契約の複数回払いは累計で初めて5万米ドルを超えた回のみ備案します。備案は「税務コンプライアンス証明」であって納税の代替ではありません(備案≠完税)。源泉税10%の納付は別途必要です。
中国10%源泉税と日本95%益金不算入の二段構え
図:配当の二段構え — 中国の源泉税10% と 日本の外国子会社配当益金不算入

日本側の外国子会社配当益金不算入は、持株25%以上・配当確定日前6か月以上の継続保有などを満たすと受取配当の95%が非課税になります(申告書への明細記載が要件)。なお支店(分公司)が本店へ送る利潤には源泉税は課されない点が、子会社配当との大きな違いです。

03外貨管理の基本 — 経常項目と資本項目

送金の土台が外貨管理です。中国の外貨規制は「経常項目」と「資本項目」に二分され、規制の密度が大きく異なります。

経常項目と資本項目の早見表
図:経常項目 vs 資本項目 — 規制の密度が違う
  • 経常項目(貿易代金・サービス対価・配当/利益送金・利息など実需取引)は原則として兌換自由で、銀行が真実性を確認できれば送金できます。
  • 資本項目(資本金・外債・対外貸付・直接投資など元本性の資金移動)には登記・限度額管理・口座管理などの事前手続が残ります。

つまずきの典型がここ。配当・利益送金は法形式上は経常項目で「自由に送れるはず」ですが、実務では税務備案・利益分配決議・監査済財務諸表などの証憑が求められます。主管はSAFE(国家外貨管理局)で、近年は人民元と外貨を一体管理する方向です。

04銀行の真実性審査(展業改革)と顧客分類

2024年1月施行の「銀行外匯展業管理弁法」が、銀行の真実性審査の枠組みを再構築しました。顧客を一类・二类・三类に分類し、優良企業ほど手続が簡素になる設計です。

銀行外匯展業の顧客3分類と審査強度
図:銀行外匯展業の顧客3分類 — 優良企業ほど手続が簡素に
  • 一类は支払指令のみで取引可、二类はリスクベースで実質審査、三类は審査強化。同弁法は「尽职免责(デューデリジェンスを尽くせば免責)」を外貨法規で初めて明文化しました。
  • 注意:過去の資本金用途違反などの履歴で顧客分類が下がると、送金審査が厳格化します。資本金の人民元転換後の資金は「真実・自用」原則で、経営範囲外の支出・証券投資・貸付・非自用不動産などへの使用は禁止です。

「簡素化」は一律ではありません。展業改革で利益送金の審査は簡素化が進むとされますが、監査済財務諸表は依然として審査書類に挙がり、多くの銀行が年度監査報告を求めます。銀行ごとに要求証憑の運用が異なる点も、実務でつまずきやすいところです。

05資本項目・人民元決済・利益再投資の優遇

外貨規制は近年、投融資の簡素化・便利化が進んでいます。資金調達や還流の選択肢として押さえておきます。

人民元決済と外貨決済の手続負担の比較
図:人民元決済 vs 外貨決済 — 同じ送金でも通貨で手間が変わる
  • クロスボーダー人民元決済は外貨建てより手続が簡素で、兌換が不要・真実性審査も相対的に軽くなります。基盤のCIPSは世界185カ国・地域をカバーし、2024年の取扱額は175兆元(前年比+43%)。
  • 外債(全口径跨境融資):純資産×レバレッジ率(企業は通常2倍)×マクロ調節パラメータの上限内で対外借入が可能。パラメータは2025年1月に1.75へ引き上げられ(外貨流入促進のシグナル)、外債登記の銀行への委譲・一括登記も試点拡大しています。
  • 利益再投資の優遇:配当を国外送金せず中国国内の直接投資に充てると、配当源泉税の繰延(遞延納税)に加え、2025〜2028年限定で投資額の10%を税額控除できます(不足分は繰越可)。ただし被投資企業が「鼓励外商投資産業目録」掲載業種であること・連続5年以上の保有が要件です。

06まとめ — そして連載⑥(撤退・清算)へ

一文でいえば、中国の利益送金は「配当原資(欠損補填・法定準備金)→ 源泉税10% → 税務備案(備案≠完税)→ 銀行の真実性審査」という関門を、外貨管理(経常/資本項目)の枠組みの上で通していく——これに尽きます。人民元決済や再投資優遇まで視野に入れると、手取りと資金効率は大きく変わります。

利益を戻せるようになったら、最後は事業をどう畳むかです。次回・連載⑥は、撤退・清算(注銷)・減資という出口の実務——「作るより畳むのが大変」と言われる中国の清算手続、持分譲渡によるEXIT、減資の進め方を扱います。

還流は「進出時の設計」と地続きです。持株構成(直接 or 香港・シンガポール統括会社経由)・移転価格ポリシー・利益計画は、源泉税率・送金可否・将来の撤退コストまで左右します。ESPERANZA CONSULTING GROUPは、会計・税務(会計士・税理士)とビザ実務(行政書士)を同じチームで扱えるため、運営から還流・出口までを分断せずに設計できます。

本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の会計・税務・法務助言ではありません。税率・要件・手続・閾値は提出先当局の運用や地域、個別事情により異なる場合があります。実際の判断にあたっては専門家にご確認ください。