中国で会社を運営する — 会計・税務・監査|「翌月15日」と年度の5/31・6/30【連載④】
中国で会社を運営する — 会計・税務・監査|「翌月15日」と年度の5/31・6/30
駐在員の手配(連載③)まで終えたら、いよいよ会社を回すフェーズです。中国の会計・税務を日本と同じ感覚で回そうとすると、工数を数倍に見誤ります。本稿は、月次は「翌月15日」、年度は「5月31日(確定申告)」と「6月30日(各種年報)」という固定リズムと、すべての土台になる発票(Fapiao)とデータ整合性を一気通貫で整理します。2026年は増値税法の施行・電子発票の全国化・金税四期が重なる転換期でもあります。
- 📘 完全ガイド|設立から運営まで全手順
- ① 進出形態の決め方(有限公司・代表処)
- ② 会社設立の実務手順
- ③ 就労許可とビザ(A/B/C区分・Zビザ)
- ④ 会計・税務・監査
- ⑤ 利益の本国送金(配当・源泉税・外貨規制)
- ⑥〜⑨ 撤退(清算・持分譲渡)/労務・労働契約法/データ越境規制(PIPL)/商標・ブランド保護 …順次公開予定
01中国の会計・税務は「別物」— 3つの大前提
会社を運営する前に、日本と決定的に違う3つの前提を押さえておきます。これを知らずに日本流で進めると、後から大きな手戻りになります。
- 会計年度は暦年(1月1日〜12月31日)に法定固定。会計法により全企業が暦年決算で、日本のように3月決算などを任意に選べません。3月決算の親会社は、中国子会社の12月本決算を取り込むか、連結のために仮決算を行う必要があります。
- 記帳は人民元・中国語が原則。本社報告用に実質的な二重管理が発生します。
- 「以票控税」— 発票(Fapiao)がなければ損金算入も仕入税額控除も原則認められない。日本の領収書感覚とは異なり、発票の管理が税負担に直結します。
2026年は制度の節目。31年続いた暫定条例に代わり増値税法が2026年1月1日に施行、全面デジタル化電子発票(数電発票)が2024年12月1日に全国展開、そして金税四期(Golden Tax IV)によるデータ連携監視が本格化しています。「紙・印鑑・属人運用」から「電子・データ整合性」への切り替え期です。
02月次のリズム —「翌月15日」に集約される
中国の月次申告は、期限が「翌月15日」に統一されているのが大きな特徴です。増値税・個人所得税(IIT)の源泉・企業所得税(CIT)の四半期予納も、すべて翌月(翌四半期)の15日が期限です(15日が土日祝なら翌営業日に順延。大型連休月は当局が延長を通達することも)。
代表的な月次クローズ業務は、次の流れです。
- ① 月初に前月の発票・銀行明細・経費証憑を回収 → ② 記帳(代理記帳)→ ③ 給与計算と社保・公積金の控除/納付
- ④ 増値税・付加税・IIT源泉・(四半期末月は)CIT予納の税額計算 → ⑤ 翌月15日までに電子申告・納付 → ⑥ 月次試算表・財務諸表を作成し日本本社へ報告
増値税の申告頻度は納税者区分で異なります。一般納税者(年間課税売上500万元超)は原則月次、小規模納税者(500万元以下)は四半期申告を選べます。設立直後の小規模FIEは、事務負担の軽い四半期申告を選ぶことが多いです。
見落としやすいのが、増値税に連動する付加税(附加税費)と、毎月発生する社保・公積金です。
- 付加税は実納増値税額を課税ベースに、都市維持建設税(市区7%/県鎮5%/その他1%)+教育費附加3%+地方教育附加2%。都市部では実納増値税の約12%です。小規模・小型零細企業には50%減免が2027年12月31日まで適用されます。
- 社保(養老・医療・失業・労災・生育の5種。生育は多くの地域で医療に統合済み)と住宅公積金は毎月、雇用主・従業員双方が拠出します。料率・基数は都市ごとに異なり全国統一レートはありません。雇用主の法定負担合計の目安は給与額面の概ね30〜40%(北京約37%、上海約35%、深圳は戸籍等の区分により20%台後半)。
- 拠出基数の上限は前年度の地域平均賃金の300%、下限は通常60%。主要都市は毎年7月(7/1〜翌6/30周期)に上限・下限を更新するため、7月前後で基数の再計算が必要です。
駐在員(日本人)の個人所得税は連載③で詳説。居住者の給与IITは「累計源泉徴収法」で計算し、年後半に累進ブラケットを跨ぐと月々の源泉額が増えます。駐在員の手当の非課税(2027年末まで)・居住者判定(183日/6年ルール)・日中社会保障協定(年金のみ免除・要事前申請)は、手取りとコストに直結する論点です。
03発票(Fapiao)— 専票/普票と数電発票への移行
中国の税務の土台が発票です。まず、発行者・受領者が一般納税者かどうかで、使える発票と控除の可否が変わります。
発票には増値税専用発票(専票)と増値税普通発票(普票)があり、最大の違いは仕入税額控除(進項税額抵扣)の可否です。専票は受領側が一般納税者なら仕入増値税を売上増値税から控除できますが、普票は原則控除できません(通行費電子普票・旅客運輸など限定的な例外を除く)。
一般納税者の増値税率は13%(物品の販売・輸入・加工修理等)/ 9%(交通運輸・建築・不動産・農産品等)/ 6%(現代サービス・金融・無形資産等)の3区分、輸出は原則0%です。小規模納税者の徴収率は本則3%ですが、2023年1月1日〜2027年12月31日は1%に軽減(不動産売却・賃貸、土地使用権譲渡には1%軽減は不適用)。小規模の免税枠は月10万元/四半期30万元以下です。
そして2026年に向けた最大の変化が、全面デジタル化電子発票(数電発票)です。2021年12月に試験運用が始まり、2024年12月1日から全国で正式展開されました。
- 専用ハード不要(去介質):税控盤・Ukeyが不要になり、電子税務局でオンラインで発票を発行(開票)。新設企業は「開業即開票」が可能に。
- 紙の控除用証憑「抵扣聯」が消滅:控除確認は電子税務局のデジタルアカウント上の「用途確認(勾選確認)」へ。
- 押印不要(電子署名):「発票専用章」の押印が不要になり、経理規程を電子署名前提に改める必要があります。
- 原本はXMLで保存:会計アーカイブの原本はデジタル署名付きXMLの保存が必須。PDF/OFDの紙印刷だけでは不可です。受領時にXMLを確実に保管する運用が要点になります。
虚開発票(偽造・虚偽開票)は刑事リスク。異常控除証憑(異常扣税凭証)と判定されると控除取消・追徴の対象です。仕入先の発票真偽確認(査験)と三流一致(資金・物・発票の一致)の管理は、数電時代も引き続き重要です。
04年度のリズム — 監査→確定申告(5/31)→年報(6/30)
月次が「翌月15日」なら、年度は「監査 → 企業所得税の確定申告(匯算清繳)5月31日 → 各種年報 6月30日」という固定リズムで回ります。
- 年度監査(CPA審計報告):日系の独資子会社は実務上ほぼ全社で、中国の会計師事務所(CPA)による年度監査報告を取得します。2024年7月1日施行の新会社法第208条で、財務会計報告の作成と会計師事務所の監査が全会社共通の義務として整理・明文化されています(旧会社法にも同趣旨の規定があり、新設の義務ではありません)。配当(利潤分配)の際も監査済財務諸表が前提です。
- 企業所得税の確定申告(匯算清繳):事業年度終了後5か月以内=翌年5月31日(2025年度分は2026年5月31日)。年度途中は四半期予納し、年度末に精算します。未納の追加税額には6月1日から日0.05%(年率約18.25%)の延滞金が課されます。
- 工商年報・外商投資年度報告:いずれも毎年1月1日〜6月30日に「国家企業信用情報公示系統」で提出(多報合一で統一)。未提出は「経営異常名録」に収載され、信用・取引・許認可・銀行手続に悪影響が及び、過料もあります(駐在員事務所の年報は3/1〜6/30)。
「春」が繁忙期。監査報告が確定申告の前提資料になるため、1〜3月に帳簿を締めて監査に着手し、3〜4月に監査を終え、5月31日までに確定申告を完了、並行して6月30日までに各種年報を出す——この逆算が定石です。なお2025年7月1日施行で、一部8地域限定のパイロットとしてFIEの「境内投資情報報告」(国内での再投資の報告)も始まっています(全国一律ではありません)。
05CASと日本基準の差異 — 連結で毎期効く
中国子会社はCAS(中国企業会計準則)で帳簿を作り、日本本社は日本基準(またはIFRS)で連結します。CASはIFRSと大枠で収斂していますが完全一致ではなく、毎期GAAP差異の調整が必要です。
- 減損の戻入れ:CASは固定資産・無形資産・のれん等の減損戻入れを一律禁止(日本基準と同方向)。IFRS連結の親会社は調整が必要です。
- 固定資産の再評価:CASは取得原価主義で公正価値再評価を原則禁止(投資性不動産等は例外)。
- 収益認識:改訂CAS第14号がIFRS15と同じ5ステップモデルを採用し、おおむね2020〜2021年までに段階適用されました。日本の収益認識基準ともコンセプトは整合しますが、細目・開示で差異が残ります。
- 政府補助金:CAS第16号は総額法・純額法を認め、日本で広く使われる圧縮記帳と処理思想が異なるため、連結調整の留意点になります。
さらに会計と税務(企業所得税)のズレも恒常化します。会計上の耐用年数・償却方法が税務上の最低耐用年数(建物20年/機械設備10年/器具備品5年/運搬具4年/電子設備3年)と異なれば申告調整が必要です。貸倒引当金など見積引当金は原則損金不算入で加算調整し、実際の貸倒れ確定時に損金算入します。連結は「①CAS→日本基準への組替調整 ②円換算」の二段階管理になります。
06税制優遇と2026年アップデート
標準の企業所得税率は25%ですが、要件を満たせば優遇税率を使えます。ただし「使える優遇」と「消える優遇」の見極めが重要です。
- 高新技術企業(HNTE):15%(証書は発行から3年有効、期限前に再認定が必要)。認定後も研発費比率・科技人員比率・高新収入比率の毎年維持が必須で、満たさない年は否認・追徴のリスクがあります。
- 小型微利企業:実効5%(2023年1月1日〜2027年12月31日の時限措置)。課税所得300万元以下・従業員300人以下・資産総額5,000万元以下を同時に満たす必要があり、300万元を1元でも超えると25%に跳ね上がる「崖」に注意します。
- 研究開発費の加計扣除:通常企業は100%上乗せ(実質200%損金)、半導体・工業母機は120%上乗せ(実質220%、2027年末まで)。研究開発支出の補助帳簿の整備と帰集表の提出が前提です。
地方の税収返還は是正対象に。2025年の通達(発改体改〔2025〕770号)で、国家政策の根拠がない違法な財政返還・税収優遇は整理対象となりました。地方政府と結んだ税収返還の覚書は効力・継続性を再確認すべきで、受け取った財政奨励収入は原則として課税収入である点にも注意します。
そして2026年1月1日施行の増値税法。税率体系(13/9/6%)は据え置きですが、実務に効く変更が複数あります。
- 「視同販売(みなし販売)」の範囲が縮小:同一法人内の支店間の貨物移動・無償の役務提供は原則対象外に。
- 仕入税額の年次調整が納税者責任に:控除対象外となる仕入増値税の按分・年次調整を、翌年1月の申告期間に自社で完了させる必要があります。
- クロスボーダーで「消費地原則」を法定化、増値税にもGAAR(一般的否認規定)を初導入。
金税四期(Golden Tax IV)は、人民銀行・市場監督管理総局・社保等とデータ連携し、資金フロー・企業登記・財務行動をリアルタイム監視します。発票×銀行明細×帳簿×社保のデータ整合性が従来以上に重要で、不一致は自動的に税務調査のフラグになります。「以票管税」から「以数治税」への転換です。
07よくあるつまずき
最後に、日本本社が見落としがちな落とし穴を整理します。
- コンプライアンス工数の過小評価:月次の増値税・IIT源泉、四半期のCIT予納、年度監査、外貨管理、各種年報が重なり、発票運用や地域差も加わって、本社想定の数倍になりがちです。
- 発票の不備・期ズレ:未取得・記載不備(社名/税号/品目の誤り)・遅延受領・年度をまたぐ発票は、損金否認や控除不能で実質増税に。新増値税法下では「発票+裏付資料」が一段と重視されます。
- 本社送金の税コストとPEリスク:海外本社へのロイヤルティ送金には源泉企業所得税10%(日中租税条約)+増値税6%。ただし海外事業者への代理徴収増値税には城建税・教育費附加・地方教育附加は課されません(国内取引の付加税と混同しないこと)。サービスフィーは受益性(benefit test)・対価妥当性の立証が不十分だと、損金否認・移転価格否認・PE認定のリスク対象です。
- 移転価格の文書化漏れ:ローカルファイルは有形資産取引(購買・販売合算)2億元超/金融資産譲渡1億元超/無形資産譲渡1億元超/その他関連取引(役務・利子・賃貸料等)4,000万元超で作成義務(翌年6月30日まで準備)。親会社向けの受託製造で継続赤字だと調査の典型ターゲットになります。同期資料を期限内に完備していれば、追徴利息の加算分(+5%)が免除され得ます。
- 会計年度のずれ:中国子会社は暦年(12月)決算固定。CAS→日本基準への組替→円換算の二段階管理を忘れないこと。
08まとめ — そして連載⑤(出口)へ
一文でいえば、中国の会計・税務は「月次=翌月15日/年度=5月31日(確定申告)と6月30日(各種年報)」という固定リズムで回り、発票とデータ整合性がすべての土台になる——これに尽きます。2026年は増値税法施行・数電発票全国化・金税四期で、属人運用から電子・データ整合性へ移行する転換期です。
会社を回せるようになったら、次は稼いだ利益を日本に戻す/事業を畳むという出口の段階です。配当の送金には、監査済財務諸表 → 過年度欠損の補填 → 税引後利益の10%を法定準備金(資本金の50%到達まで)積立 → 配当決議という関門があり、本稿で扱った年度監査・確定申告がその前提になります。次回はこの出口を扱います。
会計・税務は「進出時の設計」と地続きです。納税者区分・優遇の要件・本社との取引建て付け(配当/ロイヤルティ/サービスフィー)は、出口の手取りまで見据えて設計するのが得策です。ESPERANZA CONSULTING GROUPは、会計・税務(会計士・税理士)とビザ実務(行政書士)を同じチームで扱えるため、運営フェーズの実務と出口戦略を分断せずに設計できます。
本記事は2026年6月時点の情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の会計・税務助言ではありません。税率・期限・要件は提出先当局の運用や地域により異なる場合があります。実際の適用にあたっては専門家にご確認ください。


