外国籍社員の確定申告・年末調整|企業が見落とす4つの税務リスク
外国籍社員の確定申告・年末調整|企業が見落とす4つの税務リスク
外国籍社員の税務は年末調整だけでは完結しません。企業が見落としやすいリスクを4つに整理し、それぞれの期限・罰則・実務対応を人事・給与・グローバルモビリティ担当者向けに解説します。
最終更新日:2026年7月11日
窓口対応だけでなく実務作業まで、BIG4出身の経験豊富な税理士が直接担当。ヒアリング〜書類作成〜e-Tax申告〜英語でのやり取りまで、まるごとお引き受けします。人事のご負担を最小限に。
外国人の確定申告 完全ガイドで、外国籍社員の確定申告の全体像(必要書類・やり方・居住者判定・期限)をまとめています。あわせてご覧ください。
01結論:外国籍社員の税務リスクは4つに集約される
結論から述べます。外国籍社員の税務で企業が見落とすリスクは、①年末調整で完結しない申告漏れ、②国外払い報酬・RSUの把握漏れ、③非永住者の送金課税、④出国時の手続き漏れの4つに集約されます。いずれも年末調整(日本法人給与の精算)の射程外で発生するため、給与計算を正しく回していても防げません。
源泉徴収漏れには不納付加算税10%(税務署の告知前に自主納付すれば5%)、申告漏れには過少申告加算税10〜15%が課され、いずれも延滞税が加わります。税務調査での遡及は実務上3年分が通例ですが、法律上は5年(偽りその他不正の行為がある場合は7年)まで更正され得ます(国税通則法70条)。
加えて、納税状況は在留資格(ビザ)更新の審査で確認されます。税負担だけでなく、人材の在留継続にも直結する点が日本人社員の税務との違いです。
02リスク①:年末調整で完結しない申告漏れ
年末調整は、扶養控除等申告書の提出を受けた「主たる給与」について、給与収入2,000万円以下の社員の所得税を精算する手続きです。射程外の所得は、本人が翌年2月16日〜3月15日に確定申告しない限り精算されません。
外国籍社員で確定申告が必要になる代表例は次のとおりです。
- 給与収入が2,000万円を超える(そもそも年末調整の対象外)
- 2か所以上から給与を受けている(外国親会社からの直接支給を含む。従たる給与等と給与以外の所得の合計が20万円以下の場合を除く)
- 給与・退職所得以外の所得が年20万円を超える(本国の不動産収入・株式譲渡益・副業等)
- 年の途中で出国して非居住者となる(リスク④で詳述)
問題は、これらの情報の多くが日本法人の給与データに現れないことです。会社が対象者を特定して通知しなければ本人は気づけず、「会社が年末調整をしてくれた=納税は完了した」と理解しているケースが大半です。
申告漏れが税務調査で発覚すると、本人には過少申告加算税10%(一定額を超える部分は15%)と延滞税が課されます。申告自体をしていなければ、さらに重い無申告加算税(原則15%)の対象です。給与・源泉徴収・年末調整の全体実務は外国籍社員の給与・源泉徴収・年末調整で解説しています。
03リスク②:国外払い報酬・RSUの把握漏れ
RSUは権利確定(ベスティング)時にその時点の株式時価相当額が給与所得等として課税され、ストックオプションは権利行使時(税制適格ストックオプションは株式売却時)に課税されます。
外国親会社から国外で直接支払われる報酬やRSUには、原則として日本法人の源泉徴収義務がありません。給与計算にも年末調整にも現れないため、納税の手段は本人による翌年3月15日までの確定申告のみです。
一方、会社側には報告義務があります。外国親会社等からRSU・ストックオプション等の経済的利益を役員・使用人が受けた場合、日本法人は「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」を翌年3月31日までに所轄税務署へ提出しなければなりません。
税務署はこの調書で「誰がいくらの経済的利益を得たか」を把握済みです。本人の無申告は照合で容易に発覚し、「国外払いだから把握されない」は成立しません。
日本法人が株式報酬費用を親会社へ支払っている(チャージバック・費用負担契約がある)場合は要注意です。負担の建付けによっては日本法人に源泉徴収義務が生じ得るため個別確認が必要で、徴収漏れの不納付加算税10%(自主納付なら5%)と延滞税は会社の負担です。
RSU・株式報酬の課税実務の詳細はRSUの課税とHR実務を、会社が本人の税負担を調整する仕組みはタックス・イコライゼーション解説をご覧ください。
04リスク③:非永住者の送金課税
非永住者とは、居住者のうち日本国籍を有さず、過去10年以内の国内住所・居所の合計が5年以下である個人を指します(所得税法2条1項4号)。来日から数年の外国籍社員の多くがこれに該当します。
非永住者の課税範囲は、①国外源泉所得以外の所得と、②国外源泉所得のうち国内払い・国外からの送金分です。本国の家賃収入や配当も、日本へ送金した年はその送金額の範囲で課税対象に取り込まれます。
実務上の落とし穴は「送金」の範囲の広さです。海外口座からの単純な送金だけでなく、海外口座を引き落とし先とするクレジットカードを日本国内で利用する行為なども、送金と同様に扱われる場合があります。
本人は送金があった年の翌年3月15日までに確定申告が必要で、漏れれば過少申告加算税10〜15%の対象です。また、国内居住の合計が過去10年で5年を超えた時点で非永住者から外れ、課税範囲は全世界所得に切り替わります。人事側では入社時に在留開始日を記録し、5年の節目を管理してください。判定方法と課税範囲の詳細は非永住者の課税範囲と送金課税で解説しています。
05リスク④:出国時の手続き漏れ
最も見落とされやすいのが準確定申告です。納税管理人を選任せずに年の途中で出国して非居住者となる場合、その年1月1日から出国日までの所得について、出国の時までに確定申告と納税が必要です(所得税法127条)。納税管理人(国税通則法117条)を選任すれば、通常どおり翌年3月15日期限となります。
住民税にも注意が必要です。住民税は1月1日時点の住所地で前年所得に課税されるため、出国後も前年分の納税義務が残ります。特別徴収中の社員が1月1日から4月30日までの間に退職・出国する場合、会社は残額を最後の給与等から一括徴収する義務があります。
出国後(非居住者)に支払う給与・賞与・退職金の国内勤務対応分には、20.42%(復興特別所得税を含む)の源泉徴収が必要です。居住者向けの税額表のまま処理すると徴収不足となり、不納付加算税10%(自主納付5%)と延滞税を会社が負担することになります。源泉所得税の納付期限は支払月の翌月10日です。
また、有価証券等を1億円以上保有する社員には国外転出時課税(出国税)の検討も必要です。就労系在留資格での在留期間は対象判定(出国前10年以内で5年超居住)から除外されるため対象外の社員が多いものの、永住者等の在留資格では該当し得ます。
出国時手続きの全体像は外国籍社員の出国・帰任時の税務手続き、帰任・退職の実務は外国人駐在員の帰任・退職税務ガイドをご覧ください。
06社内で使える一次判断チェックリスト
外国籍社員ごとに以下を確認してください。1つでも当てはまる社員は、年末調整だけでは納税が完結しない可能性が高く、税務専門家への確認をお勧めします。
外国親会社・グループ会社から直接支払われる報酬がある(または可能性がある)
日本の給与明細に載らない報酬は年末調整の対象外で、本人の確定申告が必要です。
RSU・ストックオプション等の株式報酬が付与されている
RSUは権利確定(ベスティング)時、ストックオプションは行使時(税制適格は売却時)に課税。調書提出(翌年3月31日)の要否も確認してください。
非永住者(過去10年以内の国内住所・居所の合計が5年以下)で、国外に所得・資産がある
国外源泉所得を日本へ送金すると、その年の課税対象に加わります。
当年中に出国・帰任・海外転出の予定がある(あった)
準確定申告(出国の時まで)・納税管理人・住民税一括徴収・源泉20.42%への切替が絡みます。
給与年収が2,000万円超、または給与以外の所得が年20万円超
いずれも年末調整では完結せず、翌年3月15日までの確定申告が必要です。
帰任・RSUの新規付与・在留5年経過など、イベントのたびに要否は変わります。年末調整の準備と同時に、毎年確認するプロセスを設けてください。
自社の該当状況は外国籍社員の税務 簡易リスク診断ツールで約5分でセルフチェックできます。
07企業側の義務と対処の3ステップ
「申告は本人の義務だから会社は関係ない」とは言えません。源泉徴収義務と調書の提出義務は会社にあり、放置した場合のコストは次のとおりです。
| リスクの種類 | 放置した場合 | 早期対処した場合 |
|---|---|---|
| 源泉徴収漏れ(非居住者給与等) | 不納付加算税10%+延滞税を会社が負担 | 告知前の自主納付なら加算税5%に軽減 |
| 本人の申告漏れ | 過少申告加算税10〜15%・遡及は最長5年分 | 期限内申告で加算税なし |
| 在留資格(ビザ)更新への影響 | 納税証明が整わず更新審査に支障 | 納税記録が整い審査がスムーズ |
| 退職・帰任時のトラブル | 出国後の精算が困難化・追加費用が発生 | 出国前の対応で精算が完了 |
納税状況とビザ更新の関係はビザ更新と納税証明の関係で詳述しています。社内の対処は次の3ステップで進めます。
対象社員の棚卸し(毎年10〜11月)
年末調整の準備と同じタイミングで、外国籍社員全員について国外払い報酬・株式報酬・非永住者該当・出国予定の4点を確認します(本記事のチェックリストを流用できます)。
要否判定と本人への通知(12月〜1月)
確定申告が必要な社員に、期限(翌年3月15日)と必要書類を通知します。英語の案内文書を整備すると毎年の負担が減ります。判断に迷う場合の目安は外部専門家に依頼すべき5つのサインをご覧ください。
申告期の支援と出国時フローの標準化(2月〜3月・随時)
申告代行や英語のTax Briefingを外部委託しつつ、出国時手続き(準確定申告・住民税・源泉切替)を標準フロー化します。全体像は外国籍社員の税務体制構築ガイドをご覧ください。
08よくある質問
09まとめ
外国籍社員の税務リスクは、①年末調整で完結しない申告漏れ(申告期限:翌年3月15日)、②国外払い報酬・RSUの把握漏れ(調書提出:翌年3月31日)、③非永住者の送金課税、④出国時の手続き漏れ(準確定申告は出国の時まで)の4つです。放置すれば加算税10〜15%と延滞税が生じ、遡及は原則3年・最長5年に及びます。
対処の起点は「毎年10〜11月の対象社員の棚卸し」です。年末調整の準備と同じサイクルに載せてしまえば、追加の負荷は限定的です。シリーズ全体の設計図は外国籍社員の確定申告 完全ガイドをご覧ください。
▶ 海外からの送金で税金がかかる?非永住者と非居住者で全く違う「送金と課税」の仕組み
公認会計士・税理士・行政書士 山口 淳也/ ESPERANZA CONSULTING GROUP 代表
日本および海外のBIG4監査法人・税理士法人・FAS(ファイナンシャルアドバイザリー)にて、クロスボーダー税務・M&A・海外進出支援・国家プロジェクトなどの実務に従事。セミナー登壇多数。税務・会計・法務の専門的観点から、企業のグローバル展開や経営課題を多面的にサポート。


