外国人フリーランスの確定申告の盲点
はじめに:外国人フリーランスの確定申告が“見過ごされている”理由
日本の大手企業や制作会社、広告代理店が業務委託という形で関わることの多い「外国人フリーランス」。翻訳、デザイン、映像編集、舞台・イベント出演、SNS運用など、その活動領域は年々拡大しています。ところが、その報酬の受け取り方や申告義務については、企業側も本人側も正確な理解に欠けていることが少なくありません。
特に、日本在住で活動しているにもかかわらず、確定申告をしていない外国人フリーランスが存在するという実態は、税務署・入管当局双方にとって“見逃せない論点”となっています。本稿では、企業が外国人フリーランスと関わるうえで必ず押さえておくべき確定申告の実務的な盲点を整理し、士業として企業をどう支援すべきかを掘り下げていきます。
『申告不要』と誤解されやすい3つの典型パターン
外国人フリーランスが確定申告を行っていない理由として、多く見受けられるのが「自分には申告義務がない」とする誤解です。企業側でも、報酬の支払先が“個人”であるにもかかわらず税務処理が曖昧になっているケースは少なくありません。ここでは、特に誤解されやすい3つのパターンを紹介します。
①「年20万円以下だから申告しなくてよい」
この誤解は非常に根強く存在します。「副収入が年間20万円以下であれば申告不要」という特例は、給与所得者(=年末調整を受けている人)のみに適用されるものです。フリーランスとして報酬を受け取っている場合、たとえ金額が少額であっても確定申告義務は原則として発生します。企業が業務委託先に対してこの点を正確に周知していない場合、無申告のまま数年が経過し、税務調査で一括追徴される事例もあります。
②「海外からの報酬なので日本で申告しなくてよい」
翻訳・イラスト・動画制作などで海外企業から報酬を受け取っている外国人フリーランスの中には、「海外からの仕事だから日本とは関係ない」と誤認している人が少なくありません。しかし、日本に住所(生活の本拠)を有している時点で、その人は『居住者』と見なされ、全世界所得が課税対象となります。報酬の入金先がPayPalやWise、海外銀行口座であっても、居住者である限りは日本国内で申告しなければなりません。
③「個人だから税務署にはバレない」
企業からの報酬支払いには、支払調書(法定調書)の提出義務があり、税務署には「誰に、いくら支払ったか」の情報が既に届いています。たとえ本人が申告していなくても、税務署がそのズレに気付くのは時間の問題です。また、海外送金情報・銀行口座情報・マイナンバーなどからも所得の把握は進んでおり、「バレない」という希望的観測は通用しません。企業としても、このような誤解を放置すると後に契約継続が困難になる恐れがあります。
居住者・非居住者の線引きと税務への影響
外国人が日本で活動している場合、「居住者」と「非居住者」のいずれに該当するかは、税務上の取り扱いに大きな違いをもたらします。居住者であれば日本国外で得た収入も含めた全世界所得が課税対象となり、非居住者であれば日本国内で得た所得のみに限定されます。判断の基準は、「日本に住所があるか」または「継続して1年以上滞在しているか」です。
所得区分(雑所得と事業所得)の判断とリスク
外国人フリーランスの申告において、「事業所得」か「雑所得」かの判断は非常に重要です。事業性が認められれば青色申告や損益通算などの特典が使えますが、継続性や独立性が弱い場合は「雑所得」とされ、税務上のメリットを失うだけでなく、過少申告リスクも生じます。
海外送金・外貨収入・海外口座に潜むリスク
海外送金やPayPal、Wise等の利用、海外口座での外貨受領などについても税務署は把握可能です。100万円超の国外送金は金融機関から自動的に報告され、外貨はTTMレート換算で円ベース申告が必要です。これらを放置した結果、税務調査で数百万円の追徴を受けるケースもあります。
税務署が着目する“典型パターン”とは
支払調書と申告の不一致、大口の海外送金、SNSなどで目立つ活動をしているのに申告していないなど、税務署はパターン認識で重点的に外国人フリーランスを抽出しています。企業側もこの点を意識した契約管理が必要です。
インボイス制度と外国人業務委託者の契約継続問題
免税事業者である外国人フリーランスがインボイス未登録である場合、企業側が仕入控除を受けられず、契約継続に影響を及ぼすリスクがあります。制度説明・登録支援が企業の信頼構築にもつながります。
入管審査・住民税・社会保険への影響
確定申告をしていないことで住民税・社保に未加入、未納が発生し、それが課税証明・納税証明に表れれば、在留資格更新・永住許可の審査に影響します。契約が継続できなくなるリスクを企業も負うため、税務周辺の体制整備も重要です。
企業が支援すべき理由と、当事務所の強み
当事務所は外国人フリーランスとの業務委託における税務・社保・在留管理に精通し、英語・中国語対応、インボイス契約整備、納税・在留実務まで一貫支援が可能です。「外国人に強い税務チーム」をお探しなら、ぜひご相談ください。