士業が押さえるべき論点:永住権申請と納税実績・社会保険加入の整合性

はじめに:永住権申請における税・社会保険の整合性とは

永住許可申請では、申請者の税金社会保険などの公的義務履行状況が厳しく審査されます。たとえ在留期間や素行に問題がなくても、税や社保の未納・滞納・未加入があれば、申請は却下される可能性が極めて高いのが実務上の運用です。

本記事では、士業が永住申請前に確認・指導すべき税務・社保上のポイントを整理し、申請成功率を高める実務的な視点を提供します。

申請前に士業が確認すべき整合性チェックリスト

  • 過去5年間の所得税・住民税の納付状況(納税証明書・通帳コピーで期限内納付を確認)
  • 過去2年間の年金・健康保険料納付履歴(未納・遅延が一度もないか)
  • 厚生年金や健康保険の加入状況(空白期間がないか/国保・国民年金への切替も含む)
  • 扶養控除と被扶養者の整合性(税務上と社保上の処理が一貫しているか)
  • 海外扶養親族の送金実績と証明書(送金記録、続柄証明、翻訳付き)
  • 役員報酬額と会社業績のバランス(形式的な年収設定とならないよう注意)
  • 本人名義の預金・資産証明ができるか(名義預金を避ける)
  • 法人顧問先における社保未加入社員の有無(適正な保険手続が行われているか)

制度誤解に基づく典型的なNG例

① 納税証明で「完納済」でも、期限後納付ならアウト

納付済=適正ではありません。「法定納期限までに支払った」かが重要です。市区町村の「その3の納税証明書」だけでなく、通帳や振替履歴の確認も重要です。

② 社会保険の未加入・未納は即NG

週30時間以上勤務しているのに社保未加入、または起業後に国保・国民年金に切り替えていないケースは、整備されていない生活基盤と判断されます。

③ 海外扶養控除を取っているが送金実績なし

送金の頻度・名義・金額が審査されます。「名義が一致しない」「年1回のみ」「金額が極端に少ない」などの送金では扶養実態を認めてもらえません。

④ 役員報酬で年収調整をしているが、会社の財務が伴わない

売上・利益が乏しい中で役員報酬だけ高額設定しても、形式的と判断されます。収入と事業実態が一致しているかの説明が必要です。

⑤ 名義預金による資産提出

配偶者や親族名義の預金を提出しても、本人名義でなければ資産とはみなされません。資金の出所・帰属を証明することが大前提です。

将来の法改正と取消リスク

2024年の改正入管法により、永住許可取得後も納税・社保の履行が審査対象となり、違反があれば取消の可能性があるとされました(施行は2027年までの予定)。

「取得したから終わり」ではなく、維持するための遵法姿勢が一層問われる時代に入っています。

まとめ:士業が果たすべき事前支援の価値

永住申請における最大のリスクは「制度を誤解したまま申請して不許可になる」ことです。税・社保の履行は、申請の“入口審査”として最初にチェックされる項目であり、整合性に欠ければそれだけで審査の土俵に乗りません。

士業の支援があれば、申請者は早期からリスクを把握し、正しく整備できます。これは単なるビザ支援ではなく、日本における生活基盤の信頼構築を助ける重要な社会的役割です。