外国人起業家シリーズ 第2回:会社設立後の実務と戦略:経営・管理ビザを確実に取得するために必要な条件とは?

日本で会社設立後に必要な経営・管理ビザ取得の実務と戦略

外国人起業家シリーズ第2回の本記事では、日本で会社設立を完了した後に取得すべき「経営・管理ビザ」(いわゆるBusiness Managerビザ)の実務と戦略について詳しく解説します。まず大前提として、経営管理ビザの申請には原則として会社の設立登記が完了していることが必要です(後述する特例を除く)。本稿では、その前提を踏まえた上で、ビザの取得要件、必要な申請書類、審査のポイント、許可率や最近の傾向、そしてよくある誤解と注意点について網羅的に説明します。専門的な内容ですが、可能な限り明快な日本語で整理していますので、日本での起業を目指す読者の方も安心して読み進めてください。

経営・管理ビザとは何か~日本で事業を経営・管理するための在留資格

経営・管理ビザ(Business Managerビザ)は、外国人が日本で事業を経営したり管理業務に従事したりするために必要な在留資格です。かつては外国からの投資が前提の「投資・経営ビザ」と呼ばれていましたが、2015年の入管法改正により外国資本がなくても申請できるよう要件が緩和され、名称も「経営・管理」に変更されています。このビザを取得すれば、日本国内で新規事業の立ち上げ・経営や、既存事業への参画・管理業務への従事などが可能になります。在留期間(ビザの有効期間)は審査結果に応じて5年・3年・1年・6か月・4か月・3か月のいずれかが付与されます。一般的に、起業直後の初回申請では1年または6か月程度のビザが下りるケースが多く、事業の安定と実績に応じて更新時に在留期間が延長されていく傾向があります。

会社設立が先行する必要性と特例制度(4か月ビザ)

経営管理ビザを本格的に申請するためには、まず日本での会社設立登記を済ませておくことが基本となります。法人の登記が完了していない段階では、本来ビザ申請に必要な登記事項証明書(登記簿謄本)を提出できず、十分な事業実体を示すことが難しいためです。実際、旧「投資・経営ビザ」時代には会社設立後でなければビザ申請自体できず、登記簿謄本の提出が必須でした。

しかし2015年の法改正以降は、例外的措置として会社設立前でも申請を行える制度が導入されています。それがいわゆる「4か月の経営管理ビザ」(スタートアップビザ)で、定款や事業計画書など法人設立の準備状況を示す資料を提出すれば、最初に4か月間の在留資格が認められる仕組みです。この特例を利用すれば、資本金の日本への送金やオフィス賃貸契約をビザ取得前に完了させておく必要がなく、いったん来日してから会社設立の最終手続きを進めることも可能になります。一見すると便利な制度ですが、4か月後には改めて通常の経営管理ビザ(1年など)への更新申請が必要となり、銀行口座開設や不動産契約で短期在留者だと断られる場合があるなどのハードルも指摘されています。また4か月以内に事業の準備を完了できないとビザ延長が認められず本末転倒となるリスクもあります。

以上のことから、特別な事情がない限りは会社設立登記を先行させ、十分な準備を整えた上で最初から1年程度の経営管理ビザ取得を目指すのが堅実です。日本に協力者がおらず設立準備を進めるのが難しい場合でも、専門家の支援を受けて法人登記まで完了させてからビザ申請する方が、結果的に時間と労力のロスを減らせるでしょう。

経営管理ビザの取得要件

経営管理ビザを取得するためには、入管法で定められた形式要件と、事業の実態に関する実質要件の両方を満たす必要があります。主な取得要件は以下のとおりです。

  • ① 日本国内に事業所(オフィス)を有していること: 自宅の一室やバーチャルオフィスは原則NG。独立した事業専用スペースを確保し、法人名義で事業目的の賃貸借契約が必要です。
  • ② 事業規模に関する要件(資本金または従業員): 資本金500万円以上 または 常勤職員2名以上 を満たすこと。従業員は永住者・定住者等で、直接雇用・週30時間以上が必要。
  • ③ (管理者雇用時)3年以上の経営・管理経験: 大学院での専攻も含む。加えて、日本人と同等以上の報酬を支払う必要があります。
  • ④ 事業の継続性・安定性: 具体的な事業計画書を提出し、収支・将来性を論理的に示すことが求められます。

まとめると、「オフィスの実体」「500万円 or 2人雇用」「管理者経験(該当者のみ)」「持続可能なビジネス計画」の4つが柱になります。

申請に必要な主な書類

経営管理ビザを申請する際に準備すべき書類は多岐にわたります。特に海外在住の読者向けに、在留資格認定証明書(CoE)交付申請時の必要書類を整理します。

  • 在留資格認定証明書交付申請書(所定様式)および証明写真
  • パスポートのコピー本人確認書類
  • 登記事項証明書(設立済み法人の登記簿謄本)
  • 事業計画書:市場性・収支見込み・将来展望等を明確に記載
  • 事業実体証明書類
    • オフィスの賃貸借契約書写真・建物登記簿
    • 資本金証明(払込証明・残高証明・送金明細
    • 従業員雇用証明(雇用契約書・給与台帳・社保加入証など)
  • 本人の経歴書類(履歴書、職務経歴書、学位証明など)
  • その他任意資料(パンフレット、契約書、Webサイトコピー、許認可証)

提出資料は多くても構いません。審査官に事業の信頼性・継続性を十分に伝えることが重要です。次のパートでは、こうした書類の審査ポイントを解説します。

審査のポイント:ビザ許可のカギは「継続性」と「信頼性」

入管当局は提出された書類をもとに、「この外国人経営者は日本で安定継続的に事業を営めるか?」を総合的に審査します。その際、単に形式要件を満たすだけでなく事業計画の実現可能性や経営基盤の信頼性が重視されます。以下が主なチェックポイントです。

  • 事業計画の具体性・実現可能性: 市場分析・売上予測が曖昧だと信頼性を欠くため、競争優位性や収益根拠を明確に提示する必要があります。
  • 資金の確実性・透明性: 出資金の出所や使用実績の整合性。通帳写しや契約支払い履歴なども含めて、資金が事業目的で使われていることを証明することが重要です。
  • オフィスの実態: 書類上だけでなく、実際に事業を営む準備が整っているかも写真等で示す必要があります。自宅兼用・バーチャルオフィスはほぼ不許可。
  • 経営者本人の適格性: 学歴や経験が形式要件でなくても、関連分野の経験やスキルを証明できれば許可に有利。ビジネスへの適性をアピールする資料を。
  • 法令遵守・届出状況: 許認可取得状況や税務・社保の届け出状況も確認されます。「ビザ取得後に準備」ではなく、「準備が整った状態でビザ申請」が原則。

このように、「事業の継続可能性」と「経営者の信頼性」がビザ許可の決定打になります。チェックリストを満たすだけでは不十分で、事業のリアリティと説得力が問われます。

経営管理ビザの許可率と最近の傾向

経営管理ビザの許可率は、他の在留資格と比べて低めとされます。法務省による公式統計は非公表ですが、実務家の見解では、就労ビザ(技術・人文知識・国際業務)等と比べておよそ半分程度という推測もあります。これは、起業の自由度が高く誰でも申請可能な一方、申請内容の玉石混交により審査が厳格化されていることが要因です。

実際、入管の審査官からも「形式要件を満たしていても、事業の継続性に疑問があると不許可となる」旨が伝えられることがあります。準備不足や不明瞭な資金の流れ、事務所の実態不備などで不許可となる例も少なくありません。

もっとも、十分に準備を整えた申請は確実に許可される傾向にあります。2024年6月時点での在留管理庁統計では、経営管理ビザ保有者は約39,600人に上り、2015年以降右肩上がりで増加しています。特に、法改正で「4か月ビザ」が導入されたことが追い風となりました。

出身国別では、アジア圏(特に中国)からの申請者が多数を占めており、日本でのビジネスを目指す外国人の熱意は依然として高い状況です。

よくある誤解と注意点

  • 会社を作れば自動的にビザが出るわけではない: 登記はあくまでスタート地点。事業実態や計画の実現性も問われます。
  • 資本金500万円を満たせばOKではない: 資金の出所・使途の透明性、業種に見合った金額設定が重要です。
  • バーチャルオフィスや自宅兼事務所は困難: 原則NGです。独立した営業拠点を確保しましょう。
  • 経営者は現場作業をしてはいけない: 現場の仕事は雇用したスタッフに任せ、経営専念の体制が必要です。
  • 副業は不可: ビザ上認められた会社の経営以外の報酬活動は原則認められていません。
  • 更新時も審査がある: 初回取得後も、事業の継続性・納税状況・雇用実績などが厳しく見られます。

上記のようなポイントを踏まえて準備すれば、経営管理ビザは決して高いハードルではありません。正しい理解・丁寧な準備を前提に、着実な起業を目指しましょう。

おわりに:安心して起業に専念するために

日本で起業するには、設立登記やビザ申請など多くのステップがありますが、それらを乗り越えた先には日本での安定的な事業基盤が築けます。

当事務所では、法人設立から経営管理ビザの取得、税務・労務の整備まで一貫して支援しております。多言語対応(英語・中国語)も可能です。

外国人起業家が安心してビジネスに集中できる環境づくりこそが、私たちの使命です。ぜひ一度ご相談ください。