SNSフォロワー売買と“営業権”の正体

なぜ企業が「フォロワー」を買うのか?

SNSインフルエンサー市場の拡大とともに、SNSアカウントごとフォロワーを買収する動きが注目を集めています。
「ゼロからフォロワーを集めるには時間も広告費もかかる」——そうした背景から、
完成済みの“ファンコミュニティ”を一括で取得する手段として、
企業や個人がフォロワーごとアカウントを購入する事例が増えています。

一方で、X(旧Twitter)やInstagram、TikTokなど主要プラットフォームの利用規約は、いずれも
アカウントやフォロワーの譲渡・売買を明確に禁止しています。
発覚すればアカウントの即時停止(BAN)のリスクも現実的であり、
“譲渡された瞬間に価値がゼロになる”という構造的な不安定さをはらんでいます。

フォロワーが売られている現実:数百万円規模の取引

実際の市場では、InstagramやXのフォロワーを多く抱えたアカウントが、
ラッコM&AやUREBAなどのプラットフォーム上で数十万円〜数百万円で取引されています。
たとえば、美容系Instagramアカウント(フォロワー9.8万人)が73万円
レシピ系アカウント(11.8万人)が495万円で出品された実例も確認されています。

購入側の狙いはシンプルです。
ゼロから集客する手間と広告費を省略し、
すでに「集客力=ファン層」を持つアカウントを獲得することで、
SNS上のプレゼンスを即時確保し、売上やブランド認知へ結びつけようという意図です。

売り手側にとっても、引退や方向転換のタイミングで築いた影響力を“キャッシュ化”できるというメリットがあります。
このように、SNSフォロワーは単なる数字ではなく、無形の経済価値を有する資産として現実に取引されているのです。

問題は、このようなフォロワー付きアカウント取得に対して、企業側がどのような会計処理・税務処理を行うべきかです。
そして、それが営業権(のれん)なのか、識別可能な無形資産なのかという判断は、
その後の償却処理や税務調査での評価に大きく影響することになります。

会計・税務上の扱い:「顧客リスト」か「営業権」か

日本の会計実務では、M&A等で取得する無形資産は以下の2つに大別されます:

  • ① 識別可能な無形資産(顧客リスト、ブランド、ノウハウ等)
  • ② 識別できない残余価値としての営業権(のれん)

フォロワーはその性質上、“継続的な顧客関係”に近いことから、
顧客リスト的な無形資産として個別認識できる可能性があります。
この場合は、耐用年数に基づき減価償却が可能です。

ただし、収益貢献度や識別性が乏しければ、営業権(のれん)として計上され、
会計上:最長20年以内償却、税務上:5年均等償却(法人税法14③)が適用されます。

さらに、根拠なく高額な金額で取得すれば、寄附金として損金否認されるリスクも存在します。
そのため、フォロワー価値の定量的・合理的な評価会計・税務上の防衛策となります。

実務で使える「評価アプローチ」3選

  • 収益アプローチ:フォロワー当たりARPU × 有効フォロワー数 × 残存期間
  • 市場アプローチ:過去の売買相場(例:1人あたり単価)を参考に倍率評価
  • コストアプローチ:広告・キャンペーンで再構築した場合のフォロワー獲得単価

いずれのアプローチでも重要なのは、“実質的にアクティブなフォロワー”の見極めです。
エンゲージメント率(3〜6%以上)、直近の「いいね」「コメント」率、BOT比率(10%超は高リスク)などを
第三者がデューデリジェンスで分析し、過大評価を防ぎます。

税務処理と耐用年数:5年償却が基本線

営業権として処理する場合、法人税法により税務上は5年均等償却が義務付けられています(法法14③)。
たとえ会計上20年で処理したとしても、税務申告上は5年での損金算入が必要です。

また、無形固定資産(顧客リスト等)として識別可能な場合でも、
耐用年数の見積りにおいては「フォロワーの自然減」や「プラットフォーム寿命」を加味する必要があります。
実務では3〜5年程度の短期償却が合理的と考えられています。

いずれにしても、税務署に説明可能な“償却期間の根拠”が必須です。

寄附金・無償取得リスクと関連会社間取引における注意点

異常に高値で購入した場合、税務当局から
「実質的価値に対して過大」とみなされ、寄附金認定のリスクがあります。

また、国外関連者間でのフォロワー資産の譲渡については、移転価格税制上の「無形資産取引」に該当しうるため、
アームズ・レングス原則に基づく価格設定や、文書化義務(ローカルファイル等)の対応が求められる可能性があります。

個人→法人への無償譲渡等では、贈与税や受贈益課税の問題が生じる可能性もあり、慎重な取扱いが必要です。

契約書で守るべき「5つのリスク」

  1. 譲渡禁止リスク:アカウント凍結時の解除・免責条件
  2. 表明保証:フォロワーが実在ユーザーである旨の記載
  3. 損害賠償上限:トラブル時の賠償範囲と上限額
  4. ステマ・景表法リスク:過去投稿に違反表示がないか
  5. 個人情報保護:DM履歴やメールアドレス等の適切な処理

士業が関与する“5つの提供価値”

  1. 適正価格評価:税務調査で否認されない金額設定
  2. 法令レビュー:プラットフォーム規約・景表法への適合確認
  3. フォロワー品質デューデリ:BOT比率・エンゲージメントの実態調査
  4. 契約書作成:解除条項・表明保証・免責条項の設計
  5. 会計・税務処理:のれんか識別無形資産かの判断と償却戦略

まとめ:可視化された“のれん”をどう扱うか

SNSフォロワーは、今やデジタル時代の“営業権”とも言える存在です。
マーケティング資産である一方、その価値は脆く、かつ規約に依存する不安定な要素でもあります。

士業には、こうした無形資産をルールに即して正しく評価・償却・契約処理する役割が求められます。
SNSという不確かな資産を、数字と言葉で“守れる財産”に変える
その支援ができるのは、会計・税務・法務を横断できるプロフェッショナルだけです。

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