中国人富裕層は実際のところどこにいるのか?
中国人富裕層とは、本国から資産を持ち出し、法人を設立し、場合によっては家族も帯同しながら、海外に生活・資産の拠点を築く存在です。従来の「華僑」とは異なり、現代の中国人富裕層は、より柔軟に国境を越え、“新華僑”として世界中に広がりつつあります。
近年、資産階層ごとに選ばれる移住先や不動産投資のパターンには明確な傾向が見られます。本稿では、それぞれの層がなぜ特定の地域を選ぶのか、その行動背景と目的を整理し、日本国内の実態と合わせて紹介します。
世界的な潮流:華僑と新華僑、それぞれの居場所
かつての華僑は、東南アジアや北米に根強い商業ネットワークを築き、現地国籍を取得しつつ中国本土と経済的関係を維持してきました。
一方で、近年増えているのは本土から直接移住する新華僑。親族・資産・法人を中国本土に残しつつ、海外に拠点を分散させるスタイルが特徴です。
このような動きは、資産規模ごとに目的と居住地の傾向が大きく異なります。
中国人富裕層の3階層と特徴的な移住先
■ ビリオネア層(資産10億円以上)
特徴: グローバルな資産管理・信託・ファミリーオフィスを重視
拠点: ニューヨーク、ロンドン、シンガポール、ドバイ
■ ミリオネア層(資産1億円前後)
特徴: 教育・生活基盤の安定、永住権や長期ビザを求める
拠点: 東京、シドニー、トロント、バンクーバー
■ アッパーミドル層(資産5,000万円前後)
特徴: 生活コストや滞在制度の柔軟性を優先し東南アジアへ移動
拠点: マレーシア(MM2H)、タイ(エリートビザ)、フィリピン、ベトナム
日本国内の実態:東京湾岸だけではない
周囲の中国人富裕層を見ていると、「静かに、目立たず、分散して動く」ことを重視していると感じます。不動産の取得も法人名義で行われ、家族だけが教育ビザで日本に滞在するケースも少なくありません。生活の実態は表に出ませんが、確実に港区や湾岸エリアには定着しつつあります。
- 東京湾岸(豊洲・有明・晴海)
タワマンを法人名義で所有、家族が居住。相続・贈与対策としての保有も多い。 - 港区(広尾・南麻布)
教育移住の中心地。高額賃貸・インター校情報がWeChat上で頻繁に共有されている。 - 京都・軽井沢・ニセコ・大阪
町家・別荘・観光物件への投資や保有が目立つ。事業+滞在拠点の性格を持つ。
士業が押さえるべき視点
“新華僑”の動きは、移住だけでなく、教育・資産保全・法人運営を含む複合戦略である。
法人設立、資金移動、ビザ、税務対策が同時に絡むため、各制度を横断的に扱える知識が求められます。
不動産・法人の名義変更や所有構造の変化には、相続・贈与の兆候が隠れていることがある。
登記情報・出資構成・代表者交代の履歴などを通じて、移転や再編の流れを予測できる場面も少なくありません。
税務・法務・不動産制度を“つなぐ力”が、結果として信頼形成にもつながる。
まとめ
中国人富裕層は、新華僑というかたちで、欧米・アジア・そして日本へと静かに広がっています。
資産階層によって移動の目的や選ばれる地域が異なる中で、日本はその中間地点として確実に定着が進んでいます。東京湾岸や港区、京都やニセコなど、すでに各地で拠点形成が見られており、それぞれが実務対応上の“見えない論点”を内包しています。