インフルエンサーが確定申告で詰む瞬間を避けるために知っておきたい5つのポイント

本記事で解説する税務上の論点:

  • インフルエンサーへの現物支給や企業案件に関する国税庁・実務書ベースの課税ルール
  • SNSからの収益構造と課税対象範囲(ライブ配信・投げ銭・アフィリエイトなど)
  • 雑所得/事業所得の判断基準とトラブル事例
  • 経費化できるもの・できないものの実例・裁判例
  • SNS経由で税務調査に至った事例と指摘内容

1. インフルエンサーへの現物支給は「経済的利益」として課税対象

企業からインフルエンサーに提供される商品の無償提供や招待旅行・宿泊体験などは、単なる贈り物ではなく 金銭と同等の報酬 と見なされます。税法上、こうした現物による提供(現物支給)はインフルエンサーにとって 経済的利益 を得たことになり、その商品の市場価格相当額を収入として計上して課税する必要があります。

たとえば 「商品提供を受けてSNSでレビュー投稿した」 場合、その商品の価値(定価や時価)がインフルエンサーの所得になります。また 「無料の宿泊招待を受けて宿のPR投稿をした」「飲食店でフルコースを無料提供されて紹介した」 といったケースでも、提供されたサービスの時価が収入として扱われる場合があります。

国税庁もこの点に関し、「物やサービスの提供による利益も申告すべき所得である」との立場を示しており、現物支給のみで金銭の受取がなくても油断は禁物です。特に高額な提供品(例:高価な美容機器や高級宿泊など)は報酬性が明確と判断されやすいため、受け取った場合はきちんと申告しましょう。

なお、一度限りの少額の試供品など例外的に課税対象とならないケースもありますが、基本的には「仕事として受けた提供物はすべて申告対象」と考え、疑問があれば税理士や国税庁の情報を確認するのが安全です。

2. 収益源ごとの所得区分(雑所得/事業所得)と判断基準

インフルエンサーの収入は、その活動形態によって 「事業所得」 または 「雑所得」 に区分されます。主な収益源と所得区分のポイントは次のとおりです。

  • 広告収入:YouTubeの広告収入などプラットフォームからの収益
  • 企業案件の報酬:InstagramやブログでのPR投稿料、タイアップ動画制作報酬など
  • ライブ配信の投げ銭:ファンからのギフティングやスーパーチャットによる収入
  • アフィリエイト収入:商品リンク経由の紹介料や成果報酬型広告収入
  • その他:メディア出演料、取材協力費、SNS運用コンサルティング報酬 等

上記のような収入は、基本的に給与所得ではなく事業所得か雑所得として申告します。本業(専業)インフルエンサーとして継続的・計画的に活動し収益を上げている場合は、その所得は事業所得として扱われるのが一般的です。

一方、副業的に会社員など本業のかたわらでインフルエンサー収入を得ている場合、多くは雑所得として申告することになります。事業所得と雑所得の判定基準は、「その所得を得るための活動が社会通念上 “事業”と言える程度か」にかかっています。

国税庁は2022年に判定基準を明確化しており、年間の収入金額が300万円を超える場合で帳簿をきちんとつけているようなケースは概ね事業所得と認められ、300万円以下の規模であれば原則として雑所得(業務所得)に区分するという目安を示しました。

ただし収入規模が小さくても営利性が高く継続的な場合には事業と認められる可能性もあり、逆に収入が大きくても営利性に乏しければ雑所得と判断される場合もあるため、最終的には活動の継続性・独立性・規模を総合勘案して判断されます。

判断のポイント: 週単位・月単位で定期的にコンテンツを発信し、フォロワーや視聴者も着実に増やし、機材投資や経費計上も行いながら明確に収益追求しているなら「立派な事業」と言えます。一方で趣味的に不定期で配信し、年間数万円程度の収入に留まる場合は雑所得に留まるでしょう。

事業所得として申告すると青色申告の65万円控除や赤字の繰越控除など節税策が使えるメリットがありますが、同時に帳簿付けや事前届出などハードルもあります(雑所得しかない副業インフルエンサーは青色申告の適用外です)。

副業インフルエンサーの場合でも、年間の雑所得(収入-経費)が20万円を超えれば確定申告が必要になる点に注意してください。自分の活動規模が事業として通用するか微妙なケースでは、開業届を提出しておく、帳簿を整備するなど形を整えることで事業所得として認められる下地を作ることもできます。判断に迷う場合は税理士に相談し、自身の収入区分を適切に決定しましょう。

3. 税務署はSNSを監視している:申告漏れ事例と投稿が証拠になったケース

インフルエンサーの申告漏れが発覚した実例として、東京国税局が 有名インフルエンサー9人に対し計約3億円の申告漏れを指摘し、約8,500万円の追徴課税を課したケースが報じられています。

これらのインフルエンサーは首都圏在住で数万人以上のフォロワーを抱え、特定企業の化粧品などをSNS上でPRして報酬を得ていたにもかかわらず、一部の報酬を申告していなかったり、年によっては確定申告自体をしていなかったりしたとされています。

国税当局はこれを重く見て、所得税と加算税を合わせ約8500万円もの追徴課税を行いました。

この事例が示すように、税務署の調査官はSNS上の投稿内容をチェックして申告漏れを突き止めることがあります

実際に先のケースでも、SNSにおけるPR投稿や企業とのタイアップ広告の形跡が課税されていない収入の存在を裏付ける証拠となりました。

税務調査では、SNS投稿のほかにも広告代理店から提供される支払調書や振込記録、第三者からの情報提供(いわゆるタレコミ)など様々な情報源を突き合わせて所得把握が行われます。

インフルエンサー本人が「SNSでこれだけ案件をこなしているのに申告所得が少ないぞ?」となれば当然目を付けられるわけです。

特に企業タイアップの場合は企業側でも経費処理のため支払記録を残しているため、税務署は企業からインフルエンサーへの報酬支払情報を把握できます

近年、国税庁はYouTuberやブロガーなどネット上の新興分野の納税啓発に力を入れており、SNSやプラットフォームのデータ分析によって怪しい動きを的確に把握する体制を強化しています。

具体的な投稿が証拠になった例: 先述のケースでは、「#PR」などと明示された投稿や特定商品のレビュー動画がそのまま収入を得た事実の痕跡となりました。

税務当局はこうした公開情報を丹念にチェックしていますので、「現金でもらっていないからバレないだろう」と安易に考えず、SNSで公表している活動は基本すべて申告している前提で臨むことが肝要です。

もし申告漏れが見つかれば、無申告加算税や重加算税といったペナルティも科されます。悪質な場合、重加算税は本来納める税額の最大40%が上乗せされる厳しい制裁となります。

4. インフルエンサーの経費:計上できる費用と認められない費用

インフルエンサー活動では、多岐にわたる支出を経費にできる可能性がありますが、どこまで経費化できるかには明確な基準と限界があります。必要経費に計上できるものと、家事費(プライベート費用)として否認されやすいものとを把握しておきましょう。

  • 撮影・配信用の機材費、編集ソフト代
  • ロケ・打ち合わせの交通費・旅費
  • 業務専用の衣装・美容・スタジオ代
  • 家賃・光熱費の按分、自宅業務スペース分
  • 通信費、広告宣伝費、外注費、消耗品

一方、日常で使える服・化粧品・私的な食事・旅行などは原則経費不可。共用するスマホ代や家賃なども事業割合で按分しないと否認されます。説明できる証拠と記録が重要です。

5. 専門家(税理士)によるサポートと依頼時の注意点

税務が不安なら税理士に早期相談が最も確実です。記帳代行・申告書作成・節税アドバイス・源泉税処理・法人化の検討まで任せられます。

ただし、虚偽の申告依頼は違法です。情報は正確に伝え、レシートや報酬の全体像を見せることが信頼の第一歩。SNSや現物支給分の把握も自分から共有しましょう。

税理士にも得意分野があるため、インフルエンサー対応実績がある事務所を選ぶのがおすすめです。顧問契約が不安なら確定申告だけのスポット依頼も可能です。

まとめ

インフルエンサー活動が軌道に乗ると、意図せず申告ミス・経費否認・ペナルティにつながることがあります。だからこそ今こそ、税務を「コンテンツの一部」と捉え、安心して活動を継続するための基盤を整えましょう。

本記事がその第一歩となれば幸いです。